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第十二章

第七話 ガーベラとの決戦

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「ガーベラ!」

 俺はワイバーンの背中に乗っている魔族の女の名を叫ぶ。

「ガーベラ、降りて来なよ。私が相手になってやるからさ」

「兄さんの仇、ここで討たせてもらうからね!」

 俺に続いてミラーカとクロエが声を上げる。

「どうして私があなたたちの言い分を利かなければならないのですか。上空にいる以上は、私のほうが地形的に有利なのですよ。これを有効活用しなくてどうするのですか」

 ガーベラの言うことは最もだ。勝つためには武力だけではなく、様々な状況を理解して戦況を有利にできる冷静さと、知略が必要。

 だけどまぁ、空中にいるのなら地べたに這いつくばらせればいいだけ。

「グラビティープラス」

 右手をワイバーンに向け、そのまま下に振り下ろす。その瞬間、空中に居たワイバーンは地面に落下して大地に這いつくばる。

「バカな! いったい何が起きた」

「魔法でワイバーンにかかる重力を増やした。今のこいつは体重の十倍の重力で地面に引き寄せられている。魔法の効果が切れるまでは起き上がるどころか、尻尾すら動かせられない」

「まさか、ワイバーンから引きずり降ろされるとは思ってもいなかったですね。これは計算が狂いました」

 ワイバーンから離れると、ガーベラは後方に跳躍して俺たちから一定の距離を取る。

「ガーベラ、私はお前の実力を知っている。だから言おう。大人しく降参するんだ。マリーとクロエの実家にあった二つの玉を返してくれれば、拘束するだけに留めるように、シロウにお願いしよう」

 ミラーカが玉を返すように言うと、ガーベラは懐から青と緑の玉を取り出した。

 彼女はバカではない。俺と言う存在がこの場にいる以上は、逃げきれないことを理解しているはずだ。いくら魔族でも、自分の命は惜しいはず。

「そのまま玉を返してくれれば、ミラーカの言うとおり、拘束だけにする」

「わかった。あげよう」

 よかった。これで彼女と戦わずに済む。正直、魔族であっても女性に手を上げるのは抵抗があるからな。

 ゆっくりと歩き、ガーベラに近づく。すると上空が厚い雲に覆われ、雲行きが怪しくなった。

「誰があなたたちにやるものですか! これは私たちの悲願のために、リーダーに渡します。リーダーのところに転送してください」

 握っていた二つの玉を、ガーベラは上空に放り投げる。すると青と緑の球体は重力を無視してどんどん上昇をしていく。

「ガーベラ!」

「あははははは、ざまぁ! 最初から渡す気なんて、さらさらなかったですよ。あれがあったら本気で戦えないですからね」

 ガーベラの笑い声を聞きながら、上空に上がって行く二つの玉を見上げる。

 くそう。こうなったら一か八かだ。間に合うかわからないが、賭けに出るしかない。

 両手を後方にもって行くと、姿勢を低くした。

「ファイヤージェット!」

 指先から炎が噴き出し、揚力を得ながら上昇していく。

 風の圧が強い。口を開ければ舌を噛みそうだ。

 分厚い雲の奥から空間が歪んで、渦を巻いているのが見える。

 あの中に入ったら終わりだ。それまでに、取り返さないと。

 右腕を伸ばして二つに球を掴もうとする。

 あともう少しで届く。頼む、間に合ってくれ!

 魔法で放出した炎の威力を上げ、どうにか二つの玉を掴む。

 やった間に合った!

 どうにか取り戻すことができたと安心した瞬間、転送の渦から触手が飛び出してきた。

「くっ!」

 触手は腕に巻き付くと、強く締め付けてくる。

 まずい。

 抵抗しようにも、今はファイヤージェットを使っている。他の攻撃をしようとしたら、集中力が途切れてしまう。

 どうするべきか考えていると、今度は転送の渦から細長い針のようなものが飛び出す。

 その針は拘束している俺の腕に突き刺さった。

 これは即効性のある毒か。ダメだ。手に力が入らない。

 毒により握力が低下した腕では力が入らず、手が滑ってしまった。そのせいで二つの玉を手放してしまう。

 それと同時に魔法の効果が消え、炎が噴射されなくなった。それと同時に触手は俺を解放し、重力に引っ張られて真っ逆さまに落下する。

 このままでは、死んでしまうな。早く解毒しないと。

「デトックスフィケイション」

 解毒の魔法を唱え、身体の麻痺を治す。

 さて、次はどうやって着地を決めるかだな。

 地面が近付き、みんなの姿が見えてくる。

 この際だ。八つ当たりも含めて、攻撃しながら着地をしよう。

「パップ!」

 ガーベラに向けて音の魔法を唱えた。ガーベラの足元の地面が砕けて爆風が発生。俺は地面に反発して吹き飛ばされるも、くるりと一回転をして着地を決める。

「ふう、上手くいったな」

 音による空気の振動が大地の強度を上回り、音の力だけで地面に穴を開ける。その衝撃で空気抵抗を生む作戦だったが、上手くいってよかった。

「さて、ガーベラは?」

 魔族の女の方を見る。彼女は音による爆発に巻き込まれ、吹き飛んで地面に転がっていた。

「シロウ! 家宝の玉は?」

 マリーが尋ね、俺は首を左右に振る。

「そうですか」

「シロウさんは頑張ってくれたよ。こうなったらガーベラを倒してどこに転送したのか吐かせよう」

 落ち込むマリーを見て、クロエが励ます。

「そうですわね。こうなったのなら、ガーベラを倒して転送場所を聞き出しますわ」

 もう一度ガーベラの方に視線を向けると、彼女は立ち上がった際に懐から何かを取り出した。

「よくも不意打ちなんて卑怯なことをしてくれましたね。こうなれば、本気であなたたちを叩き潰します」

 あれは液体の入った瓶!

 あの瓶は何度も見ている。レオとアーシュさんが使っていたものだ。

 まさか、ガーベラもあの液体を使って変身するのか!

 彼女の行動を直視する。

 あの液体を飲むと、変身前に全身が熱くなって服を脱ぎ出す。

 様子を伺うと、彼女は瓶の蓋を開けて液体を飲み始めた。

 当然ながら目を大きく見開く。彼女の脱衣シーンをガン見するために。

「シロウ、見てはダメだ」

『ワウーン!』

 ミラーカもあの瓶の正体に気付き、俺に何かを投げてきた。投擲されたものは顔面に張り付き、目の前が暗くなって何も見えなくなる。

 ミラーカ! なんてことをしてくれる!

 顔面に張り付いたものを引き剥がそうとすると、頭に何かがグサリと刺さる。

 いたーい。顔面に張り付いたモフモフの感触からしてキャッツか! キャッツが俺の邪魔をしているのか!

「キャッツ! 頼むから爪を立てないでくれ」

 ケガをしたところは、あとで回復魔法で治すしかないな。

 思いっきりキャッツを引き離す。すると視界が良好となり、周りの状況を把握することができた。

『さぁ、決着をつけましょうか』

 ガーベラの脱衣シーンは終わり、彼女は巨大な花の魔物と化していた。
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