上 下
96 / 122
第七章

第十話 テオ君が迎えに来た!

しおりを挟む
 ~ルナ視点~




「こうなってしまっては強行手段よ! ウォーターポンプ!」

 私はストライクに向けて水圧の高い水の魔法を放つ。

 彼は至近距離から魔法を直撃することになる。吹き飛ばされて転がれば、しばらくは起き上がれないはずだわ。そしてその間に脱出するのよ。

 近くにあのメイドがいない以上は、必ず脱出ができる。

 頭の中で脱出するための経路を考えていると、ストライクが吹き飛ばされていないことに必ず気付く。

 嘘! どうして吹き飛ばされないのよ!

「あ、危なかった。いきなり魔法を発動しないでくださいよ。びっくりしたじゃないですか。まぁ、ルナさんからしたら当然の反応なので、まぁ許しますが」

 真顔で淡々と言葉を連ねるストライクの前には、炎が見える。

 炎で水を防いだって言うの! この人、テオ君並みの魔力と知識を持っているわ。

「驚かないのですね。普通は炎が水を防ぐだなんて有り得ないって叫びますが」

「知っているからね。水の冷却効果を炎の発熱量が上回っていれば、炎は消えずに燃え続ける」

「さすがルナさん」

 このままでは意味がない。戦いの音を聞き付けて誰かが来るかもしれないわ。

 魔法を消すと、ストライクから距離を空けて様子を窺う。

 まさか彼がここまでの実力を持っているとは予想外だったわ。子爵の息子なだけあるわね。

「ルナさんの気持ちも分かります。ですが、時には諦めることも肝心な時がありますよ。諦めない気持ちを持つことは大事です。ですが、頑張った先に必ず幸せになるとは限らない。そんなに僕のことが嫌なのですか?」

 ストライクがゆっくりと距離を縮めてくる。

「嫌いではないわ。あなたはとても良い人よ。でも、私はこの婚約に納得していないの。私が今いるべき場所はここではないわ。私がいるべき場所はーー」

「テオ・ローゼですか?」

 自分がいるべき場所を告げようとしたその時、ストライクがテオ君の名を口に出す。

「テオ君を知っているの!」

「ええ、海岸でちょっと知り合いまして」

 テオ君が近くに来ている!

 彼が近くまで来ていることを知った瞬間、涙が流れそうになる。

 良かった。ちゃんと迎えに来てくれたんだ。

「ですが、彼はここには来られないでしょう」

「それって、どう言うことなの?」

 テオ君が近くに来ているのに屋敷に辿り着けない理由を訊ねる。

「この島には結界が貼られていましてね。侵入自体はできますが、外からではこの屋敷が分からないようにしてあるのです」

 結界でこの屋敷の存在が分からなくしてある。でも、テオ君なら大丈夫よ。彼ならそんな障がいは簡単に突破してしまうわ。

「落ち着いていますね。彼はそんなに信頼できる方なのですか? 何を根拠にあの男を信頼しているのですか?」

 テオ君の存在を知った途端に、私が落ち着きを取り戻したことがバレてしまった。そのせいで信頼する根拠を問われる。

「テオ君はね、予言の人なの。この世界の救世主になる人なんだから。私は彼に何度も救われた。今回だってきっと助けに来てくれるわ」

 根拠を語った瞬間、ストライクは人差し指で頬を書き、視線を逸らす。

 この人、どうして急に照れ出すの?

「まぁ、その男がどんなに凄かろうと、私と父上がいる。きっとその男はルナさんの救出は無理でしょう。返り討ちに合って終わりです」

 ゴホンと咳払いをしながら、ストライクはテオ君が私を助けることはできないと妄想を語る。

 ふんだ! 油断していれば良いわ。テオ君が来れば、あなたなんか一撃なんだから。

 テオ君がこの島にいることが分かり、私の気分も大分良くなった。

 きっと彼なら必ず私の目の前に現れる。なら、ここはお姫様のように勇者が来るのを待つべきだわ。

 安心していると、風が吹いて体が震える。

 予定以上に外に長くいたわね。そろそろ屋敷内に戻った方が良いかもしれないわ。

 屋敷に戻ろうとかと思ったその瞬間、私の手はストライクに握られる。

「体が震えているので、もしやと思いましたが、やっぱり体が冷えていますね」

 包み込むようにして握られた彼の手は温かく、なぜか安心してしまう。

 こんなこと、テオ君にもされたこと何てなかったなぁ……って何を考えているのよ! 私は!

 この手がテオ君だったのなら、そう考えてしまっている自分に気付き、恥ずかしさを覚える。

 なぜか知らないけれど、この人に触れていると変な方向に考えてしまうわ。

 今は距離を置いた方が良さそうね。

 相手に対して悪いことをしているように思えるけれど、包まれるように握られている手を払い、私は屋敷の中に戻ろうとする。

 その瞬間、屋敷の中が慌ただしいことに気付いた。

 屋敷の中で何かが起きている。

 もしかしてテオ君が来てくれたの!

 久しぶりに会えるテオ君のことを思っていると、心臓の鼓動が早くなっていることに気付く。

 テオ君! 私はここよ!

 心の中で彼の名を叫ぶと、庭にたくさんの人物が現れた。

 嘘! これってどう言うことなの!

 中庭に出て来たのは、お父様に屋敷の使用人たち、そしてアバン子爵と思われる男性だ。でも、アバン子爵の隣には不思議なことにストライクがいた。

 これってどう言うことなの! どうしてストライクが2人もいるの?

「僕の偽物め! ルナから離れろ!」

 私の隣りにいるストライクに向けてあちら側にいるストライクが声を上げる。

 どっちが本物なの?
しおりを挟む
感想 97

あなたにおすすめの小説

土属性を極めて辺境を開拓します~愛する嫁と超速スローライフ~

にゃーにゃ
ファンタジー
「土属性だから追放だ!」理不尽な理由で追放されるも「はいはい。おっけー」主人公は特にパーティーに恨みも、未練もなく、世界が危機的な状況、というわけでもなかったので、ササッと王都を去り、辺境の地にたどり着く。 「助けなきゃ!」そんな感じで、世界樹の少女を襲っていた四天王の一人を瞬殺。 少女にほれられて、即座に結婚する。「ここを開拓してスローライフでもしてみようか」 主人公は土属性パワーで一瞬で辺境を開拓。ついでに魔王を超える存在を土属性で作ったゴーレムの物量で圧殺。 主人公は、世界樹の少女が生成したタネを、育てたり、のんびりしながら辺境で平和にすごす。そんな主人公のもとに、ドワーフ、魚人、雪女、魔王四天王、魔王、といった亜人のなかでも一際キワモノの種族が次から次へと集まり、彼らがもたらす特産品によってドンドン村は発展し豊かに、にぎやかになっていく。

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳
ファンタジー
あらすじ リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。 彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。 ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。 途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。 ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。 彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。 リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。 一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。 そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。 これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

婚約破棄された上に国外追放された聖女はチート級冒険者として生きていきます~私を追放した王国が大変なことになっている?へぇ、そうですか~

夏芽空
ファンタジー
無茶な仕事量を押し付けられる日々に、聖女マリアはすっかり嫌気が指していた。 「聖女なんてやってられないわよ!」 勢いで聖女の杖を叩きつけるが、跳ね返ってきた杖の先端がマリアの顎にクリーンヒット。 そのまま意識を失う。 意識を失ったマリアは、暗闇の中で前世の記憶を思い出した。 そのことがきっかけで、マリアは強い相手との戦いを望むようになる。 そしてさらには、チート級の力を手に入れる。 目を覚ましたマリアは、婚約者である第一王子から婚約破棄&国外追放を命じられた。 その言葉に、マリアは大歓喜。 (国外追放されれば、聖女という辛いだけの役目から解放されるわ!) そんな訳で、大はしゃぎで国を出ていくのだった。 外の世界で冒険者という存在を知ったマリアは、『強い相手と戦いたい』という前世の自分の願いを叶えるべく自らも冒険者となり、チート級の力を使って、順調にのし上がっていく。 一方、マリアを追放した王国は、その軽率な行いのせいで異常事態が発生していた……。

世界最強の勇者は伯爵家の三男に転生し、落ちこぼれと疎まれるが、無自覚に無双する

平山和人
ファンタジー
世界最強の勇者と称えられる勇者アベルは、新たな人生を歩むべく今の人生を捨て、伯爵家の三男に転生する。 しかしアベルは忌み子と疎まれており、優秀な双子の兄たちと比べられ、学校や屋敷の人たちからは落ちこぼれと蔑まれる散々な日々を送っていた。 だが、彼らは知らなかったアベルが最強の勇者であり、自分たちとは遥かにレベルが違うから真の実力がわからないことに。 そんなことも知らずにアベルは自覚なく最強の力を振るい、世界中を驚かせるのであった。

ステータス999でカンスト最強転移したけどHP10と最低ダメージ保障1の世界でスローライフが送れません!

矢立まほろ
ファンタジー
 大学を卒業してサラリーマンとして働いていた田口エイタ。  彼は来る日も来る日も仕事仕事仕事と、社蓄人生真っ只中の自分に辟易していた。  そんな時、不慮の事故に巻き込まれてしまう。  目を覚ますとそこはまったく知らない異世界だった。  転生と同時に手に入れた最強のステータス。雑魚敵を圧倒的力で葬りさるその強力さに感動し、近頃流行の『異世界でスローライフ生活』を送れるものと思っていたエイタ。  しかし、そこには大きな罠が隠されていた。  ステータスは最強だが、HP上限はまさかのたった10。  それなのに、どんな攻撃を受けてもダメージの最低保証は1。  どれだけ最強でも、たった十回殴られただけで死ぬ謎のハードモードな世界であることが発覚する。おまけに、自分の命を狙ってくる少女まで現れて――。  それでも最強ステータスを活かして念願のスローライフ生活を送りたいエイタ。  果たして彼は、右も左もわからない異世界で、夢をかなえることができるのか。  可能な限りシリアスを排除した超コメディ異世界転移生活、はじまります。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

処理中です...