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第八章

第二話 ここはどこ?

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「メイデス」

 巨大な魔法陣から現れた女性の名を、ポツリと漏らす。

『パーぺ、マーぺ、どうしてこのような派手な登場をさせる? 妾程度の女など、あのお方に比べれば小物でしかない』

『いや、いや、俺たちにとっての最強はメイデス様です』

『そうそう。だって僕たち、メイデス様の言うあのお方をこの目で見たことがないもん』

 どうやらあの巨大な魔法陣から現れるという演出が好みではなかったようだ。この場に現れたメイデスが過小評価するも、2体のパペット人形は彼女を担ぎ上げる。

『まぁ良い。もう時期あのお方が復活を遂げられる。その姿と禍々しさを目に焼き付ければ、妾の言っていることも分かるであろう』

 会話を終えると、メイデスは次に身動きが取れないカオスに顔を向けた。

『カオスよ、久しいな。まさかこんなところで再会するとは思ってもいなかったぞ』

 メイデスがカオスに声をかけるも、彼は返答しない。それもそうだ。俺の骨化の魔法で筋肉は骨となっている。まとも口を動かすこともできない。

「悪いな。カオスは俺が動けない状態にさせている。今のあいつは意識がある案山子かかしだ」

 答えられない彼に代わり、俺が現状を教える。

『ほう。意識はあるが、動くことができないか。それは面白い。それはアスフィケーションによるものなのか?』

 身動きが取れないカオスの状態から、どんな魔法がかけられているのかを見破られ、思わず目を大きく見開く。

『やはり骨化の魔法か。妾が初めて目にしたときは驚きを隠せなかった。あの魔法はハルトも使っていた。やはり、生まれ変わりと言うのは本当らしい』

 メイデスが右手を上げて人差し指を伸ばすと、巨大な火球が現れる。

『さぁ、この業火で焼き尽くされるが良い』

 上げた右腕をメイデスは振り下ろす。その瞬間、火球が飛んで来るも、狙いは俺たちではなかった。

 身動きが取れないカオスに直撃すると、彼は火だるま状態となる。

 予想外の行動に驚き、咄嗟に動けないでいると、カオスを燃やしていた炎は消え、まるでそこには誰も居なかったかのように骨すら残らなかった。

 骨が灰に変わる温度は、1670度に達したときだ。つまり、彼女の炎は、それ以上の温度を持っていたことになる。

『どうやら驚かせてしまったようだな。顔見知りの無様な姿を、これ以上見ていることができなかったのだ』

 カオスを消した理由を語ると、彼女は俺の隣にいるルナさんを見た。

『現場を見る限り、テオに先を越されたようだからな。なら、予定を変更してお前を連れて行くとしよう』

 メイデスがパチンと指を鳴らす。その瞬間、俺の足元に禍々しい光が現れ、渦巻き始める。すると俺の体はどんどん沈んでいく。

 これはもしかして、魔族たちが使うと言う時空転移。空間を歪めて対象を別の場所に移動させる魔法。

『さぁ、妾と共に来るが良い』

 メイデスの足元にも同じものが現れる。まさかルナさんではなく、俺が攫われるピンチ姫側になるとは思わなかったな。

「テオ君!」

ご主人様マスター!」

 渦に呑まれつつある俺を、どうにか引き上げようとルナさんとメリュジーナが協力し合って引っ張る。

「私も手伝うぞ! お前たちも手伝え!」

 後方を見ると、俺の体をメリュジーナが引っ張り、彼女をルナさんが引っ張る。そして娘をグレイ男爵が引っ張り、使用人たちが彼を引っ張った。

 だが、渦が飲み込む方が遥かに強い。

【見つけたわ】

 なんだ今のは? 脳に直接語りかけるような声が聞こえたような気がした。

【見つけた……私の……良かった。今すぐに……あげる】

 もう一度同じ声が聞こえる。だけど、途切れ途切れに聞こえているので全てを聞き取ることはできなかった。

 この声は、いったいなんだ? どうして俺の脳に語りかける?

「ぐぬぬ! まずい、手汗で滑ってしまいそう……わあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「グレイ男爵!」

 ルナさんを引っ張っていたグレイ男爵であったが、手が滑ったことでその場で尻餅をついた。彼が倒れたことで、使用人たちも同時に転倒する。

 その瞬間、渦が飲み込む速度が上がり、俺の体は呑み込まれた。





「ここは……どこだ?」

 気が付くと見覚えのない場所に立っていた。

「おお! 召喚に成功したぞ! さすが女王様だ!」

「一緒にいた女の子たちも巻き込んでしまったが、成功して安心だな」

 視界に入った男たちが口々に声を上げ、喜びあっている。辺りを見渡すとルナさんとメリュジーナが俺の隣にいたが、俺と同様で何が起きているのかが分からず、呆然としていた。

 何が起きた? 俺はメイデスに連れ去られたのではないのか?

 現状が分かっていない中、少しでも情報を得ようと観察を始めた。

 鎧を着た兵士たちに、奥には玉座に座っている女性がいる。頭に王冠を被っていることからして、ここは玉座の間のような場所なのだろうか?

 つまり俺たちはどこかの城にいる。

 メイデスが転移に失敗したのか? それともこれが本当の目的だったのか? どっちにしろ、安全な場所である補償はない。

 彼らは人間のようにも見えるが、幻覚を見せられている可能性も充分にあり得る。

「ルナさんたちには何が見える?」

「私にはどこかのお城にいるように見えるわ。多くの兵士が喜びあっている」

「わたしも同じだよご主人様マスター

 どうやら2人とも同じものが見えているようだ。

「皆さん静粛に、彼らには自分の身に何が起きているのかが分かっていないのですから」

 女王様と思われる女性が玉座から立ち上がり、こちらにやって来る。

 今は敵意のようなものは感じられないが、油断はできない。いつでも反撃に出られるようにしなければ。

 警戒をしていると、女王様と思われる女性は敵意や殺気を向けないままゆっくりと近づき、気が付くと目の前に立っていた。

「良かった! 無事にあなたと再会することができて!」

 女王様と思われる女性が俺の背中に腕を回し、抱き締めてくる。

 豊満な胸が押し当てられ、何がどうなっているのか余計に分からなくなった。

 無事に再会? 俺はこの人を知らないぞ? いったいどうなっている?

「お帰りなさい。私の可愛い坊や」

 え? 坊や?
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