上 下
10 / 41
第一章

第十話 カレンが二人に増えた!これで幸せも二倍!

しおりを挟む
 馬車から出た俺たちの目に映った光景は、予想を遥かに超えるものだった。

 町にはモンスターが一体もいなかったのだ。町人は楽しそうに談笑しながら歩き、噴水前には子供たちが遊んでいて、とても長閑のどかな風景が広がっている。

「話が違うじゃないか。モンスターに襲われていない!」

 これはいったいどう言うことだ? まさか!

 状況を理解し、振り返って馬車から降りているであろう、女性を攻撃しようとする。

「ファイ……な!」

 しかし視界に映ったのは、俺たちをここまで連れてきた女性ではなかった。クリーム色の髪を三つ編みとハーフアップの組み合わせにしている女の子だった。

 カレンだと! バカな! 彼女は俺の隣にいる。

 そう思って横を見る。しかしカレンだと思っていたのはあの女性だった。

 いつの間に入れ替わった!

 横に跳躍して女性と距離を置いたときだ。

 カレンが懐から短剣を取り出し、鞘から抜いて刃を晒す。

「てりゃ!」

 彼女が声を上げると、向かって来たのは俺だった。カレンは手に持っている短剣の刃を突き立てようと腕を伸ばす。

「カレン、止めるんだ!」

 突然攻撃してきた推しに、止めるように言う。

 しかし彼女は聞く耳を持っていないようで、俺に刃を突き刺そうとしてきた。

 いったいどうしてしまったんだよ。なんでカレンが俺を攻撃してくる。

 裏切りとも取れる彼女の行動に、動揺を隠せない。

 さっきから心臓の鼓動が早鐘を打っているのが聞こえてくる。

 くそう、推しから刺されるなら受け入れるが、死ぬのはごめんだ。

 短剣が肉体を突き刺すよりもワンテンポ早く、後方に跳躍して刃を躱す。

「何!」

 その瞬間、俺は自分の目を疑った。

 カレンが自分に飛びかかり、取っ組み合いを始めていたのだ。

「カレンが二人になった」

 二人はお互いに掴み合い、地面に倒れると転がり合う。

 ちょっと待て! どっちが本物なんだ?

 俺を襲ったカレンが持っていた短剣は、おそらく本物であろうカレンが飛びかかったときに地面に落としている。

 これでは武器で判断することができない。

「ユウリ、こいつが偽物よ!」

「惑わされないで、こっちが偽物なんだから!」

 お互いが鏡写しのように指を差し合い、互いを偽物だと主張する。

 ど、どっちなんだ。両方髪を三つ編みとハーフアップの組み合わせにしているし、瞳の色も同じ赤、服越しの胸の膨らみも同じだ。

 な、何か方法があるはずだ。偽物を見分ける方法が。

 思考を巡らせているとあることに気付く。

「そうだ。本物なら俺が告白した内容を覚えているはずだ。今からそれを言ってくれ!」

「「えええええええええぇぇぇぇぇ!」」

 告白の内容を言ってもらえれば判別できる。そう判断したのだが、二人は驚きの声を上げて固まってしまった。

「どうした? 別に忘れた訳ではないだろう? 大通りで町民が見ている中。大声で告白したんだ。インパクトがありすぎて忘れられないと思うが?」

「それはそうだけど」

「でも」

 二人は頬を赤らめ、もじもじする。

 片方は偽物だとわかっているが、そんな態度を取られると、どっちも本物のような気がしてしまう。

 こうなったら二人とも本物のカレンってことにするか? 推しが二人いれば幸せも二倍だ。

 って、そんな訳あるか! いくら姿が一緒でも、片方は心が本物ではない偽物だ。

 内心ツッコミを入れ、おかしくなった思考を吹き飛ばす。

 こうなったら、心の目で見るしかない。

 両の瞼を閉じて神経を研ぎ澄ます。すると視界がなくなった分、他の感覚が鋭くなった。

 良い匂いの中に男臭さが混じっているぞ。

「分かった! 偽物はお前だ! 【氷柱アイシクル】!」

 スキルを発動すると、右側にいるカレンに向けて複数の氷柱を放つ。

 攻撃が飛んできた方のカレンは、後方に跳躍して俺の攻撃を躱した。

「ちょっと何をするのよ! 私は本物よ!」

 信じられないものを見たかのような眼差しを送ってくるが、そんなもので惑わされるかよ。

「何が本物だ! カレンの姿に化けて俺の推しを冒涜するな! 【ロック】!」

 今度は土属性のスキルを使い、敵の足元の地面を抉って空中に浮かせる。

 バランスを崩したカレンの偽物はその場で転倒した。

「くそう! どうしてバレた」

 どうやら自分の変装は完璧だと思い込んでいたみたいだな。上手く声まで似せていても、彼女の全てを真似することなどできない。

「どうしてお前が偽物なのか分かったのかって? そんなことは火を見るよりも明らかだ。お前からは本物の匂いがしない!」

 人差し指を向けながら、俺は堂々と見破った原因を告げる。

「カレンの髪からはな、シャンプーやリンスの良い香りが漂ってくるんだよ! 彼女の匂いを嗅ぐだけで幸せな気分になるぐらい俺に安らぎを与える! だが、お前からは部活帰りの男臭い匂いがした! カレンの体臭まで真似できなかった時点で、お前はカレンに成り代わることはできない!」

「ハハハなるほど匂いか。そこまでは計算していなかったよ。記憶を弄っても、、、、、、、、嗅覚までは誤魔化せなかったか」

 カレンの偽物がいきなり笑うと意味がわからないことを言い出す。しかし、今の俺にはそんなことなどどうでもよかった。

「お前な! カレンの姿をしているのだから、そんな下品な笑いかたをするな! カレンはもっと品のある笑い方をするぞ!」

「ハハハ! そうかい、そうかい。なら、次は気を付けるとしよう」

 気を付ける気がないのか、カレンの偽物は再び品のない笑い声を上げる。

「お前がもう一度カレンの姿になることはない! 何せここで、お前はリタイアされるのだからな!」

「いいや。まだリタイアするのは早いよ。周りを見てみなよ。モンスターに囲まれていることに気付かない?」

「何だと!」

 カレンの偽物から一旦目を離し、周囲を見る。すると、やつの言っていたとおりに数多くのモンスターに囲まれていた。

 ゴブリンにオーク、モンスターの中では割と弱い方だ。階級持ちではなければだけど。

「テメー、いつの間にモンスターをこんなに呼び集めやがった!」

 カレンの偽物の方に向き直る。しかしそこには、羽虫が一匹飛んでいるだけだった。

「しまった! 逃げられた!」

「ユウリ、どうする?」

 カレンが訊ねるも、今は様子を見るしかない。何十体ものモンスターを倒すには、状況を分析して適したスキルで倒さなければいけない。

 モンスターたちの出方が伺ってみるも、奴らはその場で立ち止まったり、俺たちを無視してどこかに歩き出したりしている。

 何だ? このモンスターたち、おかしくないか?

 疑問に思いながらも、一度瞬きをする。するとモンスターだったものが、人に代わっていた。

 何なんだよ、これ。いったい何が起きている。

 状況が理解できずにいると、後方から足音が聞こえて振り向く。

 金髪の髪をツーサイドアップにした女の子が、こちらに向かって走って来ていた。

「見つけた! やっぱりあなただったのね! 嬉しい! 会いたかったわ!」

「え! どうしてお前がここにいる!」

 彼女は俺たちを見ると笑みを浮かべ、跳躍して飛び掛かってきた。











最後まで読んでいただきありがとうございます。

面白かった! この物語は期待できる! 続きが早く読みたい!

など思っていただけましたら、【感想】や【お気に入り登録】をしていただけると、作者のモチベが上がり、更新が早くなります。

【感想】は一言コメントや誤字報告でも大丈夫です。気軽に書いていただけると嬉しいです。

何卒宜しくお願いします。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。

ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。 剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。 しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。 休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう… そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。 ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。 その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。 それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく…… ※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。 ホットランキング最高位2位でした。 カクヨムにも別シナリオで掲載。

スキルシーフで異世界無双

三毛猫
ファンタジー
霧島大翔は会社員から異世界転生した。異世界転生していきなり合コンに参加する羽目になった。 合コンに参加している参加者の職業は勇者、冒険者、魔法使いというハイスペックなメンバーの中、大翔の職業は村人。 馬鹿にされ、追放されて辛すぎる合コンから異世界生活が始まり成り上がる。 ※視点がコロコロ変わります

拝啓神様。転生場所間違えたでしょ。転生したら木にめり込んで…てか半身が木になってるんですけど!?あでも意外とスペック高くて何とかなりそうです

熊ごろう
ファンタジー
俺はどうやら事故で死んで、神様の計らいで異世界へと転生したらしい。 そこまではわりと良くある?お話だと思う。 ただ俺が皆と違ったのは……森の中、木にめり込んだ状態で転生していたことだろうか。 しかも必死こいて引っこ抜いて見ればめり込んでいた部分が木の体となっていた。次、神様に出会うことがあったならば髪の毛むしってやろうと思う。 ずっとその場に居るわけにもいかず、森の中をあてもなく彷徨う俺であったが、やがて空腹と渇き、それにたまった疲労で意識を失ってしまい……と、そこでこの木の体が思わぬ力を発揮する。なんと地面から水分や養分を取れる上に生命力すら吸い取る事が出来たのだ。 生命力を吸った体は凄まじい力を発揮した。木を殴れば幹をえぐり取り、走れば凄まじい速度な上に疲れもほとんどない。 これはチートきたのでは!?と浮かれそうになる俺であったが……そこはぐっと押さえ気を引き締める。何せ比較対象が無いからね。 比較対象もそうだけど、とりあえず生活していくためには人里に出なければならないだろう。そう考えた俺はひとまず森を抜け出そうと再び歩を進めるが……。 P.S 最近、右半身にリンゴがなるようになりました。 やったね(´・ω・`) 火、木曜と土日更新でいきたいと思います。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

辺境村人の俺、異能スキル【クエストスキップ】で超レベルアップ! ~レアアイテムも受け取り放題~

桜井正宗
ファンタジー
 辺境の村人・スライは、毎日散々な目に遭わされていた。  レベルも全く上がらない最弱ゆえに、人生が終わっていた。ある日、知り合いのすすめで冒険者ギルドへ向かったスライ。せめてクエストでレベルを上げようと考えたのだ。しかし、受付嬢に話しかけた途端にレベルアップ。突然のことにスライは驚いた。  試しにもう一度話しかけるとクエストがスキップされ、なぜか経験値、レアアイテムを受け取れてしまった。  謎の能力を持っていると知ったスライは、どんどん強くなっていく――!

破滅する悪役五人兄弟の末っ子に転生した俺、無能と見下されるがゲームの知識で最強となり、悪役一家と幸せエンディングを目指します。

大田明
ファンタジー
『サークラルファンタズム』というゲームの、ダンカン・エルグレイヴというキャラクターに転生した主人公。 ダンカンは悪役で性格が悪く、さらに無能という人気が無いキャラクター。 主人公はそんなダンカンに転生するも、家族愛に溢れる兄弟たちのことが大好きであった。 マグヌス、アングス、ニール、イナ。破滅する運命にある兄弟たち。 しかし主人公はゲームの知識があるため、そんな彼らを救うことができると確信していた。 主人公は兄弟たちにゲーム中に辿り着けなかった最高の幸せを与えるため、奮闘することを決意する。 これは無能と呼ばれた悪役が最強となり、兄弟を幸せに導く物語だ。

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

処理中です...