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第六章

第九話 マキョウダービー②

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  ゲートが開いたのを確認して、俺はスローペースで駆け出した。

『さぁ、今年のマキョウダービー制覇を狙う走者たちが一斉に駆け出しました』

『皆さん集中していたようですね。出遅れはなさそうです』

『では、ある程度順位が確定したところで順位を発表しましょう。先頭ハナを奪ったのはやはりこの娘、逃げ切りシスターズのセンター、ウイニングライブ。そして2メートル差をシャワーライト。そして差がなく、サイレントキル。その後方にカルディアが走っている。ここまでが先頭集団です』

『ウイニングライブは内枠1番、そしてシャワーライトは内枠3番のゲートからの出走。なので、この順位になっても不思議ではないですが、外枠13番のカルディアが4番手に入ったのは意外です。今回は逃げでの脚質かと思われます』

『先頭手段から5メートル程離れてカマカマ、シャドーナイツ、そしてアマソンが競り合っている。その内側から様子を伺うように、パワームテキ、そしてサンシャインが追い付いて来ますが、どうやら後方を気にしているようですね』

『彼の後方にはアストンが走っています。ライバル関係である彼らからしたら、互いの位置が気になるのでしょう』

『10番手のアストンがサンシャインに並んで来たところで、ここまでが中段グループとなっています。そして中段から後段にかけておよそ6メートルの開きですが、少々開きが大きいような気がしますね』

『後段を走っている走者は知力の適正の高い走者が殆どです。最初のギミックに備えて、体力を温存している走りのように見受けられます。今は力を溜めていると言ったところでしょうか』

『後段を走りますユキノタマの外側からミスターブラウン、ここでサイリスが追走。そして1メートル差ピッキーハウスが走り、彼を追いかけるようにサザナミが追いかける。おっと、ここでアックスがトラッキングファイヤーを使用したぞ。前を走るカゲノキシに直撃して順位を入れ替える。そして前方の競い合いを3メートルほど離れてシャカールが不気味に息を潜めています。これは作戦なのでしょうか?』

『普段のシャカール走者の走りから考えると作戦なのでしょうが、ペースが普段よりも遅いですね。体力の温存にしても、もう少しペースを上げなければ、優勝することも危ぶむかと思われます』

 アルティメットとサラブレットが実況と解説をする中、彼女たちは俺の異変に気付いたようだ。

 さすが俺のファンを名乗るだけあるな。俺が既に体力と魔力を消耗していることを感覚的に察知できている。

 体力に関してはペース配分を間違えなければ問題ない。問題があるとすれば魔力だ。

 魔力は時間経過と共に徐々に回復していくが、起床時の魔力回復は雀の涙程度でしかない。失った魔力を回復するには睡眠が一番だが、そんな暇がなかった以上、今残っている魔力でやりくりをしなければならない。

 余計な魔力を消費しないためにも、まずは他の走者たちから狙われにくい殿で走るべきだ。

 変に前に出て攻撃されて余計な魔法を使っては本末転倒、勝てるレースも勝てなくなる。ここは我慢の時だ。必ず俺は順位を上げつつも、他の走者から狙われないと言うチャンスが訪れるはず。

『先頭から殿までおよそ20メートルと言った開きとなっていますね。やはり逃げのウイニングライブが参戦しているレースでは、どうしても縦長の展開となってしまいます』

『このままのペースでは、後段が先頭集団に入るのは難しいでしょう。ワンチャンを狙うにしても、先頭グループがギミックでもたつかない限り、厳しいかと思います』

『さぁ、ここで先頭ハナを走るウイニングライブが最初のギミックであるランダム変化エリアに到達』

『このエリア内では、ランダムで選ばれた走者の足元だけが芝から砂上ダートに変わります。運が悪いと走り難い走りとなるでしょう。しかも昨日降った雨の影響で、コースの状態は稍重ややおもとなっています。いくらギミックでコースに変化が起きようとも、環境そのものは変わりません。当然砂には水分が含んでいる状態となっています』

先頭ハナを走るウイニングライブの足元には、変化がありません。どうやらギミックから逃れることができたようです。ペースを落とすことなく走り抜けます』

 前方を走る走者たちが最初のギミックエリアに到達するごとに、ランダムで足場に変化が起きる。

 運悪くギミックに嵌ってしまった走者の足元は砂上ダートに変わり、走りづらそうにしている。

 そろそろ俺も最初のギミックに到達する。さて、ギミックの判定の結果はどうなる?

 俺はウイニングライブたちを助けてやったんだ。それなりに善行を積んでいるつもりではいる。きっと俺の足元は砂上ダートに変わることはないはずだ。

 そう思いながらギミックエリア内に足を踏み入れた瞬間、一気に足に負担がかかり、走り辛さを感じた。

 一瞬だけ足元を見ると、走っていた芝のコースが、足を一歩踏み入れた瞬間に砂上ダートに変わり、足が離れた瞬間に芝へと戻る。

 チッ、運が悪い。まさか最初のギミックに掛かってしまうなんて。

『おっと、ここで殿を走っていたシャカール走者が最初のギミックに掛かってしまった!』

『彼の砂上ダート適正のデーターがないので、なんとも言えませんが、殆どの走者は砂上ダートが苦手とします。彼の走りを見ても、どちらかと言うと苦手意識のある環境であるかと』

 実況と解説の言葉が耳に入る中、歯を食い縛る。

 水分を吸った砂が重く、足を置いた瞬間に力を入れないと、速度を落としそうだ。

 それに加えて舞った砂がシューズの中に入り、足の裏と靴底に砂があるせいで、違和感を覚えて気持ち悪い。

 ギミックの影響である以上、エリア外に出ればシューズの中に入った砂も消えるかもしれないが、普段の走りができない以上、走る速度が落ちてしまうのは免れない。

『シャカール走者、前を走るカゲノキシからどんどん差が開いて行く』

『運悪くギミックの影響を受けてしまいましたからね。これは絶望的な開きとなっていきます。彼が優勝するには、奇跡が起きるのを待つしかありません』

 殿で居続ける俺を見て、アルティメットとサラブレットが少々落ち込んでいる口調で言葉を放つ。

 そもそも、奇跡と言うのは待つものではない。自ら動き、手繰り寄せて実現させるものだ。

 良いだろう。なら見せてやるよ。自ら起こす奇跡と言うものを。
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