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第九章

第二十四話 編入をかけた勝負

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 ルーナがローレルを使い、集まるように言伝をすると、合宿メンバー全員がリビングに集まった。

「全員揃ったようだね。では、話すとしよう。先ほど、マッスル先生がシャカールを編入させたいと言い、レースで勝負をすることになった。レースは長距離のトラッポラ記念、そしてもうひとつは同じく長距離のレコンドル杯だ。2勝した方の勝ち、引き分けの場合はトレードと言う形でシャカールの代わりに別の走者が我が学園に編入して来る」

「「「「「「はあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」」」」」

 ルーナの言葉を聞いた女性陣たちは一斉に驚きの声を上げた。

「ルーナ学園長! それってどう言うことですか! 引き分けの場合トレードって、完全に相手に有利な条件じゃないですか!」

「タマちゃんの言う通りです! シャカール君はまだ完全に良い子にはなっていないと言うのに、どうしてそんな条件を呑んでしまったのですか! ママは納得できません!」

「シャカールちゃんが転校するなら、マーヤも一緒に転校する! そうじゃないとその条件は呑めないよ!」

「シャカールトレーナーが居なくなったら、わたしのストレスの吐口がなくなってしまいます! ついでにアイネスビジンさんにも負け続けることになるので嫌です!」

 タマモたちが一斉に抗議の声を上げる。

「ほう、シャカールがウチたちの学園に編入するレース勝負か。そりゃヨカバイ良いね。なら、ウチは大賛成タイだよ。彼がいたら、ウチはもっと強くなれそうな気がするケンから

「アタシ的にはどうでも良いけど、レコンドル杯はどっちにしろ出走するレースだから、それに条件が付いただけだな。アタシの秘密の作戦を試す良い機会とでも思っておくとするか」

 タマモたちとは逆に、マッスル先生側のサザンクロスと、コールドシーフは賛成の意を示す。

 まぁ、こうなるだろうと最初から分かっていた。さて、どうやってルーナがタマモたちを納得させるのか、お手並み拝見といこうか。

「どうして、このような条件で勝負を受け入れたのか、その理由はシャカールが語ってくれる」

 って、俺かよ!

 いきなり面倒な役を押し付けてきたので、思わず心の中でツッコミを入れる。

 ルーナからのパスを受け、タマモたちが俺に視線を向けた。

 くそう。こうなったら、ルーナの考えていそうなセリフをトレースするんだ。

 思考を巡らして、ルーナが言いそうな言葉を考える。

「確かに、俺たち側からすればハンデが大きい。だが、逆に言うと、俺たちの方が実力としては上だ。だから、ハンデとしてこのような条件を敢えて呑んだと言う訳だ。みんなはこの夏合宿の間、地獄のようなトレーニングを熟してきた」

 両の瞼を閉じ、夏合宿のことを思い出す。

 バカップルの部屋に案内されたり、サザンクロスと相部屋となって寝不足の日々を送ったり、サザンクロスが女の子だと知って裁判となり、有罪判決となったり……あれ? 俺ってどっちかと言うと、トレーニングとは関係ないところで地獄の日々を送っていないか? 思い出しただけで悲しくなってくるのだが。

「とにかく、ルーナはみんなの成長を理解した上で、このような条件を敢えて呑んだんだ。そこは分かってほしい。大丈夫だ。サザンクロスたちには負けない。自分たちを信じろ」

 演説のような説明が終わり、数秒の間沈黙が流れる。

 あれ? 拍手とかないな。もしかして、俺、滑ったことを口走ってしまったのか?

「はぁ、そこまで言われると仕方がないわね。あたしたちの力を信じましょう」

「そうですね。シャカール君が頑張って恥ずかしいセリフを言って下さったのですから、ママたちも応えてあげないとですね」

「シャカールちゃんの気持ち、受け取ったよ! マーヤはマーヤの力を信じる!」

「皆さん頑張ってくださいね! わたしは短距離、マイルが専門なので、今回は応援です……ふぅ、面倒なことに巻き込まれなくって良かったです。もし負けたら、責任重大ですよ。そんな責任、わたしは背負えません。今回ばかりは、スタミナがなくって良かったです」

 どうやら、一時的に言葉を失っていただけだったようだ。そしてアイリンよ。小声ではなく、心の中で言え、俺には聞こえてしまったぞ。

 アイリンの小声が聞こえてしまい、なんとも言えない気持ちになると、サザンクロスが手を叩いて注目を集める。

「盛り上がっているところ悪いが、ウチたちも簡単には負けんケンから。マッスル先生の下で地獄のような筋トレをさせられていた努力は、無駄ではなかったことを知らしめてやるバイだよ

「そうだ! 筋肉は嘘を吐かない! 努力した分だけ筋肉は努力に応えてくれる! 絶対に優勝するのはお前たちだ!」

 サザンクロスの言葉に感動したのか、マッスル先生は涙を流しながら声を上げた。

 さっきはみんなを鼓舞するためにあんな挑発紛いなことを口走ってしまったが、実力は拮抗しているだろう。少しの油断が、敗北に繋がっていくと思っていた方が良い。

「それでは、出走メンバーを決めるとするか。まずはトラッポラ記念だが」

「ちょい待ち! トラッポラ記念はウチが出るケンから。円弧の舞姫、いや、クリープ。去年の決着を付けるバイだよ。誰が3強のトップか、決着を付けるタイ

 ルーナが出走するメンバーを決めると言った直後、サザンクロスがクリープに指を向け、宣戦布告を口にする。しかし、彼女の言葉に妙な違和感を覚えた。

 どっちがなら分かるが、どうして誰と言う表現をしたんだ。まぁ、ただの言い間違えの可能性もあるが。

「まぁ、そうなのですね! それは楽しいレースになりそうです! 良いですよ! ママも負けませんから! うふふ、今から楽しみです」

 両手を合わせて嬉しそうに笑みを浮かべるクリープ。まぁ、変に気を張ってレースを走るよりも、楽しんで走った方が、変な力は入らないで済むだろう。

「決まりだな。もう一つのレコンドル杯はシャカールに出走してもらう。自分で走った方が納得できる結果になるだろう」

「分かった。そっちのほうは俺が走る」

「では、これにて解散としよう。今回のレースは出走登録ができるのは、各学園1人までと言うルールになっているからな」

 出走メンバーも決まり、俺たちはその場で解散することになった。

 果たしてどうなることやら。

「因みにレースの出走時間は同じだ。両方応援することはできないから、どっちを応援するのか今の内に決めておくが良い」

「クリープちゃんも応援したいけど、シャカールちゃんも応援したい。うーん、どっちにしよう」

「わたしはクリープさんを応援します。シャカールトレーナーのことです。なんやかんやで、主人公補正が働いてチートで勝つでしょう。このラノベとか言う書物に出て来る主人公のように」

「あたしはもう少し考えさせてもらうわ」

 それぞれがどっちを応援しに来るのか決めかねているようだ。まぁ、誰が来ようが、俺は優勝することだけを考えるさ。
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