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第4章 いざ、ソランスターへ
54話 攫われた令嬢⑴
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「裏口から出た方が早いですよ」
「ありがとうございます、教導師様」
礼拝堂に降りてきたレインリットは、なんの疑いもなく教導師に続いて裏口から外に出た。従僕たちが建物の裏側に馬車を移動させていたらしい。 慌てていたレインリットは、馬車の中で困っているであろうエファを呼んだ。
「エファ、大丈夫?」
しかし、覗き込んだ馬車の中にエファの姿はない。それどころか、内装が微妙に違っている。馬車を間違えてしまったのかと思ったレインリットの背中に、ドンという衝撃が走った。いきなりのことで声を詰まらせ、痛みにむせ返る。そして床に倒れたレインリットは、そのままの状態で誰かに脚を掴まれ、馬車の中に押し込まれた。
「痛い!」
「大人しく言うことを聞いていた方が身のためですよ」
「今すぐ離して!」
「それはできかねますね。レインリット・メアリエール・オフラハーティ。お久しぶりです」
「何故、教導師様」
レインリットの後ろから馬車に乗り込んできたディーケン教導師は、人のよさそうな顔を引っ込め、愉快そうに笑う。エドガーの心配が的中してしまったことを悟ったレインリットは、信じられない思いで教導師を見た。
「叔父に、何か言われたのですか?」
震える声で質問をしたレインリットだったが、教導師は答える気はないようだ。それどころか、まるで観察するかのようにレインリットをジロジロと見てくる。やはり、先ほど顔を見られた時に正体を悟られてしまったようだ。レインリットは自分のおかした小さな失敗に歯噛みした。
「結婚式から逃げ出したと思ったら、別の男を連れてきたわけですか」
「ち、違います」
「貴女のその瞳、私はよく覚えておりますよ。何せ、ここフィゲンズは退屈な場所ですからね」
扉が閉まり、馬車が揺れ始める。大声をあげようと口を開いたレインリットに、教導師は拳銃を突きつけてきた。聖職者の服に、ゴツゴツとした鉄の武器は似合わない。
「おっと、騒ぐと穴が空きますよ」
「せ、聖職者ともあろう人が、なんというものを」
回転式の拳銃のようだ。海軍の軍人たちが持っているところを見たことがある。父親も拳銃を書斎に置いていたが、レインリットは一切扱わせてもらったことはなかった。
レインリットは起き上がると、教導師から精一杯距離を開ける。エファに何かあったと思わせてレインリットを一人誘き寄せたようだ。まんまと罠に引っかかってしまった、と悔しい気持ちでいっぱいになる。昨日、あれほど考えてから行動しなければと反省したばかりなのに、まったく活かされていなかった。
――エドガー様、ごめんなさい。
レインリットが攫われてしまったことを知ったら、あの優しい人は己を責めることだろう。そして残されたエファは、どんなに心配することか。馬車はどこかに急いでいるようで、多分そこは今のレインリットにとって一番行きたくない場所に違いなかった。
「私をどうするおつもりですか」
「知りたいですか? 貴女のご想像通りの場所にお連れして差し上げますよ」
「わ、私が、今までのように黙っていると思うのですか? ソランスター伯の称号も、この土地も、これ以上好きにはさせません!」
この旅の中で、レインリットの心は格段に強くなった。どんなに脅されたとしても、エドガーたちがいると思うと強くなれる。
「私は強気な女性は好きですよ。しかし、あの方はどうでしょうね」
「ディーケン教導師様、どうかこのようなことをおやめください」
「本物の聖職者であればこんなことはしなかったでしょうね。あんな片田舎の教導師など、私はこんなところで燻っているわけにはいかないんだ」
「教導師様?」
慣れた手つきで拳銃を扱う教導師は、小窓の外へと視線を外すと、レインリットの質問には答えなくなった。
「ありがとうございます、教導師様」
礼拝堂に降りてきたレインリットは、なんの疑いもなく教導師に続いて裏口から外に出た。従僕たちが建物の裏側に馬車を移動させていたらしい。 慌てていたレインリットは、馬車の中で困っているであろうエファを呼んだ。
「エファ、大丈夫?」
しかし、覗き込んだ馬車の中にエファの姿はない。それどころか、内装が微妙に違っている。馬車を間違えてしまったのかと思ったレインリットの背中に、ドンという衝撃が走った。いきなりのことで声を詰まらせ、痛みにむせ返る。そして床に倒れたレインリットは、そのままの状態で誰かに脚を掴まれ、馬車の中に押し込まれた。
「痛い!」
「大人しく言うことを聞いていた方が身のためですよ」
「今すぐ離して!」
「それはできかねますね。レインリット・メアリエール・オフラハーティ。お久しぶりです」
「何故、教導師様」
レインリットの後ろから馬車に乗り込んできたディーケン教導師は、人のよさそうな顔を引っ込め、愉快そうに笑う。エドガーの心配が的中してしまったことを悟ったレインリットは、信じられない思いで教導師を見た。
「叔父に、何か言われたのですか?」
震える声で質問をしたレインリットだったが、教導師は答える気はないようだ。それどころか、まるで観察するかのようにレインリットをジロジロと見てくる。やはり、先ほど顔を見られた時に正体を悟られてしまったようだ。レインリットは自分のおかした小さな失敗に歯噛みした。
「結婚式から逃げ出したと思ったら、別の男を連れてきたわけですか」
「ち、違います」
「貴女のその瞳、私はよく覚えておりますよ。何せ、ここフィゲンズは退屈な場所ですからね」
扉が閉まり、馬車が揺れ始める。大声をあげようと口を開いたレインリットに、教導師は拳銃を突きつけてきた。聖職者の服に、ゴツゴツとした鉄の武器は似合わない。
「おっと、騒ぐと穴が空きますよ」
「せ、聖職者ともあろう人が、なんというものを」
回転式の拳銃のようだ。海軍の軍人たちが持っているところを見たことがある。父親も拳銃を書斎に置いていたが、レインリットは一切扱わせてもらったことはなかった。
レインリットは起き上がると、教導師から精一杯距離を開ける。エファに何かあったと思わせてレインリットを一人誘き寄せたようだ。まんまと罠に引っかかってしまった、と悔しい気持ちでいっぱいになる。昨日、あれほど考えてから行動しなければと反省したばかりなのに、まったく活かされていなかった。
――エドガー様、ごめんなさい。
レインリットが攫われてしまったことを知ったら、あの優しい人は己を責めることだろう。そして残されたエファは、どんなに心配することか。馬車はどこかに急いでいるようで、多分そこは今のレインリットにとって一番行きたくない場所に違いなかった。
「私をどうするおつもりですか」
「知りたいですか? 貴女のご想像通りの場所にお連れして差し上げますよ」
「わ、私が、今までのように黙っていると思うのですか? ソランスター伯の称号も、この土地も、これ以上好きにはさせません!」
この旅の中で、レインリットの心は格段に強くなった。どんなに脅されたとしても、エドガーたちがいると思うと強くなれる。
「私は強気な女性は好きですよ。しかし、あの方はどうでしょうね」
「ディーケン教導師様、どうかこのようなことをおやめください」
「本物の聖職者であればこんなことはしなかったでしょうね。あんな片田舎の教導師など、私はこんなところで燻っているわけにはいかないんだ」
「教導師様?」
慣れた手つきで拳銃を扱う教導師は、小窓の外へと視線を外すと、レインリットの質問には答えなくなった。
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