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第九章
第七話 フェインの策略
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フェインからの手紙だと言われ、メイドさんからそれを受け取った。そして封を切って中に入っている紙に書かれているメッセージに目を通し、黙読をする。
『シャカールへ、この手紙を君が呼んでいると言うことは、おそらく夏の強化合宿が始まった頃だろう。夏は良い。女の子がほぼ半裸の状態で砂浜を駆け回り、君の目の保養になるだろうからね。きっと君の視線はタマモの胸に釘付けとなるだろう。兄として許す! だが、タマモの機嫌を損なわないように上手くやってくれよ』
お前も俺のことを年中発情期種族だと言いたいのか!
心の中で叫び、その場で手紙を千切り捨てたい衝動に駆られるも、まだ続きがあったのでグッと堪える。
『まぁ、冗談はこの辺にして本題に入ろう。メイドから手紙を受け取ったかと思うが、彼女の名前はローレル。君の将来の専属メイドさんだ』
こいつ、本題に入ると言いつつ、ふざけているのか? どうして目の前にいるメイドさんが俺の将来のメイドさんになる?
疑問に思いつつも、続きを読む。
『何? ふざけるなだと? いや、俺は真剣に言っている。前回も言ったかと思うが、俺の失態でスカーレット家は奴隷落ちとなりかけている。どうにか最悪の事態に備えて準備はしているが、万が一のことを考えてタマモを君の嫁にしたいと提案したことを覚えているかね?』
そう言えば、そんなことがあったな。色々なことがありすぎて忘れていたが、フェインはなんやかんやで妹のタマモのことを大事にしている。自分は奴隷になっても、妹だけはそんな未来は避けたい。そこで2冠を取った俺の嫁になれば、少なくとも奴隷落ちだけは免れると言う、彼なりの策略だった。
でも、だからと言って、奴隷になるのを避けるために好きでもない相手に嫁ぐようなことは、タマモもしたくはないだろう。そんなことを知れば彼女のことだ。兄の言うことは聞かずに、自分も奴隷になる道を選ぶだろう。
そうならないためにも、俺は走者委員会のトップであるブッヒーと、年末に行われるホースイエス記念と言うレースまでに、犯人を見つけ出す約束をしていた。
少し前のことを思い出しつつ、また続きを読む。
『君からしたら褒められたことではないことは十分に承知している。だが、兄として、妹だけは幸せになって欲しいと言う兄心だけは分かって欲しい』
手紙から、フェインの真剣さが伝わって来る。確かに彼の気持ちも分かる。だが、だからと言って、彼の言葉に素直に従うのも憚れた。
少しだけ複雑な気持ちになりながらも、再び続きを読み始める。
『それに王様から男爵に認められれば、メイドくらいは持っておくものだ。なので、将来貴族であるスカーレット家がなくなっても、就職先に困らないように、君にローレルを雇ってもらいたい。だから紹介ついでに、特別クラスの夏の強化合宿の場所を、ルーナ学園長に申し出たと言う訳だ。これはタマモには内緒だ』
最後にどうして特別クラスの夏の強化合宿の場所が、スカーレット家の所有する島なのかの理由について書かれてあった。
なるほど、確かにそれはタマモには言えないな。このことがバレれば、スカーレット家が危うい状態にあることを、タマモが知ってしまう。
妹には迷惑をかけたくないと言う、兄心から伝えたくなかったのだろう。
読み終えた手紙を封筒に入れ直そうとすると、もう1枚あることに気付く。どうやら重なっていたみたいだ。
こっちには何が書かれてあるんだ?
『追伸、どうやら夏合宿のメンバーは、君以外は全員が女の子たちじゃないか。ハーレム王のような気分になっているだろうが、君のことだ。年中発情期種族として悶々とした日々を過ごすことになるだろう。ローレルに頼めばメイドの仕事の一環として、君の性的発散を手助けしてくれるだろう。だが、子どもができるようなことはしないでくれよ、君の貴重な子種は、タマモの中に入るべきだからね』
もう1枚に書かれてある手紙の内容を読み終えた瞬間、俺はその場で手紙を細かく破り捨てた。
「び、びっくりした! どうしたのよ? 兄さんの手紙に変なことが書かれてあったの?」
突然の行動に、隣にいたタマモが驚きの声を上げる。
「お嬢様、フェイン様が仰っていたのですが、その手紙を読んだ後、ご主人様は手紙を破り捨てるだろうと仰っていました。きっと彼の破壊衝動を掻き立てられるようなことでも書かれてあったのでしょう」
俺の行動を見て、ローレルが説明をしてくれたが癪だった。俺の行動を先読みしてあんなことを書いたのだろう。確かに俺が手紙を破り捨てれば、手紙に書かれてあったことがタマモに知られることはない。
全て彼の策略に嵌り、手の上で踊らされた事実に、少しだけ腹を立てる。
「お掃除の方は、後で私がやっておきます。まずは皆様のお部屋にご案内致しましょう」
「やったー! ずっと船旅で疲れていたんだよね! 早くベッドで休みたい!」
部屋に案内してもらえることになり、アイリンが両手を上げて喜びを表す。
お前が疲れているのは、船の中で燥いでいたからだろうが!
心の中でツッコミを入れつつ、俺たちはローレルに部屋を案内される。
次々と部屋に案内され、部屋を指定された者は、部屋の中に入って行く。
現在この場にいるのは俺とタマモ、そしてローレルだ。順番からして、おそらく次に案内される部屋は俺の部屋だろう。
「次に案内する部屋は2階になります。こちらです」
ローレルが先に歩き出し、彼女に付いて行くと階段を登って行く。
2階に案内された部屋は、1階の部屋に比べて少し扉が大きかった。そして部屋の中も他の部屋に比べて広いだろうとイメージする。
きっとこの部屋はタマモだな。彼女はスカーレット家の男爵令嬢だ。だから他の客人に比べて、良い部屋に割り振られるのは当然なこと。
ローレルが扉を開けると、部屋の中の内装の一部が視界に入る。だが、内装の一部を見てしまった瞬間、自分の目を疑ってしまった。
何なんだよ……この部屋は。
『シャカールへ、この手紙を君が呼んでいると言うことは、おそらく夏の強化合宿が始まった頃だろう。夏は良い。女の子がほぼ半裸の状態で砂浜を駆け回り、君の目の保養になるだろうからね。きっと君の視線はタマモの胸に釘付けとなるだろう。兄として許す! だが、タマモの機嫌を損なわないように上手くやってくれよ』
お前も俺のことを年中発情期種族だと言いたいのか!
心の中で叫び、その場で手紙を千切り捨てたい衝動に駆られるも、まだ続きがあったのでグッと堪える。
『まぁ、冗談はこの辺にして本題に入ろう。メイドから手紙を受け取ったかと思うが、彼女の名前はローレル。君の将来の専属メイドさんだ』
こいつ、本題に入ると言いつつ、ふざけているのか? どうして目の前にいるメイドさんが俺の将来のメイドさんになる?
疑問に思いつつも、続きを読む。
『何? ふざけるなだと? いや、俺は真剣に言っている。前回も言ったかと思うが、俺の失態でスカーレット家は奴隷落ちとなりかけている。どうにか最悪の事態に備えて準備はしているが、万が一のことを考えてタマモを君の嫁にしたいと提案したことを覚えているかね?』
そう言えば、そんなことがあったな。色々なことがありすぎて忘れていたが、フェインはなんやかんやで妹のタマモのことを大事にしている。自分は奴隷になっても、妹だけはそんな未来は避けたい。そこで2冠を取った俺の嫁になれば、少なくとも奴隷落ちだけは免れると言う、彼なりの策略だった。
でも、だからと言って、奴隷になるのを避けるために好きでもない相手に嫁ぐようなことは、タマモもしたくはないだろう。そんなことを知れば彼女のことだ。兄の言うことは聞かずに、自分も奴隷になる道を選ぶだろう。
そうならないためにも、俺は走者委員会のトップであるブッヒーと、年末に行われるホースイエス記念と言うレースまでに、犯人を見つけ出す約束をしていた。
少し前のことを思い出しつつ、また続きを読む。
『君からしたら褒められたことではないことは十分に承知している。だが、兄として、妹だけは幸せになって欲しいと言う兄心だけは分かって欲しい』
手紙から、フェインの真剣さが伝わって来る。確かに彼の気持ちも分かる。だが、だからと言って、彼の言葉に素直に従うのも憚れた。
少しだけ複雑な気持ちになりながらも、再び続きを読み始める。
『それに王様から男爵に認められれば、メイドくらいは持っておくものだ。なので、将来貴族であるスカーレット家がなくなっても、就職先に困らないように、君にローレルを雇ってもらいたい。だから紹介ついでに、特別クラスの夏の強化合宿の場所を、ルーナ学園長に申し出たと言う訳だ。これはタマモには内緒だ』
最後にどうして特別クラスの夏の強化合宿の場所が、スカーレット家の所有する島なのかの理由について書かれてあった。
なるほど、確かにそれはタマモには言えないな。このことがバレれば、スカーレット家が危うい状態にあることを、タマモが知ってしまう。
妹には迷惑をかけたくないと言う、兄心から伝えたくなかったのだろう。
読み終えた手紙を封筒に入れ直そうとすると、もう1枚あることに気付く。どうやら重なっていたみたいだ。
こっちには何が書かれてあるんだ?
『追伸、どうやら夏合宿のメンバーは、君以外は全員が女の子たちじゃないか。ハーレム王のような気分になっているだろうが、君のことだ。年中発情期種族として悶々とした日々を過ごすことになるだろう。ローレルに頼めばメイドの仕事の一環として、君の性的発散を手助けしてくれるだろう。だが、子どもができるようなことはしないでくれよ、君の貴重な子種は、タマモの中に入るべきだからね』
もう1枚に書かれてある手紙の内容を読み終えた瞬間、俺はその場で手紙を細かく破り捨てた。
「び、びっくりした! どうしたのよ? 兄さんの手紙に変なことが書かれてあったの?」
突然の行動に、隣にいたタマモが驚きの声を上げる。
「お嬢様、フェイン様が仰っていたのですが、その手紙を読んだ後、ご主人様は手紙を破り捨てるだろうと仰っていました。きっと彼の破壊衝動を掻き立てられるようなことでも書かれてあったのでしょう」
俺の行動を見て、ローレルが説明をしてくれたが癪だった。俺の行動を先読みしてあんなことを書いたのだろう。確かに俺が手紙を破り捨てれば、手紙に書かれてあったことがタマモに知られることはない。
全て彼の策略に嵌り、手の上で踊らされた事実に、少しだけ腹を立てる。
「お掃除の方は、後で私がやっておきます。まずは皆様のお部屋にご案内致しましょう」
「やったー! ずっと船旅で疲れていたんだよね! 早くベッドで休みたい!」
部屋に案内してもらえることになり、アイリンが両手を上げて喜びを表す。
お前が疲れているのは、船の中で燥いでいたからだろうが!
心の中でツッコミを入れつつ、俺たちはローレルに部屋を案内される。
次々と部屋に案内され、部屋を指定された者は、部屋の中に入って行く。
現在この場にいるのは俺とタマモ、そしてローレルだ。順番からして、おそらく次に案内される部屋は俺の部屋だろう。
「次に案内する部屋は2階になります。こちらです」
ローレルが先に歩き出し、彼女に付いて行くと階段を登って行く。
2階に案内された部屋は、1階の部屋に比べて少し扉が大きかった。そして部屋の中も他の部屋に比べて広いだろうとイメージする。
きっとこの部屋はタマモだな。彼女はスカーレット家の男爵令嬢だ。だから他の客人に比べて、良い部屋に割り振られるのは当然なこと。
ローレルが扉を開けると、部屋の中の内装の一部が視界に入る。だが、内装の一部を見てしまった瞬間、自分の目を疑ってしまった。
何なんだよ……この部屋は。
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