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第五章

第七話 どうして俺が勇者パーティーを結成しなければならない!

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「シロウ! あなた、王様に向って何てことを言っているのですか」

「そうですよ! ビックリしたというのはとても良く分かりますが、いくら何でも王様に向ってノリツッコミは失礼ですよ」

 マリーとクロエが驚いた表情で俺に詰め寄る。

 いや、それは俺も分かっている。でも無意識で言葉が出てしまったからしょうがないじゃないか!

 どうする、どうする? 王様に大変失礼なことをしてしまった。絶対俺のことをよく思っていないはず。牢獄行きならまだマシなほうだが、最悪斬首という可能性も否定できない。

 こうなったら認識阻害の魔法で、俺のノリツッコミをなかったことにするか。

 チラリと王様を見る。彼は鋭い視線をこちらに送っていた。

 まずい。あの目は完全に怒っているに違いない。こうなったら認識阻害の魔法を使うしかないな。

「インピード――」

「ワハハハハ、中々のノリツッコミではないか。まさかワシに向ってこんな気持ちのいいツッコミをするとは思わなかった。さすが英雄と呼ばれることはある」

 認識阻害の魔法を発動させようと呪文名を口にした瞬間、突如王様が笑い出す。予想外の展開に、俺は思わず唖然としてしまった。

「王様、シロウに対して怒らないですの?」

 俺の代わりにマリーが王様に尋ねる。

「そなたは確か、オルウィン家のご令嬢であったな」

「はい、舞踏会のときはお世話になりました。オルウィン家の長女、マリーです」

 マリーはドレスのスカートを摘み、軽く持ち上げて頭を下げる。

「本来であれば、当然怒る。シロウでなければ斬首ものであろう」

「では、どうしてそのようにされずに私を笑うだけで済ませるのですか?」

 さっきは驚いていつもの口調に戻してしまったが、今は王様の前だ。口調と一人称を変えて王様に尋ねる。

「それはワシがシロウのファンだからだよ」

「「「ファン!」」」

 彼の言葉に、俺たちは声をそろえて一斉に驚く。

「そうだ。実は望遠鏡を使ってそなたの戦いを見ていた。ファイヤードラゴンに対して巨大なゴーレムを生み出し、撃退させるところなんか見ていて爽快だった。幼いころから読んでおった物語の勇者を、遠くから眺めているような気分で興奮しておったぞ」

「そうだったのですか」

「あの戦いを目の当たりにしてワシは思った。この男こそが世界を救う勇者であり、最近落ちぶれた勇者はクソであるとな」

 王様の言葉を聞いた俺は、それは買い被り過ぎだと思った。

 あの戦いをご覧になってファンになってくれたというのは、とても光栄で嬉しいことだ。だけど俺は本当にたいしたことはやっていない。冒険者として世話になった町を守るという、当たり前のことをしたにすぎない。それなのに、世界を救う運命を託された勇者と、同等に扱われるのはお門違いというものだろう。

 そうだと言い切れるものはもちろんある。町の防衛の際に、俺は一人で約三百体の魔物を同時に相手にしていた。だけどそれにかかった時間は一分だ。目標としていた三十秒にすら届いていない。本物の勇者なら、あんな数一瞬にして消し炭にできていただろう。

 そうだ。どう考えても俺は勇者には届いていない。いいほうに考えたとしても、勇者パーティーのポーター役が関の山だろうな。

「王様、それは買い被り過ぎです。いくら気に入ってくださったとしても、俺が勇者様と同等なわけがない」

「それはそうだろう。あんなクソ勇者よりもシロウが上なのであるからな」

 俺は世界最強の勇者と同等に扱ってもらうのは困ると言いたかったのだけど、王様は真逆に捉えてしまったようだ。

 勇者様よりも俺が上だと言っている。

 その言葉は正直嬉しいが、過大評価し過ぎだ。

「そんなことよりも、ファイヤードラゴンの火炎をものともしない。あのゴーレムはいったい何なのだ? 見た目は氷そのものに見えていたのだが」

 王様に対して、俺はそんなにたいそうな人間ではないことをどうやって説明しようかと悩んでいると、彼が話題を変えてきた。

 まぁ、話しが逸れたのなら、これ以上考える必要はないか。

 でもどうやって説明しようかな? 炎で溶けない氷のトリックを説明したところで、理解できるかわからないし、そもそも異世界の知識がなければ、俺もあんなことができるなんてこと知らなかったものな。

 だけど尋ねられたからには答えないわけにはいかないだろう。

 俺は手の平を上にして翳す。すると、正方形の物体が出現した。

「あのゴーレムはこれで作りました」

 王様に近づき、彼の手の上に置く。

「冷たいな。だけど氷ではないな。これほど冷たいのであれば、氷であれば皮膚に張りつく。うーむ、氷より硬いし、重い。これはいったい何なのだ?」

「アイスキューブというものです」

「アイスキューブ? 聞いたことがない」

「このアイスキューブは、ここから途方もなく遠い場所で、飲み物を冷やす際に使われているものです。その中には蒸留水という液体が入っており、外気の低い気温に晒されると、冷たくなるのが特徴です」

「こんなものが存在するとはこれまで知らなかったな」

 王様の言葉を聞き、それもそうだろうと俺は思った。

 アイスキューブはこの世界には存在していないものだ。俺が異世界の知識を利用して、作ったにすぎない。

 キューブの素材はステンレスという鋼で作られているのだが、インサイボウアイスゴーレムには、その中でも熱に特化したフェライトで作られている。これが溶けない氷の正体だ。

 だけどステンレスなんてものは、この世界には鋼で統一されてあるし、フェライトの話をしても理解はできないだろうな。その辺は省くとするか。

「そのキューブは、熱に強い鋼で作られてあります。それを氷に見せかけているだけにすぎないという単純な話ですよ」

「なるほど、確かに名前や見た目から氷だと誤認してしまうな。知らない者であれば、溶けない氷に恐怖を感じ、火炎を無駄撃ちしてしまうであろう。素晴らしい策略だ。シロウの知識力には頭が下がる。もしかしたら、全知全能の神の生まれかわりなのではないかと思ってしまう程だ」

「お褒めいただき光栄です。ですが、さすがに全知全能の神は言い過ぎですよ。私はただの冒険者なのですから」

「いやいや、やはりそなたは勇者と呼ぶに相応しい。おい、例のモノを持って来てくれ」

 王様が控えていた兵士に声をかけると、彼は急いでどこかに向っていく。そしてしばらくすると、一本の剣を持ってきた。彼は俺にその剣を手渡す。

「シロウ、これが本物の勇者だと認めた証である聖剣カリバーンだ。これをそなたに授けよう。そして本日から真の勇者パーティーだと名乗るがよい」

「凄いですわ! さすがワタクシのシロウ! 王様から勇者だと認めてもらえるなんて!」

「本当に凄いです! 今日から私も勇者パーティーの一員なのですね! お父さんとお母さんに教えたら絶対にビックリします!」

 王様の言葉に、マリーとクロエは喜びの声を上げる。

 王様の言葉は正直に嬉しい。嬉しいけど、俺は勇者と名乗るほどの偉業を成し遂げてはいないのだ。ただ気に入られているというだけで、勇者の証を受け取るわけにはいかない。

「すみません、王様。謹んで辞退させてもらいます」

「「「え?」」」

 正直な気持ちを話した瞬間、この場に沈黙が訪れるのであった。










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