上 下
64 / 90
第二部 並行異世界地球編

16 ショッピングへ行こう

しおりを挟む
 今日は陽と一緒にショッピングモールへと来ていた。と言うのもエリンに魔力嵐対策のトリートメントを選んでもらう約束をしていたから、せっかくだからと陽も一緒に来ることになったんだよな。

 それにしても、8月も終わると言うのにまだまだ暑いな。この体は汗こそかかないものの、どうやら暑いという感覚はあるらしい。
 体温調整は自動でやってくれるから体調面で問題は無いんだろうが、それならいっそのこと暑さや寒さも感じないようにしてくれても良かったんじゃないだろうか。

 と、そんなことを考えていたら遠くの方に特徴的な赤い髪が見えた。

「ごめんごめん、待ったかしら」
「いや全然、今来たところだよ」

 所謂常套句と言うヤツだが、実際そんなに長いこと待っていた訳でも無いしな。

「うん。私も全然待ってない」

 俺に続いて陽もそう言うが、今か今かとソワソワしてずっと待っていたであろうことが見ただけでわかる状態となっていた。
 まあ少なくとも、こうなる前の世界において彼女は病院に寝たきりの生活だったんだ。友達とショッピングなんてのは当然したことが無いんだろう。
 だからこそ、今日を楽しみにしていたんだろうな。

「ふふっ、そんなに楽しみにしていてくれたなんて、なんだか嬉しいわね。それじゃ早速行きましょうか」

 エリンが先導するようにモール内へと歩き始めた。それに付いて行くように俺と陽の二人も歩き始める。
 
「ふぅぅ……」

 建物内に入った瞬間、効き過ぎなんじゃないかと言う程の空調によって火照った体が一気に冷やされる。
 それがまた気持ちがいいのなんのって……あ、何も感じなくなった。
 まあ、これは仕方ないか。この体の持つ能力として、過度な感覚は抑制されるらしいからな。今みたいな急激な温度差による体へのダメージの軽減のためなんだろう。
 
 考えようによっては便利ではあるが、もう俺は二度とサウナで整ったりは出来ないんだろう。それはそれで寂しいものではある。

「そう言えば、晴翔って最初に会った時に男子用の制服を着ていたじゃない?」
「ああ、そうだったな」

 前を歩いていたエリンが突然振り返ったと思えば、唐突にそう言って来た。

「今も男物を着ているし、もしかして晴翔って女の子用の可愛い服とか持ってなかったり?」
「あぁ……まあ、そうだな」

 彼女言う通り部屋のクローゼットは男物で埋まっている。確かにこの体で男物を着ているのは違和感があるのだろうが、俺としてはそっちの方がやっぱり性に合うと言うか何と言うか。

「もったいないわ! そんなに可愛いのに! 確かにボーイッシュなのもそれはそれで味があるけど、やっぱり貴方は可愛らしい恰好をするべきよ!」
「そう言われてもな……」
「私もそう思う。晴翔はもっと可愛い恰好をするべき」

 何と言う事だ。仲間だと思っていた陽に追撃されてしまうとは。
 
「陽ちゃんもそう思うわよね? よし! それならこの際、私が選んであげるわ!」
「えっ、ちょっ……」

 俺の制止など一切聞かず、エリンは俺と陽を引っ張って明らかに女性用の洋服店へと入って行く。
 ……男の時は絶対に入れなかった場所。落ち着け、今の俺は誰がどう見ても女の子なんだ。堂々としていれば何も問題は無い。

「晴翔はやっぱりその長い髪を魅せたいわよね。それなら……」

 エリンは慣れた手つきで洋服を手に取って行く。これが、女子力……!

「はい、早速試着してみてちょうだい」
「……わかった」

 ここまで来て逃げる訳にも行かないし、素直に着てみることにしよう。
 まあ、幸いと言うか?
 今の俺はハチャメチャに可愛いからな。似合わない服なんか無いんだけどな。

 と、そう自らに言い聞かせてみたのは良い物の……。 

「……流れに任せて着てしまった」

 やはり慣れないものは慣れない。
 エリンの選んだ服は俺の髪と同じように眩しい白色のワンピース。丈こそ長いものの、裾が広がっていることもあって下半身の無防備感は普段の制服とそう変わらない気がする。

 だが、それはそれとしてだ。
 
「やっぱり可愛いな」

 鏡に映る俺の姿はまさしく天使と言って良いものだった。自画自賛ではあるのだが、それでもこの姿を見て賞賛しなければいつ賞賛するのか。そのレベルの美少女だ。
 くるっと回転してみると髪とスカートがふわりと浮き上がる。いつまでも見ていたい。そう感じさせる美しさと可憐さを持ち合わせていた。

「……この格好ならこういうポーズも似合うよな」

 なんだか思った以上に気分が良いからか軽率に可愛いポーズもしてみちゃったりする。
 顔の近くでピースなんかしてみちゃったりしてな。

 しかし、その軽率な判断が命とりとなってしまった。

「着替え終わったかしら……あら……」

 試着室の扉を開けてきたエリンと鏡越しに目が合ったのだ。
 間違いなく今のこの姿を見られた。

「ま、待ってくれ、これは違うんだ……!」

 すぐさま口から出てくる弁明の言葉。それに合わせて身振り手振りも行いどうにか誤解を……いや誤解でも何でもないのだが、解こうとした。
 しかしそれらに何の戦術的優位性も無いのは火を見るよりも明らか。

「ふふっ、可愛い。すっごく可愛いわよ晴翔♡」
「ぁっ……」

 面と向かってそう言われた際の火力に俺はまだ慣れていない。
 声が出ない。顔が熱くなっていくのを感じる。きっと今の俺は耳まで真っ赤になっていることだろう。
 感覚に抑制が入るのなら感情にも抑制を入れてくれよ……!

「そうそう、せっかくだから陽ちゃんと色違いでお揃いにするっていうのもどうかしら」

 エリンはそう言うと別の試着室で着替えていたであろう陽を連れてきた。

「どうかな……?」

 現れた陽は俺とは正反対の黒いワンピースを着ていた。彼女のリアルでの姿はアバターとしての見た目とそこまで大きく違わないため、似合わないはずが無かった。

「ああ、凄く似合っているよ」
「うん、ありがとう晴翔。晴翔のその恰好も凄く可愛い」
「可愛い……か。いや、ありがとうな」

 陽にそう言われてしまっては否定も出来ない。いやまあ元より否定する必要が無い程に似合っていることは理解している。理解はしているんだがな。
 理解しているのと真正面から受け入れられるのはまた別の話だ。

「それじゃあ次は……」
「えっ、まだあるのか……!?」
「当たり前じゃない! 二人共こんなに素材が良いのだから、出来るだけ色々試してみるべきよ!」
「ははっ……」

 どうやらこれで終わりでは無いらしい。頼むからもってくれよ俺の精神。

 ……結局その後、俺と陽の二人はエリンの着せ替え人形と化した訳だが、少なくとも彼女の目は本物だった。
 選んだ洋服はそのどれもが俺と陽の二人にばっちりと似合っていた。改めて感じる圧倒的な女子力……ああ、これが女子力ってやつなのか。
 ガワだけが美少女な俺では絶対に到達できない領域だった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

生まれる世界を間違えた俺は女神様に異世界召喚されました【リメイク版】

雪乃カナ
ファンタジー
世界が退屈でしかなかった1人の少年〝稗月倖真〟──彼は生まれつきチート級の身体能力と力を持っていた。だが同時に生まれた現代世界ではその力を持て余す退屈な日々を送っていた。  そんなある日いつものように孤児院の自室で起床し「退屈だな」と、呟いたその瞬間、突如現れた〝光の渦〟に吸い込まれてしまう!  気づくと辺りは白く光る見た事の無い部屋に!?  するとそこに女神アルテナが現れて「取り敢えず異世界で魔王を倒してきてもらえませんか♪」と頼まれる。  だが、異世界に着くと前途多難なことばかり、思わず「おい、アルテナ、聞いてないぞ!」と、叫びたくなるような事態も発覚したり──  でも、何はともあれ、女神様に異世界召喚されることになり、生まれた世界では持て余したチート級の力を使い、異世界へと魔王を倒しに行く主人公の、異世界ファンタジー物語!!

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

天職はドロップ率300%の盗賊、錬金術師を騙る。

朱本来未
ファンタジー
 魔術師の大家であるレッドグレイヴ家に生を受けたヒイロは、15歳を迎えて受けた成人の儀で盗賊の天職を授けられた。  天職が王家からの心象が悪い盗賊になってしまったヒイロは、廃嫡されてレッドグレイヴ領からの追放されることとなった。  ヒイロは以前から魔術師以外の天職に可能性を感じていたこともあり、追放処分を抵抗することなく受け入れ、レッドグレイヴ領から出奔するのだった。

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい

ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆ 気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。 チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。 第一章 テンプレの異世界転生 第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!? 第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ! 第四章 魔族襲来!?王国を守れ 第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!? 第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~ 第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~ 第八章 クリフ一家と領地改革!? 第九章 魔国へ〜魔族大決戦!? 第十章 自分探しと家族サービス

処理中です...