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第十三章

第一話 名犬ルオの朝は早い

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~ルオ視点~





 俺の名はシャカール……おっと、この名前は昔の名だったな。訂正しよう。俺の名前はルオ、ルーナの弟を略してルオだ。

 俺と同じ容姿で、姉さんから俺と同じ名を授けてもらったシャカールの提案に乗り、俺は子犬の姿となって姉さんの側に居ることにした。

だが、姉さんは俺を飼ってくれないと言い出したんだ。

何でだよ! 姉さんに気に入ってもらおうと、あんなに一生懸命にアピールをしたと言うのに!

しかし、姉さんはシャカールに飼うように命じ、俺はこうして子犬の姿でシェアハウスの自宅警備員となって暮らしている。

自宅警備員の朝は早い。みんなが起きる時間よりも早く起床し、シェアハウスの見回りをしなければならない。

『よし、リビングも異常なし。次は脱衣所だな』

 リビングに不審物がないことを確認し、俺は次に脱衣所に向かう。

 うん? 何だ? あれは?

 脱衣所に辿り着くと、白い布が落ちていることに気付いた。近付いてみると、誰かの白いパンツが落ちている。

 こんなところに脱ぎ捨てているなんて。ちゃんと籠に入れないといけないじゃないか。

 誰がこんなことをしたのか、犯人を特定するために、パンツに近付く。そして持ち主を特定するために匂いを嗅いだ。

 クンクン。この匂いはアイリンのだな。全く、ちゃんと脱いだものは籠に入れる。でないと紛失する可能性だってあり得る。

 パンツを加え、首を振って勢い良く放り投げる。すると、舞い上がったパンツは放物線を描くように移動し、籠の中へと落下した。

『これでよし』

 一仕事を終えて気分良くこの場を去ろうと思った俺だった。だが、あることに気付いてしまう。

 地面に落ちている女の子のパンツの匂いを嗅ぎ、口に咥える。完全に変態じゃないか!

 いやいやいや、人の姿じゃないのだからセーフだろう? 匂いを嗅いだのだって、犬の嗅覚の鋭さを利用しただけだし、前足で掴んで後ろ足で立つなんて器用なこと、俺にはできない。

 変態的な行動に正当性を述べる。しかし、肉体は子犬の姿でも、精神は男なんだ。

 己が変態的な行動を取ったことにショックを感じつにはいられない。

『そうだ。俺がこんな気持ちになってしまったのも、アイリンのせいだ。後で、このことをシャカールに報告し、アイリンにはちゃんと脱いだ物を籠の中に入れるように言ってもらおう。

『そろそろ、みんなが起きる時間じゃないのか?』

 ある程度シェアハウスの中の警備を終えると、目を覚ましたみんなが起きてリビングに集まってきた。

「あ、ルオおはよう。もう起きているなんて早いわね」

『ワン!』

 タマモおはよう! 今日は寝起きが良さそうで良かったよ。あの時はすまなかったな。

「おはようございます。ルオさん今日も天気が良いですね」

『ワン!』

 クリープおはよう! 今日も大人の雰囲気を醸し出しているじゃないか

「ルオちゃんおはよう! 今日もマーヤはシャカールちゃんを籠絡させるために頑張るね」

『ワン!』

 マーヤおはよう! あいつは簡単には落ちないだろうが、頑張れよ!

「ルオおはよう。朝から尻尾を振って元気だね」

『ワン!』

 ナナミおはよう! 早起きは三文の得と言うからな! 朝から元気バリバリだぜ!

「ふあー、ルオおはよう。あなたは朝から元気ですね。わたしは夜更かししていたので、まだ眠いです」

『ワン! ワン! ワン! ワワワン!』

 アイリンてめぇ! 脱いだ服はちゃんと籠に入れろ! お前のせいで、俺は変態行動に出ないといけない状態になったんだぞ! 今すぐ謝れ!

「ルオは朝から元気で羨ましいです。犬は良いですね。家で1日ぐうたらと過ごすと良いのですから」

 全然俺の言っていることが通じない。まぁ、当然と言えば当然だが。

 アイリンに怒っていると、最後に黒髪の少年がやってきた。

「ルオ、おはよう」

『…………』

「おい、無視かよ! さっきまでみんなに挨拶していただろうが!」

「「「「「あははははははは」」」」」

 俺が無視してシャカールがツッコミを入れた瞬間、女性陣たちが一斉に笑い出す。その後彼は俺を抱き抱えると顔を近付け、小声で囁く。

「おい、誰のお陰でこのシェアハウスで生活できていると思っているんだ。あんまり舐めた態度を取ると、今度こそ倒して強制的に成仏させてやるぞ」

『舐めた態度だと? それはこっちのセリフだ。お前の話では、俺は姉さんに飼われるはずだったじゃないか。それなのに、どうしてこうなってしまうんだよ。まずは約束を破ってごめんなさいって言え。じゃないと、お前のパンツを全て処分するからな』

「地味に嫌な仕返しだな。分かった。今度どうしてルーナがお前を飼ってくれないのかを聞いといてやる。今度はうまく説得してみせるから、今だけ我慢してくれ」

『チッ、絶対だからな。もし、次に約束を破ったら、パンツとズボンを全て処分して、フルチンで登校してもらう』

 話がまとまると、俺は下ろしてもらい、自由となる。

 しばらくすると、俺専用の皿の上にドックフードが入れられた。空腹状態だった俺は、喜んで朝食を食べる。

 最初の頃は抵抗があった。何せ、肉体は犬でも、中身は神族なのだから。しかし食べてみると意外と美味い。

 あのカリカリとした食感の中に、肉や野菜の旨味が凝縮されており、こんなに美味いものなのかと思ってしまうほどだった。

 しばらくすると、みんなが校舎へと向かう時間となる。そんな彼らの背を見送りながら、俺は今日も一日、このシェアハウスの平和を守るために、自宅警備員の仕事を頑張るのであった。
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