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65 帰路
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長閑な田園風景を走る帰りの車の中は月島雲雀伝説の話で持ちきりだった。
中身が誰かと入れ替わったかのように急に陽気になったとか、最初から最後まで里香ちゃんと舞ちゃんを意識していたとか、伝説の割に器が小さいとか、話が弾み、一通り終わる前に教えてもらった酒店に着いた。
心の師匠である深見さんに一本、武術の師匠である南田さんに一本、石田会長に一本、父親に一本、サヤカに一本、歌川さんに一本、アロハ先輩に一本と俺に二本の計九本の地酒を購入した。
「お前どんだけ買うんだよ」と涼介が言っていたが無視しておいた。
その内の三本はサヤカと深見さんとアロハ先輩に渡すようにと恭也に預けた。
恭也と涼介もそれぞれ一本ずつ買うと「今度お前んとこ呑みに行くから」と言って俺に渡してきた。
夏目が「じゃ俺も」と言って一本買うと俺に渡した。
「お前、俺のアパートに来る気? 」
「もちろん! 俺たちもう友達でしょ」
「あ? あっ、ああ、もちろん、歓迎するけども、うん」
名人夏目の真っ直ぐな態度と言動に俺は少し照れてしまった。
酒店を出て長い一本道路を走り続け車は高速道路に入った。俺が外の景色を眺めていると恭也が話し出しかけてきた。
「手掛かりは無かったけど来て良かったよ。これで来年の優秀な新入社員は確保できたしな」
「……何が? 」
俺は理解出来なかった。
「彼らは全員ビーンズグループの期待の新人てことだよ」
涼介が恭也の言葉を補足した。
恭也は運転しながら後ろの連中に確認する。
「君たち勿論、来年ウチの会社に来てくれるんでしょ」
「えっ? 俺たちの事ですか」
夏目が驚いたように聞き返した。
「あったりまえだろ! 今から君たち三人予約しとくぞ」
涼介が言うと直ぐに夏目の首に腕を回しヘッドロックしながら
「お前は来年までに対人関係を学習しておけよ! 」
と言った。
「フフ、本当なら嬉しいんですけど、ねっ」
里香ちゃんと舞ちゃんが笑った。
「俺は本当にホント。真面目に言ったんだけど、なあ涼介。学力は申し分無いし、面接は俺たちが済ましたようなもんだし」
恭也は前を見ながらも満面の笑顔で答える。涼介も楽しそうに相槌を打つ。(俺以外の全ての人間はこんなに簡単に就職先が決まるものなのか? )
「おーい! 俺だけ全く関係無いよな、この話」
俺は、一際大きな声を出した。
「ハハハハ、ちょっと休憩! 」
恭也はそう言うと車をパーキングエリアに停めた。
自販機とトイレくらいしかない小さなパーキングエリアで全員がトイレに向かう中、俺と恭也は自販機で缶コーヒーを買った。
恭也の背中越しにトイレに向かった涼介が引き返してこちらに向かって来るのが見えた。
恭也はタバコに火を点けると照れくさそうに
「俺はお前に感謝してるんだぜ、本当に。まあこんな所で言うのも………」
「この諸葛亮である俺をビーンズグループに推薦したからだろ? ん? 」
涼介が恭也の背後から恭也の話に割り込んだ。涼介に話を聞かれていた事に気が付いていなかった恭也は顔を真っ赤にしてタバコを吸っている。
「しかし、お前よくこんな場所で感謝の意を述べようとしたな、恥ずかしくないのかよ」
更に追い討ちをかける涼介。
「恥ずかしいよっ! だからお前ら、いない時に言おうとしたんだろうが、コノヤロウ! 俺は別に休憩なんてしたくなかったが、言えるのは今しかないと思ったからだ、バカヤロウっ! 」
いつも冷めた恭也が真っ赤な顔で唾を飛ばしながら大声で怒鳴っているのがメチャクチャ面白く感じた。
「おっ? おう、そうか悪い悪い。やっぱ恥ずかしかったか? 」
涼介も恭也の気迫にただただ押されている。俺は二人のやり取りを止めずにニヤニヤ見ている。
恭也の大声に何事かとトイレから出て来た夏目たちが慌ててやって来た。
「どうしたんですか? 」「何かあったんですか? 」「大丈夫? 」
心配そうに見つめる三人。どうでもいいが里香ちゃんの心配してる顔は可愛くて、可愛いくて、可愛いい。
「ああ、いいの、いいの、何でもないから。俺たちは友情を深めてるだけだから、ハハハ」
俺は適当に誤魔化すと、恭也と涼介二人を連れてトイレに向かった。
トイレで三人並びながら用を足していると隣で涼介が語り出した。
「あのモンゴル帝国も裏切らない仲間たちがいたから大帝国になったんだぜ。能力よりも絆が大事。能力が有れば尚良しだ」
「うるせぇな! 小便くらい、ゆっくりさせろよ! 」と隣の恭也が俺の奥の涼介に注意すると俺を挟んでの言い合いが始まった。
「待て、兎に角、俺の話を終わらせろ。ここからだから俺の言いたい事は」
涼介は話を止める気配を見せず続けた。俺が隣りで用を足す恭也に我慢しろと、目で合図した。
「そして今さっきの雲雀武人伝説白骨事件で俺たちは更により一層、絆を深めたというわけだ」
漸く言い終わってすっきりした顔の涼介。
「何だその妙な事件名は、ハハハ」
俺たちが笑いながらトイレから出ると、自販機の前で待っていた三人が俺たちに気が付き、里香ちゃんと舞ちゃんが手を振るのが見えた。
「いいよなあ、女の子がいる風景って。例えその子たちが誰かの彼女であろうとも」
涼介が里香ちゃんと舞ちゃんに手を振り返しニヤケながら歩き出した。
「こんな光景、俺たちにはいつも無かったよな」
俺も美人二人に手を振り返しデレデレ笑いながら歩いた。
「恭也、お前はモテるくせに遂に一度も女の子を連れてくる事は無かったよな」
涼介が恨めしそうに言う。
「言えば良かったじゃん」
恭也が二人に笑顔で手を振りながら返答する。
「…………!!! 」
俺と涼介はお互い目を見開き顔を見合わせた。
自販機の前で待っていた夏目が待ちきれないとばかりに話しかけてきた。
「御三人、見ましたか? 今の見てないですよね」
「どうかしたのか? 」
俺が聞くと夏目が「モデルみたいな美人がいたんですよ! 」と色めき立たせた。
里香ちゃんと舞ちゃんを見ると二人とも夏目の様子に苦笑いを浮かべている。
中身が誰かと入れ替わったかのように急に陽気になったとか、最初から最後まで里香ちゃんと舞ちゃんを意識していたとか、伝説の割に器が小さいとか、話が弾み、一通り終わる前に教えてもらった酒店に着いた。
心の師匠である深見さんに一本、武術の師匠である南田さんに一本、石田会長に一本、父親に一本、サヤカに一本、歌川さんに一本、アロハ先輩に一本と俺に二本の計九本の地酒を購入した。
「お前どんだけ買うんだよ」と涼介が言っていたが無視しておいた。
その内の三本はサヤカと深見さんとアロハ先輩に渡すようにと恭也に預けた。
恭也と涼介もそれぞれ一本ずつ買うと「今度お前んとこ呑みに行くから」と言って俺に渡してきた。
夏目が「じゃ俺も」と言って一本買うと俺に渡した。
「お前、俺のアパートに来る気? 」
「もちろん! 俺たちもう友達でしょ」
「あ? あっ、ああ、もちろん、歓迎するけども、うん」
名人夏目の真っ直ぐな態度と言動に俺は少し照れてしまった。
酒店を出て長い一本道路を走り続け車は高速道路に入った。俺が外の景色を眺めていると恭也が話し出しかけてきた。
「手掛かりは無かったけど来て良かったよ。これで来年の優秀な新入社員は確保できたしな」
「……何が? 」
俺は理解出来なかった。
「彼らは全員ビーンズグループの期待の新人てことだよ」
涼介が恭也の言葉を補足した。
恭也は運転しながら後ろの連中に確認する。
「君たち勿論、来年ウチの会社に来てくれるんでしょ」
「えっ? 俺たちの事ですか」
夏目が驚いたように聞き返した。
「あったりまえだろ! 今から君たち三人予約しとくぞ」
涼介が言うと直ぐに夏目の首に腕を回しヘッドロックしながら
「お前は来年までに対人関係を学習しておけよ! 」
と言った。
「フフ、本当なら嬉しいんですけど、ねっ」
里香ちゃんと舞ちゃんが笑った。
「俺は本当にホント。真面目に言ったんだけど、なあ涼介。学力は申し分無いし、面接は俺たちが済ましたようなもんだし」
恭也は前を見ながらも満面の笑顔で答える。涼介も楽しそうに相槌を打つ。(俺以外の全ての人間はこんなに簡単に就職先が決まるものなのか? )
「おーい! 俺だけ全く関係無いよな、この話」
俺は、一際大きな声を出した。
「ハハハハ、ちょっと休憩! 」
恭也はそう言うと車をパーキングエリアに停めた。
自販機とトイレくらいしかない小さなパーキングエリアで全員がトイレに向かう中、俺と恭也は自販機で缶コーヒーを買った。
恭也の背中越しにトイレに向かった涼介が引き返してこちらに向かって来るのが見えた。
恭也はタバコに火を点けると照れくさそうに
「俺はお前に感謝してるんだぜ、本当に。まあこんな所で言うのも………」
「この諸葛亮である俺をビーンズグループに推薦したからだろ? ん? 」
涼介が恭也の背後から恭也の話に割り込んだ。涼介に話を聞かれていた事に気が付いていなかった恭也は顔を真っ赤にしてタバコを吸っている。
「しかし、お前よくこんな場所で感謝の意を述べようとしたな、恥ずかしくないのかよ」
更に追い討ちをかける涼介。
「恥ずかしいよっ! だからお前ら、いない時に言おうとしたんだろうが、コノヤロウ! 俺は別に休憩なんてしたくなかったが、言えるのは今しかないと思ったからだ、バカヤロウっ! 」
いつも冷めた恭也が真っ赤な顔で唾を飛ばしながら大声で怒鳴っているのがメチャクチャ面白く感じた。
「おっ? おう、そうか悪い悪い。やっぱ恥ずかしかったか? 」
涼介も恭也の気迫にただただ押されている。俺は二人のやり取りを止めずにニヤニヤ見ている。
恭也の大声に何事かとトイレから出て来た夏目たちが慌ててやって来た。
「どうしたんですか? 」「何かあったんですか? 」「大丈夫? 」
心配そうに見つめる三人。どうでもいいが里香ちゃんの心配してる顔は可愛くて、可愛いくて、可愛いい。
「ああ、いいの、いいの、何でもないから。俺たちは友情を深めてるだけだから、ハハハ」
俺は適当に誤魔化すと、恭也と涼介二人を連れてトイレに向かった。
トイレで三人並びながら用を足していると隣で涼介が語り出した。
「あのモンゴル帝国も裏切らない仲間たちがいたから大帝国になったんだぜ。能力よりも絆が大事。能力が有れば尚良しだ」
「うるせぇな! 小便くらい、ゆっくりさせろよ! 」と隣の恭也が俺の奥の涼介に注意すると俺を挟んでの言い合いが始まった。
「待て、兎に角、俺の話を終わらせろ。ここからだから俺の言いたい事は」
涼介は話を止める気配を見せず続けた。俺が隣りで用を足す恭也に我慢しろと、目で合図した。
「そして今さっきの雲雀武人伝説白骨事件で俺たちは更により一層、絆を深めたというわけだ」
漸く言い終わってすっきりした顔の涼介。
「何だその妙な事件名は、ハハハ」
俺たちが笑いながらトイレから出ると、自販機の前で待っていた三人が俺たちに気が付き、里香ちゃんと舞ちゃんが手を振るのが見えた。
「いいよなあ、女の子がいる風景って。例えその子たちが誰かの彼女であろうとも」
涼介が里香ちゃんと舞ちゃんに手を振り返しニヤケながら歩き出した。
「こんな光景、俺たちにはいつも無かったよな」
俺も美人二人に手を振り返しデレデレ笑いながら歩いた。
「恭也、お前はモテるくせに遂に一度も女の子を連れてくる事は無かったよな」
涼介が恨めしそうに言う。
「言えば良かったじゃん」
恭也が二人に笑顔で手を振りながら返答する。
「…………!!! 」
俺と涼介はお互い目を見開き顔を見合わせた。
自販機の前で待っていた夏目が待ちきれないとばかりに話しかけてきた。
「御三人、見ましたか? 今の見てないですよね」
「どうかしたのか? 」
俺が聞くと夏目が「モデルみたいな美人がいたんですよ! 」と色めき立たせた。
里香ちゃんと舞ちゃんを見ると二人とも夏目の様子に苦笑いを浮かべている。
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