Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳

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第二章

第一話 レオの復讐

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~赤いバラのリーダー、レオ視点~



「くそう! どうしてこうなった!」

 俺ことレオは、苛立ちを隠せずに思いっきりダンジョンの壁を殴る。

 俺はマリー様のことが好きで、彼女の傍にいたかった。だから赤いバラに拘り続けた。それなのに彼女に勘違いされ、俺は赤いバラのリーダーに就任することになってしまう。

 それだけではない。正規の手続きもしないでダンジョンに侵入したことがバレ、その責任を負わされることになった。SだったパーティーのランクはAに降格され、罰金として三百万ギルを支払うはめになった。

「くそう! どうして親父は助けてくれないんだよ! 息子が本気で困っているっていうのに!」

 高額な罰金の返済の宛てがなく、俺は親父を頼ることにした。王国騎士団の騎士団長である親父なら、三百万ギルなんか一括で返済してくれると思ったからだ。

 だけど親父は『自分で蒔いた種は自分で刈り取れ』と言い、一ギルも貸してくれなかった。

 三百万ギルは、一般人のおよその年収にあたる金額だ。返済期限は半年、それまでに返済を終えなければならない。

「あーくそう!」

 俺はもう一度壁を殴った。

「これは俺の責任ではないんだぞ! 俺はマリー様の指示に従った。それだけなんだ! どうしてそんな俺がこんな目に遭わなければならない!」

 そもそも、この請求はチーム赤いバラのリーダーに送られる。つまり、本来であれば、マリー様に送られるものだった。

 それなのに彼女が勘違いを起こしたことで、俺が赤いバラのリーダーになり、マリー様の代わりに支払わなければならなくなった。

「まさか! 俺は嵌められたのか! 罰金が請求されることを事前に知り、それを俺に擦り付けた」

 そう考えれば納得がいく。あの女は演技を行っていたのだ。そして上手いところ俺を騙し、罪を俺に擦り付けた。

「くそう! マリー様、いやマリー! この怨み、絶対に忘れないからな!」

 俺の叫びがダンジョンの中で木霊する。

「レオ、また叫んでいるの?」

 こちらに近づく足音が聞こえ、俺はそちらに振り向く。

「エリナ、奥のほうはどうだ?」

「問題ないわ。モンスターの気配もしない。でも、今のわたしたちにできるかしら、マネットスライムに勝てなかったわたしたちに」

「それでもやるしかないだろう! 今の俺には金が必要なんだよ! 多少危険かもしれない依頼でもやらないといけない。同じメンバーであるお前には協力する義務がある!」

「わかっているわ。だからこうしてあなたと一緒にダンジョンの中にいるじゃない」

 俺たちは今、返済のためにランクAの依頼であるレッサーデーモンの討伐の任務を行っている。

 あいつは魔法使い殺しという異名を持ち、やつと戦うと何故か呪文が使えなくなるのだ。

 その理由は分からない。だけど強敵なのは間違いない。なので、成功報酬は高めに設定されてある。

「俺たちには時間がない。行くぞ」

 エリナとダンジョン内を歩き、先に進む。

「本当に勝てるのかしら、二人だけで」

 エリナが再び弱音を吐いてくる。彼女の気持ちもわからなくもない。

 つい数日前までは、俺たちはまさに無敵だったのだ。どんな敵も一網打尽に葬り去り、ケガなんてものはこの一年間したことがない。

 だけどスライムの討伐では、一撃をくらって大ダメージを負ってしまった。

 どうしてあんなことになってしまった?

 俺は考える。するとある考えにいたった。

 こんなこと認められない。認めてはならないんだ。だけど、そうとしか考えられない。

 今までと、あのスライムの討伐での違いは、シロウがいるかいないかの違いだ。

 すべてあいつのお陰なのか? シロウがいたから、俺たちはこれまでケガをすることなく勝利し続けることができたというのか?

「なぁ、俺たちが今まで勝てたのって、シロウがいたからなのか?」

「私も考えたくないのだけど、レオもそう思うのね」

 エリナに問うと、どうやら彼女も似たようなことを考えていたらしい。

「シロウはこれまで、私たちのサポートをしていた。スライムのいる洞窟で、魔法の火力が今までよりも出なかったことがその証拠よ。あいつ、私の水魔法に対して炎で対抗してきたのよ! 魔学の常識では考えられないことを、あの男はやってのけてしまった」

「俺のときも同じだ。いくら刃ではなく、刀身のほうで殴ったとは言え、俺の剣が砕けることなんてありえない」

 当時のことを思い出すと、再び怒りが込み上げてくる。

 あの男は、実力を隠していたんだ。無能を演じて陰で俺たちをサポートして、俺たちが自分たちの実力だと思い込ませて、心の中では笑っていやがったに違いない。

 くそう。俺たちを嘗めやがって。絶対に何かしらの仕返しをしてやる。

 あいつらに煮え湯を飲ませてやる。絶対にだ! その方法を考えるためにも、早くこの依頼をクリアさせなければならない。

 しばらく歩いていると、広い場所に出た。

「あれ、何かしら?」

 エリナが指を差す。彼女の指が向いているほうに顔を向けると、複数の楕円形のものがあった。

 何だあれは? 気になるし、近づいてみるとするか。

 警戒しながら近づくと、楕円形のものは卵だった。大きさからして魔物の卵なのだろう。

 おそらくレッサーデーモンの卵と見て間違いない。

 卵を触っていると、足に何かが当たった。足下を見ると、それは杖だった。

「お、こんなところに杖が落ちていやがる」

 杖を拾うと、それをエリナに見せることにした。

「エリナ、この杖って何の杖かわかるか?」

「ちょっと待って調べてみるから」

 エリナが懐から一冊の本を取り出した。あの本は彼女のお気に入りの本だ。普段から肌身離さず持っている。

「えーと、この形状の杖は……あった。うそ! 本当にこんなのが落ちているものなの!」

「おい、何か分かったのか? お前が驚くと言うことは、相当なものなんだよな」

「ええ、この杖は幻覚の杖よ。対象者に幻覚を見せる力がある。とても高価なものよ。売ればそうとうなお金になるわ」

 偶然拾った杖が幻覚の杖だと知り、俺の身体は震える。

 幻覚の杖はその威力の高さから、ほとんど存在しない。希少な杖だ。おそらくこの杖を売れば、俺の借金を返済してもおつりがくるだろう。

「ねぇ、その杖を売りさばけば、借金は返済できるわ。だから早く帰りましょう」

「エリナ、お前はバカか! 一度引き受けた依頼をリタイアしてみろ! 俺たちに対しての風当りが悪くなるに決まっている」

 そうだ。俺は一度失った地位を取り戻さないといけない。そのためには、この依頼をクリアしなければ。

 そんなことを考えつつ、幻覚の杖と目の前の卵を見た。その瞬間、とあるアイディアを思いつく。

 なんていいアイディアなのだろうか。自分の頭の良さに我ながら驚く。

 これならどちらに転ぼうとも、俺が得をするに違いない。

「エリナ! この卵を破壊するぞ」

「え? どうしたのよ急に?」

「いいから俺の指示に従え! とにかく派手にぶっ壊すぞ。親のレッサーデーモンがここに戻ってくるように派手に音を立てながらな」

 俺は剣を抜くと、思いっきり卵を叩き割る。割れた卵は、殻の中からドロドロの黄色い液体を周囲に流した。

「ストン!」

 エリナも魔法で岩を生み出すと、卵に当てて割って行く。

「ほらほらほら、早く来ないと卵を全部割ってしまうぞ! お前の子どもが死んでいくぞ!」

 ダンジョン中に響くほどの声をだし、魔物をおびき寄せる。

 するとズシン、ズシンと音を立てて何者かがこちらに向ってくる。

 その人物を見た瞬間、俺は口角を上げてニヤリと笑う。

「待っていたぞ。こいつを食らえ!」

 俺は幻覚の杖を天高く掲げる。すると杖に埋め込まれている紅玉が光を放った。

「シロウ。テメ―にリベンジマッチを申し込む。相手は俺ではないがな」










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