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第一部 異世界アーステイル編

43 失うものが無い人は強い

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「何だお前は? ここから先、一般人は入ることは出来ない……いや、お前は!」
「気づいたかしら? それじゃ、中へ入れてもらおうかしら」
「入れる訳が無いだろう! おい、応援を呼べ! 指名手配中のアリスが現れたぞ!」

 まあそうよね。ずっと追っていた対象が目の前にいるんだもの。
 ここで私を捕まえられればその手柄は相当なものになる。一気に出世することだって出来るだろうし、死に物狂いで捕らえに来るでしょう。
 
 でも私はここじゃ止まれない。止まっちゃいけない。

「そちらから出てきたと言うことは自ら捕まりに来たと言うことで良いか?」
「良い訳無いじゃない。私は貴方の主……この国の王に会いに来たのよ」
「そんなこと、許せるはずがないのはわかっているはずだ」
「兵長、応援部隊が到着しました!」

 やっと来たみたいね。数はざっと10人程……ふーん、随分と舐められたものじゃない。

「さあ、観念するんだ。抵抗しなければ命までは取らない」
「取らないというか取れないんでしょう? 命令では生きて捕らえろって言われてるはずだし」

 殺すだけなら今までに何度もチャンスはあった。けど追手はそれをしてこなかった。
 理由として考えられるのはただ一つ。王は未だに私に執着している。だから生きたまま捕える必要があった。

「そんな数で私に勝てると思っているなんて、流石にちょっと舐め過ぎじゃないかしら?」
「フン、ハッタリだな。今までの傾向からしてお前が人を殺せないことはわかっている。行け! 何としてでも捕えるんだ!」

 一斉に向かってきた……か。わかりやすくて助かるわね。

「パラライズウェーブ!」
「なっ!? ぐっ体が……」
「うそ、ホントに発動した……」

 半信半疑ではあったものの、やっぱりHARUに短縮詠唱について教わっておいて良かったわ。
 確かにこれなら長い詠唱は必要なくなるし、魔術師としての弱点もだいぶ軽減される。

「何だ今のはッ!? ええい、何がどうなっている!」
「見てわからない? 麻痺魔法よ」
「麻痺魔法だと……? しかし詠唱も無しに魔法を使えるはずが無いだろう……!」
「でも私は使えてる。これが何よりの答えでしょう?」

 やっぱり短縮詠唱はこの世界では全く知られていないのね。そのおかげで奇襲にも使えそう。

「それじゃ入らせてもらおうかしら」
「ま、待て……!!」

 まさかここまで簡単に王城の中に侵入できるとは思わなかったわ。
 すぐに新手が来るでしょうし、このまま王のところに直行しちゃいましょうか。

「ナビさん、王をマッピングは出来る?」
[……該当者のマッピングを完了]
「うわ、本当にマッピングされてる……それにしてもこのマップっていうのももっと早く知りたかったわね」

 これがあれば逃亡生活ももっと楽になったでしょうに。
 まあそれは今はいいわ。ここに王がいるのよね。それなら直接文句を言って、痛い目に遭わせて、追手をもう出さないようにしてやるわ。

「たのもー!!」
「何事だ! ここが王様のいる謁見室だと知っての……いや、貴様は……アリスでは無いか」
「よくもずっと追いかけてくれたわね。今日はそのお礼をしに来たわ」

 部屋の中には臣下と召使いが数人……中にはあの時の人も交ざってるわね。
 そして中央の玉座に偉そうに座っているのが王ね。あの時と変わっていないからすぐにわかったわ。

「心変わりでもしたのかね? 宮廷魔導士になるのなら受け入れてやらん事も無い。もちろん奴隷でも構わんぞ? どちらにしろお前が私のものになるのに変わりはないのだからね」

 わかってはいたけど、相変わらず最悪。けどそれも今の内よ。

「そんなつもりは毛頭ないわ。今日はアンタたちをぎゃふんと言わせに来たんだから」
「ぎゃふん……? 何を言っているかはわからんが、反抗すると言うのなら然るべき手を打つだけだ。来い、我が魔導部隊よ!」
「ハッ、ご命令を」

 いきなり現れた……?
 一体どこから……それに数は4人で少ないけど、感じる魔力が相当強い。恐らく上級魔法は使えるレベルのはず。

[報告、全員プレイヤーレベルに換算して100程はあるかと思われます]

 そう、100レベルなのね。それなら問題は無いわ。

「どうした? 怖気づいたかのかね?」
「まさか、その程度じゃ私には勝てないわよ」
「笑わせてくれる。大したハッタリだな。我が魔導部隊は近隣諸国と比べても破格の能力を持っているのだ。いくらお前であっても4人を相手にすれば勝ち目は無い」
「そう。なら試してみようじゃない」

 確かに戦闘において1対4は圧倒的に分が悪い。けどそれはあくまで相手が同格以上だった場合。
 今回の場合は違うわ。何しろ私はトップナインなんだから。

「炎の精霊よ……」
「水の神力を我が手に……」
「遅いわよ! フレイムウォール!」
「なっ、何だと!?」

 詠唱中で隙だらけだった魔導部隊は私のフレイムウォールで壊滅。周りにいる臣下も今の短縮詠唱に驚いていて動く気配は無いわね。

「今……どうやって魔法を……」
「短縮詠唱よ。知らないの?」

 とは言っても私もHARUに教わるまでは知らなかったのよね。

「ぐっ……そうか。ますますお前が欲しくなったぞ!」
「生憎、私は貴方のものになるつもりは無いわ。そのためにここに来たのだもの」
「何だと?」
「私を追うのはもうやめてちょうだい。痛い目にあいたく無かったらね」

 できればここで王をぶち飛ばしてしまいたいけど、もしかしたら……無いとは思うけど円満に解決する方法が……。

「何を言うかと思えば、妙なことを。フッ、片腹痛いわ。お前が街を消した罪を我が国が肩代わりしてやろうと言うのだ。大罪人から宮廷魔導士になれるというのに何をためらう必要があるのだね」

 ぐぅっ……よくもそんなペラペラと詭弁を……結局はただ単に私を手に入れたいだけじゃないの。
 けどこらえなさい……。私にはまだ言わなければいけないことがある。

「ええ、確かにあの時私の魔法は暴走して街を消してしまったわ。けどそれは小細工がしてあったから。そうでしょう?」

 件の臣下の方を向いてそう言い放つ。

「何を言っているのだね貴様は」
「あの時、微弱な魔力反応を感じたの。そして後から調べたらびっくり、そこの臣下さんと同じ魔力で構築された魔術式が見つかったのよ」
「なに?」

 周りにいる人が目に見えて動揺しているわね。今この空間はこちら側に傾いている……!

「魔術師ギルドなりに確認してもらえばすぐに結果は出るでしょう。そこの臣下さんが私の魔法を暴走させるために小細工を仕込んだと言うことがね」
「ぐぐっ……おい、貴様! 後処理を済ませろとあれだけ言ったではないか!」
「ひぃっ、申し訳ございません! ですがあのエリアには闇に飲まれしモンスターが徘徊しており、街の跡地に入ることもままならかったのです……!」

 ……あの事件以降、人の手が一切入っていなかったのはそう言う事だったのね。

「どう、これでわかったでしょう? 首謀者があなたである以上は私に一方的に条件を飲ませることは出来ない」
「フッ、フハハ……勝ち誇っている所悪いが、魔術式が何だと言うのだね。この街の権力者は私だ。やろうと思えば証拠だろうが何だろうが揉み消せるのだよ」
「……そう」

 やっぱりこうなるのね。でもそれでいいわ。最初から私はこのクソ王を吹き飛ばしに来たのだから。

「なら交渉は決裂。覚悟しなさい」
「何を勘違いしているのだ? 敗北するのはお前だ」
「それが辞世の句と言う訳ね。さようなら」

 王を殺せばそれこそ指名手配は免れない。けどこのままこのクソ野郎がのうのうと生き残り続けるのは許せないし、また私みたいな被害者が出るかもしれない。
 だから今ここで……殺す。

「フレイムランス……! えっ……?」

 ……うそ、何で?
 どうして魔法が発動しないのよ!?

「フレイムランス! アイスショック! アビスホール! 何で魔法が発動しないのよ!?」
「残念だったな。私が何の対策もしていないとでも思っていたのか?」
「そんな……嘘、嫌だ……」

 私が……負ける? 
 駄目、それは絶対に駄目……!
 何とかして打開策を考えないと……いや、魔法が使えないんじゃ何をしても無理……。

「この城の地下には魔法を無効化する巨大な魔術式があるのだよ。それを発動させている間はこちらも魔法を使えない。だが、それならこうすれば良いのだ!」
「っ!?」
「ほう、良い姿ではないか」
 
 何をするか思えばこのクソ王、剣で私の服を……。
 元の恰好だと目立つからってこの世界で手に入れたローブを着ていたけど、こんなことになるならしっかりと装備を戻しておけば良かった……。
 うぅっ、ジロジロと……今に見てなさい、その目をもう二度と見えないようにしてやるんだから……。

「随分と反抗的な目では無いか。どちらが優勢なのかがわからんほど愚かではあるまい?」
「は、放して……!」
「それはできん。これほどの恵体を前にしてはな」
「やめて……」

 王の手が私の胸に伸びて行く……こんなところで私はこんな奴に純潔を……。

「うおぉぉぉッ!! アリスゥゥ!!」
「……HARU!?」
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