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第七章

第五話 マリーの親戚が婚約をするらしいです

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 ~シロウ視点~



 親善試合が開催されるまで、まだ日にちがある。その間、俺たちはいつものように冒険者の仕事をするためギルドを訪れていた。

「さて、今日も上手い話しがないかな」

 張り出されてある依頼を眺めるが、これといってピンとくるものがない。

 中々これだと思う依頼がないな。こういうときはだいたいオルテガが上手い話しの依頼を持って来てくれるのだけど、そう都合よくはいかないよな。

「おーい、シロウ! お前に頼みたい依頼があるのだが」

 そんなことを考えていると、ギルドマスターのオルテガが、俺に頼みたい依頼があると声をかけてくる。

 まさか本当に彼が依頼を頼みに来るとは思わなかったので、少し驚いてしまった。スキル【魔学者】の副産物で得た、異世界の知識で知っている。こういうのをフラグと言うらしい。

 扱い方は非常に難しい。けれど上手く活用すれば、時として便利なものになる。

「俺に依頼か? 今回はどこのダンジョンだ?」

 毎回彼が持ってくるのはダンジョンの調査か、魔物の討伐だ。だから今回も似たようなものだろう。

「チ、チ、チ。この俺が毎回同じものを持ってくると思ったのなら大間違いだ。今回はとある人物の護衛を頼みたい」

「護衛だって?」

 オルテガから依頼の紙を受け取り、目を通す。

 えーと、なになに? 依頼者は騎士爵様からだって! おいおい、一応貴族の中では階級は一番下だけど、貴族からの依頼なら報酬金額は期待してもいいんじゃないか? 依頼内容はっと。

『今回めでたいことに、我が娘エリーザが、隣国のデンバー国内にある子爵殿のご子息と婚約をすることになった。初顔合わせのために向かいたいのだが、その護衛を実力のある冒険者に頼みたい。報酬金額は三十万ギルでどうだろうか』

 書かれてある依頼内容を黙読すると、小さく息を吐いた。

 貴族からの依頼だから、報酬金額は期待していたけど、思っていたのより低いじゃないか。まぁ、よく考えればそうだよな。貴族とは言っても、位は一番下だし、平民より少しだけ裕福といったぐらいだろうから。

 けれど、他の依頼よりも金額が高いのは事実。それに遅かれ早かれ、俺は親善試合を行うために、開催地であるデンバー国の城下町に向わないといけない。そのついでと考えるのであれば、悪くないだろう。

「わかった。この依頼を受けよう」

「ありがとう。手続きのほうはいつもの通り、俺がやっておこう」

「あら、依頼者は叔父様ではないですか? まぁ! エリが婚約ですって! ワタクシよりも先に婚期が訪れるとは」

 俺が持っていた依頼書をマリーが覗き込んで驚く。どうやら騎士爵様はマリーの親戚のようだ。

 これなら貴族が相手でも、スムーズに話ができるかもしれないな。

「マリー、悪いけど騎士爵様の家まで案内してくれないか」

「わかりました。では、今から参りましょう」

 マリーを先頭に、俺たちはギルドから出る。

「マリーさんの親戚のエリーザさんってどんな人なのですか?」

 護衛対象が気になるのだろうな、クロエがマリーに特徴を尋ねてきた。

「そうですわね。確か今年で成人になったはずですわ。ピンク色の髪で、身長はクロエよりも小さかったかと思います。とても可愛い子ですわ」

「それは楽しみですね!」

 二人の会話を聞きながら、俺は無言で歩く。すると、進行方向に他の建物よりも一回り大きい家が視界に入った。

 おそらくあの家が騎士爵様の家だろう。

「見えて来ましたわ。あれがエリの家です」

 マリーが一回り大きい家を指差す。俺の予想が当った。

「貴族の家なのに、思ったほど豪華な作りではないですね」

「まぁ、貴族とは言っても、騎士爵は平民に毛が生えた程度だろうからね。こんなものだろうよ」

 クロエとミラーカが失礼なことを口走る。

「頼むから失礼のないようにしてくれよ。依頼者が断って護衛できなくなったら、三十万ギルがもらえなくなる」

「はーい!」

「そんなことは言われなくても分かっているさ」

 騎士爵邸の前に立つと、扉を二度ノックする。

「はい」

 扉越しに男性の声が聞こえてきた。たぶんこの声の主が、今回の依頼者なのだろうな。

「ギルドからの紹介で依頼を受けに来ました」

 訪れた理由を告げると、扉が開かれて一人の男が顔を出す。彼は俺たちを見ると、驚いた表情を見せた。

「英雄様ではないですか。あなたに護衛についてもらえるのであれば、娘も安心するでしょう。おーい、エリザ! 英雄様が護衛を引き受けることになった。これで安心してデンバー国に行けるな」

 男は家の奥に顔を向けて声を上げる。しかし、彼の呼び声に反応する声はなかった。

「すまない。どうやら緊張しているようだ。椅子に座ったまま固まっている」

「いえ、これから婚約相手に会いに行くのです。緊張して当たり前だと思いますよ」

「叔父様、お久しぶりでございます。この度はエリの婚約おめでとうございます。親戚として、我がことのように嬉しく思いますわ」

 俺と騎士爵様が話していると、会話の区切りがついたところで、マリーも挨拶を行う。

「これはマリー! 久しぶりだな。噂は聞いていたが本当に冒険者をやっているとは驚きだぞ。よくあの兄さんが許してくれたものだ」

「ええ、まぁ、そこは色々とありましたが、どうにか上手くやっていけていますわ」

 騎士爵様の言葉に、マリーは視線を外しながら返答をする。だけど歯切りの悪い言葉に、視線を逸らすような行為から見て、本当に上手くやっていけているのだろうかと思ってしまう。

 だけどまぁ、貴族の親子関係は平民の俺にはまったく予想がつかないし、今後も関わることはないだろうから、俺が気にするだけ意味がないよな。

「グハッ!」

 そんなことを考えていると、唐突に騎士爵様が視界からいなくなる。そして俺たちの前には、代わりにピンク色の髪の女の子が立っていた。

「やっぱりマリーお姉さまでしたのね! エリーザはお会いしたかったですわ!」

 目の前の女の子は、満面の笑顔を浮かべるとマリーに抱き着く。

「久しぶりですわね。エリが元気そうで何よりですわ」

 マリーはエリーザのピンク色の頭に手を乗せ、優しく彼女の頭を撫でる。親戚だけあってか、二人とも似ている。まるで、本当の姉妹のように俺の目には映った。

「どうしてわたしのお家にいらしたのですか? 事前に連絡をしていただければ、今日の予定はすべてキャンセルしましたのに!」

「それはですね、依頼を受けてエリの護衛をすることになりましたの」

「そうなのですね! まさかマリーお姉さまに護衛してもらえるとは、とても光栄ですわ!」

 エリーザはよほど嬉しかったのだろう。声音はとても高い。

 うーん、たぶん気のせいだよな。俺からの視点だと、エリーザが頭をマリーの胸に押し当てているように見えるのだけど。さすがに偶然だよな。

「俺はチームエグザイルドのリーダー、シロウだ。マリーと一緒に護衛を担当させてもらう。よろしく」

「あなたがシロウですか? あの英雄だともてはやされている。全然パッとしない容姿ですね。イケメンじゃなくて正直がっかりです。別にあなたと馴れ合うつもりはないので、今後は話しかけないでもらえますか?」

 まぁ、マリーの親戚であっても、今回の依頼が終わったらもう会うこともないだろうし、俺のほうもそこまで慣れ合うつもりはないから安心しろ。

「あいたた、相変わらずのばか力だな。だけど、どうにか家の外に出てくれて助かった。シロウ、マリー、娘のことは頼んだ。俺のほうも遅れていくから、デンバー国で再会できたのなら嬉しい」

 エリーザのことを頼むと、家の扉を閉める。

ガチャ。

「わたしとしたことが! マリーお姉さまの声が聞こえて体が反応してしまいましたわ!」

 エリーザが声音を強めて言葉を連ねると、マリーから離れて扉のドアノブに手をかける。

「鍵が掛けられている! お父様! この扉を開けてください! わたしは殿方と婚約するつもりはありません!」

 何度も彼女は扉を叩くが、家の中からは何も反応がない。

 どうやらエリーザには何かがありそうだ。今回の依頼、ただの護衛だけで終わらないような気がしてきたな。









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