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3 勇者パーティの後始末

22 帰還

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 俺たちがギルドに戻って来た時、そこはもうお祭り状態だった。

「おい、あいつらが帰って来たぞ!!」

 誰かのその言葉を合図に、その場にいた者たちが湧き上がる。

「こ、これはいったい……?」

「アンタらが魔人を討伐してくれたんだろ? 各地で暴れていた魔物が一斉に鎮静化したんだよ」

「そんとき魔人討伐の依頼を受けているのはアンタらだけだからな。隠しても無駄だぜ~?」

 この場にいる者のほとんどは既に酔っているのか、顔が赤かったりフラフラしている者が多い。
 
 しかし彼らの言っていることが正しいなら、俺がファルにかけた魔力抑止は効果があったようでなによりだ。
 ただ一つ問題がある。俺は魔人を討伐したことになっている。
 いやまあ確かに問題が解決したのなら、普通は魔人を討伐したもんだと思うよな。

 どう考えたって、魔人が人の少女の姿になっているとは思わないはずだ。

「サザン様! このたびはありがとうございました!! サザン様ならきっとやれると信じていましたよ!」

 受付嬢は俺を見るなり、報酬が入っているであろう大きな袋を持ち勢いよく走って来る。

「こちらが報酬になります! これからもどうかよろしくお願いしますね、我らの英雄様!!」

「英雄様にカンパーーイ!!」

 そりゃ魔人を討伐したら英雄だよな。うん。
 でも倒してないんだこれが。
 ……罪悪感が凄い。
 
 いや、魔物の活性化自体は止めたのだから一応救いの英雄であることに間違いはない。
 間違いはないが……魔人討伐の依頼の報酬を受け取っても良いものだろうか。

 そこで俺は、この場の大勢の者が酒を浴びるように飲んでいることに気付く。
 なら……。

「よーし、宴だ! この英雄様が払うから、皆たっぷり飲んでくれ!!」

 ……これだ!

「おおぉぉぉ英雄様あぁ!!なんて太っ腹なんだぁぁ!!」

 想像通り、皆うまいこと乗ってくれた。これで少しは罪悪感も薄まると言うものだ。
 報酬の分で足りなかったらその時はその時だ。英雄様はその程度でケチ臭くはならないのだ。

 俺はファルをパーティメンバーとして正式に迎え入れるための処理をしに、受付嬢のもとへ向かう。

「パーティメンバーの新規追加ですね。……あの、今メンバーを追加するとパーティランクが下がってしまうのですがよろしいでしょうか。サザン様のパーティは今回の功績でSランクに認められると思うのですが」

「構わない、続けてくれ」

「はい。それでは」

 受付嬢はパーティランクについての注意点を言ってくれたが、今はそれは関係ないことだ。ファルを新人冒険者として登録した以上、彼女のいる俺たちのパーティランクは引き続きAランクのままとなる。

 ここまで来てSランクの名誉のために彼女を裏切ることなんて出来ないしな。

 これでファルも俺たちの正式なメンバーとなった。彼女は魔力抑止をしているとは言え魔人だからな。これからの成長が楽しみだ。




「なあ英雄様の連れの嬢ちゃん……えっと、メルちゃんだっけ? 俺たちとあっちで飲まねえか?」

 こういう酒の席だと、やっぱりこういう人が現れるのね。
 でも私だってもう弱くない。こんな輩一人で対処しなきゃ……。

「すみません、私そういうのは結構なので」

「まあまあそう言わずにさぁ」

 そのまま離れようとしたが、腕を掴まれ無理やり引っ張られる。

「……やめてください」

「ちょっと一緒に飲むだけだろぉ? ほら、あっちで一緒に飲もうぜ」

 無理やり振りほどこうとするも、思った以上に掴む力が強く振りほどくことが出来ない。

「俺、一応レベル40超えの戦士なんだよ。魔術師のメルちゃんじゃあどれだけ頑張っても振りほどくことは出来ないかなぁ~?」

「くっ……」

 じわじわと少しずつ引っ張られていく。このままだと裏まで連れていかれてしまう……。
 コイツらに力づくで何かをされたら、私にはそれを防ぐことは出来ない……。

「こんな上玉、英雄様だなんて乗せられて喜んじまってるガキのもんにさせとくのはあまりに勿体ねえよなぁ」

「嫌……やめて……」

「その子、嫌がっているだろう?」

 突然、私の腕を引っ張る男の背後に一人の青年が現れた。

「なんだぁ……? っておいおいアンタ、逃げ帰って来た勇者サマじゃねえかよ。魔人は倒せないけど可愛い女の子は救うっての?」

「その手を離せよ。嫌がってるだろ」

 勇者と呼ばれた青年はそのまま言葉を続ける。

「なら力づくでやってみィィィテテテェェ!?」

「あまり乱暴はしたくないんだ」

 目にも止まらない速さで、勇者は男の肩の関節を逆方向に曲げる。今にもボキっといってしまいそうではあるが、そうならないのは勇者が手加減しているのか男が戦士として屈強だからなのか。

「クソッ覚えていろよ! お前みたいな逃げ帰ってきちまう弱虫勇者なんてすーぐに超えてやるからなぁ!!」

 男は勇者を振りほどき、捨て台詞を吐きながら去っていった。

 それにしても、この青年が勇者……。
 魔人と実際に戦った私だからわかる。彼は決して弱くは無い。ただそれでも、勇者であったとしても魔人に届かなかった。それだけのことなんだ。

「あの、ありがとう」

「良いさ。困っている人がいたら助けるのが勇者の仕事だからね。それじゃ」

「えっと……」

「うん? まだ何か?」

「私が言っていいのかわからないけど……魔人討伐に失敗したからって、それを悔やまないで欲しいの。確かに魔人は強かったけど、あなたたちだってかなり強いはず!」

「そう言ってくれるのはありがたいけど、それじゃ駄目なんだ」

「え……?」

 勇者は覚悟の決まったような、深刻な表情をしてそう言った。
 その姿は、強くなければならないという一種の呪いにかかっているようにも思えた。

「ごめん……こんな話、無関係の人にするべきじゃなかった。それじゃ……」

 勇者は逃げるように去ってしまった。
 しかし、彼の最後の表情が頭に焼き付いて離れない。恐らく彼は、今後も辛い現実に直面していくのだと思う。

 でも、私にはどうすることも出来ない……。




 あれからしばらく経ったが、まだ宴が終わる気配はない。

「流石にそろそろ寝たいんだがな……」

 夜も遅くなってきたが、奢ると言ってしまった以上俺が先に出て行くわけにはいかない。
 英雄様が宴から抜けだしたら色々と不味いだろうしな。

「……なんでアイツが、ランが生きているの……!?」

「うん? 今どこかでランを呼ぶ声が……」

 喧騒に紛れてランを呼ぶ声が聞こえた気がしたが、振り返ってもそれらしき人物は見つからなかった。

 結局この後、解放されたのは次の日の昼頃だった。

「うぅ……飲みすぎた」

「以前にも似たようなことになっていたな。その時は私が介抱してやったのだが」

「いやランは俺のベッドに潜り込んでいただけじゃないか」

「サっサザンとランはそのような関係であるのか!?」

 ファルは俺とランの言葉を聞いて何かを誤解したようだ。

「えっと違うんだそれは」

「私は違くなくとも構わないが?」

 頼むから話をややこしくしないでくれ!

「それで、次はどうするー?」

「リアはどうしたいの?」

「私は特にないけど、ひとまずファルの装備品を揃えなきゃね!」

「そうだな。このまま丸腰というわけには行かないだろう」

 ファルにはひとまず俺のスペアの短刀を持たせてはいるが、防具は何も装備してない。
 確かにこのままでは依頼を受けるのもダンジョンに潜るのにも不便だ。

「それじゃ、まずは大きめの街に行って色々と整えるか!」

 次の目的も決まったことだし、ひとまず俺は寝る! 徹夜だからな!

 昨日聞こえた声の正体も気になるが、それよりも俺は目の前の睡眠に心を奪われていたのだった。

勇者パーティの後始末 完
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