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第5章 奪還作戦

65話 奪還作戦⑺

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 エドガーはいきなり現れた下男に戸惑う軍人たちの間をすり抜け、一気にウィリアムの前に躍り出る。マックスや他の味方に被弾することを懸念し、銃は使わずに短剣を握りしめると急所目掛けて突き出した。

「お、お前は、誰だ」

 太った身体からは想像もつかないくらいの速さで身を躱したウィリアムが、近くの軍人から銃剣と奪い取って構える。この隙に、叫びながら二階へと駆けのぼっていったマックスを確認したエドガーは、ウィリアムともみ合いながら応接間へと押し込んだ。
 その最中で、敵の軍人が向けた銃が火を噴き、一発がエドガーの太腿を掠める。

「くっ」

 灼けるような痛みを歯を食いしばってやり過ごすと、エドガーは怯むことなくウィリアムの手首を掴んで捻り倒す。まさかエドガーが反撃してくるとは思ってもいなかったので油断していたのだろう。味方の銃による跳弾を怖れてか、ウィリアムがわめき散らした。

「ま、待て、私に当たる、撃つな、撃つな!」

 エドガーの背後から撃ってきていた軍人たちが、一斉にサーベルを抜き放つ音がする。エドガーにはあと一丁、弾が六個装填された回転式拳銃があるものの、それを使えば至近距離からウィリアムを撃ち抜いて殺さない自信はなかった。

 ――やむを得ない。

 エドガーが懐に手を入れる。しかし、大広間の方から大勢の雄叫びが聞こえてきたことにより、背後の軍人たちの気が逸れた。

 ――閣下の援軍が間に合ったか!

 その隙を逃さず、エドガーはもがくウィリアムの肩目掛けて短剣を投げる。それは見事に肩に刺さった。崩折れるウィリアムにのしかかったエドガーは、次こそは懐から銃を出し、そのだぶついた喉に銃口を押し付けた。荒い息を吐き、エドガーが凄みを効かせたようににやりと笑うと、ウィリアムはヒッと息を飲んだ。

「ま、待て、な、何が、望みだ」

「そんな汚れた手で私の望みを叶えることなどできはしないさ……ウィリアム・キーブル元重騎兵旅団連隊長。ソルダニア帝国陸軍から逮捕状が出ている」

 袖口で汗を拭ったエドガーの顔から、変装用の煤汚れが取れ始める。ようやく自分を捕らえた者が誰なのか気づいたらしいウィリアムが、掠れた声で茫然と呟いた。

「お前……そうか、エドガー・フォーサイス……お前だったのか」

「覚えていていてくれなくてもよかったんだがな。ティルケット砦以来か。とんでもないことをしでかしてくれたものだ」

「ふ、ふんっ、相変わらず陛下の犬を演じているのか?」

 嘲るように笑ったウィリアムに、エドガーは淡々とした口調で答える。

「なんとでも言え。犬に噛まれて人生を台無しにした犯罪者の末路を、あんたならよく知っているだろう?」

 がくりと項垂れたウィリアムの前に、次々と喪章をつけたシャナス公国海軍の軍人たちが入ってくる。ウィリアムの息のかかった軍人たちはなす術もなく捕らえられていき、最後に悠々と総督の制服をまとった大男が入ってきた。

「やあ、異母弟殿、久しぶりだな。いつの間に別人になったんだ?」

「まさか、何故、生きて……伯爵」

 堂々としたオーウィンの登場に、捕らえられた軍人たちの顔色が蒼白になる。そしてウィリアムの呟きが、しんと静まり返った居間に響いたその時、

「エドガー!! 外だ、!!」

遠くから聞こえたマックスの渾身の叫び声に、エドガーは迷わずウィリアムを床に投げ捨てた。そして落ちていた銃剣を拾い、容赦なく窓を壊す。硝子が粉々に割れ、木枠を押し蹴ったエドガーはそのまま外に飛び出した。部屋の中から「エドガー殿?!」という声が聞こえたが、エドガーはそれに返事をすることなく二階の部屋を見上げると、猛然と走り出した。

 そこには、白い布にぶら下がり、残党の軍人たちから逃れようとしているレインリットがいた。そして窓枠には、今にも千切れそうな布を必死の形相で引き上げようとするマックスが見える。

「レインリット、大丈夫だ! 私が受け止めるから、飛べ!」
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