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第二部 並行異世界地球編
12 救世主参上
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「グルォォォォッッ!!」
「なんなんだ、この雄たけびは……!」
遠くから聞こえてくる魔物の物と思われる雄たけび。それを聞いた学生と魔物ハンターは一瞬その身をすくませていた。
無理もない。これは本能的な恐怖を呼び起こすものだった。俺だってこの体と向こうでの経験が無かったら危なかっただろう。
「クソッ、やるしかねえ!!」
とは言え流石は現役の凄腕ハンター。すぐに態勢を立て直し、武器を構えて魔物の雄たけびのした方へと歩き始めていた。
俺も共に行くべきだろうか。いや、今の俺は一応ただの学生だ。かえって彼らの連携の邪魔になるかもしれないし、変に目立つことにもなってしまう。
「……不味い、こっちに向かっているぞ!! ここは俺たちが食い止める。桜とエミは学生たちを連れて逃げるんだ!」
「わ、わかりました……!!」
「こっちは任せてちょうだい!」
そう考えている内に魔物はこちらに向かって動き始めていた。
このままこの場に残るわけにもいかないから、ひとまずは他の学生たちと一緒に逃げることにしよう。
だが彼らだけで本当に大丈夫なのだろうか……あの魔力の感じだと向こうにいたワイバーンよりも強いはず。
もっともこっちの世界の水準がどれほどなのかはまだ正確にはわかっていないからな。下手に手を貸して厄介なことになるのも困るところではある……。
「ちょ、ちょっとあれ……」
そこで前を先導していた女性……確かエミと呼ばれていたっけか。彼女がそう言いながら突然止まった。
その視線の先では一体の魔物がこちらを見ていた。今すぐに襲い掛かってこないのは相当に用心深いんだろう。
事実、さっきの奴ほどでは無いにしろ強大な魔力を感じる。知能も高いのかもしれない。
見た目は大型の狼のような姿をしているが、こいつもアーステイルや向こうの世界では見たことが無いな。
「グォァァァッ!!」
「不味い、あんなの私たちだけじゃ……いえ、やるしかないのよね! フレイムバースト!」
エミは一瞬後ろの学生たちを見ると己を鼓舞するようにそう言いながら杖に魔力を込め始め、炎魔法と思われる物を放った。
そしてそれが魔物に着弾し、炎の渦が取り巻いた……のだが。
「嘘……」
どうやら今の攻撃は魔物に大したダメージを与えなかったようだ。
毛先が少し焦げているくらいでピンピンしていた。
うーむ、状況的にはかなり不味い。引率の教師も魔物ハンターを兼任しているため戦えないことも無いだろうが、彼らの実力は今回の授業で同行している現役の魔物ハンターに比べれば遥かに低い。
やはりここは俺が戦うしかない……。
両手に魔力を込め、いつでも魔法を発動できるようにしておく。
「グゲッ……」
「なに……今の……?」
……だが、その必要は無かったようだ。
それは一瞬のことだった。
こちらへと飛び掛かろうとした魔物の首を何者かが一瞬にして跳ねていた。
何者か……違うな。俺は彼のことを知っている。
「大丈夫か?」
「あなたは……」
エミに近づいて行く剣と盾を装備したまさしくザ・剣士と言った格好の男。
忘れもしないその姿。アーステイルにおけるトップナインの中でも常に最強であり続けた男。
「俺か……? 俺はアルスだ」
紛れもなく、アルス・イーテ本人だった。
彼はこちらの世界の姿が無いからか俺のようにゲームそのままの姿のようだな。
「偶然この辺りを探索していたのだが、あの魔物に襲われていたようだから助けてしまった。もしや邪魔だっただろうか……?」
「そんなことは無いわ。あなたのおかげで凄く助かった。……その、助けてもらったばかりで図々しいかもしれないけれどお願いがあるの。まだ向こうに仲間がいて、もっと強い魔物と戦っているのよ」
「なるほど、助ければ良いんだな」
そう言うとアルスは俺たちが逃げてきた方向へと走っていった。
彼も恐らく奴の強大な魔力を感知していたんだろう。この分なら残った二人の心配はいらないな。
「な、なあ晴翔……あの人、一人で行っちまったけど大丈夫なのか? 向こうにいた魔物って相当強いんじゃ……」
「今の攻撃を見ただろ? 彼なら大丈夫さ」
実際、数分も経たない内にアルスはクソデカ魔物の首を抱えて戻ってきた。もちろん残った二人も無事だ。
結局今回の遠征はそこで終了となり、俺たちはすぐに森を出ることとなった。
その後ハンター協会主導による森の調査が行われたのだが、どうやらあの二体以外にも異常な強さを持った個体が大量にいたらしい。
……だがそれはおかしいはずだった。魔物ハンターが言っていたように、本来あの森にはあまり強くない小型の魔物ばかりが出現するはずだったんだ。
少なくともあんな化け物が跋扈しているような魔境では絶対に無いはずだ。明らかに何かイレギュラーが起こっている。
……俺個人でも何かしら調べておいた方が良いのかもしれないな。
そんなこともあって色々と大変なことになってしまった遠征だが、収穫もあった。
アルス自身が向こうから来てくれたんだ。これほどの幸運は無い。
それにアルスと色々と話した結果わかったこともある。
調べただけではわからなかった魔物ハンターや魔物に関することなども、現場に出ている彼からならば色々と情報が入って来た。
なによりも彼自身が魔物ハンターになった経緯や今どうしているのかがわかっただけでもかなり安心出来た。
世界は違えどその力を人々のために使いたい……か。いまだにこの世界に慣れていない俺とは違って、あまりにも立派過ぎるぜ……。
さて、あとは陽だけだが……どうするか。
彼女はリアルでは体が弱くて病院での入院生活をしていると言っていた。だがあまり深く踏み込むのもどうかと思って、それがどこの病院なのかを聞いていないんだよな。
調べて出てくる物でも無いだろうし……。
……待てよ?
マップ機能が使えるってことは……マッピングも出来るのでは?
物は試しだ。早速やってみよう。
マップウィンドウを表示し、陽の現在位置を表示。
「……うん?」
読み通りアイコンは表示された。だがそのアイコンの位置に驚いた。こっちに来てからもう何回驚いたかわからないな。
けど仕方がないだろうよ。そのアイコンがまさかの東都魔法学園にあったんだからな。
------
「何なんだよアイツ……!」
大豊は森全体を写したモニターを見ながらその苛立ちを隠せずにいた。
「おい、あの魔物は上級ハンターでも勝てないはずじゃなかったのか!?」
「はい。上級ハンターが数人、束になってかかっても勝てないでしょう」
苛立っている大豊と対を成すように、靄のような何かは落ち着いた雰囲気で淡々と話し続ける。
「ならどうして負けているんだ……それもあんなに呆気なく……!」
下級、中級、上級と存在する魔物ハンターの強さの基準。その中でも最も強いとされている上級ハンターが数人がかりで相手をしても勝てないとされる魔物を、その男は一瞬にして葬ったのだ。
大豊がその光景を信じられないのも無理はないだろう。
「どうやらあの者は私たちの想定を大きく超えた力を持っているようです」
「おい、じゃあなんだ。予定よりもとんでもないのがいたから僕たちは勝てないっていうのかい……? そんなの許されないだろう!!」
大豊は立ち上がり、靄に向かって拳を振るう。しかしその攻撃が何かに接触することは無く、ただ空を斬るのみだった。
「落ち着いてください大豊様。私共はまだいくつも手段を残しています」
「は、ははっ……先に言えよ……」
大豊は安堵したように再びソファに座った。
「必ず、後悔させてやるんだ。僕をこんな目に遭わせたアイツを……晴翔を絶対に許さない……!」
「大豊様の願い、私共と貴方様であれば必ず実現できます」
「そうだ。そうだな……ハハハッ。それじゃあ次の手段とやらを教えてもらおうじゃないか」
「承りました」
靄は待ってましたとばかりに新たな策を大豊に伝えるのだった。
「なんなんだ、この雄たけびは……!」
遠くから聞こえてくる魔物の物と思われる雄たけび。それを聞いた学生と魔物ハンターは一瞬その身をすくませていた。
無理もない。これは本能的な恐怖を呼び起こすものだった。俺だってこの体と向こうでの経験が無かったら危なかっただろう。
「クソッ、やるしかねえ!!」
とは言え流石は現役の凄腕ハンター。すぐに態勢を立て直し、武器を構えて魔物の雄たけびのした方へと歩き始めていた。
俺も共に行くべきだろうか。いや、今の俺は一応ただの学生だ。かえって彼らの連携の邪魔になるかもしれないし、変に目立つことにもなってしまう。
「……不味い、こっちに向かっているぞ!! ここは俺たちが食い止める。桜とエミは学生たちを連れて逃げるんだ!」
「わ、わかりました……!!」
「こっちは任せてちょうだい!」
そう考えている内に魔物はこちらに向かって動き始めていた。
このままこの場に残るわけにもいかないから、ひとまずは他の学生たちと一緒に逃げることにしよう。
だが彼らだけで本当に大丈夫なのだろうか……あの魔力の感じだと向こうにいたワイバーンよりも強いはず。
もっともこっちの世界の水準がどれほどなのかはまだ正確にはわかっていないからな。下手に手を貸して厄介なことになるのも困るところではある……。
「ちょ、ちょっとあれ……」
そこで前を先導していた女性……確かエミと呼ばれていたっけか。彼女がそう言いながら突然止まった。
その視線の先では一体の魔物がこちらを見ていた。今すぐに襲い掛かってこないのは相当に用心深いんだろう。
事実、さっきの奴ほどでは無いにしろ強大な魔力を感じる。知能も高いのかもしれない。
見た目は大型の狼のような姿をしているが、こいつもアーステイルや向こうの世界では見たことが無いな。
「グォァァァッ!!」
「不味い、あんなの私たちだけじゃ……いえ、やるしかないのよね! フレイムバースト!」
エミは一瞬後ろの学生たちを見ると己を鼓舞するようにそう言いながら杖に魔力を込め始め、炎魔法と思われる物を放った。
そしてそれが魔物に着弾し、炎の渦が取り巻いた……のだが。
「嘘……」
どうやら今の攻撃は魔物に大したダメージを与えなかったようだ。
毛先が少し焦げているくらいでピンピンしていた。
うーむ、状況的にはかなり不味い。引率の教師も魔物ハンターを兼任しているため戦えないことも無いだろうが、彼らの実力は今回の授業で同行している現役の魔物ハンターに比べれば遥かに低い。
やはりここは俺が戦うしかない……。
両手に魔力を込め、いつでも魔法を発動できるようにしておく。
「グゲッ……」
「なに……今の……?」
……だが、その必要は無かったようだ。
それは一瞬のことだった。
こちらへと飛び掛かろうとした魔物の首を何者かが一瞬にして跳ねていた。
何者か……違うな。俺は彼のことを知っている。
「大丈夫か?」
「あなたは……」
エミに近づいて行く剣と盾を装備したまさしくザ・剣士と言った格好の男。
忘れもしないその姿。アーステイルにおけるトップナインの中でも常に最強であり続けた男。
「俺か……? 俺はアルスだ」
紛れもなく、アルス・イーテ本人だった。
彼はこちらの世界の姿が無いからか俺のようにゲームそのままの姿のようだな。
「偶然この辺りを探索していたのだが、あの魔物に襲われていたようだから助けてしまった。もしや邪魔だっただろうか……?」
「そんなことは無いわ。あなたのおかげで凄く助かった。……その、助けてもらったばかりで図々しいかもしれないけれどお願いがあるの。まだ向こうに仲間がいて、もっと強い魔物と戦っているのよ」
「なるほど、助ければ良いんだな」
そう言うとアルスは俺たちが逃げてきた方向へと走っていった。
彼も恐らく奴の強大な魔力を感知していたんだろう。この分なら残った二人の心配はいらないな。
「な、なあ晴翔……あの人、一人で行っちまったけど大丈夫なのか? 向こうにいた魔物って相当強いんじゃ……」
「今の攻撃を見ただろ? 彼なら大丈夫さ」
実際、数分も経たない内にアルスはクソデカ魔物の首を抱えて戻ってきた。もちろん残った二人も無事だ。
結局今回の遠征はそこで終了となり、俺たちはすぐに森を出ることとなった。
その後ハンター協会主導による森の調査が行われたのだが、どうやらあの二体以外にも異常な強さを持った個体が大量にいたらしい。
……だがそれはおかしいはずだった。魔物ハンターが言っていたように、本来あの森にはあまり強くない小型の魔物ばかりが出現するはずだったんだ。
少なくともあんな化け物が跋扈しているような魔境では絶対に無いはずだ。明らかに何かイレギュラーが起こっている。
……俺個人でも何かしら調べておいた方が良いのかもしれないな。
そんなこともあって色々と大変なことになってしまった遠征だが、収穫もあった。
アルス自身が向こうから来てくれたんだ。これほどの幸運は無い。
それにアルスと色々と話した結果わかったこともある。
調べただけではわからなかった魔物ハンターや魔物に関することなども、現場に出ている彼からならば色々と情報が入って来た。
なによりも彼自身が魔物ハンターになった経緯や今どうしているのかがわかっただけでもかなり安心出来た。
世界は違えどその力を人々のために使いたい……か。いまだにこの世界に慣れていない俺とは違って、あまりにも立派過ぎるぜ……。
さて、あとは陽だけだが……どうするか。
彼女はリアルでは体が弱くて病院での入院生活をしていると言っていた。だがあまり深く踏み込むのもどうかと思って、それがどこの病院なのかを聞いていないんだよな。
調べて出てくる物でも無いだろうし……。
……待てよ?
マップ機能が使えるってことは……マッピングも出来るのでは?
物は試しだ。早速やってみよう。
マップウィンドウを表示し、陽の現在位置を表示。
「……うん?」
読み通りアイコンは表示された。だがそのアイコンの位置に驚いた。こっちに来てからもう何回驚いたかわからないな。
けど仕方がないだろうよ。そのアイコンがまさかの東都魔法学園にあったんだからな。
------
「何なんだよアイツ……!」
大豊は森全体を写したモニターを見ながらその苛立ちを隠せずにいた。
「おい、あの魔物は上級ハンターでも勝てないはずじゃなかったのか!?」
「はい。上級ハンターが数人、束になってかかっても勝てないでしょう」
苛立っている大豊と対を成すように、靄のような何かは落ち着いた雰囲気で淡々と話し続ける。
「ならどうして負けているんだ……それもあんなに呆気なく……!」
下級、中級、上級と存在する魔物ハンターの強さの基準。その中でも最も強いとされている上級ハンターが数人がかりで相手をしても勝てないとされる魔物を、その男は一瞬にして葬ったのだ。
大豊がその光景を信じられないのも無理はないだろう。
「どうやらあの者は私たちの想定を大きく超えた力を持っているようです」
「おい、じゃあなんだ。予定よりもとんでもないのがいたから僕たちは勝てないっていうのかい……? そんなの許されないだろう!!」
大豊は立ち上がり、靄に向かって拳を振るう。しかしその攻撃が何かに接触することは無く、ただ空を斬るのみだった。
「落ち着いてください大豊様。私共はまだいくつも手段を残しています」
「は、ははっ……先に言えよ……」
大豊は安堵したように再びソファに座った。
「必ず、後悔させてやるんだ。僕をこんな目に遭わせたアイツを……晴翔を絶対に許さない……!」
「大豊様の願い、私共と貴方様であれば必ず実現できます」
「そうだ。そうだな……ハハハッ。それじゃあ次の手段とやらを教えてもらおうじゃないか」
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