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25 大和キャンパス
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大学の門に着き、ここが里香さんの通っている大学かと思うと、俺の胸は熱くなった。俺も大学に行っておけばよかったとしみじみと思った。
はっきり言ってキャンパスライフというものに憧れはある。ひょとして大学に通っていれば彼女ができていたかもしれない。今頃、就職してバリバリ働いているかもしれない。
まあ俺の頭では里香さんと一緒の大学に通うことはできないだろうが。
学生たちで賑わっているこの状況は、高校となんら変わらない。制服を着ているか着ていないかの違いだけである。
門を入って直ぐ外の休憩場所に大きな四角いテーブルにベンチが両端に備え付けてあり六人ぐらいは座ることが出来る、そんなテーブルセットが三つほどあった。そこで彼女の授業が終わるまで待つことにした。
「じゃあ、お昼休みに」そう言って彼女は笑顔で立ち去った。
自販機にコーヒーを買いに行って飲んだ。大学内をブラブラ見学した。お腹は空いてないが、学生食堂を覗いた。ベンチに戻り、暇つぶし道具でも持って来れば良かったと直ぐに後悔した。
しばらく暇を持て余していると正門の方に夏目名人がやってくるのが見えた。
「おーい、ハルイチくーん」
遠くから元気に挨拶する夏目。
俺は軽く片手を挙げた。退屈で死にそうだったので夏目がやって来たのが救いに思えた。
「やあ、名人」
「名人て、俺のこと?」
夏目は俺の言葉に素早く反応した。
「昨日里香さんとの会議でそう呼ぶことに決まったんだよ」
俺はからかうように笑った。
夏目は理由も聞かずに何故か納得したように頷いた。
「昨日は大変だったね。俺も、男たちをやっつけるところ見たかったよ」
夏目は俺の向かいに腰掛けると嬉しそうに話した。最早、敬語も使わなくなったか、名人。
「昨日、男たちに心当たりがあるって言ってたよな」
「うん、昨日、俺が帰ってからの話を聞いてピンときたんだよね。」
と夏目は得意げに語っている。
「ふーん。それで、その心当たりって? 」と俺。
「うん、里香ちゃんも来てからにするよ、その話は」
勿体つける夏目にイラッとしたが抑えた。
「昨日取り上げた三人の免許証から家に行って、リーダー格の男のことを聞き出そうと思ってるんだ」
俺の意見を言った。
「それでも良いけど、俺ある事に気がついちゃったんだよね、へへへ」
不敵な笑みを浮かべる、名人夏目。舌打ちしそうになった。
門の方からいつかの空手部員たちがやって来るのが見えた。夏目に見てみろと目配せした。振り返り門の方を見て凍りつく名人。
「お前が、勿体つけて言わないから彼奴らがきたんじゃないの? 」
俺は嬉しそうに意地悪を言ったのだが、こいつはそれに答える余裕はなかった。
空手部員の何人かは俺と夏目が座っているのに気がつき慌てて歩みを止めた。一番前を歩いていた一人が他の部員たちに何事かと問いただしているようだ。
話し合いの末、代表の一人がこちらに向かって歩き出した。恐らくそいつが噂の空手部主将であろう。
そいつの後に二人が続き、他の七人は門のところでこちらの様子を伺っている。主将が二人を引き連れ俺たちの前までやって来た。
「やあ。この間は、うちの者達が世話になったらしいね。神奈関大学空手部主将の川上です」
座っている俺たちを見下ろし主将が明朗快活な声を出し笑顔で挨拶をした。
この主将は俺にどう言って欲しいのだろう。世話などしていないと言おうが、どういたしましてと言おうがどちらにしても揉めそうである。
果たして正解は有るのか?
夏目をチラリと見ると、奴も肩をすぼめ意味が解らないといった様子だった。怯えきった眼でこちらを見ている七人とは対照的に、目の前の空手部員たちは堂々としている。
今はこんな奴らに業を無駄使いするのはなんとしても避けたい。夏目も臨戦体制に入っている、俺もいつ殴りかかられても良いように業を発動させる準備をしてはいるが、なんとか穏便に済ませたい。俺は仕方なしに愛想よく返事をする事にした。
「やあ、こんにちは。古川と申します。良い天気だね、ハハハ。それで、俺たちに何か用かい? 」
出来るだけ和かな雰囲気になるようニッコニコ笑顔で言った。
俺の笑顔が気に入らなかったのか、川上と名乗った主将は一瞬ムッとした顔をしたが、
「うちの部員には、二度と彼に手を出さないように言っておいたので安心してください」と夏目を見て言った。川上の意外な言葉に戸惑った俺は名人と顔を見合わせた。
「あ、ああ、そうなの。それはどうも、助かりますホントに」
と俺が言うと、夏目も
「ありがとうございます。先日はどうもすみませんでした」と言った。
「いや、夏目くんには感謝してるんだよ。あの時ハッキリ言ってもらって。自分がどれほどダメな奴だったか解ったから」と空手部主将川上は爽やかに言った後立ち去っていった。
門のところにいる部員たちも慌てて彼の後を追って行った。
「なあ、随分聞いていた話とは違うくないか? 彼」
俺は空手部員達の後ろ姿を指差して、夏目に確認した。
「うん、本当に。なんかだいぶ感じも変わったみたいだね。彼も少しは成長したのかな」
夏目も驚いた様子で返答した。そして一言多い。
二十歳になってからでも人って変わるもんなのだろうか。夏目の言ったことが余程応えたのだろうか、もしくは今まで誰も注意してくれる人が居なかったのか、実は元々素直な奴なのかと、二人で川上のことを話して盛り上がった。
別に馬鹿にしているわけではないのだが。何故か川上という人物が面白くなって来た。最終、エボリューション川上だの、グローイングアップ主将だの二人して笑った。
俺たちは本当に馬鹿にしているわけではないが、何がおかしいのか解らないが可笑しかった。
「何か楽しい話? 」
授業を終えてやって来た、里香さんが俺たちに声をかけるまで気づかなかった。身辺警護係の俺としては失格である。
先程まで神奈関の空手部の連中が来ていたことと、主将の川上と夏目の問題が解決したことを手短に話し、それから最後に夏目のあだ名を怒らせ名人から悔い改めさせ名人に変更しようとかと思っていると言うと、里香さんは大笑いした。
夏目はキョトンとした顔で俺と里香さんを交互に見た。
「怒らせ名人って俺、怒らせる事の名人なの? 」
「ええーと、ところで夏目名人、里香さんも来た事だし、そろそろあの男に対する君の見解を聞かせてくれないか? 」
俺はわざと仰々しく聴いた。
「うん、まあいいけど。見解ってほどじゃないんだけど、俺たちがあの大男を探した辺りのビルにゴールドストーンて名前のプロレス団体だか格闘技団体だかのジムの訓練所が有るんだ」夏目が続けた。
「まあ確証は無いんだけど、昨日俺の帰った後、ハルイチくんから聞いた話ではデカい男ばかり出て来たからそのジムに関係ある筈なんだよ」
夏目が鼻高々に語るのを俺も里香さも黙って聞いていた。夏目も確証はないと言うが、恐らく、そこのジムに関係があるだろう。
「そこで、ハルイチくんの出番だよ。今からあのジムに乗り込んで知ってること全部吐かせようよ」
夏目は嬉しそうに勢いよく提案した。
「お、おお」と返事をしたものの、こいつは正気で言っているのかと戸惑った。里香さんを見ると、彼女も横目で俺を見て苦笑いしていた。
ハッキリ言って業を持っているからといって格闘技ジムに乗り込むような度胸は俺には無い。
今から三人で乗り込んで、相手が何人いるか分からないが、無事帰れるとも思わない。
俺が一人でジムに入った方が無傷で帰れることは間違いないだろう。
結局、格闘技ジムに乗り込む事に決めた俺たちは昼飯を大学の食堂で済ませた後、また俺一人だけ休憩所のテーブルで待つことになった。
はっきり言ってキャンパスライフというものに憧れはある。ひょとして大学に通っていれば彼女ができていたかもしれない。今頃、就職してバリバリ働いているかもしれない。
まあ俺の頭では里香さんと一緒の大学に通うことはできないだろうが。
学生たちで賑わっているこの状況は、高校となんら変わらない。制服を着ているか着ていないかの違いだけである。
門を入って直ぐ外の休憩場所に大きな四角いテーブルにベンチが両端に備え付けてあり六人ぐらいは座ることが出来る、そんなテーブルセットが三つほどあった。そこで彼女の授業が終わるまで待つことにした。
「じゃあ、お昼休みに」そう言って彼女は笑顔で立ち去った。
自販機にコーヒーを買いに行って飲んだ。大学内をブラブラ見学した。お腹は空いてないが、学生食堂を覗いた。ベンチに戻り、暇つぶし道具でも持って来れば良かったと直ぐに後悔した。
しばらく暇を持て余していると正門の方に夏目名人がやってくるのが見えた。
「おーい、ハルイチくーん」
遠くから元気に挨拶する夏目。
俺は軽く片手を挙げた。退屈で死にそうだったので夏目がやって来たのが救いに思えた。
「やあ、名人」
「名人て、俺のこと?」
夏目は俺の言葉に素早く反応した。
「昨日里香さんとの会議でそう呼ぶことに決まったんだよ」
俺はからかうように笑った。
夏目は理由も聞かずに何故か納得したように頷いた。
「昨日は大変だったね。俺も、男たちをやっつけるところ見たかったよ」
夏目は俺の向かいに腰掛けると嬉しそうに話した。最早、敬語も使わなくなったか、名人。
「昨日、男たちに心当たりがあるって言ってたよな」
「うん、昨日、俺が帰ってからの話を聞いてピンときたんだよね。」
と夏目は得意げに語っている。
「ふーん。それで、その心当たりって? 」と俺。
「うん、里香ちゃんも来てからにするよ、その話は」
勿体つける夏目にイラッとしたが抑えた。
「昨日取り上げた三人の免許証から家に行って、リーダー格の男のことを聞き出そうと思ってるんだ」
俺の意見を言った。
「それでも良いけど、俺ある事に気がついちゃったんだよね、へへへ」
不敵な笑みを浮かべる、名人夏目。舌打ちしそうになった。
門の方からいつかの空手部員たちがやって来るのが見えた。夏目に見てみろと目配せした。振り返り門の方を見て凍りつく名人。
「お前が、勿体つけて言わないから彼奴らがきたんじゃないの? 」
俺は嬉しそうに意地悪を言ったのだが、こいつはそれに答える余裕はなかった。
空手部員の何人かは俺と夏目が座っているのに気がつき慌てて歩みを止めた。一番前を歩いていた一人が他の部員たちに何事かと問いただしているようだ。
話し合いの末、代表の一人がこちらに向かって歩き出した。恐らくそいつが噂の空手部主将であろう。
そいつの後に二人が続き、他の七人は門のところでこちらの様子を伺っている。主将が二人を引き連れ俺たちの前までやって来た。
「やあ。この間は、うちの者達が世話になったらしいね。神奈関大学空手部主将の川上です」
座っている俺たちを見下ろし主将が明朗快活な声を出し笑顔で挨拶をした。
この主将は俺にどう言って欲しいのだろう。世話などしていないと言おうが、どういたしましてと言おうがどちらにしても揉めそうである。
果たして正解は有るのか?
夏目をチラリと見ると、奴も肩をすぼめ意味が解らないといった様子だった。怯えきった眼でこちらを見ている七人とは対照的に、目の前の空手部員たちは堂々としている。
今はこんな奴らに業を無駄使いするのはなんとしても避けたい。夏目も臨戦体制に入っている、俺もいつ殴りかかられても良いように業を発動させる準備をしてはいるが、なんとか穏便に済ませたい。俺は仕方なしに愛想よく返事をする事にした。
「やあ、こんにちは。古川と申します。良い天気だね、ハハハ。それで、俺たちに何か用かい? 」
出来るだけ和かな雰囲気になるようニッコニコ笑顔で言った。
俺の笑顔が気に入らなかったのか、川上と名乗った主将は一瞬ムッとした顔をしたが、
「うちの部員には、二度と彼に手を出さないように言っておいたので安心してください」と夏目を見て言った。川上の意外な言葉に戸惑った俺は名人と顔を見合わせた。
「あ、ああ、そうなの。それはどうも、助かりますホントに」
と俺が言うと、夏目も
「ありがとうございます。先日はどうもすみませんでした」と言った。
「いや、夏目くんには感謝してるんだよ。あの時ハッキリ言ってもらって。自分がどれほどダメな奴だったか解ったから」と空手部主将川上は爽やかに言った後立ち去っていった。
門のところにいる部員たちも慌てて彼の後を追って行った。
「なあ、随分聞いていた話とは違うくないか? 彼」
俺は空手部員達の後ろ姿を指差して、夏目に確認した。
「うん、本当に。なんかだいぶ感じも変わったみたいだね。彼も少しは成長したのかな」
夏目も驚いた様子で返答した。そして一言多い。
二十歳になってからでも人って変わるもんなのだろうか。夏目の言ったことが余程応えたのだろうか、もしくは今まで誰も注意してくれる人が居なかったのか、実は元々素直な奴なのかと、二人で川上のことを話して盛り上がった。
別に馬鹿にしているわけではないのだが。何故か川上という人物が面白くなって来た。最終、エボリューション川上だの、グローイングアップ主将だの二人して笑った。
俺たちは本当に馬鹿にしているわけではないが、何がおかしいのか解らないが可笑しかった。
「何か楽しい話? 」
授業を終えてやって来た、里香さんが俺たちに声をかけるまで気づかなかった。身辺警護係の俺としては失格である。
先程まで神奈関の空手部の連中が来ていたことと、主将の川上と夏目の問題が解決したことを手短に話し、それから最後に夏目のあだ名を怒らせ名人から悔い改めさせ名人に変更しようとかと思っていると言うと、里香さんは大笑いした。
夏目はキョトンとした顔で俺と里香さんを交互に見た。
「怒らせ名人って俺、怒らせる事の名人なの? 」
「ええーと、ところで夏目名人、里香さんも来た事だし、そろそろあの男に対する君の見解を聞かせてくれないか? 」
俺はわざと仰々しく聴いた。
「うん、まあいいけど。見解ってほどじゃないんだけど、俺たちがあの大男を探した辺りのビルにゴールドストーンて名前のプロレス団体だか格闘技団体だかのジムの訓練所が有るんだ」夏目が続けた。
「まあ確証は無いんだけど、昨日俺の帰った後、ハルイチくんから聞いた話ではデカい男ばかり出て来たからそのジムに関係ある筈なんだよ」
夏目が鼻高々に語るのを俺も里香さも黙って聞いていた。夏目も確証はないと言うが、恐らく、そこのジムに関係があるだろう。
「そこで、ハルイチくんの出番だよ。今からあのジムに乗り込んで知ってること全部吐かせようよ」
夏目は嬉しそうに勢いよく提案した。
「お、おお」と返事をしたものの、こいつは正気で言っているのかと戸惑った。里香さんを見ると、彼女も横目で俺を見て苦笑いしていた。
ハッキリ言って業を持っているからといって格闘技ジムに乗り込むような度胸は俺には無い。
今から三人で乗り込んで、相手が何人いるか分からないが、無事帰れるとも思わない。
俺が一人でジムに入った方が無傷で帰れることは間違いないだろう。
結局、格闘技ジムに乗り込む事に決めた俺たちは昼飯を大学の食堂で済ませた後、また俺一人だけ休憩所のテーブルで待つことになった。
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