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第三章『ステラ・グリーンローズ』

44 グリーンローズ家のエルフ

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「ねえステラ。貴方、この世界に隠し子とかいたりするのかしら」

「い、いる訳無いだろ!? と言うか実子もいないが!?」

 メイデンはそう言ってからかってくるものの、そうでもないとおかしいのもまた事実だった。
 グリーンローズは俺がロープレのために付けた名前であって、ゲーム内にそのような名前の重要キャラがいた訳でもない。
 偶然同じ名前を持ったエルフが現れたと考えることも出来るが、それもまたかなり無理がある話だろう。

「ステラ……? 貴方、もしかして『ステラ・グリーンローズ』なの!?」

「えっ……!?」

 とかなんとか考えていると、メイデンと俺の会話を聞いたケラルトの方が今度は反応を示したのだった。
 それも「グリーンローズ」の方では無く、何故か「ステラ」の方を強調して。

「そ、そうですけど……」

「そうなのね……貴方があの先代女王……いやでも待ってちょうだい? 彼女は確かに亡くなったはず……」

 ケラルトは何やらぶつぶつと呟き始めてしまった。
 一体何がどうなっているのか。

「あらぁ……? こんなところに活きの良いエルフが二人もいるじゃなぁ~い?」

 とそんな時、またもや後ろの方から声が聞こえてきた。

「ッ!! 貴様は……!」

「……彼を知っているんですか?」

「もう! 『彼』じゃなくて『彼女』よ! 全く失礼しちゃうわねぇ」

 そう言って、おねえ口調な謎の男はプリプリと怒るのだった。
 それよりも、彼を見た途端にケラルトの様子がおかしくなったことからして、明らかに彼に関する何かを知っているなこれは。

「……アイツは盗賊団『ハンガーウォルフ』の幹部。『虚像のクレア』だ」

「虚像のクレア……」

 え、何それ凄いカッコいい二つ名じゃん。
 でも二つ名なら俺にもあるしカッコいいのが。魔王殺しだし俺。

 って、何を張りあっているんだ俺は……。
 そんなことよりも、アイツが盗賊団の幹部だって方が遥かに重要だ。
 思ってた形とは違ったけど、向こうから出て来てくれたんだ……この千載一遇のチャンスを逃す訳にはいかない。

「聞いちゃったわよん。あなたたち、二人共グリーンローズの血筋なんですってぇ?」

「それが……どうかしたのかしら」

「あらぁとぼけるつもり? グリーンローズはかつてのエルフの王家なのよ。その子孫である美少女エルフだなんて、どう売っても儲かるじゃないのぉ」

「それなら、やってみなさい……出来るものならね」

 そう言うとケラルトは剣を抜き、構えた。
 その立ち振る舞いは洗練されていて、見るだけで尋常でない量の鍛錬を積んでいるのがわかる程だった。
 いや、素人の俺がそう言うのは流石に失礼かも。

「あらあら、勝てると思っているのかしらぁん? この、虚像のクレアにぃ……!!」

「ッ!!」

 一瞬にして、奴が複数人に増えた。
 なるほど……これこそが虚像のクレアと呼ばれる所以か。

「けど甘いな。ウィンドアロー」

 風の矢を飛ばし、奴の本体にだけ攻撃を当てた。

「んなっ!? どうして本体が分かったのよぉ!!」

「そんなの簡単だ。そのスキル、虚像影分身だろう?」

 虚像影分身はアサシン系の職業で取得できるスキルだ。
 スキルレベルに応じた数の分身を作り出すもので、その分身体もある程度は攻撃を行う事が出来る。

 もっとも分身体の攻撃力はスキルレベルを最大にしても本体の半分程度にしかならないし、何よりこのスキルには決定的な弱点が存在した。

「だったら何だって言うのよぉ!!」

「そのスキルで生み出した分身には影が無い。だから見分けるのも簡単なんだ」

「……ッ!! どうしてそれを!」

 このスキルで作り出した分身はあくまで虚像。だからそこに実体はなく、影が出来ない。
 ……と言うのはフレーバー的な設定であって、実際にはゲームバランス的に対処法を用意したってところか。

「ステラ……貴方、どうしてそんなことを知っているのかしら。いえ、そう言う事ね。やはり貴方が……」

「いいわぁん! 知られちゃったのなら仕方が無いもの! だからねぇ……あなた達、ここで絶対に殺してア・ゲ・ル♡」

 クレアの様子が変わった。恐らくここからが彼の本気と言う事だろう。

「来るわよ! ステラ、気を付け……」

「遅いわよ、あなた」

「ッ!?」

 一瞬にして奴はケラルトへと肉薄していた。
 速い……。奴の動きはただ一言、そう表現するしかないものだった。
 
 だが、その速さもあくまで魔法系ビルドの俺にとっての話だ。

「ふふっ、中々やるのね貴方」

 ケラルトへと振り下ろされた奴の短剣をメイデンが受け止めていた。
 結局のところ、彼女のような近接戦闘特化のビルドにとってあの程度の速さは上の下にも満たないのだ。
 見てからの対処など、さぞ容易だったことだろう。

「あら~嘘でしょう? 今の一撃、かなり本気に近かったはずなんだけどぉ」

「それならとんだ拍子抜けね。もう少し楽しめそうだと思ったのだけれど」

「そうなのぉ? なら、勘違いしないでちょうだいねぇ。私、別に戦士としての戦闘能力だけが強みって訳じゃないのよぉ~!」

 そう言うと奴は空いている片手で懐からもう一本の短剣を取り出した。

「メイデン、危ない!!」

「大丈夫よステラ」

「ハアアアァァァッッ!!」 
 
「危ないわねぇ! ちょっと何なのよあなた反則でしょう二体一なんてぇ!」

 奴が短剣でメイデンを攻撃する前に、ルキオラが攻撃を行い奴を後方へと吹き飛ばした。
 いや、あれはあえて大きく吹き飛んで衝撃を受け流したのか。
 どうやら、思った以上に彼の実力は高いようだ。それこそプレイヤーレベルで言えば200に匹敵するかもな……。

「これは流石の私も苦労しそうねぇ。残念だけど、あなた達との決着はまたの機会にしましょう。ばぁ~い♡」

「させるか! ファイアボール!」

 このまま逃がしてなるものかと、出の速い魔法を放つ。
 だが、その時には既に奴は転移していたのだった。
 ……きっとアサシン系の持つ隠密転移スキルによるものだろう。
 この転移スキルは魔法系の転移とは違って、遠くまでは転移出来ない代わりに即時発動できるからな。

「待ちなさい!! くっ……まあいいわ。あの分ならきっと近い内にまた私たちの前に出てくるはず。それよりも、今は貴方たちの方が大事ね」

 ケラルトはそう言って、剣を鞘に納めながらこちらへと歩いてくる。

「ありがとう、さっきは助かったわ。貴方たちがいなければどうなっていたことか」

「ふふっ、どういたしまして」

 メイデンは嬉しそうにそう言うが、これはどちらかと言えば彼女に感謝された事よりもクレアと言う強敵と戦えたことによる方が大きいか。
 最近は一体一体の強さはほぼ無いけどとにかく数が多いってクエストが多かったからなぁ。

「それで、貴方たちの実力を見込んで一つ頼みたいことがあるの。私たちと共に、エルフの同胞を救う手伝いをしてくれないかしら」

「そうですね……俺たちとしても、もっと多くの情報が欲しい所なんです。ここは是非、協力しましょう」

 まあ、今となっては彼女を疑う必要も無いだろう。
 実は彼女も盗賊団の一員で、クレアとのゴタゴタ自体が演技で全ては俺を罠にかけるためのもの……と言う可能性も無くはないが、そうだった場合あまりにもケラルトの演技が迫真過ぎる。
 それこそ盗賊なんかせずに演技で生きていけるレベルだろう。

「決まりね。それじゃあついてきて。私たちの拠点へ案内するわ」

 こうして、俺たちは彼女の言う「拠点」へと向かうこととなった。
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