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第三章

第一話 王家の事件

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~シルヴィア視点~





 ラルスが誘拐される事件から1週間が経過した。あの事件以来、ワタシは彼のことで頭を悩ませている。

 ウイークが倒された後、野盗たちを全員捕まえた。そして王国に連絡して兵士を派遣して捕らえてもらったのだ。

 そこまでは良かった。しかし野盗たちを尋問している間に、ウイークが巨大なモンスターになったことや、ラルスが巨大化して倒したことまでも話したのだ。

 そのお陰で、城中その話題で大騒ぎになっている。

 どうにかラルスであることを隠し通すことに成功したものの、現状はあまり宜しくない。

「隠し通すにも時間の問題のような気がするし、はたしてどうしたものか」

 痒くもないのに頭を掻く。

 兄さんに相談でもするか? あいつなら、喜んで協力してくれるかもしれない。

 兄のことを脳裏に浮かべるも、直ぐに首を横に振る。

「いや、兄さんに話せば、絶対に王様の耳にも入るだろう。そうなれば国の総力を上げてでも、ラルスを見つけ出そうとするかもしれない」

「シルヴィア副団長!」

 考えごとに耽っていると、1人の兵士が駆け寄って来る。

「どうかしたか?」

「はい、王様がお呼びです。直ちに玉座の間に来るようにとのこと」

「そうか。分かった。教えてくれて礼を言う」

「いえ、これも仕事ですので。それでは私は、自分の任務に戻ります」

 一礼をすると、部下の兵士はワタシの横を通り過ぎ、そのまま離れて行く。

 足を一歩前に出し、再び歩き出しながら、右手の親指を顎に当てた。

 王様がワタシをお呼びになった。間違いなくラルス絡みだろう。そしてきっと、あの男も一緒にいるはず。ここは正念場だと思っていた方が良さそうだな。

 決意を改め、覚悟を決めると、玉座の間の前に辿り着く。

「シルヴィア副団長、王様がお待ちです。どうぞ、中にお入りください」

 扉の前で見張りをしていた兵士が扉を開け、中に入るように促す。

 一度立ち止まった足を再び動かし、玉座の間に入る。

 玉座の間には、ワタシの兄である騎士団長の他にもう一人、第二騎士団の騎士団長の姿もあった。

 そして玉座に座っている50代の男がこちらに視線を送ってきた。

「王様、お待たせして申し訳ありません。シルヴィア、到着しました」

 片膝を突いて首を垂れる。

「シルヴィア、良く来てくれた。楽な姿勢を取るが良い」

「ありがとうございます」

 王様に礼を言い、ゆっくりと立ち上がる。

「それで、このワタシに何の用なのでしょうか? 副騎士団長であるワタシを呼ぶとは珍しいですね」

「ああ、一応お前の意見も聞こうと思って。今、第一と第二の騎士団長と例の少年について話しておったのだ。シルヴィアよ、何度も同じ質問をされてうんざりだと思うが、最後にもう一度聞かせてもらう。本当に少年について何も知らないのだな?」

「はい。ワタシは少年については詳しく覚えてはいません。以前にもお伝えしたように、友であるソフィーのお願いで護衛任務をしていました。その時に偶然にも野盗の村を発見し、個人的な判断で村に襲撃をかけました。その時にモンスターが現れ、村を破壊している時に、巨大な少年が現れました。ですが、その時に風が吹き、砂塵が舞って目に入ってしまいました。視界が良好になったときには、モンスターは倒され、巨大な少年も消えていたので、明確な顔は覚えておりません」

 以前と同じことを繰り返す。女は嘘が上手い。嘘と真実を組み合わせることで、嘘がバレ難くすることができる。

 説明をすると、王様は兄さんに視線を送る。

「どうだ? 兄であるお前の立場から、妹は嘘をついているように思うか?」

「シルヴィアは嘘は吐いていません。確認をしましたが、うそぶいているようには見えませんでした」

 兄さんが、ワタシは嘘を言っていないことを王様に伝える。

 どうやら兄を使って、ワタシの嘘を見破ろうとしていたらしい。

「そうか。お前が言うのならそうなのだろう。では、次は野盗の町に現れたモンスターを倒してくれた少年についてだがーー」

「王様、今更議論をする必要はありません。直ちに見つけ出して捕えて処刑するべきです」

 王様の言葉を遮り、第二騎士団長が過激ばことを言ってくる。

 ラルスを捕まえて処刑するだと! そんなことをさせるか!

「王様、ワタシはその少年のことは今は気にしない方が宜しいかと。現場に居合わせましたが、人間に危害を加える様子はありませんでした」

「僕もシルヴィアちゃんの意見に賛成だな。その少年のことが良くわかっていないのに、捜索のために兵力を割くのは良くないかと」

 ラルスのことは頭の片隅に止めておくだけの方が良いと進言すると、続いて兄さんがワタシに賛同して言葉を連ねる。

「うむ、確かにお前たちの言うことも一理あるな。第二騎士団長、お主はどう思う?」

「私は断然、一刻も早くその少年を見つけ出すべきです。何かが起きてからでは手遅れになります。早急に捜索隊を編成して送り出すべきかと」

 王様が第二騎士団長に問うと、彼は自分の意思を曲げることなく、兵力を分散するべきだと主張してきた。

「そもそも、どうして少年の捜索をしたくないのですか? 少年を見つけ出されては困ることでもあるのですか!」

 第二騎士団長が指を向けて訊ねてくる。

 この男、まだワタシを怪しんでいるな。だけど事実である以上、下手なことは言えない。万が一にでも口を滑らせる危険性がある。

「それは君にも言えることだよ。第二騎士団長、君も少年を探し出すために、兵力を割きたい理由でもあるのかな?」

 どんな言葉で納得してもらおうかと思考を巡らせていると、兄さんが第二騎士団長に問いかける。

「何を言っている! そんなこと、民の安全を守るために決まっているだろうが! 危険な芽は早く摘まなければ、多くの命が奪われることにもなりかねないのだぞ!」

 第二騎士団長は兄さんを睨む。しかし兄さんはいつものようにニコッと笑みを浮かべた。

「騎士団長たちよ。ワシがいる前でそんなに歪み合うな。今日のところはこの辺で開催としよう。全員、己の職務を全うするがいい」

 王様が命令を下すと、第二騎士団長は兄さんをキッと睨み付け、そのまま玉座の間から出ていく。

「それじゃあ、僕たちも出ようか。シルヴィアちゃんにはお願いしたいことがあるから、そのまま僕に付いて来てくれ」

 そう言って歩き出すと、ワタシは兄さんの後ろを歩き、彼に付いて行く。
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