黒き花嫁

咲 カヲル

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#10

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優しい笑みを作る博文を見つめ、葉菜は、持ち上げた缶を置き、肩を震わせた。

「どうしたら、葉菜が、喜んでくれるかとか、どうしたら、葉菜が、笑うかとか、そんな事ばっかり考えてる。僕は、葉菜に振り向いて欲しいから」

「…遅いんだよ…」

「え?」

首を傾げた博文を押し倒し、馬乗りになった葉菜は、酒臭かった。

「あんな事して今更でしょ。恋愛がしたいだの。振り向いて欲しいだの。ふざけすぎ。私を抱いた時点で、あの男と同じなの」

無表情の葉菜を見上げて、博文は、唇に力を入れた。

「結局、アンタもアンタの兄弟も、あの男と同じ。好き勝手抱ける女が欲しいだけ。騙されてても、そうゆう女が」

「僕にとっての葉菜は、本当に大切な人だよ」

笑みを崩さない博文を見下ろし、奥歯を噛み締めた。
葉菜は、博文の股の間に、膝を押し入れ、股間に擦り付けた。

「気持ちいい?」

顔を歪めた博文のぺニスが、固くなり、葉菜は、ニヤリと笑った。

「忘れられないから、探したんでしょ?」

「違う」

「ウソ。体は素直だよ?」

「…僕は…葉菜と…一緒にいたいだけ」

「だよね~。そしたら、いつでもセックス出来るもんね?」

「違う…そうじゃなくて…」

「何が違うのさ」

膝を押し当てられ、悶えながらも、博文は、手を伸ばし、その頬を包むように触れた。

「もう…そんな顔させたくない」

必死に我慢し、涙目になっても、博文は、葉菜の挑発には乗らず、真っ直ぐ見つめた。

「自分を隠して、嘘を装って、平気な顔してるように見えるけど、本当は、平気じゃない。葉菜は、自分を騙してるじゃない?」

「んな訳ないし」

「なら、どうして、そんな悲しそうなの?」

ニヤリと笑って、挑発してても、葉菜は、どことなく、悲しそうな雰囲気だった。

「なに言ってんの?悲しい訳…」

「もうやめようよ。自分騙すの」

博文の手が、優しく頭を撫でると、葉菜の脳裏に、古い記憶が写し出された。
葉菜が大好きだった手が、自分の頭を優しく撫でる。
大きくて、ゴツゴツしてて、優しくて、温かい、父親の手。

「葉菜。兄さんや久孝に乗せられたとは言え、あんな事してごめん」

自然と流れ出る葉菜の涙を拭い、博文は、悲しい顔をした。

「許される事じゃないと思う。でも、憎まれても、僕は、葉菜と一緒にいたい」

「…今更、もう遅いし」

「なら、もう一度、僕にチャンスをちょうだい」

顔を隠すようにうつ向き、声を震わせる葉菜の頭を撫でて、博文は、優しく微笑んだ。

「葉菜が求めたい時は、それに応えるよ?でも、その時以外は、絶対にあんな事しない。周りになんて言われても」

「絶対ムリだし」

「やってみなきゃ、分かんないじゃん?」

「流されやすいくせに」

「これでも頑固って言われる」

「どの辺がよ」

「分かんない」

「分かんないのかい」

さっきまでの雰囲気は、何処かに吹き飛び、葉菜は、涙を流しながら笑った。
博文も大きな声で笑い、部屋は、穏やかな時間が流れた。
互いに落ち着いて、葉菜は、腕を広げて転がる博文を見下ろした。

「なに?」

「なんでもない」

葉菜は、覆い被さるようにして、博文の上にうつ伏せになると、規則正しい心臓の音に耳を寄せた。

「…変わり者」

「なに?」

「母さんとおばさんが、話してたの聞いたの。息子の中で、次男は、変わり者なのって。確かに、変わり者だなって」

「どんなところが?」

「騙した相手に本気になったり、何もしないっていったり、頑固だって言ったり」

「頑固は、言われたんだって」

「あっそ」

暫くの間、オーディオから流れる音楽を聞いていた。

「あ。この歌知ってる」

「へぇ。あんまり、有名じゃないのに。どうして?」

「大学の友達から、オススメって聞かされた」

「その人、良い人?」

「どうかな。世話好きで、話好きな感じ」

「じゃ、紹介して?」

「イヤだよ!!」

「冗談だし。いじられキャラでしょ?」

「葉菜だけだし」

クスクス笑って、葉菜は、体を起こして、博文を見下ろした。

「辛くない?」

「なにが?」

「これ」

葉菜は、腰を動かして、博文の股間を刺激した。

「…ダイジョウブ」

「嘘つくの下手ね」

何とか笑おうとしても、博文は、眉間にシワを寄せて、苦しそうな顔をしていた。

「約束…だから…」

「でも、苦しいんでしょ?」

顔の横に手を置き、博文の鼻先まで、顔を近付けると、葉菜の息が、唇をかすめる。

「苦しい?」

「…ちょっと」

「したい?」

「葉菜がしたいなら」

「アナタは?」

「葉菜に任せる」

「じゃ、しない」

「分かった。ごめん。ちょっとよけてもらって良い?」

「なんで?」

「ちょっとお手洗いに」

「人ん家のトイレでするの?」

「それは」

「ある意味、変態だよ?」

「それでも良いから、よけて」

「イヤ」

「じゃ、動くのやめて」

「イヤ」

葉菜の股間が押し付けられ、ずっと動かされていた為に、博文のぺニスは、完全に勃起し、痛い程だった。

「お願い」

「だめ」

「なんで」

「仕返し」

「ごめん…ホント…よけて…漏れそう…」

「漏らせば?」

そんな事を言ってる間も、葉菜の動きは止まらない。
博文の我慢も限界に達し、無理矢理、起き上がって、離れようとしたが、葉菜の腕が回され、離れる事が出来なかった。

「…やってあげようか」

聞き返す前に、葉菜の唇が重なり、酒の臭いが鼻を抜けたと思うと、博文の耳や首筋に吸い付いた。

「ちょ…待って…」

震える声に微笑み、葉菜は、迷う事なく、博文のベルトに手を掛けた。

「パンツ、濡れちゃってるよ?」

ぺニスの先から、汁が溢れ、パンツにまで浸透していた。
それを指で撫でて、糸を引かせると、葉菜は、博文の脇腹に吸い付いた。

「葉菜…ちょっと…待っ…」

「待たない」

パンツのゴムに指を掛け、ぺニスの頭が出ると、葉菜の舌先が触れ、短い息に、小さな声が混ざり、博文は、下腹に力が入った。

「腰上げてよ。脱がせられない」

腕を口元に当て、素直に腰を上げると、ズボンを下ろされ、葉菜の指が、パンツ越しにぺニスに触れられ、博文は、また短い声を漏らした。

「スゴいね。ちょっといじっただけで、固くなるんだ」

裏筋を撫でられ、博文は、下腹に力が入り、また先っぽから汁が溢れた。
悶える博文を見つめ、パンツを下ろした葉菜の前に、博文のぺニスが現れ、裏筋に吸い付き、シゴき始めた。

「気持ちいい?」

息を荒くして、頷く博文を見つめ、葉菜は、手の動きを早めた。
射精が近付き、背中を丸め始めると、手が止まり、博文は、葉菜に視線を向けた。

「なん…」

「ヤバいんでしょ?」

意地悪な笑みを浮かべる葉菜は、手を離して、博文に覆い被さるようにして、顔を近付けた。

「葉菜…もう…」

「だめ」

「なんで…」

「だって、苦しくなくちゃ、仕返しにならないでしょ?」

「もう…勘弁して…」

「イヤだ」

「葉菜…」

「私の事好き?」

「急に…どうしたの?」

「好き?」

ニコニコする葉菜を見つめ、博文は、困ったように微笑んだ。

「好きだよ?」

「じゃ、我慢できるよね?」

ニッコリ笑う葉菜に、イヤな予感がし、ブルッと背中を震わせ、博文は、出しっぱなしの下半身を仕舞おうと、急いで、手を伸ばした。
だが、葉菜の手に押さえられ、強引なキスをされた。
鼻から抜ける酒の臭いと絡められる舌で、頭がクラクラし始め、博文は、葉菜の腕を掴んでいた。
絡んでいた舌が離れ、葉菜の唇が、頬や耳、首筋を滑るように触れる。
小さな声が漏れる博文の耳元に頬を寄せると、葉菜の太ももが、股間に押し当てられた。

「ねぇ。どうしたい?」

息を吹き掛けながら、葉菜の甘い声が、耳元で囁かれ、博文は、肩を震わせて、耳を離そうとした。
だが、葉菜の手が添えられ、阻止されてしまった。

「ちゃんと言って?どうしたい?」

目を閉じて、股間を擦る素足の感覚に、腰を震わせ、博文は、葉菜の手に手を重ねた。

「ねぇ」

自分の方に顔を向けさせ、葉菜が、足を押し付けたまま、見つめると、博文も、目元に涙を溜めて見つめた。

「どうしたい?」

「キス…したい」

触れるだけのキスをして、博文は、大きく息を吐き出した。

「もう…良い?」

「なにが?」

「気…済んだ?」

ここまでしても、博文が、抱こうとせず、葉菜にされるがまま、必死に耐えている。
そんな博文に、葉菜は、驚くと同時に笑いが込み上げた。

「なに?おかしい?」

「ごめん。マジなんだって思ったら、笑えちゃって」

ケタケタ笑う葉菜を見つめ、博文は、何処か安心したように、優しく微笑むと、鼻から息を吐き出した。

「…ねぇ。さっき、もう一度って言ってたじゃん?あれって、どうゆう事?」

「ん~お試し?みたいな感じ」

「お試しって。その格好で、アホでしょ」

「言わないでよ」

苦笑いしながら、パンツを上げようとするが、葉菜の足が邪魔で上げられない。

「よけて?」

ニッコリ笑う葉菜を見て、博文は、大きな溜め息をつき、パンツから手を離して、大の字になった。

「葉菜、意地悪な」

「そう?普通じゃない?」

「この状況で?普通じゃないでしょ」

自傷気味にケタケタ笑う博文を見つめ、葉菜は、小さく笑って、覆い被さった。

「まだやるの?」

ニッコリ笑って、葉菜の唇が優しく、重ねられた。
そのキスは、今までのような、欲望を掻き立てるキスじゃなく、優しくて、愛しさが溢れていた。
じっと、見つめ合い、どちらともなく、唇を重ねると、舌を絡める深いキスをした。
葉菜は、自分から、短パンと下着を脱ぎ、博文のぺニスに擦り付けた。
短い声を漏らし、眉を寄せる博文を見つめ、葉菜は、自ら、ナカにぺニスの頭を入れた。
鼻を鳴らす博文の呼吸が、ぺニスの頭を出し入れする度に、どんどん荒くなった。
唇が離れ、博文は、葉菜に触れようとしたが、その手を宙に止め、拳を作って耐えた。
腰のクッションをよけ、葉菜から逃れようとした。

「あーーーっ!!」

逃げようとする博文を葉菜は、逃さなかった。
一気に腰を下ろして、ぺニスを飲み込むと、博文は、声を漏らして、葉菜の足に触れた。

「どうしたの?いつもしてたじゃん?」

眉間にシワを寄せる博文を見下ろし、葉菜は、ゆっくり笑い、顔を近付けた。

「辛い?」

奥歯を噛み締め、頷く博文を見つめ、葉菜は、その胸に耳を着け、腰を動かした。

「…動いちゃ…」

「出ちゃう?」

何度も頷く博文を見つめ、葉菜は、ニッコリ笑い、動きを止めた。

「…ごめん…葉菜…もう…」

「限界?」

涙目で頷くと、葉菜は、腰を浮かせた。

「ねぇ。前みたいに、イカせて?」

「でも…」

「動いて良いから」

博文は、唾を飲み込み、ゆっくりと腰を浮かせ、ぺニスを奥に押し付けた。
葉菜は、小さな声を漏らし、博文の腕を掴み、体を震わせた。
何度も突き付け、博文は、支えるように、背中に腕を回すと、葉菜も、体を震わせながら、その胸に額を着けた。
荒くなった呼吸で、互いの体温が上がるのを感じ、短い声を漏らした。

「葉菜…」

「…もう…ちょっと…」

鼻先に顔を出して、葉菜は、甘えるような目で、博文を見下ろした。

「…我慢」

博文は、動きを止めて、体を起こすと、葉菜を抱き締め、クッションに寝かせた。

「痛くない?」

「大丈夫」

博文が腰と肩に、腕を回し、打ち付けるように、腰を動かすと、葉菜は、腰を押し付けるように浮かせ、背中に爪を立てた。

「…も…イク…」

喘ぎながら、押し寄せる感覚に、葉菜ナカが、引き寄せるように、力が入るのと同時に、博文も射精した。
溶けてしまいそうな顔で、見つめ合い、どちらともなく、キスをして、博文は、葉菜を抱き締めて、ぺニスを引き抜いた。

「…ごめん…大丈夫?」

頷いてから、大きく息を吐き出した葉菜の額にキスを落とし、博文は、横に転がった。

「…今度、映画でも行かない?」

「映画ねぇ~…あんまり、興味ない」

「じゃ買い物?」

「欲しいのないし」

「水族館か動物園」

「そんな子供じゃないし」

「遊園地」

「てか、なに?出掛けたいの?」

「そう。葉菜と出掛けたい」

「なんで」

「そうしたいから」

ニッコリ笑う博文を見つめ、葉菜は、困ったような笑みを見せた。

「考えとく」

「分かった。じゃ、ご飯行こう」

「だから、考えとくってば」

「違うよ。今から、ご飯、食べに行こうよ」

「そのまま?」

「ちゃんと着るよ」

「違うし。そのままじゃ臭いじゃん」

「そう?」

「とりあえず、シャワー浴びなよ」

自分の腕に鼻を寄せて、臭いを嗅いでる博文に向かい、追い払うような仕草をして、葉菜は背中を向けた。

「良いの?」

「別にいいよ。それくらい」

「ありがと」

嬉しそうに微笑む博文が、頬に軽くキスをして、葉菜の頬が赤くなった。

「嬉しい?」

「うるさい!早く行け!」

ケタケタ笑いながら、博文が、ズボンと下着を持って、葉菜の指差したドアに消えると、大きく息を吐き出し、手で顔を覆った。
葉菜は、自然と熱くなった頬に、戸惑い、それをどうしたら良いか分からなかった。
暫くして、頬の熱も治まり、シャワーの音が聞こえた葉菜は、いたずらっ子のような笑みを浮かべて、新しい下着とジーパン、脱ぎ捨てた洋服を持って、浴室に向かった。
静かにドアを開け、シャワーを浴びる背中を撫で下ろすと、博文は、驚いて、肘を壁にぶつけた。

「バカじゃん」

「驚かすからでしょ」

肘を擦る博文を見て、ケタケタ笑いながら、浴室に入った。
博文の顔が真っ赤になり、出て行こうとするのを葉菜が連れ戻す。

「ちゃんと洗いなよ」

「流すだけで大丈夫だろ」

「ダメだって。座って」

「自分でやるから」

「いいから」

博文を湯船の縁に座らせ、葉菜は、髪を洗い始めた。

「どう?」

「上手」

「でしょ?昔は、美容師になりたかったんだよね」

「良いじゃん。ならないの?」

「昔の話。幼稚園くらいのことだし」

それから、昔の話やくだらない話をしながら、シャワーを浴びて、着替えをすると、並んで、部屋を出た。
居酒屋で、博文はジュースで、葉菜はカクテルで、乾杯した。
笑いながら、食事をしてから、博文に送られて帰宅した。

「じゃ、おやすみ」

「おやすみ~」

アパートの前で、手を振って、博文を見送り、葉菜は、浮わついた足取りで、部屋に戻った。
葉菜は、普通の付き合いをした事がない。
だから、異性と食事に行く事が、新鮮で、くだらない話をするのが楽しかった。
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