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第一章

第三話 これってもしかして推しとのデート?

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「もう一度言う! 俺は君のことが大好きだ!」

 俺は会話の流れに乗って推しに告白をする。

 当然、彼女にとっては予想外の展開だ。カレンは驚き、その場で固まっている。

 だけど、告白をしてしまった以上、後に引くことはできない。こうなったら、俺の本気を彼女に伝える。

「綺麗で美しい容姿が好きだ! 自分を顧みずに弱い人を助けようとする優しい君が好きだ! 神の駒との戦闘で町が崩壊したときも、人々に勇気と希望を与えようと奮闘する強い心が好きだ! 怒った時に眉間に皺を寄せる姿も好きだ! 笑った時の笑顔が好きだ! 泣いているとき、守ってあげたいと思わせるオーラが好きだ! Dカップの胸が好きだ! まだまだ君の好きなところはたくさんある。だけどこれだけは知ってもらいたい。俺、ユウリ・クレイは、世界中にいるカレン・クボウのファンの中でも、一番に君のことを愛している!」

 マシンガントークで、俺は彼女への好きな気持ちを伝える。

 大声を出してしまったからか、喉に軽い痛みを感じ、肩で息をする。

 一世一代の大告白をすると、どこからか拍手の音が聞こえてきた。

 すると、連鎖するかのように他の人まで拍手を始め、大通りは万雷の拍手が沸き起こる。

「いいぞ! それこそ男だ!」

「お嬢ちゃん、彼が大聖堂から飛び降りる気持ちで告白したのよ! ちゃんと応えてあげないと失礼だからね」

「きゃー! 私もこんな告白されたい!」

 最初は拍手だけだった野次馬たちが口々に言い出し、今では拍手喝采にまで発展してしまった。

 予想以上の大騒ぎに、俺はこの後どうしていいのかが分からず、石のように固まってしまった。

 そんな中、告白されたカレンが顔を赤くしながら俺の手を握る。

「ちょっと来て」

 手を引っ張られた俺は、彼女に導かれるまま裏通りを走る。

「あ、あのう」

 声をかけてみるも、彼女は反応することなく少し顔を俯かせて走っていた。

 もしかして怒っている! 俺、嫌われた! それもそうだよな。流れでつい告白してしまったけど、大通りで多くの人に聞かれてしまったんだ。彼女にちょっとしたトラウマを植え付けてしまったかもしれない。

 ただ嫌われるだけならマシな方だ。でも、二度と顔を見せるなと言われたら、きっと立ち直れないだろう。最悪、自ら命を絶ってしまうかもしれない。

「あそこに入りましょう」

 そんなこと考えていると、カレンは俺の手を握っていないほうの手で、突き当たりにある建物を指差す。

 あの場所はこの町の中でも隠れた名店の喫茶店だ。殆ど知られていないために、客は殆どいない。だけどあそこの紅茶は格別に美味であるという設定になっている。

 カレンが喫茶店の扉を開け、俺を中に入れる。

「いらっしゃいませ。あれ? カレンさんではないですか? お早いご来店ですね」

「あはは、またここの紅茶が飲みたくなって、蜻蛉トンボ返りして来ちゃった」

 来客を迎えに来たウエイトレスが、カレンの来店に少々驚いた様子を見せる。どうやらつい先ほどまで、この喫茶店に居たみたいだな。

「それは嬉しいですけど、中毒性のあるものは入っていませんよ……ああ、そう言うことでしたか。どうして戻って来たのか分かりました。確かに二人だけの時間を過ごすのであれば、ここは格好の場所ですものね」

 繋がっている俺たちの手を見て、ウエイトレスがウインクする。

「ち、違う! これにはちょっとした事情があって」

 ちゃかすウエイトレスの言葉を理解したようで、カレンは握っていた手を離した。

 離れた手が非常に寂しいけど、仕方がない。今日は一日、この手は洗わないようにしよう。

「まぁ、そう言うことにしておきますわね。では、一番良い席に案内させてもらいます」

 ニヤニヤと笑みを浮かべながら、ウエイトレスは壁沿いのテーブル席に案内した。

 確かにここなら観葉植物とかがあるから、殆どの場所から死角になっている。

 大通りにいた人が入店したとしても、俺たちが居ることには気付かれ難いだろうな。

「紅茶を二人分お願いします」

 カレンと対面するように座ると、推しがウエイトレスに飲み物を注文した。

「分かりました。紅茶二人前ですね」

 ウエイトレスの言葉に微妙な違和感を感じつつも、とりあえずは気にしないようにする。

「では、少々お待ちください」

 注文を聞き終えたウエイトレスが離れて行くと、俺はカレンを見る。

 まずは嫌われる前にちゃんと謝らないと。

「さっきはごめん! 話しの流れから勢いで言ってしまって、君を困らせてしまった」

 彼女から嫌われたくない思いから、心を込めて謝罪して頭を下げる。

 しかし勢いが余ってしまい、額をテーブルの上にぶつけてしまう。

「痛!」

「ぷっ、あはは! 何やっているのよ」

 顔を上げると、カレンは声を出しながら笑っていた。

 この笑顔に、俺は何度も救われたことか。仕事を失敗してクビになったときも、彼女の笑顔のお陰で、前を向くことができた。

「まぁ、びっくりしたのは本当よ。まさかあんなことを言われるなんて思わなかったわ。でも、嫌ではなかった」

「え?」

「だってあんなに私の良いところ、好きなことを言ってくれるのよ。しかも大きな声で必死になって言ってくれて。嫌な気持ちになる子は少ないと思うわ。まぁ、どうしてあなたがそんなに私のことを知っているのか疑問だけど、そこは未来予知のスキルによるものと割り切ることにするから」

 そう言えば、俺は一言も自分のユニークスキルが未来予知だとは言っていないのに、彼女が勝手にユニークスキルだと勘違いしていたな。

 彼女に嘘を吐くのは心苦しい。でもなんて話す? 俺はゲームの外から来た転生者だって言っても、信じてもらえないよな。

「でも、最後のあれは絶対にダメよ。女の子の外見を褒めるとしても、胸やお尻に関してはセクハラになるのだから。めっ!」

 ユニークスキルについて悩んでいると、カレンが人差し指を交差させてバッテンを作り、注意してくる。

 その破壊力に、一瞬気を失いそうになった。

 か、可愛すぎるだろう! なに? このメチャクチャ可愛いあざとさは! リアルの女でされたら『何猫被っているの? そんなに自分は可愛いアピールしてチヤホヤされたいの?』って思うけど、推しがするとこんなに破壊力があるのかよ!

 や、やばい。推しがメチャクチャ可愛いせいで昇天しそうになる。彼女がゾンビの手を握っただけで、浄化されるだけのことはある。

 決めた。信じてもらえなかったとしても、俺はカレンに隠し事をしたくない。

「カレン、君に言いたいことがある」

「は、はい!」

 俺の気迫が伝わったのか、彼女は居住まいを正す。

「俺のユニークスキルは未来予知じゃない! 俺のユニークスキルは【推し愛】なんだ!」










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