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31 謎
しおりを挟む会長と話し合う事になった事をみんなに説明して場所を変えようということになった。
植物園内は会長の息がかかっているので園の斜め向かいにあるファミレスにみんなで向かった。
巨大な警備会社の会長が何故、一般人である普通の彼女に(いや一般人と言えないくらいの特別美人だけれども)、執拗に嫌がらせみたいな事をしたのかが、ずっと謎だった。里香ちゃんは、構われるのを止めてくれたらそれでいい、と言っていたが俺はどうしても理由が聞きたいと思っていた。
石田会長は園の外に待たしている運転手に連絡を取り気絶している二人を引き取りに来させた。運転手は倒れている二人を見てかなり驚いた様子だった。
ファミレスに着き一番大きなソファ席に案内してもらい、夏目と舞ちゃんを先に飲み物を取りに行かせた。
「いやあ、あの二人がやられた時点でもう無理じゃと思ったからな。村田からの報告で君は物凄く頑丈だと聞いておったからな。
さっき鮫島に殴れても桜井に殴られても全く平気だった君を見て、象をも気絶させる改造スタンガンを使ったんじゃが、それでもダメとは、驚きじゃよ」
会長は俺を絶賛するように調子よく話したが、俺は内心この老人に恐怖を抱いた。象も気絶するスタンガン……このジジイ俺を殺す気だったのか?
もし俺が回数の盾を使っていた場合、スタンガンのような連続的に続く攻撃をされたら確実に死んでいた。後先考えずに本当に恐ろしい人だ。
「その象ゴロシの改造スタンガン、捨てた方が良いですよ。人、死にますよ」
俺は本心で心から忠告した。
夏目と舞ちゃんが戻って来ると、交代で俺と里香ちゃんとで飲み物を取りに行った。
「さっきは本当に生きた心地がしなかったわ。いつも助けてくれて本当にありがとう」
里香ちゃんは、メロンソーダを注ぐ俺の横に立ち真っ直ぐ俺を見て言った。
「ハハハ、凄く照れるんだけど」
俺は照れて彼女を見れなかったのでジュースを注ぐボタンを見ながら答えた。恐らく気持ち悪いくらい俺はニヤケていただろう。
俺は会長の分のコーヒーを席に置いた。
「うむ、ありがとう」
会長は当初の威厳を取り戻しつつあった。
八人がけのソファで、会長が一人でソファ席に座り向かいの席に夏目、舞ちゃん、里香ちゃんと座る。会長の横二人分を開けて念のため会長の逃げ道を塞ぐ形で俺は座って話すことにした。
横向きに座り直しコーヒーを飲む会長に話を聴こうとした俺は何気に三人の方をみると三人は阿修羅の様な顔をしていた。
三人はもの凄く会長を睨んでいた。たった今、俺が気が付いただけで、この三人はずっと会長を睨み続けていたのだろうか? 全員がもの凄く怒っているようだ。
会長はこの視線をどう感じているのだろうか? 気になって見てみると全く気にしていない様子でコーヒーを飲んでいる。
三人は怒髪天を衝く表情で会長を睨み付け、片や優雅にコーヒーを啜る老人の姿、その構図を横で見ている俺。(なに、これ、すんげー怖えぇ! )
まあさっきの植物園内で会長にあれだけ強く脅されたのに、今更急に仲良く会話も何もないだろうけれども、だけれどもだ、ホントやりにくくてしょうがない。
「まず先程は本当に申し訳なかった」
会長は深く頭を下げた。
会長の素直な謝罪で三人は少しは溜飲を下げたことだろう。
「話をスムーズに運ぶため君たちをあんな形で脅して申し訳なかった。古川くんがワシの警護にやられれば、恐怖に陥った、君たちは知っている事を素直に全部話してくれるじゃろうと思っての」
「じゃが古川君が予想に反して強かったもんで、桜井と鮫島はワシの会社のトップなんじゃけども」
「いや君ほどの逸材がいようとは、世間は広いな」
「あの会長、そろそろ理由の方を」
俺は本題に戻そうとした。なんだか会長の秘書みたいになっている。
「ああ、そうじゃったな。ワシの家、石田家は代々鳳村にある丘を管理しとるんじゃよ」
会長は里香ちゃんの顔を探る様に見据えながら話し出した。
俺はまさか鳳村の話が出てくるとは思わず、ジュースを持ったまま固まってしまった。まさか会長があそこの管理者だったとは。
「丘には洞窟が三つあってなそれぞれの洞窟に壁画があるんじゃが………」
会長は途中で話を止めグッと眼を見開いた。
「俺、その壁画知ってます。見に行ったことあります」
俺は言った後、固唾を飲んで続きを待った。会長は俺の返事に頷いた。
「そのうちの一つの壁画が盗まれたんじゃよ」
「ええっ!? 壁画を? そんなこと可能なんですか? 」
俺は本当にただ驚きを声に出してしまった。あのような土と石で出来た洞窟からどうやって壁画だけを盗めるのだろう。俺は思い出の壁画、心の中の勇気を保つ壁画が盗まれた事がショックだった。
「いったいどうやって? 」
俺はただ、茫然と疑問を呟いた。
「全く解らんのじゃよ。あの壁画は先祖代々ずっと受け継いできた石田家にとって大切な遺産なんじゃよ」
会長は首を振った。
「それで、その壁画とリカちゃんが一体どう関係があるんですか? 」
「それとリカちゃんがなんの関係があるの? 」
「壁画の盗難と私が何か関係があるんですか? 」
三人が堰を切ったように一度に話し出した。
「ワシは、我々は秋吉さんを疑っとるんじゃよ」
会長は里香ちゃんに面と向かって言い切った。
「私、そんなの盗ってません! 」
里香ちゃんは怒りの声を上げた。
夏目と舞ちゃんも声を荒げた。俺もこのじーさん狂ったかと思った。
石田会長は真剣な面持ちで話を続けた。
「秋吉さん、君は鳳駅付近の丘を知っているね。ワシの会社の者が君をあの丘で見たそうなんじゃ」
「はい、一度行った事があります。実家が隣の県なので途中で車が故障して………」
「俺と会った時だよね」
俺は彼女との想い出の場所を頭に浮かべた。
「そんな事で疑われるならハルイチ君も怪しいって事じゃないの? 」
夏目が俺を見ずに会長に言った。コイツよくもそんな事言えたなと俺は感心した。
「ハハハ、そうだね」
俺はいつかコイツを殴ってしまいそうだ。
俺と里香ちゃん、夏目などの関係を説明した後、鳳村の丘での出来事や、俺が二回鳳村の丘に行ったことなども粗方話し終えた頃、会長の携帯電話が鳴った。
会長は電話に出て少し話すと携帯を切った。
「いや、今回全くのワシの勘違いじゃ。誠に大変申し訳なかった。もう秋吉さんに迷惑はかけないと誓おう。改めて謝罪に伺わせて頂きたいと思う」
会長は勝手に締めくくった。
俺たちは会長に謝罪と誓約をしてもらい、これ以上会長を引き留める理由もなくなり解散することとなった。
「いやーよかったね、リカちゃん」
事件が解決して、夏目、舞ちゃん、理香ちゃん三人が緊張から解き放たれ楽しそうに話しだす。
席を立った石田会長は俺に名刺を渡して三人に聞こえないように俺だけに小声で囁いた。
「彼女に気をつけなさい」
「……!! 」
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