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73 田中 葵子2
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台本は奇跡の美少女、葵子とその恋人のダメ人間Aが葵子の母親とその再婚相手候補とレストランで食事をするシーンから始まる。
『登場人物
奇跡の美少女、以降アオイ。ダメ人間A、以降A。母親。再婚相手、以降F。
Aは現在フリーター生活の将来世界的有名な芸術家になる事を目指している馬鹿な夢追い人である。そして兎に角プライドが高く嫌味な男。
いつも不平不満を抱え自分は人とは違うと思っているようなエセ芸術家である。
自分の事を頭が良いと思っている馬鹿者である。
要するに最低な人格の持ち主である』
彼女は芸術家に何か恨みでもあるのだろうか?
『そんなAと美少女、アオイは、将来を誓い合う仲である。
この台本の肝はそんな人間失格のAが、美少女の母親とその再婚相手Fに、自分とアオイの婚姻届を見せて合同結婚式を迫ることにある』
ワル者のコージで失敗したので次は嫌われ者を当ててみるってことか。他にも下らない会話とセリフが色々延々と書かれていたのだが……。
「どうでした? 」
彼女は俺の顔を不安気に覗き込む。この娘がどういうつもりかは解らないが、こんなクソみたいな台本で猿芝居をしても到底成功するとは思えない。ハッキリと言うべきか、他のやり方を探すべきだろうか。
「この台本にあるダメ人間Aって俺のことか? 」
「ごめんなさい。まだ名前、訊いてなかったから、えへへ。勝手にフリータを想像してました。まさかサラリーマンだったとは思わなくって、ふふ」
彼女は笑顔で答える。
この娘は笑顔で答えれば何でも許されて来たんだろう、奇跡の美少女だけに。ただ今は笑顔の使い方を間違っている、いや俺が許してしまっているので結果正解なのか。
「俺がダメ人間に見えたのなら、それはしょうがない。ただ、だからって普通そう書くか? 」
殆ど初対面に近い俺にこんな事を頼むと言うことは彼女は余程俺にピッタリなハマり役だと思ったのだろう。悔しくて腹立たしい事だが。
今回、友人に頼む若しくは紹介してもらわなかったのは、やはり俺がそれっぽく見えたからだろう、これからは気をつけなければ。
「お前より美人の知り合いが三人もいる」と言おうかと思ったがやめた。恋人ならまだしも知り合いぐらいでは自慢にならない、余計に馬鹿にされるだけだろう。それにコイツより美人かどうかなんて人によって見方は違うだろうから、奇跡の美少女、葵子に関しては何も言う事はない。
「母の相手は話し上手で面白い人だから、引き込まれないように気を付けて下さいね。あくまで嫌味で芸術家みたいに無理に個性的ぶって下さい。頑張ってアホな夢追い人を演じてくださいね」
彼女は俺を励ますように言う。
「これ、本気で考えたのか? だいたいお前はこんなAみたいな奴に惚れるのか? こんな男、恋人はおろか友達さえ出来るかよ! 」
「もうあまり時間がないんです。食事会は今週の土曜日なんです。それから私のこと、いい加減名前で呼んで下さい! 」
「分かったよ、奇跡の美少女アオイ、ワハハハハハ」
大笑いすると噛み付きそうな顔で彼女は俺を見ている。
「ゴメン、ゴメン。いやごめんなさい。一つ訊きたいんだけど、まず母親にハッキリと再婚は嫌だと言ったのかい? 」
「…………いえ、まだ。でも気づいている筈です」
「オイオイ、オイオイ、オイオイ。まずは言ってみてからだろ! なあ、オイ」
「でも、今回は母が本気だって事、私には分かるんです。母の浮かれ方が尋常じゃないんです」
真剣な眼差しで訴えかける彼女。
「そもそも何で反対なの? その人と再婚した方が経済的に余裕が出来て良いんじゃないの? しかも聞いているとその人、良い人っぽいじゃん」
「環境が変わるのって凄いストレスになるんですよ。私、来年受験生なんですよ。
相手の方は良い人ですが一人息子が居るみたいで。息子さんは一人暮らししてるみたいですけど、家族になるんだから呼び戻して、みんなで一緒に住もうみたいなことを話していたんで。
その人が私みたいな美少女を放って置く訳ないでしょ。性犯罪率は顔見知りからが一番多いんですよ。第一志望は地元だから、一人暮らしは許して貰えないから。
兎に角、私は健やかな気持ちで受験に臨みたいんです」
彼女は必至で状況を説明するが、関係の無い俺には余りピンとこない。まあ確かに赤の他人と一緒に住むのは精神的に疲れるだろうな。
「ふーん。じゃあさ、そのありきたりな普通の田中って苗字から脱出出来ると思えば少しはノリ気になるんじゃない? 全国の田中さんには申し訳ないけど」
俺としては冗談のつもりで苗字の事をを茶化してみただけなのだが。
「このありきたりな苗字から、少しマシなありきたりな苗字になるだけなんですよねぇ。全国の古川さんには悪いんですけど」
やれやれと言う感じの彼女。
「っ………!!! 古川かぁ、それはありきたりだね、ハハハ、ハハ、ハハハ」
俺は動揺を悟られないように笑って誤魔化した。自分の鼓動が高鳴るのを感じ、更に余計動悸が激しくなるのを感じる。俺は冷や汗を掻きながら父の彼女の名前、確か田中 聡子さんだったなと思い返していた。
『登場人物
奇跡の美少女、以降アオイ。ダメ人間A、以降A。母親。再婚相手、以降F。
Aは現在フリーター生活の将来世界的有名な芸術家になる事を目指している馬鹿な夢追い人である。そして兎に角プライドが高く嫌味な男。
いつも不平不満を抱え自分は人とは違うと思っているようなエセ芸術家である。
自分の事を頭が良いと思っている馬鹿者である。
要するに最低な人格の持ち主である』
彼女は芸術家に何か恨みでもあるのだろうか?
『そんなAと美少女、アオイは、将来を誓い合う仲である。
この台本の肝はそんな人間失格のAが、美少女の母親とその再婚相手Fに、自分とアオイの婚姻届を見せて合同結婚式を迫ることにある』
ワル者のコージで失敗したので次は嫌われ者を当ててみるってことか。他にも下らない会話とセリフが色々延々と書かれていたのだが……。
「どうでした? 」
彼女は俺の顔を不安気に覗き込む。この娘がどういうつもりかは解らないが、こんなクソみたいな台本で猿芝居をしても到底成功するとは思えない。ハッキリと言うべきか、他のやり方を探すべきだろうか。
「この台本にあるダメ人間Aって俺のことか? 」
「ごめんなさい。まだ名前、訊いてなかったから、えへへ。勝手にフリータを想像してました。まさかサラリーマンだったとは思わなくって、ふふ」
彼女は笑顔で答える。
この娘は笑顔で答えれば何でも許されて来たんだろう、奇跡の美少女だけに。ただ今は笑顔の使い方を間違っている、いや俺が許してしまっているので結果正解なのか。
「俺がダメ人間に見えたのなら、それはしょうがない。ただ、だからって普通そう書くか? 」
殆ど初対面に近い俺にこんな事を頼むと言うことは彼女は余程俺にピッタリなハマり役だと思ったのだろう。悔しくて腹立たしい事だが。
今回、友人に頼む若しくは紹介してもらわなかったのは、やはり俺がそれっぽく見えたからだろう、これからは気をつけなければ。
「お前より美人の知り合いが三人もいる」と言おうかと思ったがやめた。恋人ならまだしも知り合いぐらいでは自慢にならない、余計に馬鹿にされるだけだろう。それにコイツより美人かどうかなんて人によって見方は違うだろうから、奇跡の美少女、葵子に関しては何も言う事はない。
「母の相手は話し上手で面白い人だから、引き込まれないように気を付けて下さいね。あくまで嫌味で芸術家みたいに無理に個性的ぶって下さい。頑張ってアホな夢追い人を演じてくださいね」
彼女は俺を励ますように言う。
「これ、本気で考えたのか? だいたいお前はこんなAみたいな奴に惚れるのか? こんな男、恋人はおろか友達さえ出来るかよ! 」
「もうあまり時間がないんです。食事会は今週の土曜日なんです。それから私のこと、いい加減名前で呼んで下さい! 」
「分かったよ、奇跡の美少女アオイ、ワハハハハハ」
大笑いすると噛み付きそうな顔で彼女は俺を見ている。
「ゴメン、ゴメン。いやごめんなさい。一つ訊きたいんだけど、まず母親にハッキリと再婚は嫌だと言ったのかい? 」
「…………いえ、まだ。でも気づいている筈です」
「オイオイ、オイオイ、オイオイ。まずは言ってみてからだろ! なあ、オイ」
「でも、今回は母が本気だって事、私には分かるんです。母の浮かれ方が尋常じゃないんです」
真剣な眼差しで訴えかける彼女。
「そもそも何で反対なの? その人と再婚した方が経済的に余裕が出来て良いんじゃないの? しかも聞いているとその人、良い人っぽいじゃん」
「環境が変わるのって凄いストレスになるんですよ。私、来年受験生なんですよ。
相手の方は良い人ですが一人息子が居るみたいで。息子さんは一人暮らししてるみたいですけど、家族になるんだから呼び戻して、みんなで一緒に住もうみたいなことを話していたんで。
その人が私みたいな美少女を放って置く訳ないでしょ。性犯罪率は顔見知りからが一番多いんですよ。第一志望は地元だから、一人暮らしは許して貰えないから。
兎に角、私は健やかな気持ちで受験に臨みたいんです」
彼女は必至で状況を説明するが、関係の無い俺には余りピンとこない。まあ確かに赤の他人と一緒に住むのは精神的に疲れるだろうな。
「ふーん。じゃあさ、そのありきたりな普通の田中って苗字から脱出出来ると思えば少しはノリ気になるんじゃない? 全国の田中さんには申し訳ないけど」
俺としては冗談のつもりで苗字の事をを茶化してみただけなのだが。
「このありきたりな苗字から、少しマシなありきたりな苗字になるだけなんですよねぇ。全国の古川さんには悪いんですけど」
やれやれと言う感じの彼女。
「っ………!!! 古川かぁ、それはありきたりだね、ハハハ、ハハ、ハハハ」
俺は動揺を悟られないように笑って誤魔化した。自分の鼓動が高鳴るのを感じ、更に余計動悸が激しくなるのを感じる。俺は冷や汗を掻きながら父の彼女の名前、確か田中 聡子さんだったなと思い返していた。
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