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39 円卓の騎士団

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 サオリの面談も終わり俺たちは坂田さんと深見さんの二人を全員で待った。涼介には深見さんは仕事の依頼だと思ってやって来るから、そこは上手い事話をしてくれと言っておいた。
 涼介は自信満々に「まかせろ」と答えた。

 現れた坂田さんはしっかりスーツを着てガチガチに緊張していた。
「こちらがアロハプログラマーの坂田さんだ」
「初めまして、コンピューターセキュリティー会社を経営しておりました坂田 登と申します」
 俺の冗談交じりの紹介にも無反応に潰れた会社の名刺を差し出し、真面目に自己紹介する先輩坂田。
「先輩はいつもアロハシャツなんだぞ」
「ええ、そうなんですよ、羽織えば直ぐに南国気分なんちゃって、えへへ」

 談笑が始まり暫くして深見さんは到着した。現れた深見さんを見て坂田先輩と深見さんはお互い大いに驚いていた。俺の予想では二人はすぐに打ち解けるだろう。

 客が現れるたびにスーツを着た眼鏡の女性が何度もお茶を運びに現れた。映画ではこういう人がスパイだったりする。

 恭也の部屋は石田会長と同じか少し広い部屋に隣の部屋につながるドアもありとても豪華だった。
 俺は常々こんな広い部屋など見栄の為だろうと思っていたが今日、偉い人には広い部屋が必要なんだなと理解した。
 全員が揃い涼介から一大シークレットプロジェクトの説明と会議が行われた。深見さんと坂田さんが二人並んで座っているのが笑えた。

 軽く蚊帳の外の俺は少し暇を持て余し出したところへ夏目から連絡が入った。
 もう連絡など無いと思っていた相手だけに少し戸惑ったが俺は部屋の隅に行き携帯に出た。恭也が「隣の部屋を使っていいぞ」と言ってくれたので素直に行為に甘えた。

「植物園以来どうしてた? 」
 夏目名人の元気な声が聞こえた。
「あれから石田会長に会ったよ」
 俺は正直に話した。会長なら夏目がこちらの様子を伺うために電話してきたんだと勘ぐるだろうか? 俺は会長と一緒に壁画を探す仕事を始める事になった経緯を教えた。夏目たちが疑われているという事は伏せておいた。

「そういえばリカちゃんから電話きた? 」
 夏目の問いかけに俺は否定した。
「事件解決のお礼の電話するっていってたんだけどなあ」
「お礼なんていいって言っといてよ、ハハハ」
 俺の中ではまだ事件は続いている。

「で、何か用かい? 」
「いや、用事ってわけでもないんだけど」
「おまえ、何か俺に頼み事か? 」
「違うよ、本当にどうしてるかと思っただけで。じゃ、また俺も壁画の事、調べとくよ。何か分かったら電話するよ」
 何も用がなく俺に電話してくること自体
 不自然だ。石田会長に言えば余計に疑いを持つだろう。
 が、名人のことだ、これがあいつの定番だ。

 電話を切り隣の部屋に戻ろうか迷った。どうせ俺は会議に関係ないし、邪魔になるかもしれない。かといってこのままこの部屋を使うのはどうかと思いみんなの部屋に戻った。

 時々笑いも起こるが全員真剣に会議を続けている、なんだか肩身の狭い思いで窓の外を眺めた。
 こんな部屋で仕事ができたら素晴らしいだろうな、下を見下ろすと道路を走る車がちっちゃなオモチャのようだ。
 振り返るとエリートたちの会議はまだ続いている。あと何時間俺は窓を眺め続けていれば良いのだろうか。

 恭也の会長椅子に座ってみるとびっくりするほどの快適さだ。俺はクルクル回した後、椅子の車輪で座りながら窓際に行き窓の下を見た。唸ってしまうほどの気持ち良さ。

 暇を持て余し、会議内容に聞き耳を立ててみたが、どこどこの社長に就任させるだとか、執行役員や監査、取締役など俺にはさっぱりな言葉が飛び交う。
 俺は直ぐに耳に蓋をして窓の下のミニチュアの世界をまた眺めることにした。そうしていないと劣等感の波に攫《さら》われそうになる。

 携帯がまた鳴る。液晶画面に石田 時男会長と表示された。俺は慌てて立ち上がり携帯電話に出た。
「はい、古川です、はい、はい、はい」
 俺は条件反射でその場でペコペコする。隣の部屋を使いたいので恭也を見た。恭也は笑みを浮かべて、隣の部屋を指差した。

 俺は恭也に向け片手を挙げ、隣の部屋に移動した。
「昨日丘に行ってどうじゃった? 」
 会長が聞く。俺はきれいにえぐり取られた跡を見て物凄い技術が無いと出来無いと思うと答えた。会長は俺の返答に満足したようで「君が来る日を楽しみにしているよ」と優しく言った後電話を切った。とても俺に殺人スタンガンを押し当てた人と同一人物とは思えないほどの暖かな声だ。

 俺は一度ソファに飛び込んで寝転んでみた。真面目に会議が行われている隣の部屋で寝転がるのはサイコーの気分だ。

「ハル、ねえハルってば! 」
 部屋のソファで寝転んでいる内に寝てしまったようだ。サオリが揺り起こしていた。目を覚ました俺をみんなが見下ろしている。
「もう終わったぜ」と恭也。
「相変わらず、お気楽だな」と涼介。
「ハルくん、疲れているのかい? 」と深見さん。
「俺もハルイチじゃなくて、ハルって呼ぶよ」とアロハの坂田さん。

 恭也の奢りで全員で夕飯を食べに行く事になった。俺も関係ないがついて行く事になった。ま、全員知った顔なので気まずくはない。

 涼介に小声で深見さんの件を聞くと万事上手く行ったようで俺に親指を立てて見せた。

 高級中華料理店の個室の円卓を囲み食事会が開かれた。
「我々会社の悪に立ち向かう円卓の騎士みたいですね」
 涼介が楽しそうにみんなに声をかけた。俺だけ騎士ではないのだけれども。
 須藤 恭也会長、乾杯の挨拶の後それぞれ談笑しながら食事を始めた。

「あれから坂田くんと仲良くなっていたなんて知らなかったよ」
 深見さんは焼売をつまみながらながらずっと紹興酒を飲んでいる。

「僕も深見さんとハルが仲良くなったって知りませんでしたよ」
 坂田さんは肉料理ばかり食べている。

「ここの旨いなあ、お前こんな高級店ばかり来てんのか? 」
 涼介はガツガツ一生懸命に食べている。

「おいハル、何でも注文しろよ。フカヒレの姿煮、頼めよ。ツバメの巣も頼めよ」
 恭也が嬉しそうにビールを飲んでいる。

 俺は酢豚、エビチリ、唐揚げ、炒飯と食べて、フカヒレの姿煮を堪能した。みんなが食事を楽しんでいる姿を見て俺は嬉しくなった。

 最後に隣でサオリが飲茶を美味しそうに食べる姿を見て本当に良かったと思った。

 恭也と涼介はまだ仕事の話があると言い恭也のマンションでこれからまだ仕事の話があると言い別れた。俺はこんどタワーマンションに遊びに行くと言っておいた。

 坂田さんと深見さんは仕事で一緒に行動することがこれから増えるのでまだ親睦会を続けると言って別れた。

 俺とサオリは二人で帰った。帰りの電車の中でこれからの事を思うと少し寂しくなった。
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