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第九章
第三十一話話 トラッポラ記念⑦
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~クリープ視点~
第2のギミックの出口は、実は第1ギミックにあることを知ったママたちは、急ぎ引き返しました。そして落とし穴の中から第2ギミックへと通じる穴を見つけ、その中に飛び降り、長い通路を走って地上へと上がると、ママたちは無事に第2のギミックを突破します。
『先頭を走っているのはアストリア、そしてアケボーノが5メートル差まで追い詰める。それから10メートル差でしょうか? クリープ、サザンクロス、オグニが追いかける展開となっています。そしてそれ以外の走者は依然、第2ギミックを抜けずにいる!』
実況者の声が耳に入って来る中、ママたちは最後のギミックへと向かいました。
すると、オグニちゃんがお腹を摩っているのが視界の端に移ります。
「オグニちゃん、もしかしてお腹が空いていますか?」
「ああ、まだ大丈夫だが、少々小腹が空いてきたなと思ってだな。多分、レースが終わるまでは持つと思う」
「まぁ、それは大変! お腹が空いては、走者は走れませんよ。良かったらこれを食べてください」
ポケットに手を突っ込むと、中から大福を取り出します。ママの勝負服のポケットは、簡易的なアイテムボックスになっています。なので、これくらいのサイズなら、いくらでも収納することが可能なのです。
「それは本当か! でも、それは君のおやつなのではないのか? もしそうなら、受け取るのは申し訳ないのだが」
「これはママが手作りしたものです。たくさん作っていましたので、食べきれなかったのです。寧ろ貰っていただけると助かります」
余り物をお裾分けするだけだと言うと、オグニちゃんは目を輝かせて受け取りました。
「では、遠慮なくいただく……うん、外の皮がもっちりとしていて噛みごたえがあるな。大福と言ったか。聞いたことがない食べ物だ。うん、美味い」
オグニちゃんは一口食べてしばらく咀嚼した後、感想を口にしました。
「この大福は、和の国の食べ物です」
「異国には、こんなに美味しい食べ物があるのか」
「サザンクロスちゃんも食べます? まだありますよ」
「ウチはヨカケン。大福とか、食い飽きているタイ。それに良くレース中に食えるなぁ」
「もが、もご、まが、もこ」
「何を言っているのかちっとも分からんタイ」
「オグニちゃん、お行儀が悪いですから、食べ物を口に入れたまま喋ってはダメですよ」
「いや、注意するとこ、そこじゃナカタイ」
サザンクロスちゃんに注意を受けながらも、ママはしめしめと思いました。
皮のお餅は弾力があるので、咀嚼回数が増えます。そして噛めば噛むほど満腹中枢を刺激され、少量で満腹感を味わえます。
これで、オグニちゃんの怪物が目覚めることはないでしょう。あとはサザンクロスちゃんの対策ですね。
2人には助けてもらいましたが、このレースにはシャカール君の転校がかかっています。負ける訳にはいかない以上、良い子の味方のママは、敢えて悪女になりましょう。
3人で並走して走っていると、最後のギミックに到達しました。前方を走っていたアストレアやアケボーノは、次々と襲い掛かるトラップに苦戦している様子です。
『さぁ、ここでクリープたちが追い付いてきた。最後のギミックは、トラッポラ記念の代名詞、トラップだらけのエリアだ!』
『このエリアは様々なトラップが仕掛けられています。無事に抜け出せるのでしょうか』
前方を走っているアストレアたちを見る限り、一歩足を踏み入れる毎に、何かしらのトラップが発動しているようですね。
「ほう、面白そうなギミックバイ。なら、ウチが攻めさせてもらうケン」
サザンクロスちゃんが前に出ると、そのままギミックエリアに突入しました。彼女が一歩足を踏み入れた瞬間に矢が飛んで来ましたが、矢がサザンクロスちゃんを貫くことはありません。
矢が彼女の立っていた場所に到達する頃には、既にサザンクロスちゃんはその場にはいません。
「相変わらずの瞬発力だな。足を踏み入れた瞬間に直ぐに跳躍して前に飛ぶ。その動きは、まるで一瞬で落ちる落雷の如くの速さだ」
『サザンクロス走者がここで一気にギミックエリアを駆け抜ける! まるで何もないかのように左右に動きつつトラップを回避して行く! 今、アケボーノとアストレアを抜いて1位に浮上だ!』
サザンクロスちゃんの走りに圧倒されつつも、ママは気合いを入れ直します。
さすが白い俊雷と呼ばれたサザンクロスちゃんです。でも、ママも負けてはいません。ウサギのケモノ族の跳躍力を甘くみないでください。
サザンクロスちゃんに負ける訳にはいかなかったママは、足を一歩踏み入れます。
サザンクロスちゃんの時と同様に矢が襲って来ましたが、ママの体を貫く前に跳躍して前に飛びます。
すると今度は火炎放射が襲って来ました。ですが、それもジャンプで躱していきます。
サザンクロスちゃんが素早く左右に動くことでトラップを回避するのであれば、ママは高い跳躍力で前に進み、トラップの発動回数を減らします。
『クリープ走者! 自慢の跳躍力でトラップを回避しつつ前へと進み、2位に浮上する』
最後のギミックはママと相性が良かったのか、あまり苦戦することなく、ギミックエリアを突破することが出来ました。
目指すのは前を走るサザンクロスちゃんを追い抜き、1位でゴール板を駆け抜けることです。
勝負をかけるのは、最後のカーブです。円弧の舞姫の走りを特と御覧あれ!
最終コーナーに入ったママは、素早くコーナーリングを行います。
「アン・デュー・トロワ!」
『ここでクリープ走者がお得意のコーナーリングでサザンクロス走者に追い付いた!』
『高い跳躍力でジャンプしつつ、少ない歩幅でカーブを曲がる姿は、まるでコーナーで踊る舞姫のようですなぁ』
「やっぱり、最終コーナーで追い付いてきたバイ。でも、アタに負けるつもりはナカタイ。ウチが勝って、真の3強はサザンクロスであることを照明してみせる!」
『クリープとサザンクロスが激しいデットヒートを見せる中、ここで凄い追い上げをみせる者が現れた! 地方の怪物、オグニだ!』
実況の言葉が耳に入り、ママは振り返ります。
「お腹空いたああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
空腹だと叫びながら、オグニちゃんが物凄い速度で追い上げて来ました。
嘘! どうしてお腹が空いているの! オグニちゃんの空腹は、ママのお手製大福で満たされたはずなのに!
第2のギミックの出口は、実は第1ギミックにあることを知ったママたちは、急ぎ引き返しました。そして落とし穴の中から第2ギミックへと通じる穴を見つけ、その中に飛び降り、長い通路を走って地上へと上がると、ママたちは無事に第2のギミックを突破します。
『先頭を走っているのはアストリア、そしてアケボーノが5メートル差まで追い詰める。それから10メートル差でしょうか? クリープ、サザンクロス、オグニが追いかける展開となっています。そしてそれ以外の走者は依然、第2ギミックを抜けずにいる!』
実況者の声が耳に入って来る中、ママたちは最後のギミックへと向かいました。
すると、オグニちゃんがお腹を摩っているのが視界の端に移ります。
「オグニちゃん、もしかしてお腹が空いていますか?」
「ああ、まだ大丈夫だが、少々小腹が空いてきたなと思ってだな。多分、レースが終わるまでは持つと思う」
「まぁ、それは大変! お腹が空いては、走者は走れませんよ。良かったらこれを食べてください」
ポケットに手を突っ込むと、中から大福を取り出します。ママの勝負服のポケットは、簡易的なアイテムボックスになっています。なので、これくらいのサイズなら、いくらでも収納することが可能なのです。
「それは本当か! でも、それは君のおやつなのではないのか? もしそうなら、受け取るのは申し訳ないのだが」
「これはママが手作りしたものです。たくさん作っていましたので、食べきれなかったのです。寧ろ貰っていただけると助かります」
余り物をお裾分けするだけだと言うと、オグニちゃんは目を輝かせて受け取りました。
「では、遠慮なくいただく……うん、外の皮がもっちりとしていて噛みごたえがあるな。大福と言ったか。聞いたことがない食べ物だ。うん、美味い」
オグニちゃんは一口食べてしばらく咀嚼した後、感想を口にしました。
「この大福は、和の国の食べ物です」
「異国には、こんなに美味しい食べ物があるのか」
「サザンクロスちゃんも食べます? まだありますよ」
「ウチはヨカケン。大福とか、食い飽きているタイ。それに良くレース中に食えるなぁ」
「もが、もご、まが、もこ」
「何を言っているのかちっとも分からんタイ」
「オグニちゃん、お行儀が悪いですから、食べ物を口に入れたまま喋ってはダメですよ」
「いや、注意するとこ、そこじゃナカタイ」
サザンクロスちゃんに注意を受けながらも、ママはしめしめと思いました。
皮のお餅は弾力があるので、咀嚼回数が増えます。そして噛めば噛むほど満腹中枢を刺激され、少量で満腹感を味わえます。
これで、オグニちゃんの怪物が目覚めることはないでしょう。あとはサザンクロスちゃんの対策ですね。
2人には助けてもらいましたが、このレースにはシャカール君の転校がかかっています。負ける訳にはいかない以上、良い子の味方のママは、敢えて悪女になりましょう。
3人で並走して走っていると、最後のギミックに到達しました。前方を走っていたアストレアやアケボーノは、次々と襲い掛かるトラップに苦戦している様子です。
『さぁ、ここでクリープたちが追い付いてきた。最後のギミックは、トラッポラ記念の代名詞、トラップだらけのエリアだ!』
『このエリアは様々なトラップが仕掛けられています。無事に抜け出せるのでしょうか』
前方を走っているアストレアたちを見る限り、一歩足を踏み入れる毎に、何かしらのトラップが発動しているようですね。
「ほう、面白そうなギミックバイ。なら、ウチが攻めさせてもらうケン」
サザンクロスちゃんが前に出ると、そのままギミックエリアに突入しました。彼女が一歩足を踏み入れた瞬間に矢が飛んで来ましたが、矢がサザンクロスちゃんを貫くことはありません。
矢が彼女の立っていた場所に到達する頃には、既にサザンクロスちゃんはその場にはいません。
「相変わらずの瞬発力だな。足を踏み入れた瞬間に直ぐに跳躍して前に飛ぶ。その動きは、まるで一瞬で落ちる落雷の如くの速さだ」
『サザンクロス走者がここで一気にギミックエリアを駆け抜ける! まるで何もないかのように左右に動きつつトラップを回避して行く! 今、アケボーノとアストレアを抜いて1位に浮上だ!』
サザンクロスちゃんの走りに圧倒されつつも、ママは気合いを入れ直します。
さすが白い俊雷と呼ばれたサザンクロスちゃんです。でも、ママも負けてはいません。ウサギのケモノ族の跳躍力を甘くみないでください。
サザンクロスちゃんに負ける訳にはいかなかったママは、足を一歩踏み入れます。
サザンクロスちゃんの時と同様に矢が襲って来ましたが、ママの体を貫く前に跳躍して前に飛びます。
すると今度は火炎放射が襲って来ました。ですが、それもジャンプで躱していきます。
サザンクロスちゃんが素早く左右に動くことでトラップを回避するのであれば、ママは高い跳躍力で前に進み、トラップの発動回数を減らします。
『クリープ走者! 自慢の跳躍力でトラップを回避しつつ前へと進み、2位に浮上する』
最後のギミックはママと相性が良かったのか、あまり苦戦することなく、ギミックエリアを突破することが出来ました。
目指すのは前を走るサザンクロスちゃんを追い抜き、1位でゴール板を駆け抜けることです。
勝負をかけるのは、最後のカーブです。円弧の舞姫の走りを特と御覧あれ!
最終コーナーに入ったママは、素早くコーナーリングを行います。
「アン・デュー・トロワ!」
『ここでクリープ走者がお得意のコーナーリングでサザンクロス走者に追い付いた!』
『高い跳躍力でジャンプしつつ、少ない歩幅でカーブを曲がる姿は、まるでコーナーで踊る舞姫のようですなぁ』
「やっぱり、最終コーナーで追い付いてきたバイ。でも、アタに負けるつもりはナカタイ。ウチが勝って、真の3強はサザンクロスであることを照明してみせる!」
『クリープとサザンクロスが激しいデットヒートを見せる中、ここで凄い追い上げをみせる者が現れた! 地方の怪物、オグニだ!』
実況の言葉が耳に入り、ママは振り返ります。
「お腹空いたああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
空腹だと叫びながら、オグニちゃんが物凄い速度で追い上げて来ました。
嘘! どうしてお腹が空いているの! オグニちゃんの空腹は、ママのお手製大福で満たされたはずなのに!
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