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63 宝箱

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 箱の中には白骨化した死体が横たわっていた。しかも複数体。

 女性たちの金切り声と夏目の悲鳴が蔵の中に響き渡った。一番近くで中を見た涼介は腰を抜かしているし、恭也は冷静なのか呆然としているのか箱の中をジッと見つめている。

 俺は声を出す事さえ出来ずに固まってしまった。昔から驚きや恐怖心が顔に出ない俺は、顔に出ないだけで頭の中はかなり動揺している。だが動揺しているのは白骨死体を見たからでは無い。驚いた里香ちゃんが俺に抱きついて来た事に対して頭が真っ白になってしまったのだ。

 人の骨、しかも頭骸骨から身体全体の白骨自体を見た俺は普段なら飛び上がる程、慌てふためいていたかもしれないが、里香ちゃんが俺に抱きついている感触に、そして里香ちゃんのえも言われぬ良い香りに脳が麻痺して驚きや恐怖心が脳に伝達できなくなってしまっている。
 俺は天にも昇るほどの甘く心地良い香りに、ただただうっとりとした。

 彼女が怖がりながら俺にしっかりとしがみ付いているのを可愛いなと思いながらの白骨死体万歳! 俺の幸運は今が最高潮だろう。脳が痺れる程の興奮の中、どさくさに紛れ里香ちゃんの肩をギュッと強く抱き締めた。
「大丈夫。うん大丈夫だよ」
 俺はニヤけている顔を戻し真面目な声で彼女に声を掛けた。何か気の利いたセリフの一つでも吐ければ良かったのだけれども。

 慄いている涼介を放って置いて恭也に蓋を閉めるように言うと 
「我々は大変な物を見つけてしまったようですな」
 恭也は少しニヤけながら蓋を閉めた。。
「ハハハお前凄いな、こんな時に」
 俺はこんな時に冗談が言える恭也に素直に関心して笑った。恭也の冗談は恐らく俺しか聞いていないだろう。
「フッ、お前もな」
 恭也も笑う。コイツはいつ、いかなる時も冷静で男前だなと改めて思った。

 恭也は尻餅を付いて呆然とする涼介の顔の前で手のひらをパチンッと音を鳴らして合わせると「お前はいい加減、立ち直れよ」と言って涼介を立たせた。

 みんながようやく落ち着きを取り戻すと
「みんな落ち着いて聞いてくれるか? 箱の中身を見た俺たちにはいくつかの選択肢がある。それは……」と恭也は言った。
「流石リーダー的存在、みんなの兄貴! 」
 涼介が恭也の話を遮り調子良く囃し立てる。
「おう、分かった、分かった」と恭也。
「よっ、物語のヒーロー、イケメン主人公! 」
 俺も涼介に続いた。
「おい、ちゃんと聞けよ! 」恭也が言う。

「ヨッ背が高い、高すぎるぅ! 」
 夏目が俺たちに続くと恭也は夏目に近づき真剣なトーンで言った。
「お前、それさっき二度と言うなっつったよな」
 コイツは意外にも背が高いのを気にしていたのか。それよりも正確にイラつきポイントを突く名人の凄さ。

 気を取り直した恭也が仕切りなおした。
「まず一つ目、速やかに警察に連絡して、指示を待つ。これが一番常識的な選択だ。但し警察にあれこれ聞かれて少々面倒くさい事になる。特に俺たちは蔵の鍵を壊して勝手に入ったわけだからな」
 俺は恭也の説明にもっともだと思った。みんなも頷いている。

「二つ目、気を失っている月島さんが目を覚すのを待ってからこのガイコツの事を問いただす。そして必要なら自首してもらう。これが理想的な案だろうがそう上手くは行かないだろうな」
 俺も確かにそう思う。恭也の話をみんな黙って聞いている。

「三つ目、今すぐここを立ち去りこのことは全て忘れる。個人的にはこれが一番良い案だと思う。だが後味は良くないよな。俺の考えは以上だがどうする、みんな? 」
 俺は恭也の的確な判断に感心した。恐らくみんなもそう思ったことだろう。

俺の中で二つ目の案は消去した。恭也の言う通り、月島さんのような人を説得するのは難しいだろうと思ったからだ。

 あの白骨死体はひょっとして月島さんの家族だろうか。先ほど見た楽しそうな家族旅行写真の事を思い出して気持ちが滅入ってしまった。

「四つ目の選択肢があるのですが」
 いつの間にか蔵の入り口に立ち陰鬱な表情の月島さんが答えた。

「んぎえぇやぁぇぇぇぇぇぇっしゅ!!! 」
 夏目の恐竜のような悲鳴が蔵に響き渡った。

 もう一度、里香ちゃんの抱き付きチャンスがあるかもと身構えたが、里香ちゃんは舞ちゃんとお互いにしっかりと抱き合っている。

 俺はガッカリしながらも里香ちゃんを迎え入れる態勢をとっていた行き場の無い両腕を、誰にも気づかれないようにそっと降ろした。
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