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第九章

コラボストーリー もしもシャカールたちが霊馬騎手だったら①

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 本馬場入場の曲が流れる中、俺は右手を突き上げる。

「来い! エアシャカール!」

 声を上げると、俺の目の前には召喚した馬が佇んでいた。

 黒みがかった赤褐色の毛色、額には盾のような形をした白い模様があり、足首には赤色の保護用の肢巻しまきが付けられている。そして赤い手綱は黒みがかった赤褐色の毛色とマッチしており、色合いも素晴らしい。

『この俺と似た名を持つ者がパートナーになるとはな。霊馬となっても、人生とは分からないものだ。この俺を操れるものならやってみろ。俺はそこら辺の馬とは一癖違うからな』

 召喚したエアシャカールの声が耳に届く、霊馬騎手は、霊馬の声を聞くことができる。

「言ってくれるな。この俺は異世界で2冠を取った実力を持つ。お前と同じだ」

『そうか。なら、その実力を俺に証明して見せろ。霊馬競馬は、お前たちの走りとは違うのだからな』

 契約者に対してこの挑発。簡単には懐かないのは俺と同じか。

「面白い。俺はお前を使いこなした上で、この記念レースに優勝してみせる」

 俺はこのレースでのパートナーであるエアシャカールに騎乗すると、手綱を操作して芝コースへと入り、本馬場入場を始める。

「さぁ、最初に入って来ましたのは、エアシャカールです。生前は最も3冠に近付いた名馬として名を馳せています。果たして今回はどのような走りを私たちに見せてくれるのでしょうか! あの斜行伝説を見ることができるのか、注目して行きましょう。騎乗騎手はシャカール」

 芝の上でエアシャカールを軽く走らせる。すると、今回のレースを実況する中山が、俺たちのことを紹介し始める声が耳に入ってきた。

 大丈夫だ。今のところは問題ない。これなら、良いレースが出来そうだ。

『続いて現れたのはあの幻の三冠馬! 2番、アグネスタキオン! レースの出走数は少ないものの、その実力は折り紙付き! 人気も1番人気となっています。騎乗騎手はルーナ』

 ルーナのやつは、幻の三冠馬か。3冠王コレクターと呼ばれた彼女には、相応しくもある強敵だな。

『2冠牝馬の実力は伊達ではない。優雅に可憐に大胆に、霊馬となっても可憐な走りで他の馬を引っ張って行くでしょう。俊足の走りが再び大輪の花を咲かせます。3番、ダイワスカーレット! 騎乗騎手はタマモ』

 タマモはスカーレット一族の血を引き継ぐダイワスカーレットか。同じスカーレットと言うことで、彼女を選んだのかもしれないな。

『平成初代3強と呼ばれた名馬が再びこの地に降臨だ! 長距離ならお任せあれ、可憐なコーナーリングで差を開いて見せる! 4番、スーパークリーク! 鞍上はクリープ騎手』

 クリープは平成初期の競馬界を賑わせた名馬か。長距離レースを数多く優勝している。油断はできない。

『春秋グランプリ覇者がここに降臨だ! 決まった脚質を持っておらず、その日の気分で走るその走りは、多くの者を魅了するだろう。5番、マヤノトップガン! 鞍上はマーヤ騎手』

 マーヤも自分の脚質に近い馬を選んだか。どんな戦法で来るのか走って見ないと分からないパンドラの箱のような馬だ。この馬の油断はできない。

『短距離には自信がある、その素早い走りは多くの馬を蹴散らして先頭ハナを奪うだろう! スプリンターの名に恥じない走りで、多くの観客を圧倒させて見せる! 6番、サクラバクシンオー! 騎手はアイリン騎手!』

 続いてアイリンが紹介されたが。本当に良いのか? 確か今回のレースは2500メートルの長距離戦だったはず。どう考えても無理にしか思えない。あいつ、バクシンと言う名がついているから、何も考えないで選んだだけじゃないのか? 無様な走りをしないか、俺の方が心配してしまう。

『平成初代3強はスーパークリークだけではない。この存在を忘れては困る! 地方の怪物と呼ばれたその実力を思い知れ! 馬群に輝く白きホース! 7番、オグリキャップ! 鞍上はオグニ騎手!』

 えーと、あの子は全然知らないな。俺たちと同じで召喚に巻き込まれたのだろうか? でも、クリープが近付いたな。もしかして知り合いなのか?

『純白のリボン風に編み込みを取り付けたたてがみは、多くの女性ファンの心を掴みます。グッドルッキングホース! 8番、ユキノビジン! 騎手はアイネスビジン騎手』

 アイネスビジンも居たのか。人馬共に美しい容姿は、確かに多くの観戦客の心を掴みそうだな。

『白い稲妻と呼ばれて幾星霜、父と同じ二つ名で驚異の末脚を見せる! 後方に位置取りしているからと言って油断するな! あっと言う間に追い抜いて見せる! 9番、タマモクロス! 鞍上はサザンクロス騎手』

 サザンクロスの登場に、観客の男性陣は歓声を上げる。うん、まぁ、確かに可愛らしいよ。見た目はどう見たって女の子にしか見えない。でも、彼は自称男と主張しているんだぜ。

 まぁ、真実は知らない方が幸せと言う言葉もある。俺がここで言うことは何もないな。うん。

『最後に現れたのは10番、ゴールドシップ! 後方から追い縋るその脚質は、どの馬よりも驚異とも言える。G I7勝の走りが復活だ! 刮目して見よ! 騎手はコールドシーフ騎手! 以上10頭の名馬たちでお送りします』

 まさか、コールドシーフまで居るとはな。俺の知り合いがほとんどじゃないか。全員が強敵だ。元の世界でも全員と競ったことはないと言うのに、まさか、こっちの世界で霊馬騎手として競うことになるとは。

 様々な強敵相手たちを目の前にして、鼓動が高鳴る中、俺はエアシャカールをポケットと呼ばれる場所に移動させ、馬の昂った気持ちを一旦落ち着かせる。

 何十周もグルグルと回っていると、ようやく出走時間が訪れた。

 ファンファーレがなり始め、俺は気合いを入れる。

『ファ~ン、ファ~ン、ファファ~ン、ファン、ファ、ファ~ン! ファン、ファン、ファン、ファ~ン! ファ~ン、ファ~ン、ファファ~ン、ファン、ファ、ファ~ン! ファン、ファン、ファン、ファ~ン!』

 ポケットから芝のコースに移動し、整馬係ゲート係が来るのを待つ。すると、1人の男性が俺のところに来た。

「待たせたな。俺の名は奇跡の名馬だ」

「奇跡の名馬?」

 自己紹介をしてもらったが、可笑しな名だ。普通に考えてそんな名前はつけないはず。きっと、その名前で苦労しているのだろうな。

「おい、その顔絶対に誤解しているな。言っておくが、これは本名ではない。二つ名だ。俺たち霊馬騎手の多くは、望んだ馬との召喚成功率を上げるために、馬の名前が付けられている。だけど、真名がバレると、契約している馬が露見し、レースで対策を取られる。だから二つ名で真名を隠すんだ」

 奇跡の名馬から事情を聞き、納得した。なるほど、この世界の人間も苦労しているんだな。

 つまり、俺がエアシャカールを召喚したのも、名が似ているからなのか? そう言えば、アイリン以外はどこか名前が似ているような気がする。

「と言っても、今回限りのスペシャルゲストであるお前には真名を言っても変わらないか。俺の真名は東海帝王トウカイテイオウだ。あ、言っておくが、霊馬契約をしているのはトウカイテイオーではなく、伝説の負け馬と呼ばれたハルウララだ」

「帝王! 何しているの! 早くしないと時間が過ぎちゃうよ!」

 東海帝王トウカイテイオウに向け、一人の整馬係ゲート係の女の子が注意を促して来る。

「クロ済まない。長話はこの変にしてゲート入りをするぞ」

 整馬係ゲート係東海帝王トウカイテイオウはクロと呼ばれた女の子に謝ると、俺たちを誘導し、俺とエアシャカールはゲート入りを始める。

『それでは、ゲート入りが完了するまで、もう少し時間がかかりますので、このコーナーに行きましょう。中山と!』

『トラちゃんの!』

『『馬券対決!』』

 他のみんながゲート入りをするのを待っている間、観客の暇を無くすための時間稼ぎをしているのだろうか? 実況と解説がプチコーナーを始める。

『それではまず私からですね。私は1着アグネスタキオン、2着ゴールシップ、3着エアシャカールの予想で3連単にしました。3連単とは1着から3着まで全てが的中すれば払戻金が発生します。これは的中するのは難しいですが、見事的中すれば、数十万のお金が手に入るかもしれませんので、今回はビッグな夢を掴んでみようと思います。では、トラちゃんの予想はどうですか?』

『はい、色々と悩みましたが、私はユキノビジンにしました。だってあのリボンのような編み込みが可愛い! 私の方は、単勝ではなく、応援馬券にしました。こちらの場合、単勝と複勝の2つの効果を持ちますのでお得です。複勝と言うのは、勝って欲しい馬が3着以内でゴールした時に、払い戻しが発生します。初心者の方は複勝で購入するのがおすすめですが、複勝の場合は払い戻し金額が3分の1にまで減少してしまいますので、ご注意くださいね!』

『トラちゃんありがとうございます。さぁ、会場の皆さんもご参考にしてはいかがでしょうか? おっと、このコーナーをしている間にも、10番のゴールドシップが中々ゲート入りをしません。ここでコールドシーフが彼に目隠しをして誘導、ゲート入りを完了されました。まもなく、レースが開始されますよ』

 2人の馬券対決と言う名の時間稼ぎをしていると、ついに俺たち全員がゲート入りを完了させた。

 さぁ、レースが始まる。果たしてこのレース、いったいどんなドラマが待ち受けているのだろうか。
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