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第二章「幽霊のいる日常」
「道中」
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木ノ葉に連れられて、学校の近くの住宅街を駅とは逆方向に歩いていく。
夕方といえどもう日が長くなっていて、辺りは明るかった。
「もうすぐ着くからね。公園なんだけど、落ち着いて本を読むには、結構いい場所なんだよ?」
少し前を歩いていた後輩が振り返ってはにかむ。
たまにこうやって後ろを振り返って存在を確認してくるのは、彼女の不安が無意識に出ているからだろうか。
早くに片親を失くし、一人ぼっちの時間が多かった木ノ葉だ。
こうして同じ高校に入学してくれたことだし、今まで以上に可愛がってやろう。
そうして俺が兄妹みたいな後輩との付き合いに思いを馳せていると――
「危ないっ!」
――けたたましい音を立てて勢いよく角を曲がってきた車が、後ろを振り返って歩いていた木ノ葉にぶつかりそうになった。
俺が壁になるように咄嗟に木ノ葉を抱きかかえる。
すると、車は何事もなかったかのように木ノ葉の横を通り過ぎ、走り去っていった。
「……ったく、危ねえな……」
小さくなっていく車の背中を見ながらつぶやく。
注意力が散漫になっていた木ノ葉も悪いが、完全にスピード超過をしていたあの車の方がよっぽどたちが悪い。
俺の大事な後輩になにかあったらどうしてくれるんだ。
俺が走り去った車のドライバーに悪態をついていると。
「……おにいちゃん……」
と、胸の中で震えるような声がした。
そういえば、慌てて木ノ葉を抱きしめたのを失念していたじゃないか。
「ご、ごめん……」
気まずくなって、俺は急いで彼女から身体を離す。
車が飛び出してきたのも怖かっただろうが、俺が急に抱きしめたのだって十分驚いたはずだ。
しかし――
「ま、待ってお兄ちゃん……」
腕の中にいる小さな後輩が、制止をかけた。
自分と比べて随分低いところにある彼女の身体を見ると、頼りなく小刻みに震えている。
「……まだ、こわいの……。もう少し、このままじゃ……だめかな?」
上目遣いで見つめてくる木ノ葉。
もちろん俺に冷たく突き放すことなんてできようはずがない。
こうして俺は、しばらくこの住宅街のど真ん中で、後輩を抱きかかえ続けることとなった。
と、そこでしばらく忘れていた幽霊のことについて考える。
いつもならこんなラブコメ的シチュエーションがあれば、あの手この手で邪魔してくるのがあいつのアイデンティティだ。
そのはずなのに、今日は珍しく邪魔をしてこないから、少し気持ちが悪い。
途中からついてこなかったのかもしれないと思い辺りを探すと、その姿は俺のすぐ後ろにあった。……それも、とても変なポーズで。
お尻を突き出し、両手を自分の胸の前に突き出して……なんていうか、お笑い芸人の決めポーズみたいだ。
「……えーっと、そのポーズは一体……」
木ノ葉に聞こえないように、ほぼ口パクで幽子と会話する。
「いやー、久々にこんなに霊力を使ったものですから……いやはや、ガラにもなく疲れちゃいまして……」
なるほど、俺と木ノ葉がこんな状況になっていても邪魔してこないのは、疲れきっていて余力がこれっぽっちもなかったかららしい。
じゃあ一体どこでそんなに精神を消耗したのかと疑問に思ったんだけど――
「さっきのスピード違反の車があったじゃないですか? あれに木ノ葉ちゃんを避けさせたの、私だったんですよ?」
……知らないうちに、後輩の命を助けてもらっていたみたいだ。
「それは、ええと……ありがとう。すまなかった」
命の恩人である幽子に、木ノ葉に代わって礼を言う。
すると、幽子は屈託のない笑顔で答えた。
「木ノ葉ちゃんはとってもいい子ですし……なにより、怜太さんにとって大切な人は、私にとっても、すごく大事な人ですから!」
……たまにこういうことを平気で言ってくるから、この幽霊が嫌いになれないんだよなあ。
俺の幽子に対する情を知ってか知らずか、彼女は今日も俺に憑いている。
いっそのこと迷惑に振り切ってくれればなあ。
そんなことを思うほどに、彼女はどんどん素敵で厄介な存在になっていくのだった。
夕方といえどもう日が長くなっていて、辺りは明るかった。
「もうすぐ着くからね。公園なんだけど、落ち着いて本を読むには、結構いい場所なんだよ?」
少し前を歩いていた後輩が振り返ってはにかむ。
たまにこうやって後ろを振り返って存在を確認してくるのは、彼女の不安が無意識に出ているからだろうか。
早くに片親を失くし、一人ぼっちの時間が多かった木ノ葉だ。
こうして同じ高校に入学してくれたことだし、今まで以上に可愛がってやろう。
そうして俺が兄妹みたいな後輩との付き合いに思いを馳せていると――
「危ないっ!」
――けたたましい音を立てて勢いよく角を曲がってきた車が、後ろを振り返って歩いていた木ノ葉にぶつかりそうになった。
俺が壁になるように咄嗟に木ノ葉を抱きかかえる。
すると、車は何事もなかったかのように木ノ葉の横を通り過ぎ、走り去っていった。
「……ったく、危ねえな……」
小さくなっていく車の背中を見ながらつぶやく。
注意力が散漫になっていた木ノ葉も悪いが、完全にスピード超過をしていたあの車の方がよっぽどたちが悪い。
俺の大事な後輩になにかあったらどうしてくれるんだ。
俺が走り去った車のドライバーに悪態をついていると。
「……おにいちゃん……」
と、胸の中で震えるような声がした。
そういえば、慌てて木ノ葉を抱きしめたのを失念していたじゃないか。
「ご、ごめん……」
気まずくなって、俺は急いで彼女から身体を離す。
車が飛び出してきたのも怖かっただろうが、俺が急に抱きしめたのだって十分驚いたはずだ。
しかし――
「ま、待ってお兄ちゃん……」
腕の中にいる小さな後輩が、制止をかけた。
自分と比べて随分低いところにある彼女の身体を見ると、頼りなく小刻みに震えている。
「……まだ、こわいの……。もう少し、このままじゃ……だめかな?」
上目遣いで見つめてくる木ノ葉。
もちろん俺に冷たく突き放すことなんてできようはずがない。
こうして俺は、しばらくこの住宅街のど真ん中で、後輩を抱きかかえ続けることとなった。
と、そこでしばらく忘れていた幽霊のことについて考える。
いつもならこんなラブコメ的シチュエーションがあれば、あの手この手で邪魔してくるのがあいつのアイデンティティだ。
そのはずなのに、今日は珍しく邪魔をしてこないから、少し気持ちが悪い。
途中からついてこなかったのかもしれないと思い辺りを探すと、その姿は俺のすぐ後ろにあった。……それも、とても変なポーズで。
お尻を突き出し、両手を自分の胸の前に突き出して……なんていうか、お笑い芸人の決めポーズみたいだ。
「……えーっと、そのポーズは一体……」
木ノ葉に聞こえないように、ほぼ口パクで幽子と会話する。
「いやー、久々にこんなに霊力を使ったものですから……いやはや、ガラにもなく疲れちゃいまして……」
なるほど、俺と木ノ葉がこんな状況になっていても邪魔してこないのは、疲れきっていて余力がこれっぽっちもなかったかららしい。
じゃあ一体どこでそんなに精神を消耗したのかと疑問に思ったんだけど――
「さっきのスピード違反の車があったじゃないですか? あれに木ノ葉ちゃんを避けさせたの、私だったんですよ?」
……知らないうちに、後輩の命を助けてもらっていたみたいだ。
「それは、ええと……ありがとう。すまなかった」
命の恩人である幽子に、木ノ葉に代わって礼を言う。
すると、幽子は屈託のない笑顔で答えた。
「木ノ葉ちゃんはとってもいい子ですし……なにより、怜太さんにとって大切な人は、私にとっても、すごく大事な人ですから!」
……たまにこういうことを平気で言ってくるから、この幽霊が嫌いになれないんだよなあ。
俺の幽子に対する情を知ってか知らずか、彼女は今日も俺に憑いている。
いっそのこと迷惑に振り切ってくれればなあ。
そんなことを思うほどに、彼女はどんどん素敵で厄介な存在になっていくのだった。
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