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第二章

第十一話 おのれ!よくも私を婚約破棄したな!

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~ウイーク・マッタン視点~




 婚約者候補から婚約を断られ、私はしばらくの間棒立ちしていた。しかし、我に返ると拳を強く握る。

「そうですか。それは気が付かなくってすみませんでした。では、また日を改めてあなたのお兄様にはご連絡をしておきます」

 軽く会釈をすると、踵を返して彼女たちに背を向ける。

「私は先に返る。お前たちは後始末をしておけ」

 護衛の兵士たちに残りを任せ、宿屋へと帰る。







「くそう! くそう! くそう!」

 その日の夜、私は声を上げながら怒りの感情を吐き出していた。

「くそう! 何が婚約をするつもりはないだ! この私が婚約破棄をされた? ふざけるな! 私は地元では多くの女にチヤホヤされ、貴族令嬢たちからも求婚を迫られたこともあるんだぞ! くそう! くそう! くそう!」

 ベッドを何度も殴り、怒りの吐口にする。

「この私のプライドを傷付けやがって! 一般兵士の分際で!」

 何度もベッドを殴っていると、さすがにストレス発散になったようで、次第に冷静さを取り戻していく。すると、あるアイディアが思い浮かんだ。

「そうだ。こうなったら、何が何でもあの女を私の妻にしてやる。そしてメイドたちと一緒に雑用をさせ、一生こき使ってやる」

 シルヴィアをどうやって自分のものにするのか、思考を巡らせる。

「そう言えば、あの女はあのクソガキがいるから婚約をしないと言っていたな。本当にあのガキは私の邪魔をしてくれる」

 歯を食い縛りながら、本日の午後のことを思い出す。

 本来であれば、私の雇った役者に演技をさせ、問題が発生したと見せかけてシルヴィアを誘き寄せるはずだった。けれど、彼女よりも先に来たのはあのラルスとか言うガキだった。

 ガキが1人来たところで計画には支障がない。そう思っていた。けれど、あのガキは予想外に強く。役者の男を倒してシルヴィアが来る前に騒動を終わらせやがった。

「くそう。思い出しただけでムカムカしてくる。あのガキのせいで、最初の計画が台無しになった」

 最初の計画に失敗した私は、直ぐに次の計画を考えていた。そんな時、ラルスの前に1人の少女が現れ、サーカスの話しを持ち出した。

 盗み聞きをしていると、これは使えると思った。何せこの城下町にいるサーカスの団長は私の息がかかっている。私の命令には従うしかない。

 直ぐに次の作戦を立て、団長が暴れている間にシルヴィアをサーカスに向かうように仕向け、彼女たちが困っている間に私がヒーローとなって現れ、問題を解決する。そうすれば、私に惚れてシルヴィアを自分のものにできると思っていた。

 ふたつ目の作戦は上手くいった。けれど、作戦自体は成功したとしても、結果的に彼女に振られては意味がない。

「私があの女にざまぁをするためには、まずはあのガキを始末することが先だ」

 だけど、あのガキには恐るべき不思議な力を持っている。あんなユニークスキルを見たのは初めてだ。

 ただ遊んでいるだけであんなことができるなんて。

 まずはあのガキを護衛たちに調べさせ、情報を集めることが先だな。そして策を考え、あのガキを始末する。その後にシルヴィアを強引にでも婚約させれば、私の勝ちだ。

「おい、そこに居るだろう。入って来い」

「ハッ! 失礼します」

 扉の先に控えていると思われる護衛に声をかける。すると扉が開かれ、1人の兵士が部屋に入ってきた。

「何が御用でしょうか?」

「シルヴィアと一緒にいたあのラルスとか言うガキの情報を集めろ」

「分かりました。では、部下たちを使って情報を集めてきます」

「なるべく早くしろよ。今の私は計画通りに事が進まず、イライラしている」

「承知しております。直ぐに情報を集めて参りますので、吉報をお待ちください」

 兵士が頭を下げ、踵を返して部屋を出て行く。

 これで後は、あいつらが情報を集めて来るのを待つだけだ。





 翌日、私は兵士から受け取った書類に目を通していた。彼らが集めていた情報によると、あのガキはシルヴィアの友人であるソフィーの家に居候しており、一緒にお風呂に入ったり、同じベッドで寝ていたりしているなどと言うことが書かれてある。

 その書類を力一杯握りしめる。

「私の知りたい情報はこんなものではない!」

 思わず声を上げ、書類を破り捨てた。

「もっとまともな情報はないのか」

 次の書類に目を通すと、今度は彼のユニークスキルのことについて書かれてあった。読めば読むほど、あのガキがどれだけ規格外な存在なのかが思い知らされる。

 本当に恐ろしいやつだ。だが、シルヴィアを我が物にするには、この障がいを乗り越えなければならない。

 最後の書類に目を通す。

 もし、これにも使えそうな情報が書かれていなければ、護衛の兵士たちを解雇することになる。

 私に仕える者が役立たずでは困るからな。

 最後の書類を黙読すると、思わず口角が上がった。

 なかなかやるじゃないか。この情報は使える。上手くすれば、あのガキを罠に嵌めることができる。

「さぁ、復讐を始めようではないか」
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