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終章『アヴァロンヘイムと悪魔の軍勢』

61 新たな勇者

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 魔王の残した置き土産である魔物の活発化も少しずつ収まって来て、討伐依頼もどんどん減ってきていた。
 なのでだんだん俺たちが出なければいけないような高難易度クエストも無くなり、今では王国は元の平和な国に戻りつつあった。

 そんな中、またもや俺たちの元へと緊急クエストが舞い込んでくる。
 それは召喚された勇者についてだった。

 ……そう、魔物の問題が片付いても、王国が召喚した勇者に関しては今なお未解決なままなのだ。

「そのですね……聖王都の大司教に、あまりにも人間離れした奇跡を起こすことで有名な方がいるようなんです」

 聖王都。それはアヴァロンヘイムの北西に位置する国で、国全体で聖職者を囲い込んでいる宗教国家だった。
 そしてその聖王都においてとんでもない力を持った大司教が見つかったと。
 まあこれは十中八九……

「それは……恐らく勇者でしょうね」

 間違いなく勇者だろう。
 恐らくは神官系ビルドのプレイヤーだ。

「やはりステラさんもそう思いますよね。なので、こちらの方で既に諸々の準備は済ませています!」

「お、おぉ……その、準備がいいですね?」

 いや準備が良いと言うか、俺たちが断ることを考えていないだろこの速さは。
 まあ、断る気も無いんだけども。

 とまあそう言う事もあり、これまたいつものメンバーで俺たちは聖王都にまで出向くこととなったのだった。


 ――――――


「ここが聖王都か……」

 記憶の中の聖王都と、今目の前にある聖王都の街並みはこれといって変化が無いように思えた。
 少なくともその点ではゲームとの差異はないと思って良いだろう。

「おい、そこのお前!!」

 その時、聖王都に入ってすぐの広間で聖職者と思われる格好の男が怒号を飛ばしたのだった。

「この国ではポーションの使用に制限があるのだ! 知らないとは言わせんぞ」

「だからって、こんなに小さな子が怪我をしていて見過ごせっていうの?」

 そんな彼に反論したのは一人の女性だ。恰好からして冒険者だろう。
 そしてその近くには膝を血で汚した少年がいた。

「何を言う。無論、私とてそのつもりは無い。これは我が国が誇る精鋭の神官が治癒を行うがゆえの決まりだとも」

「その神官が来るまで、どれだけかかるのかって話よ」

「そのようなこと、些事である。それよりも……だ。またこのような事をされては困るのでね。今持っているポーションを全て渡してもらおうか」

「そんな……!」

 ……彼の言っていることもわからなくはない。
 聖王都は宗教国家であり、聖職者の力こそが国の力となる。である以上、回復魔法以外での回復手段をある程度抑圧しなければならないと言う事だろう。

 だが、そうだとしてもだ。それは怪我をして悲しんでいる子供よりも優先することだろうか。
 そして何より冒険者の所持している物を無理やりに徴収するのは……。

「おい待ってくれ。俺たちが悪かったってのは認めるし反省もしている」

「エルド、何を言って……」

「まあ待てアリア。……それでも、冒険者の所有物を国が徴収することは出来ないはずだ。それは冒険者組合法で決められているし、この聖王都であっても例外ではないはずだ」

「ぐぬぬ……ええい、分かった。今回だけは見逃してやろう。覚えていたまえ!」

 あまりにも捨て台詞過ぎるものを吐いて聖職者の男がどこかへ去っていった。

「はぁ……。アリア、もう少し穏便にだな……」

「何よ、悪いのはアイツらでしょう? ……聖王都だって、昔はこうじゃなかったはずなのに」

「それは確かにそうだが……だとしても今は違うんだ。少しは受け入れてくれ」

 どうやらあの二人、この聖王都に関して何か知っていそうだぞ?
 なので、早速彼らにコンタクトを取ってみることにした。

「すみません、お二方」

「……俺たちに何か用か?」

「ええ、実はこの聖王都についてなのですが……」

 彼らに聖王都や件の大司教について聞いてみた。
 その結果得られた情報が二つ。

 まず一つが、情報通りその大司教はおおよそこの世界の一般人からは想像もできないような能力を持っているとのことだった。
 とてつもない範囲に強大な影響を及ぼす回復魔法や、強力な呪いをも打ち消せる解呪魔法……その他色々、そのどれもが間違いなくネワオンプレイヤーとしてのそれであった。

 そして二つ目。正直こちらの方が厄介だった。
 何しろ、その大司教が現れたタイミングから聖王都がおかしくなり始めたのだと言うのだ。

 先程の男の横暴な素振りからもわかるように、この聖王都は少々歯車が狂っているのだろう。
 そしてその原因もまた、召喚された勇者であることは確実だった。
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