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第九章

第十二話 2人の追いかけっこ

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「お、男!」

「どう見たって女の子にしか見えない。まぁ、男なら、シャカールちゃんが誘惑されずに済むから安心だけど」

「わたしよりも可愛いです。男の子に負けて自信なくしちゃいますよ」

 コールドシーフを迎えに来たサザンクロスは、髪も長くてサラサラとしており、顔も童顔で可愛らしく、更にゴスロリの衣装を着ている。なので、どこからどう見ても女の子にしか見えない。

 そんな彼女の男宣言を聞き、タマモとマーヤ、そしてアイリンが驚きの声を上げた。

「そうなのですよ。サザンクロス君は男の娘なのです。ママも最初知った時は驚いちゃいました。あまりにも可愛くって、つい妹感覚で愛でたくなるのですよね」

「円弧の舞姫! こっちにコントイテ来ないでくれ! 出ないと魔法を放つタイ

 まるで威嚇する子猫のように、サザンクロスはクリープを睨み付ける。

 まぁ、彼女の抱擁は手加減がないからな。男としては嬉しいが、あの胸を押し付けられたら、窒息死をしてしまう。

 何度彼女の胸に命を絶たれそうになったことか。

「うーん、サザンクロス君をヨシヨシしようと思うなら、油断しているときしか無理そうですね。ママ、残念です」

 ため息を吐き、クリープは本気で残念がっているようだ。

「とにかく、自分はハヨウ早くアンポンタンバカを連れ帰らんと、先生にタイギャオゴラレルバイ大変怒られてしまうとよダケンだからハヨウ早くアンポンタンバカを連れて来てくれ」

 早く帰る必要がある。だからコールドシーフを出せとサザンクロスが要求する。

 すると、丁度良いタイミングでローレルがコールドシーフを連れて来てくれた。

「お待たせしました。帰りの準備が整ったので、お連れしました」

「よぉ、サザンクロスじゃないか。元気にしていたか?」

「そのセリフはこっちタイだよ。こんなところにまで来て、みんなに心配駆け寄って」

「悪い、悪い。でもよ、アタシは戻るつもりはない」

「何でタイ!」

「あんな胸糞暑苦しいやつのマッスル合宿なんて受けなければならない」

「まぁ、あの先生の脳筋は異常だケンから、その気持ちは分かるタイ。でも、ヌシャーお前を連れ帰らんと、自分がマッスルダンスを踊らされることになるケンから、それは無理バイだよ

 サザンクロスとコールドシーフが話し合っているようだが、話は平行線のままのようだ。

「とにかく、一旦帰るバイ! 先生の説得は自分もしてやるケン」

「嫌だ。アタシはこの島に残り続ける! 合宿が終わるまで、メイドとして生きるんだ!」

 言葉を吐き捨てると、コールドシーフは走り出した。

ヌシャーお前は良いかげんにセンカしないか!」

 逃げるコールドシーフに、サザンクロスは彼女を捕らえようと魔法を放つ。だが、彼の放った火球は簡単に壊され、足止めにもならない。

「ルーナ、この状況どうする?」

「とにかく、気の済むまでさせてあげるとしよう。体力を使い果たしたら、冷静になるだろう」

 いや、体力を使い果たしたら、帰ることができないじゃないか。

 様子を伺っていると、コールドシーフがこちらに向かって駆けて来る。

 この直線上の距離、不味いな。下手をすればこちらに飛び火が飛んで来るかもしれない。

 そう思った瞬間、その予感は直ぐに的中してしまった。

 サザンクロスが火球を放った直後、コールドシーフが横に跳躍して躱し、標的を外した火球は、こちらに真っ直ぐに飛んで来る。

 マジかよ。こんなに早くフラグ回収をするなって!

 もうスピードで迫って来る火球を、今更跳躍で躱す時間は残されていない。なので、その場で屈んで回避した。

 ふぅ、どうにか巻き込まれずに済んだな。

 俺は追いかけっこを続ける2人を見守る。

 それにしても、あいつら体力があるな。あんなに砂浜を走り回って、息が乱れていないなんて。

 彼女たちの体力と脚力に感心していると、どこからか、焦げ臭い匂いが漂ってきた。

「なぁ、ルーナ? お前、焚き火でも始めたか?」

「いや、ワタシは何もしていないが、ローレルか?」

「いえ、私も何もしてはいないですよ」

 では、この焦げ臭い匂の原因はいったい?

 そう思って、漂って来た匂いを辿って振り返る。

「あ!」

 思わず声を漏らす。

 振り返った先に映った光景は、サザンクロスが乗って来た木製の小舟が燃えていると言うものだった。

「なるほど、焦げ臭い匂いの原因はあれか」

「ルーナ! 何を呑気なことを言っている! 早く消火しないと! ウォーター!」

 水の魔法を発動し、燃えた小舟に向けて放つ。

 炎は直ぐに消され、周囲に被害が出ることはかった。だが、サザンクロスが乗っていた船はボロボロとなり、底に穴が空いている。あれでは海の上に浮かべた瞬間に沈没してしまうだろう。

「あああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 自分が乗って来た小舟がああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 自分の乗って来た木製の小舟が炭になっていることに気付き、サザンクロスは声をあげる。

ドゲンどうしてくれると! ヌシャーお前が逃げ続けたせいで、自分の小舟が炭のように真っ黒になってしまったバイだよ

「アタシのせいにするなよ。炎の魔法を使ったお前が悪い。アタシを早く捕まえられなかったお前が悪い。そう、このような原因を作ったお前が全て悪い」

 木製のボートが燃えたのはお前のせいだと、コールドシーフは罪をなすりつける。

 確かに、何も考えないで火球の魔法を使ったサザンクロスに責任はあるかもしれない。だが、意固地になって逃げ出したコールシーフがこの原因を作り出した原因である。

「まぁ、良いじゃないか。夏合宿の間、アタシとメイド生活を送ろうぜ」

ヌシャーお前と一緒にするな! 自分はこの夏合宿で更に走者として力をつける予定だったタイだよ

 前向きに考えるコールドシーフを、サザンクロスは睨みつける。

 すると、ルーナが数回手を叩き、注目を集めた。

「お前たち、良いかげんにその辺にしろ。小舟が燃えて帰れなくなった以上は、しばらくこの島に残ることになる。その事実は変えようがない。お前たちの先生には、ワタシから連絡しておくから、それまでワタシの元で夏合宿を送ると言うのはどうだ?」

「えー、アタシは嫌だ。トレーニングしたくない。メイドの仕事をした方が楽しい!」

ヌシャーお前は良く見たら、あの無敗の3冠王コレクターのルーナではないか。ヌシャーの下でトレーニングに励めば、自分は更に強くなる。よし、その提案受け入れたバイだよ! でも、あの先生にはコールドシーフが全部悪いと言うことを伝えてほしいタイ。マッスルダンスを踊らされるのは嫌だケンから

 嫌そうにするコールドシーフに対して、サザンクロスは乗り気のようだ。

 こうして、2名が夏の強化合宿に加わった。
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