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第2章 惹かれ合う二人
27話 妖精と呼ばれた令嬢⑴
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レインリットが割り当てられた部屋で新聞に目を通していると、帰宅したエドガーからお茶に誘われた。結婚についての返事をしなければならないと気が重くなる。それでも支度を整えて階下に降りると、そこには機嫌の良さそうなエドガーがいた。
「ここ数日忙しくしていてすまないね」
「いいえ、エドガー様。私が退屈しないように美術書などをお貸しいただきありがとうございます」
「礼には及ばないよ。エファの方も随分回復したと聞いた」
「はい、お薬がよく効いたみたいです」
執事がお茶の準備をしていく間、レインリットはいつ打ち明けようと心がはやった。さほど広くないテーブルに様々な種類のクリームやジャム、そしてお菓子の箱まで置かれていく。二人分にしては多すぎるそれに、自分の他に誰か客がやってくるのかと思ったが、カップやお皿は二人分しか用意されていない。思わずエドガーを見ると、何故かあちらもこちらを凝視していた。
執事が茶器に湯を注ぎ終えると、そのまま部屋を出ていく。人払いをしたとわかったレインリットは、大事な話があるのだと少し身構えた。二人だけになってしまい戸惑う彼女に、エドガーがたくさんの菓子を示して促してくる。
「さあ、どうぞ。食べたいものからいくらでも選んでくれ」
「こんなにたくさん……どれを選べばいいのか迷ってしまいます」
「今日はしきたりなんか気にしないでくれ。ほら、これなんてどうだろう」
エドガーはお菓子箱を開けて中を見せる。そこにはふんわり焼き色のついた焼き菓子が詰まっていた。定番のものからシャナス公国にはないお菓子まで、全て味わってみたい。エドガーが勧めてきたジャムが挟んである焼き菓子も、もちろん美味しそうだ。
「あの……全部はとても味わえそうもないので、悩みます」
全部食べたいのは山々だがお腹いっぱいになりそうだ。正直に述べたレインリットに、エドガーが声を上げて笑った。とても楽しそうなので、彼女も自然と笑顔になる。
「本当に、好きなだけどうぞ。こう言ってはなんだけど、この間、不躾なことをしてしまったお詫びも兼ねて、ね」
笑顔を引っ込めて真顔になったエドガーが、レインリットを真っ直ぐに見る。銀色の瞳は、どこか緊張しているようにも思えた。
「軽々しく、結婚などと提案して申し訳なかった。これでは君を苦しめている男と同じだと気づいたんだ。あの話は撤回させてくれ」
「謝罪なんて必要ありません! それにエドガー様があの男と同じなんて、そんなことは絶対にありません」
エドガーとクロナンが同じだなどと、レインリットは露ほども思ったことはない。あくまでも自分を守るためだと、彼は説明してくれたではないか。
「それよりも、自暴自棄になった私を諌めてくださいましたことに感謝したいくらいです」
「私は、君が思うような立派な男じゃないよ」
自重気味に呟いたエドガーは、顔を曇らせて視線を外した。その様子に、レインリットは今しかない、と思った。図々しいお願いかもしれないが、彼の方から謝罪し、結婚の話を撤回してくれた今なら肩肘を張らずに素直になれそうだ。
「エドガー様、お話があります。聞いて、いただけますか?」
レインリットの声が幾分硬くなる。それに気づいたエドガーも、ハッとしたような表情になった。
「恥を忍んで、エドガー様に知恵をお借りしたく思います」
「私でよければ……いや、そうじゃない。私はいつでも、君の力になりたいと思っている」
その言葉に勇気づけられたレインリットは、最大の秘密を話し出した。
「私の本当の名前は、レインリット・メアリエール・オフラハーティ。第十六代ソランスター伯オーウィンの娘にございます。跡継ぎがいない現在、私がソランスター伯の称号の権利を有しており、私の夫となる者に受け継いでいかねばなりません。レイウォルド伯エドガー様、どうか、ソランスターを守るために、知恵をお貸しください。どうか、ご助力くださいませ」
「ここ数日忙しくしていてすまないね」
「いいえ、エドガー様。私が退屈しないように美術書などをお貸しいただきありがとうございます」
「礼には及ばないよ。エファの方も随分回復したと聞いた」
「はい、お薬がよく効いたみたいです」
執事がお茶の準備をしていく間、レインリットはいつ打ち明けようと心がはやった。さほど広くないテーブルに様々な種類のクリームやジャム、そしてお菓子の箱まで置かれていく。二人分にしては多すぎるそれに、自分の他に誰か客がやってくるのかと思ったが、カップやお皿は二人分しか用意されていない。思わずエドガーを見ると、何故かあちらもこちらを凝視していた。
執事が茶器に湯を注ぎ終えると、そのまま部屋を出ていく。人払いをしたとわかったレインリットは、大事な話があるのだと少し身構えた。二人だけになってしまい戸惑う彼女に、エドガーがたくさんの菓子を示して促してくる。
「さあ、どうぞ。食べたいものからいくらでも選んでくれ」
「こんなにたくさん……どれを選べばいいのか迷ってしまいます」
「今日はしきたりなんか気にしないでくれ。ほら、これなんてどうだろう」
エドガーはお菓子箱を開けて中を見せる。そこにはふんわり焼き色のついた焼き菓子が詰まっていた。定番のものからシャナス公国にはないお菓子まで、全て味わってみたい。エドガーが勧めてきたジャムが挟んである焼き菓子も、もちろん美味しそうだ。
「あの……全部はとても味わえそうもないので、悩みます」
全部食べたいのは山々だがお腹いっぱいになりそうだ。正直に述べたレインリットに、エドガーが声を上げて笑った。とても楽しそうなので、彼女も自然と笑顔になる。
「本当に、好きなだけどうぞ。こう言ってはなんだけど、この間、不躾なことをしてしまったお詫びも兼ねて、ね」
笑顔を引っ込めて真顔になったエドガーが、レインリットを真っ直ぐに見る。銀色の瞳は、どこか緊張しているようにも思えた。
「軽々しく、結婚などと提案して申し訳なかった。これでは君を苦しめている男と同じだと気づいたんだ。あの話は撤回させてくれ」
「謝罪なんて必要ありません! それにエドガー様があの男と同じなんて、そんなことは絶対にありません」
エドガーとクロナンが同じだなどと、レインリットは露ほども思ったことはない。あくまでも自分を守るためだと、彼は説明してくれたではないか。
「それよりも、自暴自棄になった私を諌めてくださいましたことに感謝したいくらいです」
「私は、君が思うような立派な男じゃないよ」
自重気味に呟いたエドガーは、顔を曇らせて視線を外した。その様子に、レインリットは今しかない、と思った。図々しいお願いかもしれないが、彼の方から謝罪し、結婚の話を撤回してくれた今なら肩肘を張らずに素直になれそうだ。
「エドガー様、お話があります。聞いて、いただけますか?」
レインリットの声が幾分硬くなる。それに気づいたエドガーも、ハッとしたような表情になった。
「恥を忍んで、エドガー様に知恵をお借りしたく思います」
「私でよければ……いや、そうじゃない。私はいつでも、君の力になりたいと思っている」
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「私の本当の名前は、レインリット・メアリエール・オフラハーティ。第十六代ソランスター伯オーウィンの娘にございます。跡継ぎがいない現在、私がソランスター伯の称号の権利を有しており、私の夫となる者に受け継いでいかねばなりません。レイウォルド伯エドガー様、どうか、ソランスターを守るために、知恵をお貸しください。どうか、ご助力くださいませ」
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