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第四章

第九話 第1回学園大食いグルメ杯②

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~タマモ視点~





 始まりのファンファーレが、開始の合図だと知ったあたしは、急いでナイフとフォークを取り、目の前に置かれている料理に手を伸ばす。

 料理と言っても、小皿にちょっとした野菜の盛り付けや、一口サイズの肉が入っている程度で、あまりボリュームを感じさせない。

 きっとレースぽくしているから、スピードを感じさせるために、このような仕様になっているのでしょうね。

 小皿の上にある一口サイズの肉にフォークを刺し、口の中に運ぶ。

 このお肉、めちゃくちゃ美味しい!

 口の中に入れた瞬間、肉がとろけて肉汁が溢れてくるわ。そして少ない咀嚼の回数ですぐに飲み込むことができるなんて、なんて高級なお肉なのかしら。

 って、お肉に感動している場合ではないわ。早く次の料理を食べて、完食の皿を増やさないと。

 次の小皿に手を伸ばし、今度は野菜を食べ始める。

『全員が出遅れての開始となりましたが、参加者たちは次々と料理を食べ始めて居ます』

『殆どの参加者たちが、ほぼ同数の料理を食べ終え、完食した枚数はほぼ同じです。レースで言えば、先行争いと言ったところでしょうか。ここから先が、個性の現れるところとなって来るでしょう』

 大食い競争が始まり、実況担当のアルティメットさんと、解説担当のサラブレットさんが状況を伝え始めてくる。

 どうやらまだ他のみんなも様子見と言ったところらしいわね。なら、レースぽくあたしは先を進ませてもらうわ。

『おっと、ここでスピードを上げてきたのはタマモ! 一気に料理を食べ終え、空の皿の枚数を増やして行く』

『レースと同じく、先頭に立つ食べっぷりですね。初めてのグルメレースなので、ペース配分を間違えなければ良いのですが』

『タマモがリードしたことで他の参加者も焦りを感じたのか、完食までのスピードを上げてきた! 最初から火花散らす展開となって居ます!』

『タマモが枚数を増やしたことで、他の参加者たちもタマモの作戦にかかってしまっているかもしれませんね』

 どうやらあたしが先に多くの料理を食べていることで、他の人たちも焦りを感じてくれたみたいね。あたしは、一応ペース配分を考えているわ。今のままのペースなら、あとから喉がつっかえて苦しくなるなんてことはない。

 小皿に乗っている料理を食べながら、チラリと横にいるクリープ先輩を見る。彼女はマイペースに食べているようで、1皿を完食するまでのスピードは、一定の速度となっているみたいだわ。

『それではここで順位を振り返っていきましょう。一番皿の枚数が多いのはタマモ、続いてジャラジャラ、ここでハーデストが並んできた。2枚差でクリープ、1枚差アストン、それに並ぶようにカルボーア、そこから1枚差シンコウウェーブ、マーヤ、トップロード、ティンクルティンクルとなっています』

『1位から殿まで、およそ6枚差です。レースでは差し返せますが、これはあくまでも大食い。己の胃袋との勝負です。果たしてここから先に、どんな展開が待っているのか、見物ですね』

 今のところあたしが1番のようね。でも、2位のジャラジャラとは1枚差。気を抜けばいつでも、追い越されてしまうわ。

 状況を冷静に判断していると、次の料理が運ばれて来る。でも、その料理を見た瞬間、あたしは目を大きく見開いた。

 サイズは小皿ではなくどんぶりとなっている。しかも中に何が入っているのか分からないくらいに、真っ赤なスープで覆い隠されていた。

『ここでタマモが最初のギミック、超激辛料理に入った! あの中には一口食べただけでも、激痛を感じるほどの辛味成分が含んだスープが入っているぞ! しかもある程度はスープを飲まなければいけないと言うルール付きだ!』

 アルティメットさんが説明をしてくれた瞬間、あたしも含めて全員の手が止まった。

 激辛料理が出ることは予測していた。でも、ギミックとして出るものとは、さすがに予想外すぎる。

 でも、ここで手を止める訳にはいかない。この勝負であたしが勝って、クリープ先輩の暴走を止めないと。

 一緒に置かれている箸と呼ばれるものを掴む。箸は和の国でナイフとフォークの代わりに使われているもの。つまり、この中には和の国の料理が入っていると言うことが予想される。

 箸はあんまり使ったことがないから不得意だけど、それはみんなにも言えること。ここで大きくリードすることができれば、アタシの優勝が約束されたようなものになるはずだわ。

 箸を持つ手を構えて、真っ赤な液体の中に突っ込む。そして何かを挟み、持ち上げた。箸には真っ赤に染まったスープが絡まっている細長いものが挟まれている。

 これは和の国に行った時に見たことがある。うどんと呼ばれるものだ。

 箸が不慣れだからか、間からうどんがすり抜けて落ち始める。全部が落ち切る前に口に運び、麺を啜る。

 辛味成分が付着した麺が口内に入った瞬間、口の中が何かに刺されたような錯覚を感じ、痛みを覚えた。

 辛いを超えて、痛いと錯覚する料理に思わず涙が溢れようとした。

 あたしは辛い料理は苦手、それでも、クリープ先輩に勝つには、ここを乗り越えなければならない。

 少しでも痛みを引かせようと飲み物に手を伸ばす。ひとつは炭酸を含んだ飲料水、そしてもうひとつはただの水だ。

 普通は多くの人が炭酸飲料水に手を伸ばすだろう。でも、それは罠だ。炭酸が胃の中に入ると、炭酸の影響で胃が膨らみ、満腹感を覚えてしまうわ。ここは水を選択するのが正解よ。

 水の入ったコップに手を伸ばし、一気に飲み干す。すると口内の痛みが引いたような気がした。

 このギミックでは根性が試される。きっと多くの人がここで脱落をすることになるでしょうね。でも、スカーレット家の令嬢として、ここで引く訳にはいかないわ。

『激辛料理に渋面をしていたタマモが再び激辛料理に挑む! その間に後続たちも最初のギミックに到達した!』

『一口食べただけであの汗の量は凄まじいです。おそらく、殆どの方がこの大食いに参加して後悔しているでしょう』

 予想以上にキツイ。激辛適正の合っていないあたしには困難だわ。でも、諦める訳にはいかない。クリープ先輩には、絶対に負ける訳にはいかないのだから。

『おっと! ここでマーヤが一気に追い上げて来た! 激辛スープの纏ったうどんを勢い良く平らげる!』

「え!」

 予想外の伏兵に、あたしの手は止まってしまった。クリープ先輩以外にも、激辛に適正の合う子が居たなんて。
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