上 下
6 / 41
第一章

第六話 お約束のイベント発生

しおりを挟む
 ギルドに入った途端に、俺たちは強面の男から声をかけられた。

 やっぱりギルドに入ると強制イベントが発生してしまうか。えーと、確かこいつはバベルって名前だったよな。

 聖神戦争のサブストーリーであるギルドでは、どこのギルドに入っても、強制的にバベル、ボブ、ルーの三人組との戦闘イベントが発生するのだ。

 選択したキャラによって内容が若干変わるが、男性だった場合は先輩風を吹かせ、挨拶をするものだと絡み、女性キャラの場合はナンパする感じで絡んでくる。

 因みにオネェキャラもいるのだが、そいつを選択した場合は、身の危険を感じて絡まれないと言う特殊イベントが発生する。

 まぁ、普通の男なら、お尻の処女を散らすようなことはしたくないと思うだろう。

「おい、そこのお前、このギルドでは見ない顔だな? 新人か?」

「まぁ、そんなところだ」

「そうかそうか。俺の名はバベル。このギルドのAランク冒険者だ。ここはお前のようなガキが来るようなところじゃない。さっさと帰ってママのおっぱいでもしゃぶるんだな。ハハハ!」

 うん、まさにテキストどおりのセリフを言ってくる。でも、この後は俺が独自に喋るターンだ。俺がこれから言う言葉で、こいつはどんな反応を示してくれるのだろうか?

 まぁ、俺の境遇をそのまま言ってみるとするか。

「悪いが、ママのおっぱいをしゃぶったことがないんだ」

 転生前の俺は、赤子の頃に母親から母乳を飲んでいたらしい。だけどこの世界ではまだ母親を見たことがないし、母乳を飲んでいたのかも分からない。

「そ、そうか。なんか悪いことを聞いたな」

 さっきまで強気で人をバカにするような態度をとっていた彼が、申し訳なさそうな態度で謝る。

 こいつ、こんな顔もするんだな。ゲームではなかったパターンだから、なんだか新鮮だ。

 そんなことを考えていると、バベルはカレンに視線を向ける。

「ぐはっ! なんて美しくも可愛らしいお嬢さんだ! 俺の心のハートが大ダメージを受けてしまう。特に艶のある美しい髪に吸い込まれそうなほどの魅力を持っている赤い瞳なんて最高じゃないか。なぁ、こんなイケメンよりも俺たちと一緒に冒険しないか?」

「…………」

 バベルが声をかけるも、カレンは無視して顔を俯かせた。

「俺様と会話ができないほど恥ずかしがりやがって、とてもキュートではないか。隣にいるこいつが羨ましいぜ。ああ、もう我慢出来ねぇ、力付くでも俺たちのパーティーに入ってもらおう」

 バベルがカレンに触れようと手を伸ばす。

 そうはさせるかよ。スキル発動! 【俊足スピードスター

 購入したばかりのスキルを発動し、瞬時にバベルの背後に回る。そしてカレンに触れようとした腕を掴み、そのまま後に持っていく。

「いってぇ!」

「おい、バベル。何ちゃっかり俺の推しに触れようとしている。彼女に触れようとするなら、まず事務所に話を通すのが筋ってものだろう」

 続いて【肉体強化エンハンスドボディー】を発動し、掴んだ腕に力を入れる。

「いってぇ! 痛い! 痛い! ボブ、ルー助けてくれ」

 肉体強化した俺の握力が強かったらしく、バベルは涙目になりながら仲間に助けを乞う。

「おのれ! よくもアニキを泣かせたな!」

「母ちゃんにしか泣かされたことがないって自慢していたのに、伝説がぶち壊しじゃないか」

 そんなしょうもないことを伝説にするなよ。Aランクなのに小物感で出てしまうじゃないか。

 リーダーを助けようと、ボブとルーが椅子から立ち上がって殴りかかってくる。

 Aランク冒険者だけあって早いな。でも、俺には止まって見えるよ。

 スキル【俊足スピードスター】により、強化された足で素早く二人の背後に回る。そして二人の首筋に手刀を放った。

 一撃を受けた二人は、その場で尻を突き出した状態で倒れた。

 漫画やラノベを読んで、俺もやってみたいと思ったけど、実現できる日が来るなんて感動だ。

 パワーアップした自分に心の中で歓喜しつつも、次の標的であるバベルに視線を向ける。

「はい。これで二人倒した。あとはバベルだけだ」

 彼には何が起きたのかが分かっていないようで、突然倒れた仲間を見て唖然としていた。

 悪いが、今のうちに倒させてもらうよ。

 再びバベルの背後に回ると、ボブとルーたちにしたように、首筋に手刀を叩き込む。

「グハッ!」

 手刀を叩き込まれたボブは床に倒れると動かなくなった。どうやら気絶したみたいだ。

 さて、これで強制イベントは終了。これで心置きなくギルドで依頼を受けることができる。

「嘘だろう。Aランクの冒険者チームであるバベルボブルが一瞬でやられてしまうなんて」

「あの男、いったい何者なんだ?」

 俺が瞬時にAランク冒険者たちを倒したことで、ギルド内にいる冒険者たちがざわめく。

 この反応、ゲームにはなかったな。ゲームをしていた頃は、強制イベントが終わった段階で、何事もなかったかのように普通にしているから、少し違和感がある。

 まぁ、今はそんな細かいことはどうでもいいか。

 そんなことを考えていると、カレンが俺のところにやってくる。

「ユウリ強いのね。まさかAランクの冒険者を一瞬で倒すなんて凄いわ。あなたなら、安心して背中を預けられそうね」

 カレンが笑みを向けながら俺のことを褒めてくれる。

 またカレンから誉められた! めちゃくちゃ嬉しい! 推しからの褒め言葉は何度聞いても飽きない!

 ああ、また心が満たされる。本当に幸せだ。

「おい、そこのお前!」

 幸せな気分に浸っていると、知らないおっさんの声が聞こえてきた。

 チッ何だよ。人がせっかく満たされているところに水を差してくるやつは!

 振り返ると、そこには誰も立っていなかった。

 あれ? おっさんらしき人物から声をかけられたような気がしたけど、気のせいか?

「おい、俺はこっちだ! もっと目線を下にしろ!」

 下から声が聞こえ、足元を見る。すると髭を生やした子どもが声をかけていた。

 いや、背が小さいから子どもと思っていたけど、こいつは大人だ。顔に皺があるし、膨れ上がっている筋肉からしても、子どもな訳がない。

「ワシはここのギルドマスターだ。Aランクを一瞬で倒したお前に頼みがあるのだ。町を出て西に行ったところにある、イザナイの洞窟に夢見の花と言う植物がある。それを取って来てくれないか? お前のような若くして凄腕の人物にしか頼めないのだ」

 夢見の花って言えば、ギルド内で受けられる依頼の中では、凄く簡単な依頼のはず。それなのに、どうして俺なんかに声がかかるんだ? しかもギルドマスター直々のお願いだなんて。

「ユウリ、この依頼受けようよ。ギルドマスター困っている」

 カレンが俺の服の袖を引っ張りながらお願いしてくる。

 もう、そんな上目遣いで言わないでくれ! おっさんの頼みではなく、カレンの頼みであれば、全力で引き受けてあげるに決まっているのだから。

「分かった。カレンの頼みを断る訳にはいかない。イザナイの洞窟に行こうか」

「いや、お願いしているのはワシなんだけど……まぁいいや。夢見の花を持って帰ってくれれば、報酬の方も用意してやる」

 報酬か。夢見の花の報酬はたかが知れているけど、ないよりかマシか。

「よし、それじゃあ行って来るよ」

「ああ、頼んだ」

 カレンと一緒にギルドに出ると【肉体強化エンハンスドボディー】と【俊足スピードスター】のスキルを発動し、推しをお姫様抱っこする。

「え、えええ! ちょっと、いきなり何をするの! こういうのはいくらなんでもまだ早い」

「早いところイザナイの洞窟に向かって夢見の花を取って終わらせよう。そのためにはこうするのが一番なんだ」

 カレンの返答を聞かずに、俺は地を蹴って走り出す。

 俺が走ると風が吹き、道を歩いている女性のスカートが舞い上がる。

 ロングスカートの女性は被害がなかったが、ミニスカートの女性はパンツが丸見えとなり、男たちの視線を集めていた。

 思いっきり町中を走って外に出るとイザナイの洞窟に向かう。そして洞窟の中に入り、脳内に記憶しているマップを参考にして花が咲いている場所に辿り着く。

 あった。あの青い花だ。

 採取する植物を発見したときだ。

「オーラオラオラ!」

 突然男の声が聞こえてきたかと思うと、進行方向に数多くの武器が降り注ぎ、道を塞いだ。

「ハハハ、俺はついているぜ。まさか神の駒を二人同時に葬ることができるのだからな」











最後まで読んでいただきありがとうございます。

面白かった! この物語は期待できる! 続きが早く読みたい!

など思っていただけましたら、【感想】や【お気に入り登録】をしていただけると、作者のモチベが上がり、更新が早くなります。

【感想】は一言コメントや誤字報告でも大丈夫です。気軽に書いていただけると嬉しいです。

何卒宜しくお願いします。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。

ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。 剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。 しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。 休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう… そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。 ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。 その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。 それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく…… ※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。 ホットランキング最高位2位でした。 カクヨムにも別シナリオで掲載。

スキルシーフで異世界無双

三毛猫
ファンタジー
霧島大翔は会社員から異世界転生した。異世界転生していきなり合コンに参加する羽目になった。 合コンに参加している参加者の職業は勇者、冒険者、魔法使いというハイスペックなメンバーの中、大翔の職業は村人。 馬鹿にされ、追放されて辛すぎる合コンから異世界生活が始まり成り上がる。 ※視点がコロコロ変わります

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

辺境村人の俺、異能スキル【クエストスキップ】で超レベルアップ! ~レアアイテムも受け取り放題~

桜井正宗
ファンタジー
 辺境の村人・スライは、毎日散々な目に遭わされていた。  レベルも全く上がらない最弱ゆえに、人生が終わっていた。ある日、知り合いのすすめで冒険者ギルドへ向かったスライ。せめてクエストでレベルを上げようと考えたのだ。しかし、受付嬢に話しかけた途端にレベルアップ。突然のことにスライは驚いた。  試しにもう一度話しかけるとクエストがスキップされ、なぜか経験値、レアアイテムを受け取れてしまった。  謎の能力を持っていると知ったスライは、どんどん強くなっていく――!

破滅する悪役五人兄弟の末っ子に転生した俺、無能と見下されるがゲームの知識で最強となり、悪役一家と幸せエンディングを目指します。

大田明
ファンタジー
『サークラルファンタズム』というゲームの、ダンカン・エルグレイヴというキャラクターに転生した主人公。 ダンカンは悪役で性格が悪く、さらに無能という人気が無いキャラクター。 主人公はそんなダンカンに転生するも、家族愛に溢れる兄弟たちのことが大好きであった。 マグヌス、アングス、ニール、イナ。破滅する運命にある兄弟たち。 しかし主人公はゲームの知識があるため、そんな彼らを救うことができると確信していた。 主人公は兄弟たちにゲーム中に辿り着けなかった最高の幸せを与えるため、奮闘することを決意する。 これは無能と呼ばれた悪役が最強となり、兄弟を幸せに導く物語だ。

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

おもちゃで遊ぶだけでスキル習得~世界最強の商人目指します~

暇人太一
ファンタジー
 大学生の星野陽一は高校生三人組に事故を起こされ重傷を負うも、その事故直後に異世界転移する。気づけばそこはテンプレ通りの白い空間で、説明された内容もありきたりな魔王軍討伐のための勇者召喚だった。  白い空間に一人残された陽一に別の女神様が近づき、モフモフを捜して完全復活させることを使命とし、勇者たちより十年早く転生させると言う。  勇者たちとは違い魔王軍は無視して好きにして良いという好待遇に、陽一は了承して異世界に転生することを決める。  転生後に授けられた職業は【トイストア】という万能チート職業だった。しかし世界の常識では『欠陥職業』と蔑まされて呼ばれる職業だったのだ。  それでも陽一が生み出すおもちゃは魔王の心をも鷲掴みにし、多くのモフモフに囲まれながら最強の商人になっていく。  魔術とスキルで無双し、モフモフと一緒におもちゃで遊んだり売ったりする話である。  小説家になろう様でも投稿始めました。

処理中です...