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第一部 異世界アーステイル編

01 アーステイル

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「よっっっっっっし!!!! っと、おわぁぁぁっっ!?」

 つい感情が昂り、ゲーミングチェアから転げ落ちてしまった。
 しかしそうもなるだろう。なにしろこの俺、葛城晴翔は今まさに人生最高の瞬間を迎えてしまったからだ。
 
 と言うのも、今この瞬間俺はMMORPGである「アーステイル」のPVPにおいて、ついに一桁順位を手にしたのである。
 上位ランカーの中でも『トップナイン』と呼ばれる者たちの仲間入りをした訳だ。
 ゲームで人生最高の瞬間なんて悲しい人生かもしれないが、それでも誰が何と言おうと俺はこのゲームにそれだけの情熱を注ぎ込んでいるんだ!

 ああ、ここまで長かった。シンプルにプレイヤースキルを高めたり装備やアイテムを集める必要があると言うのもそうだが、なにより大変だったのはやはり……使用キャラが器用貧乏だったところだ。

 俺が使っているキャラは「バトルマジシャン」という職業であり、戦士職のような高い近接戦闘能力を持ち、魔法職のように強力な魔法を行使することが出来る。
 さらには保有魔力量も魔法攻撃力のステータスも高いため、特別なアイテムを使えば優秀な召喚獣を呼び出して十分に扱うことが出来る。

 要は戦士のように肉弾戦も出来てかつ魔法使いのように広範囲に強力な一撃をぶちかませるという、両者の良い所をまとめたまさに二刀流の最強の上級職! 

 ……と、説明だけであれば誰もがそう思うだろう。だが実際は違うのだ。

 まず何より違う点が使用できるスキルの数だ。
 このゲームでは下級、中級、上級、最上級……という風にスキルのランクが決まっているが、当然だがPVPにおいては最上級スキルがどれだけ使えるかが重要になる。
 また同じように職業も下級職、中級職、上級職とあり、バトルマジシャンは上級職に該当する。

 さて、ではそんなバトルマジシャンが使えるスキルはどうだろうか。なんと戦士系と魔法系の両方の最上級スキルを使える分、それぞれの使える数自体は少ないのだ。

 これが何を現わすのか。……戦闘スタイルの固定化だ。
 使えるスキルが限られており、クールタイムによってそれらを使えるタイミングが決まってしまっている以上、どうしても戦い方がワンパターンになっていく。そして対人戦において戦い方がワンパターンになるのはほぼほぼ負けを意味すると言っても良い。

 そこに加わって来るのが次の問題。ステータス振りだ。物理戦闘と魔法戦闘両方を行う都合上、片方に使えるステータスは限られてくる。
 当然だがそうなれば特化職に比べて数段ステータスが落ちる。だからこそ俺は両方のステータスを上昇させるアイテムや装備、スキルを片っ端から集め厳選し、その構成を見直した。

 そういう訳で俺はネット上を駆け回り、時には自分自身で情報を集めまくり、ビルドを組みなおしては実戦を行い、またビルドを組みなおしては……と、ただひたすらにその流れを繰り返した。
 それだけでは無い。この夏休みにはバイトを増やし、それらで稼いだバイト代も全てつぎ込んだ。うだるような暑さの中汗水流して稼いだ金が、ガチャに、装備に、アイテムに溶けて行った。
 それがあればどれだけ美味しいものが食べられただろうか。ちょっとした旅行もできただろう。

 しかし後悔は無い。
 ついにその努力は身を結び、PVPにおいて栄光あるトップナインへと上り詰めたのだ。
 PCモニターに映るプレイヤーネームである「HARU」と、その隣にある「9」という順位を見ると全てが報われた気がした。
 どこに後悔する必要があるのだろうか。

「やっとここまで来たんだな……と、とりあえず今日は寝よう……」

 気付けば深夜3時を回っていた。
 そういえばしばらくまともに寝ていなかったか。う、意識したら急に体が重く……。
 食事もまともに取っていないからか何だか頭がフワフワする。とりあえず今日は寝て続きは明日からだな。

 ゲームからログアウトしてPCの電源を落とす。そして力無くベッドに倒れ込み、瞬く間に夢の世界へといざなわれた。

――――――

「……あ、あれ?」

 ここはどこだ?
 辺り一面真っ白な空間だった。おかしい。確か俺は自分の部屋で寝ていたような……。

「皆さん集まったようですね」

 脳に直接響くような声が聞こえ、咄嗟にその方向を向く。
 そこにはザ・女神と言った風貌の女性がいた。明らかに人のそれでは無い雰囲気を纏うその姿を前にして俺は一切の声が出せなかった。

「混乱されているかもしれませんが、貴方がたをここに呼び出した理由はただ一つ。我々の世界を救って欲しいのです」

 世界を救って欲しい……? 何を言っているんだそんな漫画や小説じゃ……いや、今この状況はそういったものに限りなく近いか……?。

「我々の世界アーステイルでは今、強大な闇の勢力が力を強めています。彼らを放っておけばいずれは世界が滅んでしまうでしょう。そこで我々は異世界から勇者を呼び出すためにとある儀式魔法を行使しました。……皆さまもご存じのはず。『アーステイル』です」

 よし、全然わからん。
 とは言え世界がどうこう言っているのは全然わからんが、とにかくアーステイルがなんかこう大事なことはなんとなくわかるぞ。

「貴方がたがプレイしていたアーステイルは、適性のある者を見つけ出すための儀式魔法だったのです。そして今ここに居る9人は勇者として選ばれたのです。どうか、どうか世界を救ってください……!」

 それを最後に女神様らしき人物は姿を消した。……え、ちょっと待ってこれで説明終わり?
 まだ頭が混乱してよくわかんないけど、これってつまり異世界転移だとかそう言うやつじゃ……と言うか俺の他にも8人いるのか。
 所謂トップナインが集められたってことなのか?

「う、嘘だろ……? ふざけんな! 勝手に呼び出しといて世界のために戦えってか!? 俺たちはそんなつもりでゲームをしていた訳じゃ……!」

 近くにいた一人がそう声を上げた。酷く慌てているというか動揺しているというか、とにかくその表情はとんでもないことになっていた。
 いや、これマジでヤバイ状況なのでは……?
 
 とか考えている内に意識が薄れて行く。本格的に始まってしまうのだろう……異世界での冒険というやつが。
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