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第十一章

第六話 おい! それは俺が倒した魔物だぞ! 返せよ!

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「標的を発見しましたわ」

 マリーが前方を指差し、俺は見つけた魔物と紙を見比べる。

「オーガか。でも、この紙では三百ポイント程度だな」

 発見した魔物は、思っていたのよりもポイントが低めに設定してある魔物だった。

 あれ? おかしいなぁ? 探査魔法では、確かに強い反応が返って来たのだけど。だけどまぁ、オーガ程度ならすぐに倒せるだろう。ポイントになる魔物を見つけて見逃すほど、俺はバカではないからな。

「とにかく見つけた以上は倒すぞ」

「わかりましたわ」

「はーい」

「了解した」

「皆さん頑張ってください!」

『ワンワン!』

 まずは足場を崩す。

「ウオーター」

 水の呪文を唱え、空気中の水分子を集めて水を作る。それをオーガの足元の地面に設置する。それにより泥濘ぬかるみができ、足の一部が地面に埋まった。

「今だ! マリー! クロエ!」

「わかりましたわ」

「任せてよ!」

 マリーが鞭を放ち、クロエは弓を構えて矢を射つ。

 魔物は動くことができない。確実にダメージは与えられる。

二人もこれまでの冒険で成長したからな。これで終わるだろう。

 そう思っていたが、面白いことに不思議な現象が起きた。

 オーガが吼えた瞬間、風が吹いたのだ。

 マリーの鞭は軌道が外れて魔物に当たることはなく、クロエの矢は吹き飛ばされて地面に突き刺さる。

 もしかしてこいつは!

 魔物の行動を目の当たりにして、紙をもう一度見る。すると、クラス一覧にもオーガの名が載っていた。

「そうか! このオーガはノーマル種ではなく、エレメントクラスのオーガなんだ!」

「エレメントクラス。自然界の魔法を使うことができる特別な魔物だね。風が前触れなく吹いたところを考えると、風のエレメント持ちなんだろうね」

 エレメント持ちの魔物であることを告げると、ミラーカが分析する。

 エレメントクラスのオーガは千ポイント。だから強い反応を示していたのか。

 エレメントクラスは確かに厄介だ。自然界の魔法が使えることに加え、それぞれに特殊な体質を持っている。だけどその代わりに弱点が直ぐに分かってしまうという欠点もあるのだ。

 だから、魔法を使ったところで弱点がバレバレとなる。

「ファイヤーボール!」

 魔法を発動させ、火球を生み出す。

 火の玉は周囲の酸素を取り入れ、さらに巨大化した。

 風のエレメントは炎の攻撃に弱い。これで終わらせよう。

 巨大化したファイヤーボールを、エレメントクラスのオーガに放つ。

 火球が当たるとオーガは全身を焼かれ焼死体となり、地面に倒れた。

「よし、あとは証拠となる部位を持ち替えれば、ポイントに加算されるな」

 袋を取り出し、黒ゴケになった魔物に近づく。すると、急に風が吹いて目にゴミが入ってしまった。そのせいで瞼を閉じる。

 なんだ。この風は? まさか別のエレメントの魔物による攻撃か?

 風が治ると目に入ったゴミが取れ、閉じていた瞼を開ける。

 その瞬間驚いてしまい、目を大きく見開くことになる。

 先ほど倒したエレメントクラスのオーガの頭がなくなっていたのだ。

「油断大敵だよ。ハイエナがいないとは限らないのだから」

 上から赤髪の女の声が聞こえ、顔を上げる。

 相手チームの一人が木の枝に立っており、その手には真っ黒になったオーガの頭が握られていた。

「それは俺たちが倒した魔物だぞ!」

「何を言っているんだい? 証拠となる部位を袋に入れて持ち帰るまでが狩なんだ。誰が倒そうと最終的に持っていた人のポイントになる。過程なんてどうでもいい。結果がすべてなんだ」

 彼女の握っているオーガは俺たちが倒したものだと主張すると、赤髪の女性は反論してくる。

 何だよ。帰るまでが遠足みたいなことを言いやがって。

 だけど、彼女の言っていることも間違いではない。過程でいくら頑張っても、結果が出なければ得られるものは少ないのも事実だ。

 敵の狡畏ずるかしこさを舐めていた自分に怒りを感じ、歯を食い縛る。

「それはシロウが倒したオーガでしてよ。返しなさい! オバサン!」

「そうだよ! そんなに正確が捻じ曲がっては、肌に悪いよ。だから小皺が増えるんだって」

『ワン、ワン、ワン』

「オバサン言うな! それに人が気にしていることを言いやがって小娘どもが! あんたたちだって年を取るとこうなるのだからね!」

 獲物を奪われて腹が立ったのか、マリーとクロエが赤髪の女性が気にしていることを言う。すると挑発に乗った彼女が反論するも、低レベルの言い合いになっていた。

「ワタクシは大丈夫ですわ。何せこれでも男爵の娘ですもの。お肌には気をつけていますわ。冒険者でありながら、お肌の手入れには怠らない。女性冒険者として嗜みですもの」

「本当だ。マリーさんのお肌ツヤツヤ」

 マリーの頬を、クロエが人差し指でプニプニする。

「ほら、シロウさんも」

 クロエが俺の腕を引っ張ると、強引に指をマリーの頬に触れさせる。

 指が彼女の頬に触れた瞬間、プニっとした柔らかい感触が指先から伝わった。

 なるほど、確かにこの柔らかさは病みつきになってしまいそうだ。

「人前でイチャイチャするな! よくも恥ずかしげもなく、人前でイチャつくことができるね!」

 マリーの頬に夢中になっていると、赤い髪の女性が怒声を上げる。

 そう言えば、手柄を横取りされていたんだったな。

「とにかく! このオーガの首は貰ったからね。ザマァ!」

 赤い髪の女性は木から飛び降りて着地をすると、そのままどこかに走って行った。

「オーガの首を置いていってよ! オバサン!」

 クロエが声を張り上げて呼び止めるも、赤い髪の女性は戻ってくることはなかった。

「シロウさん。どうしますの?」

 エリーザが心配そうな顔で俺に聞いてくる。

「まだ勝負は始まったばかりだ。たった千ポイントぐらい、ハンデとしてあげよう」

「さすがシロウさんですわ。相手にお情けをあげるだなんて。本当に慈悲深いお方ですわ」

「さすがワタクシのシロウです。千ポイントなんて一瞬で稼いでしまいますものね」

『ワン、ワン』

「とりあえずは、また探査魔法で反応が強い魔物を探そう。エコーロケーション」

 再び両手を前に出して俺は探査魔法を唱えた。周辺に超音波を飛ばして状況を把握する。

 これは! エレメント階級のオーガよりも強い反応が返ってきたな。

「さっきのオーガとは比べものにならないぐらいの反応だ。きっとポイントが高い魔物に違いない」

「やった! そいつを倒せば勝ったも同然だよね!」

 風のエレメントオーガよりも、ポイントが高い魔物の可能性があることを言うと、クロエは飛び跳ねて喜ぶ。

「まだ決まったわけではないけど、とにかく向かってみよう」

 俺たちは強い反応があった場所に走っていく。

『パギャオオン!』

 魔物の鳴き声が聞こえ、その場で足を止めた。

「エレファントエンペラー!」

 発見した魔物は、十万ポイントに設定されてある高ポイントモンスターだ。

「こいつを倒して証拠を持ち帰れば勝ち確だ! 皆んな行くぞ!」

 仲間たちに声をかけ、魔物に突撃していく。
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