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第2章 惹かれ合う二人
17話 縮まる距離、募る不安⑴
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控えめなノックの音がどこかから聞こえる。
レインリットはぼんやりとした意識を浮上させ、状況を把握すると勢いよく起き上がった。
「エファ、エファ起きて!」
向かいのソファで眠るエファに声をかけると、急いで扉まで駆け寄って隙間を開ける。廊下には昨夜の年配の家政婦がいた。
「ごめんなさい、今何時ですか?」
「おはようございます。朝八時を少し過ぎたばかりでございます。よろしければ、お着替えの方を」
「自分たちだけで十分です」
大したドレスでもないので、むしろ手伝ってもらう方が申し訳ない。レインリットの後ろでは、同じく目が覚めたばかりのエファが慌ただしくシーツを畳んでいた。
「旦那様からこちらを預かっておりますので、中に入れてもよろしゅうございますでしょうか」
どうやら何か大きな荷物があるらしい。失礼にならないようにケープを羽織ったレインリットは、家政婦のために扉を開ける。すると廊下に控えていた二人の侍女と、昨夜は見かけなかった下女たちが大きな箱を抱えて入ってきた。
「こちらのドレスをお召しくださいませ」
下女たちが出て行った後、侍女の手によって次々とかけられていくドレスの数に、レインリットとエファは目を丸くして驚いた。流行のドレスや、レースをふんだんに使用したドレス、色の濃いドレスは乗馬用だろうか。併せて帽子、靴なども取り出され、部屋の中はさながらドレスの見本市のようになった。
「わ、私がこのようなドレスを着るわけにはいきません!」
侍女であるエファが辞退を申し出る。レインリットもドレスに見入っていたものの、エファと同じだという意思表示のために頷いた。
「旦那様のご指示にございます。ご希望がなければそこの侍女が相応しいものを選びますので、お着替えくださいませ」
家政婦は、主人たるレイウォルド伯爵の命に忠実に仕事をしているようだ。ここで押し問答をしていても仕方がなく、レインリットはエファに向かって小さく首を横に振る。「諦めなさい」と声を出さずに口だけ動かすと、エファが渋々受け入れた。
「私たちは、こちらの流行やしきたりなどに明るくありません。どうか、伯爵様のお心遣いに恥ずかしくないようにしていただけませんか?」
レインリットがそう伝えると、家政婦は満足そうに頷いて、侍女に指示を出した。
§
部屋の中央に置かれたソファにゆったりと腰をかけ、新聞を読んでいたレイウォルド伯爵が、レインリットたちに顔を向けて目を見張る。彼女の緑の瞳と伯爵の銀の瞳が交差し、この場所に二人だけしかいないような錯覚に囚われる。
どれくらいの間そうしていたのだろうか。伯爵が慌てて視線を逸らし、二人を出迎えるために立ち上がった。
「お嬢様方、気分はいかがかな?」
「伯爵様……お心遣いに感謝申し上げます」
着替えの後、部屋で朝食を食べた二人は急に増えたドレスを選別し終えた後、侍女の案内によりレイウォルド伯爵が待つ居間に来ていた。朝から隙のない姿の伯爵は、先ほどの一瞬などなかったかのように朗らかに笑うと、ソファに座るように促す。
「二人ともよく似合っているよ」
「ありがとうございます。シャナスではまだ流行っていなかったので、少し得をした気分です」
レインリットは襟元まで詰めた、小花柄の薄い緑色のドレスを選んでもらった。袖が肘のあたりから広がっている袖は、ひらひらしていて何かに引っかけないか心配になる。背後にのみ膨らませた不思議な形のドレスは、座るのにコツがいる仕様だった。
一方、エファは水色のドレスで、胸元についた同色のリボンが可愛らしいものだ。ドレスに合わせて髪も結ってもらい、レインリットは久しぶりの貴族の装いが嬉しくもあり、複雑な心境になる。
「妹のものだったんだけれど、昨年結婚して置いていってしまったんだ。もう使う人がいないから遠慮なく着倒してくれないかな?」
「伯爵様、私たちのためにそのように……」
「まさか私が着るわけにはいかないだろう? 私を助けると思って頼むよ」
これ以上拒否の言葉を続けられず、レインリットは声に出さずに頷いた。
レインリットはぼんやりとした意識を浮上させ、状況を把握すると勢いよく起き上がった。
「エファ、エファ起きて!」
向かいのソファで眠るエファに声をかけると、急いで扉まで駆け寄って隙間を開ける。廊下には昨夜の年配の家政婦がいた。
「ごめんなさい、今何時ですか?」
「おはようございます。朝八時を少し過ぎたばかりでございます。よろしければ、お着替えの方を」
「自分たちだけで十分です」
大したドレスでもないので、むしろ手伝ってもらう方が申し訳ない。レインリットの後ろでは、同じく目が覚めたばかりのエファが慌ただしくシーツを畳んでいた。
「旦那様からこちらを預かっておりますので、中に入れてもよろしゅうございますでしょうか」
どうやら何か大きな荷物があるらしい。失礼にならないようにケープを羽織ったレインリットは、家政婦のために扉を開ける。すると廊下に控えていた二人の侍女と、昨夜は見かけなかった下女たちが大きな箱を抱えて入ってきた。
「こちらのドレスをお召しくださいませ」
下女たちが出て行った後、侍女の手によって次々とかけられていくドレスの数に、レインリットとエファは目を丸くして驚いた。流行のドレスや、レースをふんだんに使用したドレス、色の濃いドレスは乗馬用だろうか。併せて帽子、靴なども取り出され、部屋の中はさながらドレスの見本市のようになった。
「わ、私がこのようなドレスを着るわけにはいきません!」
侍女であるエファが辞退を申し出る。レインリットもドレスに見入っていたものの、エファと同じだという意思表示のために頷いた。
「旦那様のご指示にございます。ご希望がなければそこの侍女が相応しいものを選びますので、お着替えくださいませ」
家政婦は、主人たるレイウォルド伯爵の命に忠実に仕事をしているようだ。ここで押し問答をしていても仕方がなく、レインリットはエファに向かって小さく首を横に振る。「諦めなさい」と声を出さずに口だけ動かすと、エファが渋々受け入れた。
「私たちは、こちらの流行やしきたりなどに明るくありません。どうか、伯爵様のお心遣いに恥ずかしくないようにしていただけませんか?」
レインリットがそう伝えると、家政婦は満足そうに頷いて、侍女に指示を出した。
§
部屋の中央に置かれたソファにゆったりと腰をかけ、新聞を読んでいたレイウォルド伯爵が、レインリットたちに顔を向けて目を見張る。彼女の緑の瞳と伯爵の銀の瞳が交差し、この場所に二人だけしかいないような錯覚に囚われる。
どれくらいの間そうしていたのだろうか。伯爵が慌てて視線を逸らし、二人を出迎えるために立ち上がった。
「お嬢様方、気分はいかがかな?」
「伯爵様……お心遣いに感謝申し上げます」
着替えの後、部屋で朝食を食べた二人は急に増えたドレスを選別し終えた後、侍女の案内によりレイウォルド伯爵が待つ居間に来ていた。朝から隙のない姿の伯爵は、先ほどの一瞬などなかったかのように朗らかに笑うと、ソファに座るように促す。
「二人ともよく似合っているよ」
「ありがとうございます。シャナスではまだ流行っていなかったので、少し得をした気分です」
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「妹のものだったんだけれど、昨年結婚して置いていってしまったんだ。もう使う人がいないから遠慮なく着倒してくれないかな?」
「伯爵様、私たちのためにそのように……」
「まさか私が着るわけにはいかないだろう? 私を助けると思って頼むよ」
これ以上拒否の言葉を続けられず、レインリットは声に出さずに頷いた。
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