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第七章
第三話 シャカールビビっている!ヘイヘイヘイ!
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「あなた、わたしとレースで勝負してください」
廊下でぶつかったエルフの女の子から、いきなりレース勝負を申し込まれた。
こいつ、俺が2冠を取っていることを知らないのか? いや、もしかしたら逆に相当な実力者である可能性だって考えられる。
一応俺の存在は認知していたが、敵ではないと思われており、俺が2冠を取ったことで実力を測るために勝負を挑んできたとも考えられる。
だが、昨日はマキョウダービーをしたばかりだ。まだ完全に疲れは取れていない。できることなら、走るようなことはしたくない。
「悪いが、今日は気分が乗らない。また今度にしてくれ」
「そんなことを言わずに1回だけで良いですから、レースをしてくださいよ」
「1回でも無理だ。今日は気分が乗らない。またの機会にしてくれ」
もう一度断ると、彼女は不満なようで頬を膨らませる。
「あなた、名前は何て言うのですか?」
「名前?」
突然名前を聞かれ、困惑する。
この子、俺のことを知っていて、勝負を仕掛けていたのではないのか?
「シャカールだ。面倒臭いからお前と走ることはしたくない」
「シャカールと言うのですね。なるほど」
自身の名前を名乗り、再び走りたくないと告げる。すると彼女は何か含みのある笑みを浮かべ、不気味にこちらを見てくる。
「なるほど、シャカールさんはわたしと勝負して負けるのが嫌だから、勝負をしたくないのですね。さすが種族最下位走者。尻尾を丸めて逃げ出したいのですか」
バカにするような口調で言われたせいで、俺はカチンと来てしまった。
「おい、誰が負けるのが嫌で逃げているだって?」
「シャカールさんですよ。ご自分の先ほどの発言をもうお忘れですか? 若年性アルツハイマーですか? 負けるのが嫌だからわたしから逃げたいのですよね。ププ!」
片手で手を隠し、クスクスと笑い出す彼女の態度が、更に怒りのボルテージを上げることになる。そして彼女は続けて両手を頭上に持って行くと、両手を叩いて更に煽り始める。
「シャカールビビっている! ヘイヘイヘイ! シャカールビビっている! ヘイヘイヘイ! ビビっている! ヘイ! ビビっている! ヘイ! シャカールビビっている! ヘイヘイヘイ! シャカールビビっている! ヘイヘイヘイ! ビビっている! ヘイ! ビビっている! ヘイ!」
「誰がびびっているだ! このままバカにされたまま引き下がれるかよ! 良いだろう! お前とのレースを引き受けてやる! さっさと第一レース場に向かうぞ!」
「やったー! それでこそ男です! あ、そうだ。まだ名乗っていませんでしたね。わたしの名前はアイリンって言います」
勝負を引き受けることを告げると、彼女は両手を上げて満面の笑みを浮かべる。
こうなってしまった以上、こいつにはお灸を据えてやらなければならない。
俺は少し苛立ちを感じながらも、校内にある第1レース場へと向かって行く。
第1レース場では、本日の模擬レースは行われない。なので、自主的に使用する走者が集まって、各自走り込みをしている。
しかし、本日は月曜日と言うこともあってか、第1レース場を使用している生徒は数人だった。
「勝負方法は短距離の1000メートルだ。右回りのギミックなし。純粋な足の速さでの勝負で良いな」
「意義ありです! 1000メートルと言わずに3000メートルと行きましょうよ!」
「なんで3000メートルも走らないといけない! KINNGU賞と同じ距離を練習で走る何て愚かだぞ! 1000メートルだ! 拒否するなら俺は帰るからな!」
「もう、わかりました。そこまで言うのであれば、1000メートルにしてあげます。わたしが心の広いエルフで良かったですね」
いちいちムカつくような言い回しで言葉を連ねてくる。
落ち着け、これはあいつの作戦かもしれない。俺を苛立たせて冷静さを欠かせ、上手く自分の走りをさせないと言う可能性だってありえる。
危なかった。まんまとこいつの作戦にかかるところだった。まだレースは始まっていない。今の内に自身を落ち着かせよう。
瞼を閉じると心を落ち着かせ、数回深呼吸を行う。
深呼吸をすることで、自律神経の乱れが治ったのか、苛立ちは次第に収まってくる。
これでよし、あとはレースで勝つことを意識するだけだ。
コース内に入り、足で芝の状態を確認する。
昨日は稍重だったが、今日は晴れていたお陰で乾いている。良と言ったところか。相手にも言えることだが、芝のコンディションは悪くない。これなら走りやすいはずだ。
先に走っていた生徒の走りが終わるのを待ち、その間に軽く準備体操をして体を解しておく。
しばらくすると先に走っていた生徒が走り終わったようだ。彼女は連れのところに駆け寄ると、喜びの声を上げてその場で跳躍をしている。
どうやら良いタイムでも出たみたいだな。
「さぁ、次は俺たちの番だ。さっきも言った通り、1000メートルだ。ここから走って第1コーナーを曲がってそのまま第2コーナーを走り、1000メートルを示す看板がゴールだ。最後の直進は短いから、ラストスパートに全力を出さないと俺には勝てないからな」
「まるで自分が勝つ前提で話していますね。言っておきますけれど、このレース勝負で勝つのはわたしですからね」
再度ルールの確認をすると、最後に言った言葉が彼女の癇に障ったようだ。まぁ、誰だって自分が負けるように言われれば、機嫌が悪くなってしまう。
「良いか、開始の合図はこのコインが芝の上に落ちたその時が合図だ。芝の上だから、落ちた衝撃の際に音が鳴る何てことはないから、気を付けろよ」
コインが芝の上に落下したら走ると伝え、俺はポケットからコインを取り出す。そして指の上に乗せ、弾く準備をする。
「それじゃ、わたしは表で」
いきなりコインの裏表を言い始めるアイリンに、思わず苦笑いを浮かべてしまった。
彼女、何か勘違いをしていないか?
アイリンが何を考えているのかわからないまま、俺はコインを乗せた指を弾く。
近くに落ちるようにしたらアイリンが分からないと思い、前に飛ばして彼女にも見えるように飛ばす。
指から弾かれたコインは重力落下をしながらクルクルと回転をしつつ、芝の上に落下した。
レース開始の合図だ。
「それではお先に失礼します。爆進!」
レースが始まったその瞬間、隣で走る準備をしていたアイリンが直様俺の横を抜き、前に出た。
あいつ、スタートダッシュが上手い! それに何てスピードだ! 速すぎる!
廊下でぶつかったエルフの女の子から、いきなりレース勝負を申し込まれた。
こいつ、俺が2冠を取っていることを知らないのか? いや、もしかしたら逆に相当な実力者である可能性だって考えられる。
一応俺の存在は認知していたが、敵ではないと思われており、俺が2冠を取ったことで実力を測るために勝負を挑んできたとも考えられる。
だが、昨日はマキョウダービーをしたばかりだ。まだ完全に疲れは取れていない。できることなら、走るようなことはしたくない。
「悪いが、今日は気分が乗らない。また今度にしてくれ」
「そんなことを言わずに1回だけで良いですから、レースをしてくださいよ」
「1回でも無理だ。今日は気分が乗らない。またの機会にしてくれ」
もう一度断ると、彼女は不満なようで頬を膨らませる。
「あなた、名前は何て言うのですか?」
「名前?」
突然名前を聞かれ、困惑する。
この子、俺のことを知っていて、勝負を仕掛けていたのではないのか?
「シャカールだ。面倒臭いからお前と走ることはしたくない」
「シャカールと言うのですね。なるほど」
自身の名前を名乗り、再び走りたくないと告げる。すると彼女は何か含みのある笑みを浮かべ、不気味にこちらを見てくる。
「なるほど、シャカールさんはわたしと勝負して負けるのが嫌だから、勝負をしたくないのですね。さすが種族最下位走者。尻尾を丸めて逃げ出したいのですか」
バカにするような口調で言われたせいで、俺はカチンと来てしまった。
「おい、誰が負けるのが嫌で逃げているだって?」
「シャカールさんですよ。ご自分の先ほどの発言をもうお忘れですか? 若年性アルツハイマーですか? 負けるのが嫌だからわたしから逃げたいのですよね。ププ!」
片手で手を隠し、クスクスと笑い出す彼女の態度が、更に怒りのボルテージを上げることになる。そして彼女は続けて両手を頭上に持って行くと、両手を叩いて更に煽り始める。
「シャカールビビっている! ヘイヘイヘイ! シャカールビビっている! ヘイヘイヘイ! ビビっている! ヘイ! ビビっている! ヘイ! シャカールビビっている! ヘイヘイヘイ! シャカールビビっている! ヘイヘイヘイ! ビビっている! ヘイ! ビビっている! ヘイ!」
「誰がびびっているだ! このままバカにされたまま引き下がれるかよ! 良いだろう! お前とのレースを引き受けてやる! さっさと第一レース場に向かうぞ!」
「やったー! それでこそ男です! あ、そうだ。まだ名乗っていませんでしたね。わたしの名前はアイリンって言います」
勝負を引き受けることを告げると、彼女は両手を上げて満面の笑みを浮かべる。
こうなってしまった以上、こいつにはお灸を据えてやらなければならない。
俺は少し苛立ちを感じながらも、校内にある第1レース場へと向かって行く。
第1レース場では、本日の模擬レースは行われない。なので、自主的に使用する走者が集まって、各自走り込みをしている。
しかし、本日は月曜日と言うこともあってか、第1レース場を使用している生徒は数人だった。
「勝負方法は短距離の1000メートルだ。右回りのギミックなし。純粋な足の速さでの勝負で良いな」
「意義ありです! 1000メートルと言わずに3000メートルと行きましょうよ!」
「なんで3000メートルも走らないといけない! KINNGU賞と同じ距離を練習で走る何て愚かだぞ! 1000メートルだ! 拒否するなら俺は帰るからな!」
「もう、わかりました。そこまで言うのであれば、1000メートルにしてあげます。わたしが心の広いエルフで良かったですね」
いちいちムカつくような言い回しで言葉を連ねてくる。
落ち着け、これはあいつの作戦かもしれない。俺を苛立たせて冷静さを欠かせ、上手く自分の走りをさせないと言う可能性だってありえる。
危なかった。まんまとこいつの作戦にかかるところだった。まだレースは始まっていない。今の内に自身を落ち着かせよう。
瞼を閉じると心を落ち着かせ、数回深呼吸を行う。
深呼吸をすることで、自律神経の乱れが治ったのか、苛立ちは次第に収まってくる。
これでよし、あとはレースで勝つことを意識するだけだ。
コース内に入り、足で芝の状態を確認する。
昨日は稍重だったが、今日は晴れていたお陰で乾いている。良と言ったところか。相手にも言えることだが、芝のコンディションは悪くない。これなら走りやすいはずだ。
先に走っていた生徒の走りが終わるのを待ち、その間に軽く準備体操をして体を解しておく。
しばらくすると先に走っていた生徒が走り終わったようだ。彼女は連れのところに駆け寄ると、喜びの声を上げてその場で跳躍をしている。
どうやら良いタイムでも出たみたいだな。
「さぁ、次は俺たちの番だ。さっきも言った通り、1000メートルだ。ここから走って第1コーナーを曲がってそのまま第2コーナーを走り、1000メートルを示す看板がゴールだ。最後の直進は短いから、ラストスパートに全力を出さないと俺には勝てないからな」
「まるで自分が勝つ前提で話していますね。言っておきますけれど、このレース勝負で勝つのはわたしですからね」
再度ルールの確認をすると、最後に言った言葉が彼女の癇に障ったようだ。まぁ、誰だって自分が負けるように言われれば、機嫌が悪くなってしまう。
「良いか、開始の合図はこのコインが芝の上に落ちたその時が合図だ。芝の上だから、落ちた衝撃の際に音が鳴る何てことはないから、気を付けろよ」
コインが芝の上に落下したら走ると伝え、俺はポケットからコインを取り出す。そして指の上に乗せ、弾く準備をする。
「それじゃ、わたしは表で」
いきなりコインの裏表を言い始めるアイリンに、思わず苦笑いを浮かべてしまった。
彼女、何か勘違いをしていないか?
アイリンが何を考えているのかわからないまま、俺はコインを乗せた指を弾く。
近くに落ちるようにしたらアイリンが分からないと思い、前に飛ばして彼女にも見えるように飛ばす。
指から弾かれたコインは重力落下をしながらクルクルと回転をしつつ、芝の上に落下した。
レース開始の合図だ。
「それではお先に失礼します。爆進!」
レースが始まったその瞬間、隣で走る準備をしていたアイリンが直様俺の横を抜き、前に出た。
あいつ、スタートダッシュが上手い! それに何てスピードだ! 速すぎる!
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