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第六章

第八話 知り合いは本物?

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 ルナさんから頼まれた買い物リストを見ながら、俺は港町を歩いていた。

「必要なものはトミトにレダス、それに食塩に砂糖、あとウッシーナの肉500グラムか。調味料は場所によっては買えないものもあるから、大量に買っていた方が良いよな。これから使うことになる」

 今いる地点から近い場所を順番に巡り、買い物を済ませていく。

「よし、こんなものか。それにしても、塩と砂糖を1キログロムは買い過ぎただろうか?」

 買い物袋から伝わってくる重みを感じながらポツリと呟く。

「いや、少なくって困ることはあっても、多くて困ることはないだろう。それに余ったとしても、生鮮食品ではないから、腐らせる心配をしなくて良い」

 買い物を終え、泊まっている宿屋に帰ろうとすると、進行方向から赤い髪の女の子がやって来る。

 その女の子は、俺と目が合うとこちらに駆け寄って来た。

「あ、やっぱり! 私たちを助けてくれた人ですね!」

 女の子は目の前に立つと、笑みを浮かべ、白い歯を見せた。

 この女の子には見覚えがある。牢の中で捕まった時、暴言を吐きながら色々と教えてくれたあの子だ。

「あの時の! 無事に脱出することができたんだね!」

「はい! あの後、貴族の方たちが私たちを家まで運んでくれたのです。私もお婆ちゃんと再会できて良かったです。あなたには感謝してもしきれません。本当にありがとうございます」

 女の子はハキハキとした口調で感謝の言葉を述べる。

 良かった。心配していたけれど、どうにか宿屋の女将さんのところに帰れたんだ。

 ゲルマンには感謝をしないといけないな。

「あのう。それでですね。この前、渡してもらった転移石なのですけど、結局は使わなかったので、お返ししますね」

「いや、それは君にあげたものだから、そのまま持っていて良いよ。またいつ危険な目に遭うか分からないから」

「本当ですか。ありがとうございます。では、代わりにこちらを差し上げます」

 女の子が懐から短剣を取り出すと、鞘を抜いていきなり貫いてきた。

 刃は買い物袋を貫通し、ポタポタと赤い液体が零れ落ちる。

 あまりの衝撃的な展開に、動揺して眼振が起きそうになった。

「アハハハハ! 肉を貫いた感触あり! それだけ血を流していたら、もう助からないな!」

 女の子の口調が変わった。もしかして、何者かが化けていたのか。全然違和感を覚えなかった。つまり、こいつはマネットライムだ。

「くそう。もう、この港町に来ていたのか! アイシクル!」

 魔法を発動して空気中の水分子を集め、水を三角錐に変える。そして水に限定して気温を下げ、氷柱にすると女の子に向けて放つ。

 しかし放った魔法は、やつが跳躍しながら後方に下がったことにより、交わされてしまう。

「嘘だろう! どうして反撃できる! あれだけ深く突き刺して沢山の血を流していたではないか! 仮に回復魔法を使ったとしても、直ぐには反撃できないはずだぞ」

 どうして俺が直ぐに反撃に出ることができたのかが理解していないモンスターは、驚いたようで、顔を引き攣らせている。

「ああ、深く突き刺さったさ。それに大量に流れてしまった。だけど、俺の肉体には傷ひとつ付いていないぞ。俺の足元を見ろよ」

「足元だと……赤い液体の中に種のようなものが混ざっている!」

 どうやら気付いたようだな。やつが感じたと言う肉の感触はウッシーナの肉500グラムだ。そして血だと思い込んでいたのは、トミトの果肉が破けてこぼれ落ちたもの。

「それにしてもよくもやってくれたな! また食材を買い直さないといけないじゃないか! それに頑張って美味しい生鮮食品を作った農民の方に謝れ!」

「怒るところがそこかよ! それに『よくもやってくれたな!』は俺のセリフだ! ふざけたマネをして俺を騙しやがって!」

 人差し指をこちらに向け、女の子の姿になっているマネットライムが声を荒げる。

 いや、それはお前が勝手に勘違いしただけじゃないか。それに人間の血とトミトの果汁は普通間違えないだろう? まぁ、もしかしたら、肉を突き刺した時に、ウッシーナの肉の中にあった血が一緒に出たかもしれないけどよ。

「くそう。不意打ちに失敗したとなると、作戦を変更するしかないな。果たしてお前は無事にこの港町から脱出することができるかな?」

 不穏なセリフを吐き捨て、女の子の姿になっているモンスターはこの場から逃げ去って行く。

「逃すかよ!」

 買い物袋を抱えたまま、マネットライムを追いかけるも、やつを見失ってしまった。

 まずいな。もし、やつが他の人に化けていたとしたら、見つけ出すことが難しいぞ。

 とにかく今は、ルナさんたちと合流した方が良さそうだ。

 モンスターの捜索を一時中断し、急いで宿屋に向かう。

 建物の中に入り、部屋の前に立つと勢い良く扉を開ける。

「2人とも無事か!」

「あ、おかえりテオ君。頼んでいた食材は全部買うことができた?」

「おかえりご主人様マスター。どうしたの? そんなに血相をかいて」

 部屋の中に彼女たちがいることに、取り敢えずはホッと一安心する。

「ルナさんたちに聞きたいけど、2人ともこの部屋から一歩も出ていない?」

「突然どうしたの?」

「いきなり言われてびっくりだけど。わたしたちは部屋から出てはいないよ。わたしたちは紅茶を飲みながらお喋りしていたから」

 紅茶が入っていると思われるカップを持ち上げ、この部屋から出ていないことをメリュジーナが言う。

 どうやら2人はこの部屋から出てはいないようだ。

「それは良かった。この町にマネットライムと呼ばれるモンスターが現れた。やつは変身能力にたけており、普通は見分けることが困難だ」

 2人にモンスターの特徴を伝え、見分けることが難しい理由を語る

「そんなに手強いモンスターがこの町にいるなんて」

「それは一大事だね……でも、そうなるとルナを怪しんだ方が良いかもしれない」

「どうして私が疑われるのよ!」

 突然メリュジーナがルナさんを疑った方が良いと言い出す。

「確かにわたしが見ていたときは、この部屋には一歩も出てはいない。だけどわたしがトイレに篭っていた時間帯がある。もし、このルナが本物ではなかった場合、その時間を利用して外に出た可能性も否定できない」

「それならメリュジーナだって言えることじゃないのよ! トイレに行っているフリをして、こっそりと部屋から出たんじゃないの!」

 突然容疑者扱いをされ、ルナさんはメリュジーナを疑い出す。

 まぁ、いきなり犯人の可能性があると言われると、反論してしまうものだよな。

 俺的には2人ともアリバイはあると思っているけど、ここはちゃんと証明をして、彼女たちを納得させるしかないな。

「分かった。ここは俺に任せてくれ。2人とも白であることを証明しよう」
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