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第十二章

第十四話 ルーナの弟VSシャカール

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 これは、俺がカレンニサキホコルと別れて行動していた時に遡る。

「カレンニサキホコルの協力も得たし、俺は俺で残りの3人を探さないとな」

 学園中を探して走り回っていると、俺にそっくりな人物を発見した。

 彼は学園の生徒に何かを話しているようだが、会話の内容までは聞き取ることができない。

「見つけたぞ!」

「チッ、こうも早く見つかるとはな。でも、ここで捕まる訳にはいかない。お前を倒すのは、全ての駒が揃ってからだ」

 俺が登場したことがやつにとっては都合が悪いらしく、ルーナの弟は背を向けて走り出した。

 同じ顔の人物が2人居るのを目撃して、困惑している生徒を横切り、彼を追い掛ける。

「待ちやがれ!」

『待てと呼ばれて待つほど、俺は素直な性格をしていないからな。だから待つ訳がないだろう!』

 ルーナの弟を追いかけてさえいれば、やつがシェアハウスのメンバーたちと接触することは避けられる。そしてその間にカレンニサキホコルが、残りのみんなを発見して帰るように促せば、待機しているタマモが事情を説明してくれるだろう。

 みんなが一箇所に集まれば、彼女たちが惑わされることはないはず。

 そう判断して追いかけるが、少しも距離を縮めることができない。

 身体能力は同じか。自分と同じ容姿だけあって、まるで自分自身で追いかけっこをしているみたいだ。

『お前もしつこいな。しつこい男は女性から嫌われるぞ!』

「生憎、優良物件なんでな。将来安泰のために寄って来る女性は数多く居る」

『うぜー! 俺から言い出したことだが、モテますアピールされてめちゃくちゃうぜー!』

 言葉でカウンターをすると、ルーナの弟は速度を落としたのか、距離が少しだけ縮まった。

 俺の言葉に動揺して、走るリズムを崩したようだな。

 このままなら、追い付けるだろう。

 そのように確信していると、やつは門を抜け、学園の外へと走り出す。

 学園の外に逃げやがったか。やつが学園内に居なければ接触されるリスクはないので、これ以上追いかけるのはあまり意味がない。だけど、やつを捕まえない限りはまた侵入してくるのは明白だ。

 なら、このまま追いかけて捉える方が、学園の平和への近道となる。

 追跡を諦めることなく追いかけ続けるとやつは森の中へと入っていく。

 足場が悪い中、俺とやつと距離は次第に縮まっていく。

 どうやら、やつは足場の悪い場所での走りには慣れていないようだな。

 俺はこれまで、森の中を走った経験がある。だからどのように走るのがベストなのか、その件に関してのノウハウは持ち合わせている。

 だから多少走り辛くとも、この程度なら問題ない。

 やつとの距離まで約1メートルまで縮めた。このまま手を伸ばしつつ走れば、捉えることができるだろう。

 あともう少しだ。あと1センチ間合いを詰めれば手が届く。

 自身の勝利を確信したときだ。急にやつの姿が消えたかと思うと、背中に衝撃を受けた。

 そして足元には地面を踏み締める感覚がなく、浮遊感を覚える。

 おいおい、マジかよ。

 嫌な予感がして足元を見ると、奥底には川があった。どうやら俺は、崖に突き落とされたようだな。

 重力に引っ張られ、俺は川に背を向けるような体勢になる。この時、まるでスローモーションの動きのように、ゆっくりと時間が流れるように錯覚した。

『俺の作戦勝ちだな。俺はここに誘導させるために敢えて速度を落とした。人間、後もう少しで何かが手に入ろうとすれば必死になり、周りが見えなくなる。崖の存在に気付かれないように動き、目の前に来た瞬間に背後に回って蹴り飛ばさせてもらったぜ。この程度でお前が死ぬようなことはないと思うが、時間稼ぎをさせてもらう』

 やつの言葉が耳に入った直後、スローモーションから解放されたかのように、俺の体は一気に重力に引き寄せられ、川へと落下する。

 その後、川に落下した時の水面を叩きつける際に生じる痛みを感じ、その影響でうまく体を動かすことができずにいた。

 まずい。水を飲んでしまった。着ている服も水分を吸収して重くなっている。

 パニック状態に陥った俺は、上手く這い上がることができずにどんどん川底へと向かっていく。

 このままでは溺死してしまう。俺が死ぬようなことになれば、やつが俺となって今後の学園生活を送っていくことになるだろう。

 やばい……意識が……俺……この……し……のか。
 





「ガハッ、ゴホッ、ガハッ」

 胃の中に入っていたものが逆流して咽せたときのような感覚を覚え、目を覚ました。

 視界には、うっすらと女の子のような人物が見える。目がぼやけて輪郭ははっきりとしてはいないが、頭には馬の耳のようなものがある。

 馬の……ケモノ族?

「目が覚めましたか。あなたが飲み込んだ水は吐き出させました。偶然私が近くを通りかかって良かったですね」

「おーい、妹よ! どこに行った! 俺が目を離した隙に消えないでくれ」

「この声は兄さん。このままこっちに来られると面倒ですね。それでは、私はこれで。目が覚めたのであれば、自分の足で帰ることができるでしょう」

 馬のケモノ族と思われる女の子は、俺から離れるとこの場から去っていく。

 彼女はいったい? 今度あった時は礼を言わなければ。

 そう思っていると、俺は再び意識が遠くなっていく。






「今のは夢?」

 目が覚めると、俺はこの場に1人だった。どうやって岸に上がれたのかは覚えていない。誰かが助けてくれたような気がするが、殆ど覚えていない。

 覚えているのは、夢の中で馬のケモノ族の女の子が助けてくれたと言うこと。

「そうだ! 早く戻らないと、ルーナの弟がみんなと接触してしまう!」

 体のだるさが残る中、俺は急いでシェアハウスへと戻っていく。

 だが、時既に遅かった。シェアハウスにはみんなが集まっていたが、その中にやつがいた。

 だけど、動揺してはいけない。隙を見せれば、やつの思う壺となるだろう。

「よぉ、ルーナの弟。さっきは良くもやってくれたな。お陰でケガをしてボロボロだ。だけど隙を付いてシェアハウスに乗り込んだのが運の尽きだ。ここでお前を捕まえる」

 威勢よく言葉を吐き、挑発するかのようにルーナの弟を見た。
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