68 / 79
68 夜の公園
しおりを挟む
次の日、午前に父親の所に、午後に南田師匠の所へ行って雲雀の里の土産を渡すことにした。
父親に地酒の配達を終え、実家で昼ご飯を食べて、その足で南田屋敷へと向かった。
「わははは、俺の言った通り呆気なく勝っただろ? お前に勝とうと思ったら超能力くらいしかないからなぁ」
南田師匠は地酒を片手に楽しそうに笑う。俺も師匠に付き合い早い時間から呑むことになった。
「そういえば一度、自分の業の限界を調べておいた方が良いぞ、今後のためにも。今日はまだ使ってないんだろ? 」
「ええ、今日は使っていません」
「じゃあ今夜の十二時前に試してみればいいじゃん」
「ええ、そうですね。ところで一つ聞きたかったんですが外国に行った場合、その国の時間帯の十二時にリセットされるんですか? 」
「さあ、知らんなあ。だって、俺外国行ったことないもん」
言った後、師匠は一口呑んで「これ、美味いなあ、味はよく分からんけど」と嬉しそうにまた一口呑む。
「僕もあまり味は分かりませんけど、あの自然溢れる里で作られたんだと思うと美味しく感じます」
「分かる! 里の戦士たちに想いを寄せなが呑む酒。う~む美味い! 気がするなあ」
「ええ、あの里に想いを馳せ呑む酒。自然の大地の恵み。美味い! 気がします」
俺は雲雀の里の事を言いながらも鳳村のノスタルジックな風景も脳裏によぎった。
雲雀の里も鳳村も場所が近いだけに似た雰囲気の優しい景色ではあった。またあの丘の上で里香ちゃんと一緒に星を見れたらなあと強く願う。
「なあ、死神の拳と鋼鉄の服ってどうだ? 」
「何がですか? 」
「いや、だから業《わざ》の名前だよ」
「えっ? まだ、考えてたんですか? 死神の拳って言ってもだいたい死にはしないでしょ」
俺はまだカッコいい名前を探し考えていた師匠に驚いた。
「まあ、そうだわな」
師匠は少し恥ずかしそうに俯いた。
「だいたい名前なんてなんだっていいんじゃないですか。誰にも言っちゃいけないから流派の名前も無いって言ってたじゃないですか」
「うーん」
どうにも歯切れが悪い。
「じゃあ今度、漫画か映画でカッコいい名前が出てきたら、それを盗みましょう。僕も考えておきますから」
俺は気を落とす師匠を少し可哀想に思い、どうでもいい業の名を考える羽目になった。
結局、夕飯もご馳走になり、ほろ酔い気分で南田屋敷を後にした。
秋風の気持ち良さを身に感じながら夜空の星を見上げると、昨日会ったばかりなのにもう里香ちゃんに逢いたくなった。里香ちゃんは今頃何しているのだろうかと想いを巡らせる。もうサークルの集まりから帰って来ているのだろうか。
帰り道の途中、誰もいない夜の公園を横切り外灯近くのブランコに腰を下ろした。
暫くの間、携帯を眺めながら里香ちゃんに電話してみようかと考えていると、突然、空き缶が足元に飛んできた。
俺は空き缶の飛んできた方向を見る。カップルが公園内を歩いて来るのが見えた。
「おしい! もうちょっとだったのになあ」
男がゲラゲラ笑いながら言う。
女が「ちょっと、やめときなよ」と男に注意するも男は大声で笑っている。
一人で里香ちゃんの事を思い巡らしていることを邪魔された俺は、少しムッとしながらブランコから立ち上がった。
男がブランコの柵の前で歩みを止めたので、腕を組んでる女も仕方なさそうに止まった。
なんだか業を覚えてから絡まれやすくなったような気がする。俺に業を使わそうとする何かの力でも作用しているのだろうか?
外灯の下、男は金髪にサイドを刈り上げパイナップルのような派手な髪型をしている。夜にも拘らずサングラスを掛け、派手なジャケットの中のVネックシャツからは太い銀のネックレスが見えた。
女の方はハイヒールにミニスカート肩にかかるまでの髪で、可愛い顔をしていて少し戸惑ったような顔で俺を見ている。
「おーい、何か文句あんのか? あっ? 」
男は止めようとする女の腕を丁寧に払い除けると、柵を越えて来そうな勢いで俺を脅す。
「文句は……ある。まず夜にサングラスを掛けるな、馬鹿みたいだから。それから、女連れでイキるな。あと、その髪型馬鹿丸出しだからやめろ。最後にお前みたいなクズは世界平和の為に死ね! 」
俺はブランコの柵の前に立つ男に自分でも気持ちいいくらい流暢に言い返した。
「テ、テメェ」
男は予想していなかった俺の文句に言葉を失った様子だ。
今夜、業の限界を試すのはやめにして、このパイナップルに矛の地獄を気が済むまで叩き込むことにしよう。
この男にワザワザ時間制限の業を使う必要などない。矛と盾一回ずつで充分だ。盾は使う必要ないかもしれない。文句を言い終わった後、回数制限の業の心の準備をしつつ柵に向かって歩き出すと
「ちょっと、やめなさいよコージくん! あの、ごめんなさい! もうさせないので許して下さい! 」
こういう時、普通一緒になって俺に口攻撃すると思ったのだが意外にも女が慌てて止めに入った。
自分の乱暴な彼氏を諫め、俺に謝罪する姿は非常に好感が持てる。
「あの、その節はどうも」
女は確かに俺を見て深々とお辞儀をした。俺はこの女と知り合いだったのか?
父親に地酒の配達を終え、実家で昼ご飯を食べて、その足で南田屋敷へと向かった。
「わははは、俺の言った通り呆気なく勝っただろ? お前に勝とうと思ったら超能力くらいしかないからなぁ」
南田師匠は地酒を片手に楽しそうに笑う。俺も師匠に付き合い早い時間から呑むことになった。
「そういえば一度、自分の業の限界を調べておいた方が良いぞ、今後のためにも。今日はまだ使ってないんだろ? 」
「ええ、今日は使っていません」
「じゃあ今夜の十二時前に試してみればいいじゃん」
「ええ、そうですね。ところで一つ聞きたかったんですが外国に行った場合、その国の時間帯の十二時にリセットされるんですか? 」
「さあ、知らんなあ。だって、俺外国行ったことないもん」
言った後、師匠は一口呑んで「これ、美味いなあ、味はよく分からんけど」と嬉しそうにまた一口呑む。
「僕もあまり味は分かりませんけど、あの自然溢れる里で作られたんだと思うと美味しく感じます」
「分かる! 里の戦士たちに想いを寄せなが呑む酒。う~む美味い! 気がするなあ」
「ええ、あの里に想いを馳せ呑む酒。自然の大地の恵み。美味い! 気がします」
俺は雲雀の里の事を言いながらも鳳村のノスタルジックな風景も脳裏によぎった。
雲雀の里も鳳村も場所が近いだけに似た雰囲気の優しい景色ではあった。またあの丘の上で里香ちゃんと一緒に星を見れたらなあと強く願う。
「なあ、死神の拳と鋼鉄の服ってどうだ? 」
「何がですか? 」
「いや、だから業《わざ》の名前だよ」
「えっ? まだ、考えてたんですか? 死神の拳って言ってもだいたい死にはしないでしょ」
俺はまだカッコいい名前を探し考えていた師匠に驚いた。
「まあ、そうだわな」
師匠は少し恥ずかしそうに俯いた。
「だいたい名前なんてなんだっていいんじゃないですか。誰にも言っちゃいけないから流派の名前も無いって言ってたじゃないですか」
「うーん」
どうにも歯切れが悪い。
「じゃあ今度、漫画か映画でカッコいい名前が出てきたら、それを盗みましょう。僕も考えておきますから」
俺は気を落とす師匠を少し可哀想に思い、どうでもいい業の名を考える羽目になった。
結局、夕飯もご馳走になり、ほろ酔い気分で南田屋敷を後にした。
秋風の気持ち良さを身に感じながら夜空の星を見上げると、昨日会ったばかりなのにもう里香ちゃんに逢いたくなった。里香ちゃんは今頃何しているのだろうかと想いを巡らせる。もうサークルの集まりから帰って来ているのだろうか。
帰り道の途中、誰もいない夜の公園を横切り外灯近くのブランコに腰を下ろした。
暫くの間、携帯を眺めながら里香ちゃんに電話してみようかと考えていると、突然、空き缶が足元に飛んできた。
俺は空き缶の飛んできた方向を見る。カップルが公園内を歩いて来るのが見えた。
「おしい! もうちょっとだったのになあ」
男がゲラゲラ笑いながら言う。
女が「ちょっと、やめときなよ」と男に注意するも男は大声で笑っている。
一人で里香ちゃんの事を思い巡らしていることを邪魔された俺は、少しムッとしながらブランコから立ち上がった。
男がブランコの柵の前で歩みを止めたので、腕を組んでる女も仕方なさそうに止まった。
なんだか業を覚えてから絡まれやすくなったような気がする。俺に業を使わそうとする何かの力でも作用しているのだろうか?
外灯の下、男は金髪にサイドを刈り上げパイナップルのような派手な髪型をしている。夜にも拘らずサングラスを掛け、派手なジャケットの中のVネックシャツからは太い銀のネックレスが見えた。
女の方はハイヒールにミニスカート肩にかかるまでの髪で、可愛い顔をしていて少し戸惑ったような顔で俺を見ている。
「おーい、何か文句あんのか? あっ? 」
男は止めようとする女の腕を丁寧に払い除けると、柵を越えて来そうな勢いで俺を脅す。
「文句は……ある。まず夜にサングラスを掛けるな、馬鹿みたいだから。それから、女連れでイキるな。あと、その髪型馬鹿丸出しだからやめろ。最後にお前みたいなクズは世界平和の為に死ね! 」
俺はブランコの柵の前に立つ男に自分でも気持ちいいくらい流暢に言い返した。
「テ、テメェ」
男は予想していなかった俺の文句に言葉を失った様子だ。
今夜、業の限界を試すのはやめにして、このパイナップルに矛の地獄を気が済むまで叩き込むことにしよう。
この男にワザワザ時間制限の業を使う必要などない。矛と盾一回ずつで充分だ。盾は使う必要ないかもしれない。文句を言い終わった後、回数制限の業の心の準備をしつつ柵に向かって歩き出すと
「ちょっと、やめなさいよコージくん! あの、ごめんなさい! もうさせないので許して下さい! 」
こういう時、普通一緒になって俺に口攻撃すると思ったのだが意外にも女が慌てて止めに入った。
自分の乱暴な彼氏を諫め、俺に謝罪する姿は非常に好感が持てる。
「あの、その節はどうも」
女は確かに俺を見て深々とお辞儀をした。俺はこの女と知り合いだったのか?
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
就職面接の感ドコロ!?
フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。
学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。
その業務ストレスのせいだろうか。
ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。
令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました
フルーツパフェ
大衆娯楽
とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。
曰く、全校生徒はパンツを履くこと。
生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?
史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる