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第一章「幽霊との出会い」

「再発見」

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 二階に上がって真っ先に俺が向かったのは本屋だった。
 自分は仮にも文芸部の部員であるし、本は大好きだ。
 本好きに共通するものかもしれないが、読むだけでなく選ぶのもまた好きである。
 本屋にいれば自然と心は落ち着くし、まだ見ぬ面白い本に出会える喜びで心ははずむ。
 本屋の雰囲気自体も、少し暗い程度でちょうどいい。
なんていうか、陰キャの居場所って感じがする。
 本屋に入ると、真っ先に見るのはもちろん新刊コーナーだ。
 メディアミックス化される前に原作小説を読んでネタバレを避ける意味合いで寄ることもあるし、わざわざコーナーに取り上げられるような小説が面白くないわけがない、という理由で寄ることもある。外さないためにはとりあえずここに来ればいい。
 漫画も嗜む俺としては、チェックしてなかった漫画の最新刊が発売されているのを確認するのも一つの楽しみとなっている。
 本屋には人それぞれのいろんな楽しみがあるから、俺にとってはテーマパークみたいだ。
 しかし、「本を読まないということは、そのひとが孤独でないという証拠である」と書いた文豪がいたように、孤独な人間にしか分からない面白さなんだろう。
 陽キャには分からない、陰キャの楽しみである。
 内心、この楽しさが分からないなんて陽キャはかわいそうだな――と思いつつも、それじゃあ普段から陽キャがしてる思考と同じじゃないかとハッとしてすぐにあらためる。
 陽キャが大人数でのパーティや運動を楽しく感じ、それを世の理だとでもいうように俺たち陰キャに強要してくるのはいつものこと。
 その時にやられる側の気持ちを理解していながら、なぜ俺は陽キャをかわいそうだと思ってしまったのだろう。なるほど、世の中が違えば陽キャも陰キャも立場が逆転していた未来があったのかもしれない。
 そんな現実から目を背けた、陰キャ感がモロに溢れ出している思考を取り払い、続いて向かったのはライトノベルのコーナーだ。
 現代ラブコメから異世界ファンタジーまで幅広いジャンルの小説があるにもかかわらず、それを一緒くたにしてしまうのはなんだか申し訳ない気もするが、それらが境界の言い表せない一つのくくりとして成立してしまっているのは事実。
「ラノベっぽい一般小説」なんて表現が当てはまる作品だってこれまでいくつも見てきたが、それらは「ラノベっぽい」だけであって、ラノベではないのである。
 そんな奥が深いライトノベルだが、中でも俺が読むのは学園ラブコメだ。
 魅力的なキャラクターたちがツッコミどころ満載で騒がしい日々を過ごしていく物語。
 その中核には、いつも主人公を中心とした甘酸っぱい恋愛があって――。
 自分が現役高校生だということも相まって、胸がときめいてしまう。
 時には、自分を取り巻く学校の同級生と小説のヒロインを重ね合わせてみたりなんかもして――って、俺はなにを考えてるんだか。
 ただの自分一人の妄想にもかかわらず、少しだけ恥ずかしくなってしまった。
 未だにクラスメイトの成瀬姫香や文芸部のほかの女子たちの姿が脳裏に浮かんでいるが、思春期だからしょうがないと自分に言い聞かせる。
 言い聞かせて、どうするつもりなんだろうか。
 考えても答えが出ないので、適当にタイトルと表紙で面白そうだったものを何冊か選び、それをメモして店を出た。
 本は重いから、帰りにでもまとめて買って帰ろう。

 と、店を一歩出たときだった。
 先ほども耳にした、空気を引き裂いてでもいるかのような叫び声がフロアに轟いた。
 確認しなくても分かる。さっきの変態だ。
 本屋でしばらく本を見ているうちに、一階にいた彼女も上がってきたんだろう。
 それも、よりにもよって声は俺のすぐ近くから聞こえる。
 彼女は、本屋を出てすぐのベンチに座っているみたいだ。
 しかし、座って奇声を上げている女、というだけならまだ俺は驚かなかった。
 突然奇声を発する人やしゃべり出す人なんて、電車に乗れば頻繁に目にすることがあるだろう。かといって、彼らは悪さをするわけでもないし、なにか犯罪をしているわけではない。
 ただ、受け取る側のこっちが、ちょっと怖いと思ってしまうだけだ。
 にもかかわらず、俺がその女を見て驚いてしまった理由、それは――
 彼女が目を奪われるほどの美人で、なおかつ下着姿だったからだ。

「うっひょぉぉぉぉぉぉ! 衆人環視の中であられもない姿、晒しちゃってるよぉぉ!」

 さすがに、こんな真っ昼間のショッピングモールでこんな光景を見ようとは。
 百歩譲ってこの場が深夜の繁華街であったなら、まああながち場違いということもないんだろう。
 でも、こんな休日の昼間に、下着姿の女。
 しかも、純白のレースの下着。透け透けのエッチなやつだ。
 彼女が誰なのか、何をしている人なのか、酔っぱらっているのか。
 不幸に見舞われてヤケになっているのか、いくつくらいの人なのか。
 たくさんの疑問が頭に浮かんで泡のように消えていく。
 正直、気になる。興味がある。
 しかし、この場で彼女に話しかける勇気が陰キャの俺にあるはずもなく、かといって警備員さんを呼びに行くような労力のかかることはしたくない。
 結果、ただ最大に高まった興味だけを胸に秘めつつ、その場に呆然と立ちすくむだけの頼りない男子高校生が誕生してしまった。

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