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第3章 手にした真実

38話 元家令の証言⑵

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 怪しまれないように会話をしながら歩くこと十分。店がまばらになり、今度は庭付きの家が増え始める。

「もうすぐそこだよ。まずは私が行くから、君たちは私の後ろにいなさい」

「はい、エドガー様」

 そこは、周りの家となんら変わりのない、石造りの家だった。エドガーは従僕を庭の入り口に立たせると、レインリットとエファを連れて小道を進む。様々な花や香草が生えている庭を通り、玄関までやってきたところ、扉には乾燥させたルティスの飾りがかけてあった。

「エドガー様、あのルティスの飾りはソランスターの伝統的な魔除けです」

「そうか。これは当たりかもしれないな」

 エドガーはそう言うと扉を叩き、家人を呼んだ。

「マクマーンさん、ご在宅ですか!」

 しばらく待っても返事がないので、エドガーが何度か呼びかける。若干強めに扉を叩くと、中でゴソゴソと物音がしてわずかに扉が開いた。

「いきなりで申し訳ない。マクマーンさん」

「何か。主人は今は仕事に出ております」

 訝しむような女性の声がするが、扉はそれ以上開くことはない。エドガーがさりげなくつま先を隙間に入れ、人好きのしそうな笑顔になった。レインリットはその後ろで、息を詰めて耳をすませる。

 ――この声は、アン?

「マクマーンさんの古い友人と来ているのです。是非お会いしたいのですが、貴女はマクマーン夫人でいらっしゃる?」

「はあ、そうですが……主人の古い友人? 私たちの友人はここにはいませんよ」

 ピシャリと言い放ったマクマーン夫人の声は、明らかに警戒していた。そこでエドガーは話による説得を早々に諦めたようだ。半分だけ顔をこちらに向けると、二人に向かって近づくように手まねきする。

「警戒しないでも大丈夫だ。彼女たちは、遠路はるばる貴女方に会いに来ただけだから……、マクマーン夫人に顔を見せてあげてくれ」

 ヴェール付きの帽子を被ったレインリットは、緊張しながら前に出た。何か言おうとしたが、隙間から見えたその懐かしい顔に何も言えなくなる。そしてマクマーン夫人もレインリットを見ると、顔を強張らせた。

「アン、私よ」

「あ、貴女様は……ああ、まさかそんな」

 扉から転がり出てきたアンが、エドガーを押しのけるようにしてレインリットに駆け寄る。

「お嬢様、お嬢様!」

「すっかり痩せてしまって……苦労しているのね、アン」

「お嬢様、お顔をよく見せてくださいませ」

 震える手を伸ばしてきたアンに、レインリットはその手を優しく包み込んだ。たった一年と少しの間にすっかり老け込んでしまったアンは、レインリットの隣に控えるエファを見つけて声を上げて泣き始めた。

「マクマーン夫人。中に入れてくれないだろうか。彼女たちは、目立つと困る」

 エドガーの言った意味を理解したのだろう。アンがレインリットを確認するように見てきたので、その通りだと頷いてみせる。それから涙を拭ったアンは、家の中に三人を招き入れた。

 三人を暖炉の側の粗末なソファに座らせ、アンは「畑に主人を呼びに行く」と言うと、裏口から急いで出て行く。

「さて、カハル・マクマーンがこちらの味方であればいいのだが」

「それはどういうことですか?」

 ほぼ実用的な家具しかない質素な部屋を見回しながら、レインリットはエドガーの呟きを疑問に思う。味方、とはどういうことなのだろう。

「すでに君のお父上の異母弟……クロナン・ヒギンズとやらが買収していないとも限らない。そうでなかったとしても、素直に話してくれるだろうか」

 その率直な意見に、レインリットはぎくりとした。それは一番考えたくないことだが、否定できるだけの材料がない。

「万が一、君に危害が加えられるようであれば、私は誰であろうと容赦しないよ」

「……そうでないことを願います」

 エドガーは御者の他にもう一人従僕を連れてきていた。庭の入り口に待機させた従僕は、きっとそういう意味だったのだ、とレインリットは気づく。父親の部下のように屈強な身体つきの従僕は、自分たちに何かあった時に守ってくれる護衛だった。


 二十分以上待たされただろうか。裏口が騒がしくなり、誰かが走ってくるような足音が聞こえてくると、エドガーが立ち上がって懐に右手を入れる。

「エドガー様?」

「用心のためだよ……二人はそこを動かないで」

 まもなく、錆びたような音でガチャッと扉が開く音がして、息を切らした人物が入ってきた。洗いざらしのシャツに茶色のベストを着た痩せた男性は、荒い息をついてまずはエドガーを凝視する。

「貴方は?」

「エドガー・レナルド・フォーサイスというんだが、自己紹介する前に奥方が出て行ってしまった」

 両手を広げておどけて見せるエドガーに、厳しい顔をした男性が今度はレインリットに目を止める。

「貴方が走っているのを初めて見たわ、カハル」
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