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第二章「幽霊のいる日常」
「監禁」
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木ノ葉が意識を取り戻すと、俺たちは部室に入って彼女の忘れ物を手にし、でも折角だからと落ち着いた夜の雰囲気を感じつつ少し話していくことにした。
まあ、そんなのは建前で本当はあの暗闇の中を引き返すのが嫌だからなんだけど。
「それにしても、本当に悪かったな。虫かなにかだと思うんだけど、突然なにかが飛んできたから気が動転しちゃって……」
「もう、その話はいいよお。びっくりしたけど、何事もなかったわけだし……」
いえ、あなた泡吹いて倒れてましたけど。
ツッコみたい気持ちを抑えつつ、あそこまで驚いていた彼女が事態を軽く受け止めてくれたことに感謝し、同時に安堵する。
……ああ、木ノ葉と話してると落ち着くなぁ。
その後も他愛もない話を続けていると、段々と心が安らいでいく。
去年の部活の話、最近読んだ本の話。そして、二人の昔の思い出――。
さっきまでの緊張感はどこへやら。文芸部室には今、やわらかい空気が満ち満ちている。
「……っと、話しすぎちゃったな。もう帰るか」
居心地の良さに時間を忘れて話し込んでしまったようで、確認すると、既に時計の針は八時に限りなく迫っていた。
鞄を手に取り、立ち上がる。そして、ドアの方へと歩き出し――
「お兄ちゃん、ちょっと待って」
――しかし、回り込まれてしまった。
なんだろう、別に逃げ出そうとしたわけではないんだけど……。
モンスターみたいに不敵な笑みを浮かべながら、彼女はドアを背に、こちらを向いている。
するとその瞬間。
『カチャッ』
ドアの鍵が閉まる音がした。
……。…………。
…………えっ、なにこれ怖い。
「えへへ……二人きりになっちゃったね……?」
「いや、確実に今自分で鍵閉めただろ!」
俺が内心非常に戸惑っていると、木ノ葉が背後に気を配りながらこちらに近づいてくる。
そのゆらゆらとした動きは、修行を積んだ忍者や熟練の暗殺者が取りそうな動きだ。
「お兄ちゃん……観念して。木ノ葉たちはもう、ここから出られない……!」
「なに言ってんの急に! 鍵開ければ出られるし!」
「いやお兄ちゃん、木ノ葉が開けさせないから」
さも当たり前なことのように平然と告げてくる木ノ葉。
もう逃げられないね……なんて言っているその目は、先ほどカフェで見た彼女の姿と同様に光沢を失い、全てを闇に葬り去るほどの魔力を孕んでいるようにも見えた。
彼女のあどけない顔のつくりとその妖艶さが相まって、見つめているとクラクラとしてしまいそうだ。
「ここで、お兄ちゃんは木ノ葉と一つになるんだよ……?」
そんな怪しい瞳をして、彼女は言葉を続ける。
「……私、幽霊よりこの子の方がよっぽど怖いと思うんですけど……」
「……同感だ」
隣の幽霊にもこの光景はショッキングだったらしい。
「なにボソボソ言ってるの……?」
そんな俺の独り言ともとれる会話が聞こえたのか、木ノ葉がさらにユラァと近づいてくる。
そして――
「……木ノ葉と二人きりになって、一晩過ごして。きっと、思春期真っ盛りのお兄ちゃんが何もしてくれないはずはないよね……? 木ノ葉が寝返りを打ったのが着火剤になったりして、お兄ちゃんの性欲は烈火のごとく燃え上がるの。うん、きっと、そうに決まってる。それで、我慢できなくなったお兄ちゃんは木ノ葉の胸を、強く、それでいて優しく揉みしだく。上下に形がぶるんぶるんと変わっていくのも気にせず、人目のないこの部室で、獣のように牙を剥き、本能をあらわにして――」
――なんか、自分の身体を抱いて身悶えながら妄想を口から垂れ流しにし始めた!
「おい、やめろー、こっちの世界に戻ってこーい。木ノ葉ー」
これ以上はまずい気がして、適当なところで止めに入ることにする。
呼びかけただけではどうにもならなそうなので、木ノ葉に近づこうと一歩踏み出して――
「…………うわっ!」
「…………きゃっ!」
――部室の床に躓いて、転んでしまった。
それも、木ノ葉に覆い被さる形で。
「ふえぇぇぇ⁉ お兄ちゃん、まさかその気に……⁉」
「ち、違うぞ! たまたま躓いただけで――」
案の定勘違いをして、目の中にハートを一杯携える木ノ葉。
闇から帰ってきたところ申し訳ないが、もしこんなところを誰かに見られたら大事件だ。
俺は早急に木ノ葉の上を退こうとして――
「あれ? まだ残っててくれたのね~。生徒会が長引いちゃったから、こんな時間まで残っててくれなくて……も……」
バタン。勢い良く閉まる扉。
瞬間、一転して部室に静寂が訪れる。
確認なんてせずとも一瞬顔を覗かせたのは、我らが文芸部部長で生徒会長の音垣琴音その人で――
「いやいや待って先輩戻ってきて助けてそういうんじゃないからぁぁぁぁぁ!」
…………このあとめちゃくちゃ弁解した。
まあ、そんなのは建前で本当はあの暗闇の中を引き返すのが嫌だからなんだけど。
「それにしても、本当に悪かったな。虫かなにかだと思うんだけど、突然なにかが飛んできたから気が動転しちゃって……」
「もう、その話はいいよお。びっくりしたけど、何事もなかったわけだし……」
いえ、あなた泡吹いて倒れてましたけど。
ツッコみたい気持ちを抑えつつ、あそこまで驚いていた彼女が事態を軽く受け止めてくれたことに感謝し、同時に安堵する。
……ああ、木ノ葉と話してると落ち着くなぁ。
その後も他愛もない話を続けていると、段々と心が安らいでいく。
去年の部活の話、最近読んだ本の話。そして、二人の昔の思い出――。
さっきまでの緊張感はどこへやら。文芸部室には今、やわらかい空気が満ち満ちている。
「……っと、話しすぎちゃったな。もう帰るか」
居心地の良さに時間を忘れて話し込んでしまったようで、確認すると、既に時計の針は八時に限りなく迫っていた。
鞄を手に取り、立ち上がる。そして、ドアの方へと歩き出し――
「お兄ちゃん、ちょっと待って」
――しかし、回り込まれてしまった。
なんだろう、別に逃げ出そうとしたわけではないんだけど……。
モンスターみたいに不敵な笑みを浮かべながら、彼女はドアを背に、こちらを向いている。
するとその瞬間。
『カチャッ』
ドアの鍵が閉まる音がした。
……。…………。
…………えっ、なにこれ怖い。
「えへへ……二人きりになっちゃったね……?」
「いや、確実に今自分で鍵閉めただろ!」
俺が内心非常に戸惑っていると、木ノ葉が背後に気を配りながらこちらに近づいてくる。
そのゆらゆらとした動きは、修行を積んだ忍者や熟練の暗殺者が取りそうな動きだ。
「お兄ちゃん……観念して。木ノ葉たちはもう、ここから出られない……!」
「なに言ってんの急に! 鍵開ければ出られるし!」
「いやお兄ちゃん、木ノ葉が開けさせないから」
さも当たり前なことのように平然と告げてくる木ノ葉。
もう逃げられないね……なんて言っているその目は、先ほどカフェで見た彼女の姿と同様に光沢を失い、全てを闇に葬り去るほどの魔力を孕んでいるようにも見えた。
彼女のあどけない顔のつくりとその妖艶さが相まって、見つめているとクラクラとしてしまいそうだ。
「ここで、お兄ちゃんは木ノ葉と一つになるんだよ……?」
そんな怪しい瞳をして、彼女は言葉を続ける。
「……私、幽霊よりこの子の方がよっぽど怖いと思うんですけど……」
「……同感だ」
隣の幽霊にもこの光景はショッキングだったらしい。
「なにボソボソ言ってるの……?」
そんな俺の独り言ともとれる会話が聞こえたのか、木ノ葉がさらにユラァと近づいてくる。
そして――
「……木ノ葉と二人きりになって、一晩過ごして。きっと、思春期真っ盛りのお兄ちゃんが何もしてくれないはずはないよね……? 木ノ葉が寝返りを打ったのが着火剤になったりして、お兄ちゃんの性欲は烈火のごとく燃え上がるの。うん、きっと、そうに決まってる。それで、我慢できなくなったお兄ちゃんは木ノ葉の胸を、強く、それでいて優しく揉みしだく。上下に形がぶるんぶるんと変わっていくのも気にせず、人目のないこの部室で、獣のように牙を剥き、本能をあらわにして――」
――なんか、自分の身体を抱いて身悶えながら妄想を口から垂れ流しにし始めた!
「おい、やめろー、こっちの世界に戻ってこーい。木ノ葉ー」
これ以上はまずい気がして、適当なところで止めに入ることにする。
呼びかけただけではどうにもならなそうなので、木ノ葉に近づこうと一歩踏み出して――
「…………うわっ!」
「…………きゃっ!」
――部室の床に躓いて、転んでしまった。
それも、木ノ葉に覆い被さる形で。
「ふえぇぇぇ⁉ お兄ちゃん、まさかその気に……⁉」
「ち、違うぞ! たまたま躓いただけで――」
案の定勘違いをして、目の中にハートを一杯携える木ノ葉。
闇から帰ってきたところ申し訳ないが、もしこんなところを誰かに見られたら大事件だ。
俺は早急に木ノ葉の上を退こうとして――
「あれ? まだ残っててくれたのね~。生徒会が長引いちゃったから、こんな時間まで残っててくれなくて……も……」
バタン。勢い良く閉まる扉。
瞬間、一転して部室に静寂が訪れる。
確認なんてせずとも一瞬顔を覗かせたのは、我らが文芸部部長で生徒会長の音垣琴音その人で――
「いやいや待って先輩戻ってきて助けてそういうんじゃないからぁぁぁぁぁ!」
…………このあとめちゃくちゃ弁解した。
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