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10話

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かなり岬から離れると、目の前に、岩場がいくつも列なり、山のようになっている場所が現れた。

「火口のようになっていたぞ。周辺には、登れそうな所はないみたいだ」

コアトルが、自ら飛んで行き、戻って来ると、上から見えた景色を説明した。

「ひとまず戻るか」

途中で薬草を見付けて、それを摘んでいた。

―にいたん!!あっちにかわあるよ!!―

アモスと一緒に近くを見に行ったクウが、嬉しそうに戻って来た。

―さかないっぱいだったよ―

「じゃ、少し捕って行こうか」

アモスとクウに案内されて、森の中を少し歩くと、川に着いた。
アモスとクウが、川に入って、魚を捕まえると、コアトルが、それを運んで、広げた布の上に魚が置かれる。

「これはどうするのだ?」

「また売るさ」

ゼンと話をしていると、アモスとクウが、魚を捕るのをやめて、茂みの方に視線を向けた。
それから、すぐに、二人は戻って来た。

「どうしたの?」

アモスは、さっきの茂みを肩越しに横目で見た。

「なんでもない。戻ろう」

首を傾げながら、ヒルメニに戻り、昨日も来たエンの買取り屋に行って、薬草や魚を売ってから、何も買わずに宿屋に戻った。
部屋に入ると、すぐにコアトルとゼンは、カーテンを閉めた。

「どうしたの?」

「誰かに監視されているようだ」

カーテンの隙間から外を覗くと、昨日、酒場で見た商人らしき女がいた。

「気のせいじゃない?」

窓から離れて食材を抱えた。

「昼飯、作って来るよ」

何故か、クウが不安そうに床を見た。

「クウ。おいで」

その姿を見ていたら不安になり、調理場にクウを連れて行った。
食事を済ませてから、またカーテンの隙間から、外を覗くと、まだあの女がいた。
さすがに、この状況に危険を感じた。
商人なら、人を求めて、町の中をうろついたり、露店を広げたりするが、それをしていない。
女に、見付からないように、裏口から宿屋を出た。
港の方を歩いていると、後ろから聞き慣れた声が聞こえた。

「おう!!兄ちゃん!!」

振り向くと、そこには、エンが、大きな木箱を抱えていた。

「エンさん!!何してるんですか?」

近付きながら聞くと、エンは、また豪快に笑った。

「ガーッハハハ!!ちょっくら仕入れをな。兄ちゃんはどうした?」

「実は…商人のような女につけられてまして。宿屋を出たのはよかったんですけど、今日の泊まる所がなくて」

頬をポリポリと、掻きながら答えると、エンは、周りを見回してから顔を近付けてきた。

「だったら俺ん家に来い」

「でも…」

「気にすんな。それに、こんな時は、誰かと一緒にいた方がいい。俺ん家なら、必ず、誰かは一緒だ」

「迷惑になるんじゃ…」

「主君。ここは世話になろう」

「…そうだね。お世話になります」

「よし。じゃ、行くぞ」

周りを警戒しながら、足早に、エンの家に向かった。
エンの家は、買取り屋裏の青い屋根の小さな家だった。

「狭い家で悪ぃな」

「そんな事ないですよ。とても立派です」

照れくさそうに笑ったエンが、ドアを開けると、一人の少年が走って来た。

「おかえりー!!」

少年は、エンに抱きついたが、すぐに、その後ろに隠れてしまった。

「息子のサックスだ。兄ちゃんに、挨拶はどうした」

「こ…こんにちは…」

「こんにちは。俺はアックス。今日、仲間と一緒に、お泊まりさせてもらってもいいかな?」

「仲間?」

サックスの目線の高さまで屈むと、後ろを見て、誰もいないのに、首を傾げたサックスにバックを見せた。
中からアモスたちが顔を出すと、サックスは驚いて声を上げた

「わぁ!!…動物?」

「そうだよ。俺の仲間なんだ」

じっと、アモスたちを見ていたサックスの顔が、驚きから徐々に笑顔に変わった。

「とーちゃ~ん!!」

今度は女の子が出てきた。

「サナ!!見て!!動物だよ!!」

サナと呼ばれた女の子が近付いて、バックから顔を出しているアモスたちを見て喜んだ。

「サナ。まずは、お兄さんに挨拶なさい」

更に、女性と一緒に、小さな男の子が手を繋いで、こちらに近付いた。

「こんにちは!!」

「こんにちは」

女の子を見て挨拶をしてから、女性に視線を向けた。

「すみません。突然、押し掛けてしまって」

「いいんですよ。エンが人を連れて来る時は、何か事情がある時ですから」

エンを見て、女性が微笑むと、隣にいたエンは、荷物を置いてから、照れたように、頭をガシガシと掻いた。

「嫁のリリだ。娘のサナと息子のエデンだ」

「こんにちは」

「ちわ」

リリとエデンが挨拶をしてくれて微笑むと、エンが後ろのドアを閉めた。
バックを下ろすと、中からアモスたちが出てきた。
それを見て、子供たちは、喜んで飛び跳ねた。

「アモスにコアトル。ゼンにクウだよ。仲良くしてもらえたら嬉しいな」

一人、一人を指差して紹介すると、エデンが、ゼンを捕まえようと手を伸ばした。
ゼンは、伸ばされたエデンの腕に巻き付いて、顔に顔を近付けた。

「いいこ。いいこ」

ゼンの頭を撫でるエデンに、肩に乗ったコアトルが驚いた。

「ゼンを怖がらんとは驚きだ」

コアトルが喋ると、エンとエンの家族が、驚いた顔のまま、肩に乗るコアトルを見て固まった。

「…喋った」

サックスの声がきっかけで、子供たちは騒ぎだした。

「狐さんは喋れるの?」

「狐ではない。アモスだ」

「すごーーい!!」

「しゃべれりゅの?」

「喋れるぞ」

「わぁ~!!しゅごい!!」

「なんか騒がしくしてすみません」

苦笑いしながら、ポリポリと、頬を掻くと、エンは豪快に笑い、リリも、クスクス笑った。

「いいって。にしても驚いたもんだ。なぁ?」

「だね。この子たちが、こんなに嬉しそうにしてるのを見るのは久々ね」

「ねぇねぇ」

マントを引っ張ったサナに視線を移すと、クウを抱いていた。

「この子は喋れないの?」

「この子は喋れないんだ。でも、皆や俺が一緒なら、何を言ってるか分かるから大丈夫」

「そっか!!」

「母ちゃん!!」

サックスが、リリの手を引っ張って、アモスを指差した。

「アモスが火吐いてるよ!!」

慌てて、視線を向けると、調子に乗ったアモスが、火を吹いていた。

「やり過ぎだから!!」

「コアトルの体…バチバチしてるよ?」

サナの声で、いつの間にか、コアトルが、肩からいなくなっていたのに気付き、エデンの近くで、バチバチと、体から電流を流してるのが見えた。

「危ないから!!」

「じぇんはなにかできる?」

「我は何も出来ないんだ」

ゼンだけは、冷静に対処してくれるので、内心、ホッとしていた。
それでも、アモスとコアトルは、調子に乗って、色々とやるのを止めるのに必死だった。

「ガーッハハハ。本当に面白い兄ちゃんだ」

「フフフ。本当ね」

「んじゃ、俺は、まだ仕事があるから行って来るな」

「俺も手伝います」

ドアに手を掛けて出ていこうとしたエンに声を掛けると、サックスたちは、哀しそうな顔をした。

「クウちゃんたちも行くの?」

サックスに近付いて、頭に手を置いた。

「クウたちの事、お願いしてもいいかな?」

三人は、嬉しそうに笑った。

「いいよ!!」

「じゃ、よろしくね」

三人の頭を優しく撫でてから、リリに向き直り頭を下げた。

「アモスたちをお願いします」

リリとエンは、顔を見合わせた。

「いいの?」

「はい。俺、一人なら、なんとでも出来ますから」

「じゃぁ、悪ぃけど、荷物運ぶの手伝ってくれるか?」

「はい!!」

それから、エンと一緒に港に行き、仕入れた荷物を運んだ。
アモスたちは、しばらく、子供たちと遊んだが、リリが、夕食の準備を始めると、それを手伝った。
それに触発されて、子供たちも、進んで、リリの手伝いをした。

「皆がいると、本当、助かるわ」

エンと一緒に帰ると、リリが、嬉しそうに笑っていた。

「兄ちゃん。勉強教えて?」

サックスに教えようとすると、コアトルとゼンが、一緒に教えようとした。
だが、コアトルやゼンも分からないところがあり、終いには、二人も、サックスと一緒になって勉強をしていた。
エデンは、アモスと遊んでいたが、尻尾を触っているうちに寝てしまった。
サナも、クウと遊んでいたが、一緒になって寝てしまっていた。
サックスの勉強が終わる頃には、もうエンとリリ以外は寝ていた。
エデンを抱え、サナを抱えたエンと一緒に子供部屋に運び、ベットに寝せた。

「おやすみ」

「おやすみなさい」

自ら、ベットに入ったサックスと、ニッコリ笑い合い、子供部屋を出た。
今度は、アモスたちを抱えて、エンに案内された空き部屋に行くと、ベットが用意されていた。

「ありがとうございます」

ベットに皆を寝かせてから、エンに向き直り頭を下げた。

「いいって。じゃ。おやすみ」

「おやすみなさい」

エンが、ドアを閉めたのを見届けてから、アモスたちの間に入って深い眠りに落ちた。
次の日の早朝、エンの店で手伝いをしていた。
大型の保存庫に入れていた荷物を開け、中から、小さな魚を取り出す。
それらをさばいて、保冷ケースに入れる。
今度は、薬草を取り出すと、数本を束ねて、違う保存ケースに入れた。

「何故、別々のケースに入れるんですか?」

「それぞれ、違う魔封石を使ってんだ」

ケースの中を覗くと、隣り合った側面に、それぞれ、白い魔封石と緑の魔封石があった。
その間には、機械があり、その中に火を点けると、それぞれの魔封石から、冷気と送風がケース内に流れ出た。
魔封石を燃やした時に出るガスが、ケースの下にある管を通り、外に排出される仕組みになっているのに驚いた。

「兄ちゃん、見た事ないのか?」

「ありますけど、こんな風に、ちゃんと見たのは初めてです」

ケースを見てると、エンに聞かれた。

「背負ってるのは、機械じゃねぇのか?」

「違うんです」

そっと布を取って、ソードアックスを見せると、エンは驚いた顔をした。

「こりゃ、ずいぶん古ぃな」

「父の形見なんです」

「そうか…大事にしろな」

「はい」

エンに微笑んでから、ソードアックスに視線を落とした。

「しかし、だいぶ使い込んでるな?」

「そうですか?あまり、使ってないんですが」

「ここなんか、欠けてんじゃねぇか」

エンが刃の側面を指差したところには、よく見ないと分からないくらいの傷があった。

「本当だ」

「そんな小さな破損が、剣には、大きなダメージになるんだ。ちゃんと手入れしろよ」

「それが…手入れの仕方が分からないんです」

「しょうがねぇな。ちょいとついて来い」

エンの後をついて行くと、小さな部屋に入った。
そこには、窯や金槌、鉄で出来た大きなペンチのような物など、色々な物があった。

「ここは?」

「俺のじいさんが使ってた工房だ」

「凄いですね」

「まぁな。窯に火を起こすのを手伝ってくれや」

窯の底に、今では珍しい石炭を敷き詰めてから、薪を格子状に積む。
その隙間に、オイルを染み込ませた紙や布を詰めた。
エンが、あちこちを探って、マッチを見付けて来ると、火を点け、窯の中に投げ込んだ。
パチパチと、乾いた音を発てて、薪が燃え始めた。
燃える炎を見つめていると、エンは、新しい薪を窯の中に投げ入れた。

「じいさんが死ぬまでは、こうして、火を起こしてたんだ」

揺らめく炎に照らされたエンの顔は、赤く染まっていた。

「今でも、刃物を売りに来る奴が多いんだが、大半は壊れてたり、欠けたりで使えねぇ」

「それを直して売るんですか?」

「全部が全部じゃねぇぞ?俺が直せるもんは直すが、直せねぇのは捨てっちまう。まぁ、ほとんどは捨てだな」

「もったいないですね」

「古ぃ刃物を売る奴は、処分に困った奴らだ。だから、代金が格安でも、奴らは置いてく。もったいねぇと思う奴はいねぇさ。中には、兄ちゃんのように親の形見ってのもあんだ。最近は特に多いな」

黙って床に視線を落とすと、エンは、横目に見つめた。 

「俺が、親父やじいさんから貰った時は、嬉しくてな。どんなに、苦しくても、守ったもんなんだがな。まぁ。親父のは、取られちまったけどな。ガーッハハハ!!」

「船をお父さんから貰ったんですか?凄いですね」

「まぁ、アイツらに盗られたら、戻っちゃこねぇがな。ガーッハハハ!!」

その笑い方は、豪快で、変わらないはずなのに淋しそうに見えた。

「じゃ、修理するかな」

ソードアックスを渡すと、エンは、柄の部分を外して、大きな水受けのような石の上に置いた。
大きなペンチのような物で、鉄で出来た器を挟み、中に小さく切られた鉄を入れた。
それを炎に入れて、そのままにしてると、器の中の鉄が、ドロドロに溶ける。
炎から取り出して、台に置いてあったソードアックスに、ドロドロになった鉄をかける。
パチパチと、弾ける音を発てながら、火花が散るのを水に入れて、一気に固めた。
鉄が、まとわりついた刃をペンチのような物で挟み、炎の中に入れると、まとわりついた鉄が溶け、ソードアックスを包む。
取り出して、今度は、石で出来た台の上に乗せ、金槌で叩く。
カンカンと、高い音が、周りに響き、その光景をただ見つめた。
しばらく叩き、水に入れ、熱が失われると、また炎の中に入れる。
それを何回も繰り返すと、次第に、鉄と刃が混ざり合って、一体化した。
更に、熱して、叩いて、冷やすを繰り返し、元の形に戻ると、磨ぎ石で刃を研いだ。
シャッシャッと、軽快なリズムを刻んで、刃を研いでいたエンは、時より、刃の出来を確認した。
しばらく研ぐと、刃は、輝きを取り戻した。
その刃に柄を付けると、ソードアックスが見違えるように、綺麗になった。

「どうよ?」

「凄いです。本当にありがとうございます」

「そら、よかった」

ずっとソードアックスを見ていると、エンは、戸棚をゴソゴソと探り、何かを探し始めた。

「あった」

エンの手には、茶色の布のような物と、幅の広い木の板を二枚を持っていた。

「待ってろな」

木の板に、ソードアックスを当てて、刃の周りを墨で型取った。
ソードアックスを外して、墨の中をノミで少しずつ彫り下げる。
周りのいらない部分は、切り取り、全体にヤスリをかける。
もう一枚も同じように造ると、ノリを塗って、二枚を貼り合わせた。
外側全体を小さなカンナで、角を取り、丸みを持たせた。
貼り付けた板が、乾くまでの間、窯の上に、たらいを置いて、湯を沸かし始めた。
湯の中に、さっきの布のような物を入れ、ペンチのような物でかき混ぜた。

「これは何ですか?」

「ニーグルカウの皮だ」

ペンチのような物で挟んで、取り出したニーグルカウの皮は、柔らかくなっていた。
柔らかくなった皮に、太い釘のような物で、穴を開ける。
貼り付いた板の周りに、ヤスリをかけてから、ノリを塗り、皮を巻くと、ヒモ状の皮をノリを塗りながら巻き付けた。
穴で、交差するように通し、しっかり巻き付けたヒモ状の皮を板の上の方で、固く結ぶ
そこにノリを塗り付けると、余った皮で帯を作った。
皮の帯にノリを塗ってから、結び目を隠すように巻かれた。

「これって…」

「まぁ見てろ」

その中に、ソードアックスを何回か出し入れした。
それは、ソードアックスの鞘だった。
ソードアックスが、スムーズに出るようになると、鞘を逆さにして振り、中から、パラパラと、クズが出てきた。
クズが出なくなると、ソードアックスを鞘に入れて、エンが差し出した。

「もろ身じゃ、いいもんも悪くなっちまう。大事にしな」

鞘に入ったソードアックスを背負った。
今までとは違い、ソードアックスの重みが鞘の分だけ増した。

「ありがとうございます」

嬉しくて満面の笑みを向けると、エンは、満足そうに頷いた。
その時、息を切らして、サックスが、乱暴に工房のドアを開け放ち叫んだ。

「兄ちゃん!!大変だ!!」

エンと顔を見合わせると、サックスは、慌てて寄ってきた。

「クウがいなくなったんだ!!」

すぐに走って、工房を出ると、店の外に飛び出し、町の中を走り回った。

「クウーー!!クウーー!!」

何回も呼んでみたが、クウは見付からない。
内心、かなり焦っていた。
人とぶつかっても軽く、手を挙げるだけだった。

「お兄ちゃん!!」

振り向くとサックスが、バックを持って走って来た。

「俺も一緒に探すよ」

バックを受け取りながら、首を振った。

「サックスたちは、家にいるんだ」

「でも、俺らが…」

「元は、俺の浅はかな考えで起きた事だ」

「でも…でも!!」

「サックス」

サックスの前に、片膝を着いて、肩に手を置いた。

「クウは、帰って来る。その時は、知らせて欲しいんだ…だから頼む。家にいてくれ」

手を離して、頭を下げるのをサックスは、じっと見つめた。

「…分かった…帰ってきたら教えるから」

サックスは、来た道を走って戻って行った。
その後ろ姿を見送ってから、バックを肩から斜めにかけた。

「何処に行くのだ?」

バックの隙間から、アモスが聞いた。

「あそこに行く」

「もしや…あの海賊船があった所か?」

「あぁ」

「だが、どうやって入るのだ」

「大丈夫。俺に考えがある」

人混に紛れて町の中を歩いた。
町から出て行く二つの影。
その影は、あの商人のような女と、酒場にいたフードを被った女だった。

「そろそろ、次に行くのかな?」

「そうね。目ぼしい物は手に入れたし。次は、何処に行くのかしらね」

「楽しみだね」

フードを脱いだ女の頬には、大きな傷があった。
もうかなり古い傷だが、その傷跡は痛々しい。

「本当ね」

「もっと、いいのがある所だったらいいなぁ」

商人のような女と傷のある女は、楽しそうにお喋りをした。

「それにしてもさ?思いがけないのが、手に入ったよね」

「本当よね」

商人のような女が、腰からぶら下げてる布袋を見た。
布袋が、微かに動くと傷の女は布袋を叩いた。

「じっとなさい。忌々しい」

「ちょっとぉ~。私に当たるでしょう?」

「あら。ごめんなさいね?」

そんな二人が向かった先は、あの岬だった。
商人のような女が、荷物の中から、先に機械が付いた長いロープを二本、取り出し、傷のある女に一本を渡した。
それぞれ、ロープを体に巻き、機械で固定した。
逆側のロープを小さな洞窟の真上にある、木に巻く。
木に巻いた方のロープを機械の穴に通した。
逆の穴から出てきた、ロープを持って、絶壁の上に立った。
絶壁の上で、持っていたロープを一瞬だけ引くと、機械が作動し、ロープは一気に引き出された。
木と機械の間のロープが、ピンと張った。
そのまま、二人は、絶壁を降りた。
岩壁を蹴りながら、穴の上に来ると、両足で踏み切った。
洞窟の中に飛び込む瞬間、持っていたロープを手放した。
海の水の中に、二人が、着地すると、小さな水しぶきが跳ねた。
洞窟の中は、予想以上に浅かった。
機械から、持っていた方のロープを外し、機械側面のカバーを開け、中のボタンを押すと、外したロープが、一気に、洞窟の外に出ていった。
木の側面を滑って、ロープは、また洞窟の中に入り、体に巻いていたロープが外れ、足元に落ち、外のロープが、完全に戻って来た。

「これって、本当に便利だよね」

「でも、巻かなきゃないのは面倒」

「そうだね。新しいの欲しいなぁ」

商人のような女が、ロープを荷物に押し込んでから、二人は歩き出した。

「これって、何処にあったんだっけ?」

「忘れたわ」

そんな二人は、声を洞窟内に響かせながら、奥に向かって歩いた。
水を踏みつける音と二人の声。
それが、響いている洞窟の奥が広くなり、二人の目の前に、大きな海賊船が現れた。
海賊船の周りには、沢山のマントを着けた女たちがいた。
その中に地図やコンパスを置いたテーブルに、向かっている真っ黒なマントを着けた女がいた。
その隣には、マントを着け、頭にバンダナ巻いた女もいた。
商人のような女と傷のある女は、真っ黒なマントの女の所に向かった。

「ただいま~」

「戻りました」

商人のような女と傷のある女に、真っ黒なマントの女が振り返った。

「お疲れ。どう?」

「目ぼしい物は、全部、手に入れたと思われます」

「じゃ、そろそろね」

真っ黒なマントの女が、地図に視線を戻すと、バンダナを巻いた女が、ウキウキしたように笑った。

「次の目的地は、何処にしましょう?」

「そうねぇ…何処にしましょうね?」

「ねぇねぇ。エル様」

商人のような女が、真っ黒なマントを着けた女をエルと呼んだ。

「ちょっと。フォング。邪魔しちゃダメよ」

商人のような女は、フォングと呼ばれた。

「いいじゃん。フーリのケチぃ~」

顔に傷のある女は、フーリと呼ばれ、ため息をついた。

「別に後でもいいでしょう?」

「だって、いつまでも着けてるの嫌なんだもん」

「どうしたの?フォング」

エルに向き直ったフォングが、嬉しそうに笑った。

「これ、見付けたんです」

フォングが、腰から布袋を持って、エルに向かって口を開けた。
怯えたクウが、小さくなっているのを覗くようにして、エルは中を見た。
クウの首に、着けてるチョーカーに、目を着け、エルの左頬が上がり、ニヤリと笑った。

「いいの見付けたわね」

エルは、布袋の中に手を入れて、クウを引き出そうとしたが、布袋と腕の隙間から、クウが一気に外に出た。
クウを女たちは、追いかけたが、全く捕まらなかった。

「避けなさい」

周りの女たちは、エルの前から避けた。
エルは、クウに銃口を向ける。
クウが、木箱の陰に隠れようとした瞬間、エルの構えた機械が付いた拳銃が発砲された。
クウの後ろ足に、銃弾が当たった。
木箱の後ろで、震えながら、舐めるクウの後ろ足から血が流れる。

「出ておいで?その首にあるのをくれたら、楽にしてあげる」

一歩ずつ、木箱に近付くエルは、拳銃を構えたままだった。
もう少しで、木箱の前まで到着するエルの前に、上から何かが落ちて来た。
それは、木箱を壊して着地した。
着地した際に、周りには砂煙が舞った。
その砂煙の中に、動く影が見えると、エルが叫んだ。

「誰だ!!」

砂煙が、落ち着くと、その姿が、ハッキリと見えた。
後ろに向き直って、クウに手を伸ばした。

「大丈夫か?」

クウは、安心したようだった。

―にいたん…こわかった…―

クウの後ろ足の傷を見て、バックを下ろし、中からアモスたちが出てきた。

「クウをお願い」

アモスたちが、頷くのを確認して立ち上がった。

「誰だ!!」

また叫ぶエルに振り返った。

「何しに来た!!」

叫んでいるエルに、視線を向けた。

「この子を帰してもらう」

「貴様は誰だ!!」

「この子の家族だ」

周りにいた女たちと、一緒にエルは笑った。

「化け物の家族?なら、アンタも化け物ね」

いつの間にか、周りの女たちも、手に武器を持っていた。
エルは、拳銃を向け、銃口を合わせると発砲した。
銃弾は、頬を掠めて後ろの岩の壁にめり込んだ。
黙ったまま睨み合った。

「アンタ、馬鹿ね。そんな化け物、ほっとけばいいのに。大体、ここにどうやって来たの?」

頭上を指差した。

「飛んできた」

女たちは、更に笑った。

「どうやってよ?」

笑いながら聞いた、エルに向かって走った。

「コアトル!!」

背負っていたソードアックスを鞘から抜くと、周りに風が舞い上がった。
片足で踏み切り、その風に乗って、一気に、エルとの距離を縮めた。
ソードアックスを振り上げ、刃先が、エルの鼻を掠めた。
エルは、後ろに飛び退き、それを見ていた女たちは、武器を構えた。
軍兵が、使っている武器と同じだった。
ガンモードにされた武器から銃弾が発砲され、周囲から飛んできた銃弾を受け止めた。
肩や足に銃弾が、のめり込んでも、立っているのをエルは、鼻で笑った。

「本当、馬鹿ね」

ソードアックスに、手を添えて横にした。

「ゼン」

周りに闇が、満ちると女たちは驚いた。

「皆、どこ?」

「ちょっと!!変な所触らないでよ!!」

「痛い!!誰よ!!足踏んだの!!」

「なんなのよこれ!!」

騒ぐ女たちに向かい、エルが叫んだ。

「ブレードモードになさい!!」

周りの女たちは、武器をブレードモードに切り替えた。
本来ならブレードから、発せられる光で、周りが見えるはずだった。
だが、この闇の中では、それも無意味だった。
ブレードの周りが、微かに、光るだけで何も見えない。
それには、さすがのエルも慌てたようだった。

「光がほしいか?」

闇の中から呼び掛けると、女たちは、悲鳴に似た声で叫んだ。

「うるさい!!アンタだって見えないくせに!!」

女のブレードを叩き落とした。

「痛っ!!」

「大丈夫!?」

「くそ!!」

エルは、闇の中に、何発も拳銃を発砲した。
銃弾がなくなるまで発砲し、エルの耳に、呻き声が聞こえた。

「う゛~…エル…様…」

その呻き声で、エルは、恐ろしくなり、後退りすると、足に何かが当たり、その足を何かが掴み、その生温かさに、エルは、肩を震わせた。

「イヤ!!」

足を振って、それを払ったエルは、目に涙を浮かべた。

「アモス」

ソードアックスに光が宿り、辺り一帯を照らし、目を眩ませていたエルだったが、次第に慣れ、うっすらと、涙が溜まった目には、仲間の女たちが悶えているのが写った。

「何したのよ!!」

エルが睨むのを見返した。

「何もしてない。お前がしたんだ」

その言葉に、エルは、目を見開いた。

「闇に怯え、形振り構わずに発砲。その銃弾で仲間を傷付けた」

背中を向け、アモスたちの所に向かった。
唇を噛んでいたエルは、近くに落ちていたブレードを持って走ってきた。

「死ねーーーーー!!」

振り下ろされたブレードをソードアックスで受け止めた。

「コアトル」

ソードアックスに雷撃が宿り、ブレードを一気に伝い、エルの体は感電した。

「あ゛ーーーーーー!!」

叫んで、その場に座り込んだ、エルを見下ろすと、電流を散らしながらも、エルは、睨み上げた。
黙ったまま、アモスたちの所に行くと、クウの傷に触れた。
痛みに体を震わせたクウに、涙が出そうになる。

「痛い?」

頷くクウの頭を優しく撫でて、また傷に触れようとした。

―にいたん―

「なに?」

―みんな…たすけてあげて?―

一瞬、目を見開いたが、すぐに、優しく微笑んだ。

「クウは、優しくていい子だね」

クウの後ろ足に布を巻いてから立ち上がった。

「おい」

電流を散らしているエルに、視線を向けた。

「手伝え」

ただ睨むだけで、動かないエルをほっといて、一番近くにいた女に近付き、目の前で片膝を着いた。

「何処が痛む?」

優しく聞くと、女は、腕に当てていた手を離した。
その傷に銃弾は、なかった。
だが、すぐ横を通り抜けたのか、軽くえぐれていた。

「我慢しろよ」

えぐれた肉を無理矢理、引き寄せて、肉同士を近付けた。
女は、唇を噛んで、その痛みを耐え、離れないように布を巻き付けて、その上から薬を塗り、新しい布を上に巻いて、更に、女に飲み薬を渡した。

「治したきゃ、ちゃんと飲むんだな」

次に隣にいた女の手当をした。
エルは、それをじっと見ていた。
その女は、肩を撃ち抜かれたようだった。
後ろ側の傷に布を当て、傷口が埋まるまで、薬を塗り込んだ。
捩じ込んだ薬が、落ちないように布を押し当てた。

「ごめん。その布、取れる?」

女が、布に手を伸ばすが、届きそうで届かなかった。
諦めて手を離そうとした時、後ろから伸びてきた手が、その布を掴んだ。
振り向くと、エルが無表情で立っていた。
突き出された手から、布を受け取り、布がずれないように巻き付けた。
その後も、エルと一緒に、女たちの手当てをした。
そんなエルに触発され、動ける女たちも手伝い、全員の手当を終え、クウの元に戻った。
後ろ足に巻いた布は、真っ赤に染まっていた。
息づかいも荒い。
内心は、焦っていたが、ゆっくり、クウの手当てを始めた。
クウの後ろ足には、銃弾があり、傷口に指を突っ込んだ。
生温かい肉。
ヌルっとした感触。
鉄の臭い。
頭が、おかしくなりそうだった。
甲高いクウの鳴き声が、周りに響き、その声で、顔を歪めた。

「頑張れ…頑張ってくれ」

そう呟きながら、銃弾を抜き取り、布を強く押し付けて止血したが、どんどん血が溢れ、布は、みるみる内に赤く染まった。

「止まれ…止まってくれ…」

何回も布を取り替えながら呟き、アモスたちも、心配そうに見つめていた。
それを遠目に見ている女たち。

「ダメだ。止まらない」

「どうするのだ」

「ゼン。押さえてて」

布の上から、ゼンがきつく巻き付くと、振り返って聞いた。

「何か器はないか」

フォングが、スープを入れるような器を差し出した。
それを受け取り、水入れから、水を器に移し、ドロッとするまで、薬を溶かした。

「もういいよ」

ゼンが離れ、布を取って、ドロドロになった薬を傷に流し込んだ。
また、甲高い声で、クウが鳴いた。
顔を歪めながらも、傷口から溢れるまで、薬を流し込んだ。
布を巻いて、クウの口に薬の流し込む。
大人しく薬を飲み込んだクウを抱いて、立ち上がり振り返った。

「船を返して欲しい」

フォングは、フーリと顔を見合わせた。

「アンタから船なんて…」

「俺のじゃない。買い取り屋の船だ」

フォングとフーリは、視線を合わせてからエルを見た。
何も言わずに、エルは、背中を向けた。
フォングは、海賊船の横に停めてある船を指差した。
ゼンを腕に巻き、コアトルを肩に乗せ、クウとアモスを抱いた。
エルたちに、頭を下げ、船に向かった。
操舵室に入って、舵の前で悩んでいた。
船なんて動かした事がない。
どうしたらいいのか、考えていると後ろから声を掛けられた。

「どきなさい」

そこには、フーリがいた。
少しずれると、フーリが舵の前に立った。
機械のボタンを押すと、鈍い音が響き、船が揺れる。
そこに、フォングが入って来た。

「私も行く~」

「当たり前でしょう?アンタが、いなかったらどうやって戻るのよ」

「えへへ~」

「ありがとう」

フォングが、顔を向けた。

「エル様の命令だもん」

「礼ならエル様に言うのね」

甲板に出て見下ろすと、エルの周りに女たちが、集まって、こちらを見ていた。
エルに向かって、頭を下げた。
頭を上げると、女たちが、手を振っているのに、小さく手を振り返し、船が動き出して、前進を始めた。
そのまま、前進する船が、小さな洞窟に差し掛かった。
洞窟の中央を通って外に出た。
海に出ると、フォングが近付いてきた。

「私らの事言うの?」

フォングの瞳を見つめたが、そこには、感情が見えなかった。

「…言わない」

「なんで?」

フォングから、海に視線を戻した。

「俺は、死んだ人間だから」

「なにそれ。どうゆう意味?」

「ある男に、罪人に仕立てあげられた。その時、近くに転がってた死体を俺の代わりにした。だから、俺は、死んだ人間。死んだ人間が、君らの事を言えないだろ」

首だけを向けて苦笑いすると、フォングは笑った。

「優しいのね」

「ありがとう」

「と言うか馬鹿よね」

「ひどいな」

苦笑いして返すと、フォングは、指差して大笑いした。
船が元あった場所に着くまで、フォングにおもちゃのように遊ばれた。
元の場所に止めると、二人は、先に降りて振り返った。
後から、降りたのを確認すると、二人は、体を横に向けた。
フォングにウィンクされ、それに苦笑いで、手を小さく振り返すと、フーリが、頬を上げて微笑んだ。
その微笑みは、とても艶やで、頬が少し熱くなるのを感じた。
フォングは、ブッと頬を膨らませ、フーリに、何か文句を言っているようだったが、それを軽くあしらわれているようだった。
そんな二人の背中が、小さくなるのを見送り、完全に見えなくなってから歩き出すと、ゼンが静かに聞いた。

「主君。本当に言わないのか?」

「言わないよ」

「何故だ!!クウがこんな風にされたのに!!お前は許す事が出来るのか!?」

「彼女たちの事をちゃんと見た?」

コアトルは、驚いたように目を見開き、アモスとゼンは、静かに眠るクウを見つめた。
立ち止まり、岬の方に顔を向けた。

「フーリの顔の傷は、鋭い爪のような物でついた傷痕。フォングの首筋には、見えにくいけど、何かに刺された傷痕。エルの左手は義手。他にも義足や傷痕がある人が沢山いた。中には、何か鋭い刃物で切られた痕や殴られたような痣がある人も。彼女たちの多くは、この世界に絶望し、反発してる。それだけ。痛みを知る彼女たちだからこそ、俺らは、ここに帰って来れた。記憶から痛みが、恐怖が薄れていた。ただそれだけ。それだけなんだ。それに…」

腕の中に眠るクウを見下ろした。

「彼女らの記憶から恐怖は、消えてなかった。だから、これだけで済んだんだ」

コアトルも、一緒にクウを見下ろした。
横目で、肩を落とすコアトルを見て、そっと微笑んでから、コアトルの頭を優しく撫でて、エンの家に向かって、再び歩き出した。

「どんなに憎くても、許す事。それは、大切な事だ」

腕に巻き付いているゼンに、小さく頷いて見せた。

「彼女たちは、海賊であっても、軍兵より、国王よりも、立派な人たちだよ」

「にしても、お前も腕を上げたな」

「なにが?」

「あの中で、よく彼女らを観察した。凄いではないか」

「あ~。実は、前に酒場でフォングを見た時に傷痕が見えたんだ。フーリにもあったし、それで。ね?」

「なんだ?何故、そこで言葉を濁す」

「主君に言われて、確認したのは我だ」

コアトルは、怒ったように周りを飛び回った。

「お前は!!」

「勝手にコアトルが思い込んだんですよ~」

小走りで、コアトルを置いて先に行くと、小さな翼を羽ばたかせ、コアトルは、追いかけてきた。
港が見えて、小走りをやめて歩くと、コアトルは、肩に乗った。
それを横目で見て、微笑んでコアトルを腕に移し、マントで皆を隠して、エンの家に急いだ。
エンの家に着き、ドアを開けると、椅子に座っていたサックスは、ゆっくりと近付いてきた。
目の下に、小さなクマが出来ている。
寝ないで、ずっと、待っていたようだ。
サックスの前に片膝を着いた。

「ただいま。帰って来たよ」

そっとマントをめくり、クウを見せると、サックスの目に、沢山の涙が溜まった。
目から、一本の筋が頬に走り、顎から、一滴の涙が落ちた。

「心配させてごめん。もう大丈夫」

サックスは、肩に手を置いたリリを見上げた。
その瞳は、優しく輝いていた。
リリから視線を反らして、乱暴に、涙を拭うサックスの頭に優しく手を置いた。

「ありがとう」

大粒の涙を流し、抱き付いたサックスは、声を震わせた。

「よか…っ…た…。にぃ…ちゃ…も…みんな…ぶじで…よ゛がっだよ゛~」

大泣きするサックスに、頬を寄せて、優しく背中を摩った。

「ありがとう。ありがとう」

サックスの涙が落ち着くまで、しばらく、そのままでいた。
サックスがら落ち着き始めたのを見計らって、リリが声を掛けた。

「眠くない?」

その肩に、優しく手を置いて聞くリリに、サックスは、首を振って見せた。
体を離して、満面の笑みを作ったサックスは、腕の中で眠るクウの頭を優しく撫でた。

「これ…このまま?」

傷口に巻いていたクウの布は、うっすらと赤くなっていた。
それを見て、悩んでいると、黙っていたエンが、クウを見た。

「こりゃ、巻いてる布だけでも、とっかえてやった方がいいかもな」

クウをテーブルの上に、そっと置いて、綺麗な布を部屋に取りに行った。
布を持って戻ると、サックスが、クウを抱えていた。

「何してんの?」

「温めてるんだ」

首を傾げていると、サックスは、優しく微笑んだ。

「大きなケガをした時は、体が、冷たくならないようにしてあげるんだ」

「へぇ」

「でも、温めすぎちゃダメなんだ。体温と同じか、それより少し低いくらいなんだよ」

「よく、知ってるね?」

「父ちゃんに教えて貰ったんだ」

エンとサックスが、歯を見せ合って笑った。
それを見たリリは、苦笑いしながら、鼻からため息をついて、縫い物を始めた。
クウの布を交換して、やっと、安心したのか、サックスは、椅子に座ったまま、静かに寝始めた。
エンが、サックスを抱えて、部屋に連れて行っている間に、リリに頼んで、汚れてもいい毛布を貰った。
部屋に戻り、クウを毛布で包んだ。
クウの周りにコアトルたちが集まり、静かに目を閉じ、静かに部屋を出て、そっとドアを閉めた。

「寝たか?」

頷くと、エンは、頭をガシガシ掻いた。

「んじゃ、ちと付き合ってくれ」

肩に腕を回され、酒を飲むように、腕を動かすエンに、半ば、強制的に、さっきまでいた部屋に、連れてこられた。
縫い物をしているリリの斜め向かいに、座らせると、エンは、棚の中から、瓶を出して置いた。
別の棚からカップを二つ持って来て、向かいに座った。
瓶の栓を抜いて、カップに注ぐと、一つを差し出した。
カップを受け取ると、エンも、もう一つのカップを持つ。
無言のままカップをぶつけ、中の酒を一気に飲み干した。

「くぅ~。んまい」

リリが笑いながら、エンの肩を軽く叩いた。

「オヤジくさい」

「俺は、オヤジだ」

プクッと頬を膨らませたエンは、何処かに行ってしまった。
困った顔をしていると、リリは、苦笑いしながらも、カップに酒を注いでくれた。

「すぐに戻って来るから。待っててあげてね?」

「はい」

ぎこちなく笑うと、リリは、クスクス笑った。
首を傾げると、リリは、テーブルに右手で頬杖を着いた。

「君は、女の人が苦手だな?」

図星を突かれ、一瞬、ドキッとして肩を揺らすと、また、リリに笑われた。
照れ隠しに、カップから、一口、酒を飲もうとすると、リリは、口元を引き上げた。

「カッコイイのに。もったいない」

「ふぇ?」

間抜けな返事をしてしまい、リリに、大笑いされた。
リリの笑いが落ち着くと、エンが、手に皿を持って戻って来た。

「何か楽しい事でもやったのか?」

「ちょっと。ね?」

こちらに向かって、ウィンクしたリリを見て、背中に寒気が走り、全身に鳥肌が立った。

「なんだか知らんが、あんま、兄ちゃんを困らせるなよ」

リリから視線を反らして、また酒を飲むと、持っていた皿が置かれた。
皿の上には、軽く炙られたイカの足のような物が盛られていて、じっと見ていると、エンが、向かいに座り直した。

「ユリイカのゲタを軽く炙ったんだ。美味いぞ」

「頂きます」

ゲタと呼ばれるユリイカの足を一本、口に入れた。
意外と弾力があり、一本で、かなり満足感を得られる。
口にくわえたゲタを引きちぎって、噛みながら酒を飲む。
酒とゲタのうま味が、交わって、更に旨さを増す。

「どうだ?」

酒とゲタを味わっていると、エンは、満面の笑みで聞いた。

「美味いだろ?」

「美味しいです」

微笑んで返すと、エンは、歯を見せて笑った。

「このお酒は?」

「俺が作ったんだ。美味いだろ?」

「凄く美味しいです」

「だろう?まぁ、当然だ。ガーッハハハ!!」

あの豪快な笑い方に、安心して目を細めた。

「そういえば、船、戻りましたよ」

また、ゲタを口に入れると、エンとリリは、呆然としていた。
カップを口元に持ったまま、首を傾げると、二人は、同時に大きな声を出した。

「本当か!?」

「本当に!?」

二人が、同時に立ち上がり、テーブルに手を着き、身を乗り出した。
その気迫に、体を反らし、背もたれに寄り掛かり、胸の前で、手の平を見せた。

「え~っと~…」

目を泳がせ、言い淀んでいると、エンが、ハッと我に返ったのか、座りながら額に手を当てた。

「すまねぇ…」

そんなエンの言葉で、リリも、我に返ったように座った。

「ごめんね?」

「あ~。大丈夫…です。はい」

酒を口に含んで、飲み込むエンの隣に座るリリに、じっと、見つめられた。
二人を交互に見ながら、酒を飲んだ。

「…兄ちゃん」

急に、真面目になったエンを見て、テーブルにカップを置いて背筋を伸ばした。

「…すまん!!」

エンは、テーブルに両手を着いて、深く頭を下げ、その姿に驚いたが、お構い無しに、エンは更に続けた。

「大事な船を取り返してくれて、本当に感謝してる…だが、すまねぇ。ハルバナに連れて行く事は…出来ねぇ」

頭を下げ続けるエンを見つめていると、リリが、うつ向きながら続いた。

「本当は、喜んで行かせたいの。でもね?ハルバナ海域は、今…獰猛化した魔物が沢山、集まってるの…」

うつ向いたままのエンの肩に、リリは、優しく触れた。
エンは、少し顔を上げたが、その表情は見えない。

「俺には、コイツと子供たちがいる…昔、親父たちがしたように、俺は、コイツらを守らにゃなんねぇ…だから…」

「本当に行かせてあげたいのよ?でもね…やっぱり…」

人には、必ず決断しなければいけない時がある。
二人は、きっと悩んだろう。
沢山の話しをしたんだろう。
その決断に、何か言えるはずもなく、微笑みを返した。

「大丈夫です。気にしないで下さい」

二人は、やっと顔を上げた。
その二人の表情は、悲痛な思いをしているように歪んでいた。

「当たり前ですから。それを責めたりしません。それに、俺が、旅を始めたのも、同じような理由なんです。だから、お二人の気持ち、よく分かります」

微笑んでいると、二人は、無言のまま一緒に頭を下げた。

「それにお酒を飲む時は、楽しく飲まなきゃ損です。だから、暗い顔しないで下さい」

カップを持ち上げて見せると、エンは、優しく微笑んでカップを持ち、前に突き出した。
突き出されたカップに、カップをぶつけ、二人で一気に飲み干してから、歯を見せ合って笑った。
二人で、しばらく飲んでいた時、不意に浮かんだ疑問を聞いた。

「リリさんは、飲まないんですか?」

リリが、驚いた顔をしてから、少し困ったような顔になった。

「それは…」

言い淀みながら、エンを見つめた。

「酒豪だからダメなんですか?」

酒を飲んでいたエンが、むせて咳き込んだ。

「大丈夫!?」

エンの背中を叩きながらも、リリは、かなり驚いていた。

「なんで知ってんだ!?」

「え!?ダメでした!?」

「いや…ダメじゃねぇ。ダメじゃねぇけど…そうじゃなくて。なんで知ってんだか、聞いてんだ」

「あ~。注ぐの慣れてるなぁって思ったからそうなのかなって」

「だからって、そんな分かんねぇだろ?俺だって、最近になって…」

リリが、テーブルの下で、その足を踏み付けたらしく、痛みに足を上げたエンは、テーブルに膝をぶつけた。

「ったぁ~…リリぃ…」

薄く涙を浮かべて、顔を向けたエンをリリは、横目で見て、すぐに、そっぽを向いてしまった。
そんな二人に、恐る恐る聞いた。

「知らなかった…んですか?」

「あ~いや~その…」

今度は、エンが言い淀んでしまった。

「この人、つい、この前まで、私が、一滴も飲めないと思ってたのよ?それでね?意地悪しようと私に飲ませたら、この人の方が、先につぶれゃったの。ひどいと思わない?」

「だから、悪かったって」

「そんな軽く謝られてもねぇ」

「軽く謝ってる訳じゃねぇぞ?」

「なら、そろそろ、エデンにも、色々、教えてあげなさいよ」

「いや。エデンは、まだ小さいから…」

「サックスの時は、あれくらいで教えてたじゃない」 

「サックスは、俺に似て器用だからな」

「エデンもアナタの子じゃない」

「それは、そうだが…」

「それとも、私が、不器用だって言いたいの?」

「そう言う訳じゃ…」

「フフ…アハハハ…ハハハ…」

二人の些細な言い合いを見ていて、笑いがこみ上げ、久々に大声で笑うと、二人は、驚いて顔を見合わせた。

「フフ…すみません…つい…ハハハ…」

大きく息を吸い込み、一瞬、止めてから吐き出し、落ち着いてから、二人に微笑んだ。

「本当に仲がいいんですね」

互いに顔を赤くして、エンは、頭をガシガシ掻いて照れ笑いし、そんなエンを見て、リリは、赤い顔のまま優しく微笑んだ。
そんな二人を見ていると、イリヤを思い出し、急に淋しくなった。

「恋人の事でも思い出してる?」

ニヤニヤと笑うリリに、苦笑いを返した。

「恋人なんていません」

「ますます、もったいない」

「そんな事ないですよ」

「なんだ?兄ちゃん、女が苦手か?そんなんじゃモテねぇぞ。ガーッハハハ」

「そう言わないの。アナタも同じでしょう」

「エンさんもですか?」

「俺は、そんな事ない」

「何言ってんのよ。私と出会うまでは、女の人と手も繋いだ事もなかったくせに」

「俺は、純情なんだ」

「ただ、女の人が苦手だっただけじゃない」

「苦手じゃねぇ」

「何言ってんのよ。酒場で、女の子に触られただけで、真っ赤になってたくせに」

「あれは…」

「では、アックスの方が、まだマシだな」

いつの間にか起きてきたゼンが、ドアの前にいた。

「起こしちゃった?」

「いや。目が覚めただけだ」

ゼンは、テーブルの足に巻き付いて上り、隣に来た。

「何を食っている」

「ゲタだってさ」

ゲタを一つ、飲み込んで、舌なめずりをした。

「これは、なかなか美味だ」

「だろう?ガーッハハハ!!」

エンが、豪快に笑い、リリが優しく微笑んだ。

「それはなんだ?」

俺の持つカップに顔を近付けて、ゼンが、中を覗き込んだ。

「お酒だよ。飲む?」

カップを傾けてあげると、ゼンは、顔を突っ込んで、酒を少しだけ飲んだ。
舌をペロリと出してから、ゼンは、エンを見た。

「貴殿が作ったのか?」

「あぁ」

得意気な顔をするエンに、ゼンは、またカップを見た。

「貴殿は、なかなか器用だな。我にも一つくれんか?」

「これは、俺の」

「主君は器が小さい」

「別に小さくていいから」

「どれ。ちょいと待ってな」

エンは、立ち上がて、棚から瓶を取り出し、テーブルの上に置いた。
調理場に消えると、空の皿と炙ったゲタを盛った皿を持って来た。
ゼンの前に空の皿を置いて、中央にゲタを盛った皿を置いた。
違う棚からカップを持って、リリが、座ると、四人で、夜遅くまで盛り上がり、気付けば、四人とも、そのまま寝ていた。
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