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第二部 並行異世界地球編

40 脅威、終わらず

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 こうなりゃもう出し惜しみは無しだ。
 カウンター以外にも何か厄介なスキルがあったかもしれないし長期戦になるのは避けたい。

 となればやることは一つ。

「晴翔様……その魔力は」
「超級魔法の複合だ。下手なことになる前にドデカイ一撃をぶち込む」
「ですがそれだけの威力では晴翔様のお体が……!」

 タナトスの言う通り、恐らく無事では済まないだろうな。
 上級魔法でも出力を上げ過ぎれば片腕が吹き飛ぶんだ。超級魔法同士の複合なんて、場合によっては全身吹き飛んでもおかしくは無いのかもしれない。

 けど、そうでもしないと多分……いや確実に、アイツは倒せない。

「……覚悟の上、のようですね。それがマスターの意思ならばこのタナトスも是非お力添えを」
「それなら術式の補助をお願い出来るか」
「お安い御用です」

 一人でも困ることは無いが、タナトス程の実力の持ち主が協力してくれれば術式の構築が遥かに楽になる。

「……それで、補助をお願いしたが何故抱き着く?」

 どういう訳かタナトスは後ろから俺に抱き着く形で補助を行っていた。

「万が一にも……いえ、億が一にも晴翔様が負けるなどとは思っておりません。ですが、それでも……この一撃で貴方様が無事でいられる保証は無いのです。せめて、その時までこうしていることをお許しください」
「タナトス……そうか、わかった」

 いつもはどこか掴みどころのない雰囲気の彼だが、やはり俺を失うかもしれないと言う恐怖心はあるのだろう。
 それを完全に払しょくすることは出来ずとも、せめて今はこうして安心させてやることは出来る。

「よし、これで行けるはずだ」

 術式の構築が終わり、魔力を両手に流し始める。
 右手でオメガフレイムを、左手でエンダーブリザードを、それぞれ制御しなければならない。
 相反する属性同士を合わせるだけでも反動が凄まじいのに今回はそれを超級魔法で、さらには片方は超級魔法の中でも飛びぬけた威力のオメガシリーズだ。
 少しでも制御をミスればその瞬間終わり。

「は、はは……中々にシビアなことさせるじゃんか」

 嫌な汗が頬を伝う……気がした。この体は代謝をしないし発汗も無い。だからもちろん汗が伝うはずは無い。
 だがこの緊張感と空気感が俺にそう感じさせた。

「ぐっ……やはりコイツらを合わせるのは反発が凄いな」

 展開した両魔法を複合させようとするが反発が凄まじく中々合わさってくれない。
 だがやらなきゃいけない。ここで奴を倒さないとどちらにしろゲームオーバーだ。

「んぐっ……ぅ゛っ、さっさと合体……しやがれ!!」

 今にも両腕……いやそれどころか上半身丸ごとが吹き飛びそうな程の負荷を感じる。だがそれでも気合と根性で何とかオメガフレイムとエンダーブリザードを合体させることに成功した。

「はぁ……はぁ……問題はここからだな」

 後はコイツをあの黒姫にぶち込んで全てを終わらせる。ただ一つ問題があるとすれば、威力が足りているか……だ。
 正直今の俺が出せる最大火力はコイツが限界。これを耐えられたら打つ手なしな訳だが……やる前から考えても仕方がない。

「これで終わることを願うぜ」

 オメガフレイムとエンダーブリザードが混ざり合った発光する球体を奴に向けて飛ばす。

「……マジックプロテクション」

 予想通りマジックプロテクションを発動させて耐えるつもりらしい。とは言えこの威力だ。マジックプロテクションだけでは絶対に防ぎきれない。
 後はどれだけのダメージを貫通させられるか……!

 球体が奴のマジックプロテクションに着弾し、とてつもない爆発と共に衝撃波を起こす。結界が無ければとっくにこの辺りが更地になってるだろうなこりゃ。
 さっきから躊躇い無くバカスカ撃ってるが、今のところ結界も大丈夫そうだ。
 とは言えいつまで耐えられるかはわからないからそう言う意味でもこれで終わって欲しい。

「……やったか?」
「晴翔様、それは所謂フラグという物なのでは」
 
 爆発とその余波が全て消え、奴の姿が見えてくる。
 まず見えてきた黒い球体は傷だらけでべっこべこに凹んでいた。

 そして奴の本体。俺と瓜二つだったはずのその姿はもはや見る影も無く、奴は真っ赤な肉の塊と化していた。
 ここまで来ると流石にまだ使える派もいないだろうよ。
 
「は、はは……。見栄えは悪いが、要は勝ちってことだよな……?」

 世界を救うためだ。この際見た目は仕方がない。むしろあの威力の攻撃を受けて肉片が残っているだけ上澄みですらある。
 それより、こんな状態にもなってしまえばもう奴に戦闘能力は無いはずだ。

 後は結界の外に出てヴォイドに報告を……。

「……結界が消えた?」

 どういう訳か今この瞬間、結界が消失した。
 だが待ってくれ。内側と外側には絶対的な境界があった。中から外に干渉できないし、同じく外から中にも干渉出来なかったはず。
 だから俺が黒姫を倒したから結界を解除した……という訳では無いはずだ。

 ……嫌な予感がする。とにかく一度ヴォイドの所に向かった方が良さそうだな。


 
 教会の地下に戻ると何やら慌ただしい状態となっていた。

「晴翔殿、ご無事でしたか」
「ええ。それよりも結界が消失した件についてお聞きしたいのですが」
「……どうやら我々が考えているよりも速く、その時が来てしまったようなのです」

 ……何だって?
 それってつまりダンジョンの奥にいる奴らがもう出て来てるってことか?

「闇に飲まれしモンスターが、既にダンジョンから外へ出始めているのです」

 思い違いであって欲しかったが、どうやらそんなことは無いらしい。
 しかしどうして……奴は倒したはずだ。

「詳しい理由はわかりませんが、黒姫から特殊な魔力が発せられたのを機器が感知しています。恐らくそれが闇に飲まれしモンスターの動きを活発化させたのかと」
「なんてこった。それじゃアイツを倒した意味がねえじゃねえか……」

 全て無駄だったってのか?
 闇に飲まれしモンスター単体なら俺が出ればどうにでもなるが、全世界規模で起こっちまえばもう俺一人ではどうしようも……。

「いえ、晴翔殿の活躍のおかげで我々にも希望が残されています」
「希望……?」
「本来ならば全世界規模で発生するはずだったものが、今は東京周辺のダンジョンでしか発生していないのです」

 東京周辺だけ……?
 どうしてそうなったのかの理由はわからないが、それなら何とかなるか……?

「恐らく本来は何回かに分けて起動するはずだったのでしょうが、全て終える前に晴翔殿に討伐されたのでしょうな。ですがこれはこちらにとって好機。範囲が狭ければ被害を抑えることが可能となりましょう。もっとも闇に飲まれしモンスターによる妨害のせいで結界が消失してしまったため、今こうなっていること自体が奇跡なのでしょうが」

 結界が消えたのは奴らの妨害のせいだったのか。ジャミングみたいなものか……?
 もし結界が消えるのがもう少し早かったらアイツを倒しきる前に打つ手が無くなっていた。そうなったら本当に終わりだった。
 まさしく首の皮一枚繋がっているって状況だな。

 その奇跡を決して無駄にはしない。
 闇に飲まれしモンスターを全滅させて、今度こそ本当の平和を手に入れてやる。
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