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終章『アヴァロンヘイムと悪魔の軍勢』
68 メイデン・ホワイト
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聖女が連れてきていた護衛の一人が俺たちを教会へと案内してくれた。
……いやはや、流石は聖女と言ったところだろうか。
この聖王都の中でも一番大きいと言っても全然過言でも何でもない程の規模の教会……いやもはや豪邸と言っても良いようなその建物の客間に、俺たちは案内されちゃったわけである。
「それでは、しばしお待ちください」
そう言って護衛が部屋から出て行った。
メイデンと二人でいるにはあまりにも広すぎる部屋の中心に、俺とメイデンはただ二人ちょこんと座ったまま取り残されてしまった。
「貴方、こういう所は慣れていないのね」
「そりゃそうだ。相当な金持ちとかでも無ければ普通は慣れていないだろうよ」
「そうね……普通は、そうかもしれないわね」
メイデンはやや寂しそうな顔でそう言う。
「……そう言えば、メイデンはあの大司教とどういう関係なんだ? 彼女にかなり恨まれているみたいだったが」
ここは話を変えて……と言う程変わってもいない気がするが、大司教とメイデンの関係性について聞いてみた。
やはり気になるのだ。あれだけの恨みを買うようなことをメイデンがするだろうか……?
「ただの昔馴染みよ。昔は仲が良かったのだけれど……ある時を境に敵同士になってしまった。それだけ」
「敵同士……って、喧嘩でもしたのか?」
「喧嘩で済めばどれほど良かったか。でもそうね、こんなに一緒にいるんだもの。そろそろ話しておいた方が良いかしら」
メイデンは真剣な表情のまま俺を見つめてくる。
「……この話を聞いても、貴方は私を今まで通り扱ってくれるわよね?」
「ああ、ずっと一緒にクエストをこなしてきた仲間じゃないか。今更突き放すようなことはしないさ」
なんてことないように、普段通りの感じでそう返す。
彼女の表情の裏には恐怖が隠れているような気がしたのだ。
この話をしたら今まで通りの関係ではいられなくなってしまうのではないか……と、そんな恐怖が彼女からは発されていた……ような気がする。
「感謝するわ、ステラ。そうね……どこから話すべきかしら。まずは私のことについて、改めて言っておこうかしらね」
そう言うとメイデンは立ち上がった。
そしてあの時と同じようにスカートを持ち上げ、丁寧にお辞儀をしたのだった。
「私はメイデン・ホワイト。それはプレイヤーとしての名でもあり……私自身の名でもあるのよ」
「本名ってことか? でもネトゲで本名を使うのはあまり褒められたことじゃないぞ」
と言ったところで、俺自身も前世の名前をそのまま使っていたことに気付いてしまった。
……おいおい、俺も彼女のことを言えないじゃないか。
「ふふっ、貴方ならそう言うと思ったわ。でもここからが重要なのよ」
メイデンはそう言った後、瞳を紅く光らせた。
恐らくはあの時見せてもらった魅了スキルだろう。
「これがチャームだと言うのは前に伝えたわよね」
「ケラルトと色々あった時のあれだな? 中々に強烈な出来事だったからな。鮮明に覚えてるよ」
「でも、こんなスキルは最初からネワオンには無いのよ……それは貴方ならわかるでしょう」
……やはりあの時の違和感は勘違いじゃ無かったか。
吸血鬼系の種族が持つ固有スキルは吸血やブラッドドレインであり、魅了とかチャームとか、そう言ったものは一切無かった。
どちらかと言えばそう言うスキルは淫魔とか悪魔とかが使うものだった。
「気付いてはいたよ。……でもメイデンがあえて言わないと言うことはあまり知られたくないんだと思って、こっちからは触れなかった」
「ふふっ、気を使ってくれたのね。感謝するわ。それでこのチャームを私が使える理由なのだけど、単純なことよ。そう……単純なこと。それは、私が本当の吸血鬼だからなのよ。どういう訳か向こうで使えた能力はこっちでも使えるみたいなのよね」
……うん?
「あら、ノーリアクションだなんて悲しいわね。もっと激しく反応してもいいのよ?」
「いや……驚きはしたよ」
そうだ。驚いた。ちゃんと驚いたぞ俺は。
吸血鬼なんている訳無いと、向こうにいた時はそう思っていたからな。
でもこの世界で俺は……知ってしまったんだ。自分の存在の異常性に。
あんなに衝撃的なことがあった後だと、正直今更感があった。
そうか吸血鬼か……。
メイデンがフライ魔法をすぐに使いこなせるようになったのも、彼女が向こうの世界でも元々空を飛べたからってことなのか?
いきなりスラム街にぶち込まれてもすぐに適応して親分になったり、度々見せる異常な冷静さやあの人の心を見透かしたような的確なカウンセリングも、全て彼女が吸血鬼だったからだと考えると辻褄はあってしまうな。
「あれ、その割には冷静なようだけれど」
「まあ、俺自身が異質だからな」
「それもそうね」
いや、そうあっさり返されるとこう……まあいいか。
俺としても、今となってはそこはあまり気にしてはいないんだ。
「でも吸血鬼って言うと、もしかして有名どころと何か関係があったりするのか? 血の伯爵夫人とか串刺し公とか」
「そう言うのは無いわね。私の血筋は有名どころとは特に関係ないのよ」
「そうなのか……」
少し残念だ。歴史に語られるような存在をその目で見てきたんじゃないかと思ったんだが……って、その言い方だと彼らが本当に吸血鬼だったってことにならないか?
いやメイデンのことだ。割と雑に返答して俺の反応を楽しんでいる可能性もある。
「と言うか、メイデンって……何歳なんだ? その辺と同じくらいから生きてきたって言うならもう数百歳とかじゃ……」
「あら、乙女の年齢を聞くなんてデリカシーが無いのね」
「……そうだな。うん、悪かったよ」
当然の事を言われてしまった。
吸血鬼とは言え彼女は女の子。年齢はあまり軽率に聞いてはいけない……か。
この世界には異種族も多いし、今後も気を付けないとな。
「年齢もそうだけれど、やっぱり吸血鬼だと人間社会にはあまり馴染めなかったのよね。貴族の血筋だから財力だけはあったのだけれど、広い部屋にただ一人だけで数百年……一時期は気が狂いそうになったわ」
「それは……大変だったな」
人の世に紛れることの難しさってやつか。
寿命の差もあるし、それこそ人間の友達を作ろうものなら、彼女にとってはあっという間に死んでしまうのだろう。
「でもここ十数年は楽しかったわ。インターネットさえあればオンラインでいくらでも繋がれるんだもの。それに正体がバレることも無い。最高の時代が来たものだと喜んでいたら……こうして転移しちゃったわけ」
「あぁ……」
箱入りお嬢様のイメージから一気に引きこもりゲーマーのそれに……。
でも彼女が楽しかったのならそれが一番良いよな。うん、そうに決まっている。
「それで、ここまで言えばもうわかるかもしれないのだけれど。あの大司教……ナコンダ・ネイビーは向こうの世界でも吸血鬼だったのよ」
ナコンダ・ネイビー……それが彼女の名前なのだろう。
そして彼女とメイデンの間にはただならぬ関係がある……それはメイデンの表情と声色からして確実のようだった。
「全てを話すわ。彼女のこと……そして私とどういう関係なのか……その全てをね」
……いやはや、流石は聖女と言ったところだろうか。
この聖王都の中でも一番大きいと言っても全然過言でも何でもない程の規模の教会……いやもはや豪邸と言っても良いようなその建物の客間に、俺たちは案内されちゃったわけである。
「それでは、しばしお待ちください」
そう言って護衛が部屋から出て行った。
メイデンと二人でいるにはあまりにも広すぎる部屋の中心に、俺とメイデンはただ二人ちょこんと座ったまま取り残されてしまった。
「貴方、こういう所は慣れていないのね」
「そりゃそうだ。相当な金持ちとかでも無ければ普通は慣れていないだろうよ」
「そうね……普通は、そうかもしれないわね」
メイデンはやや寂しそうな顔でそう言う。
「……そう言えば、メイデンはあの大司教とどういう関係なんだ? 彼女にかなり恨まれているみたいだったが」
ここは話を変えて……と言う程変わってもいない気がするが、大司教とメイデンの関係性について聞いてみた。
やはり気になるのだ。あれだけの恨みを買うようなことをメイデンがするだろうか……?
「ただの昔馴染みよ。昔は仲が良かったのだけれど……ある時を境に敵同士になってしまった。それだけ」
「敵同士……って、喧嘩でもしたのか?」
「喧嘩で済めばどれほど良かったか。でもそうね、こんなに一緒にいるんだもの。そろそろ話しておいた方が良いかしら」
メイデンは真剣な表情のまま俺を見つめてくる。
「……この話を聞いても、貴方は私を今まで通り扱ってくれるわよね?」
「ああ、ずっと一緒にクエストをこなしてきた仲間じゃないか。今更突き放すようなことはしないさ」
なんてことないように、普段通りの感じでそう返す。
彼女の表情の裏には恐怖が隠れているような気がしたのだ。
この話をしたら今まで通りの関係ではいられなくなってしまうのではないか……と、そんな恐怖が彼女からは発されていた……ような気がする。
「感謝するわ、ステラ。そうね……どこから話すべきかしら。まずは私のことについて、改めて言っておこうかしらね」
そう言うとメイデンは立ち上がった。
そしてあの時と同じようにスカートを持ち上げ、丁寧にお辞儀をしたのだった。
「私はメイデン・ホワイト。それはプレイヤーとしての名でもあり……私自身の名でもあるのよ」
「本名ってことか? でもネトゲで本名を使うのはあまり褒められたことじゃないぞ」
と言ったところで、俺自身も前世の名前をそのまま使っていたことに気付いてしまった。
……おいおい、俺も彼女のことを言えないじゃないか。
「ふふっ、貴方ならそう言うと思ったわ。でもここからが重要なのよ」
メイデンはそう言った後、瞳を紅く光らせた。
恐らくはあの時見せてもらった魅了スキルだろう。
「これがチャームだと言うのは前に伝えたわよね」
「ケラルトと色々あった時のあれだな? 中々に強烈な出来事だったからな。鮮明に覚えてるよ」
「でも、こんなスキルは最初からネワオンには無いのよ……それは貴方ならわかるでしょう」
……やはりあの時の違和感は勘違いじゃ無かったか。
吸血鬼系の種族が持つ固有スキルは吸血やブラッドドレインであり、魅了とかチャームとか、そう言ったものは一切無かった。
どちらかと言えばそう言うスキルは淫魔とか悪魔とかが使うものだった。
「気付いてはいたよ。……でもメイデンがあえて言わないと言うことはあまり知られたくないんだと思って、こっちからは触れなかった」
「ふふっ、気を使ってくれたのね。感謝するわ。それでこのチャームを私が使える理由なのだけど、単純なことよ。そう……単純なこと。それは、私が本当の吸血鬼だからなのよ。どういう訳か向こうで使えた能力はこっちでも使えるみたいなのよね」
……うん?
「あら、ノーリアクションだなんて悲しいわね。もっと激しく反応してもいいのよ?」
「いや……驚きはしたよ」
そうだ。驚いた。ちゃんと驚いたぞ俺は。
吸血鬼なんている訳無いと、向こうにいた時はそう思っていたからな。
でもこの世界で俺は……知ってしまったんだ。自分の存在の異常性に。
あんなに衝撃的なことがあった後だと、正直今更感があった。
そうか吸血鬼か……。
メイデンがフライ魔法をすぐに使いこなせるようになったのも、彼女が向こうの世界でも元々空を飛べたからってことなのか?
いきなりスラム街にぶち込まれてもすぐに適応して親分になったり、度々見せる異常な冷静さやあの人の心を見透かしたような的確なカウンセリングも、全て彼女が吸血鬼だったからだと考えると辻褄はあってしまうな。
「あれ、その割には冷静なようだけれど」
「まあ、俺自身が異質だからな」
「それもそうね」
いや、そうあっさり返されるとこう……まあいいか。
俺としても、今となってはそこはあまり気にしてはいないんだ。
「でも吸血鬼って言うと、もしかして有名どころと何か関係があったりするのか? 血の伯爵夫人とか串刺し公とか」
「そう言うのは無いわね。私の血筋は有名どころとは特に関係ないのよ」
「そうなのか……」
少し残念だ。歴史に語られるような存在をその目で見てきたんじゃないかと思ったんだが……って、その言い方だと彼らが本当に吸血鬼だったってことにならないか?
いやメイデンのことだ。割と雑に返答して俺の反応を楽しんでいる可能性もある。
「と言うか、メイデンって……何歳なんだ? その辺と同じくらいから生きてきたって言うならもう数百歳とかじゃ……」
「あら、乙女の年齢を聞くなんてデリカシーが無いのね」
「……そうだな。うん、悪かったよ」
当然の事を言われてしまった。
吸血鬼とは言え彼女は女の子。年齢はあまり軽率に聞いてはいけない……か。
この世界には異種族も多いし、今後も気を付けないとな。
「年齢もそうだけれど、やっぱり吸血鬼だと人間社会にはあまり馴染めなかったのよね。貴族の血筋だから財力だけはあったのだけれど、広い部屋にただ一人だけで数百年……一時期は気が狂いそうになったわ」
「それは……大変だったな」
人の世に紛れることの難しさってやつか。
寿命の差もあるし、それこそ人間の友達を作ろうものなら、彼女にとってはあっという間に死んでしまうのだろう。
「でもここ十数年は楽しかったわ。インターネットさえあればオンラインでいくらでも繋がれるんだもの。それに正体がバレることも無い。最高の時代が来たものだと喜んでいたら……こうして転移しちゃったわけ」
「あぁ……」
箱入りお嬢様のイメージから一気に引きこもりゲーマーのそれに……。
でも彼女が楽しかったのならそれが一番良いよな。うん、そうに決まっている。
「それで、ここまで言えばもうわかるかもしれないのだけれど。あの大司教……ナコンダ・ネイビーは向こうの世界でも吸血鬼だったのよ」
ナコンダ・ネイビー……それが彼女の名前なのだろう。
そして彼女とメイデンの間にはただならぬ関係がある……それはメイデンの表情と声色からして確実のようだった。
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