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第二章『巡り合う運命』
21 新たな旅立ち
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あれから十日程が経った。
王国はだんだん落ち着きを取り戻し、魔王が現れる前に戻りつつある。
いや、戻っているのではないか。大災害があった後、それが元に戻ることは無い。
災害以前に近い状態に変わるだけだ。その証拠に、ルキオラはもうこの世界にはいないんだから。
……って、駄目だ駄目だ!
悪いことばかり考えていたら気分がどんどん落ちて行くだけだ。
「ステラさん、お話があるのですが」
そんな時、扉の向こうからアーロンの声が聞こえてきた。
「どうかしたんですか?」
扉を開けるとそこには真剣な表情をした彼女が立っていた。
「そのですね。実は……」
――――――
彼女の話は実にシンプルなものだった。
そう、実にシンプルにして単純。ずばり、別の国で勇者が見つかった……と言うのだ。
魔王は討伐されたものの、そのために呼び出した勇者は未だこの世界に散らばっていた。
そして勇者は皆強大な力を持っているため、放置するのも不味いのだと言う。
そこで白羽の矢が立ったのが俺だった。
組合長であるアーロンは今王国を離れる訳にもいかないため、代わりに勇者を回収してきて欲しいのだと。
「お願いしてもよろしいでしょうか」
「……」
正直なところ、流石に俺がこんな雑用のようなことをやる意味は無かった。
だが、物は考えようだ。勇者召喚については気になることも多いし、俺のことを考えると召喚された者が同郷のネワオンユーザーである可能性は非常に高い。
つまり、俺にとってメリットが無い訳でも無かった。
「わかりました。大船に乗ったつもりでお任せください。それこそタイタニックのように!」
「たいた……に……?」
「いえ、何でも無いです。気にしないでください」
こうして俺は雑用……いや、召喚された勇者を探すと言う大役を受けたのである。
その後はアーロンの顔パスもあって、もうこれでもかってくらいにテンポが良く進み、あっという間に諸々の手配が終わったのだった。
「すみません、巻き込んでしまったみたいで」
「いえ、パーティを組みたいと言ったのは私の方ですから。それに……」
「それに?」
「いえ、気にしないでください」
そう言うとルーシオはそれ以降、特に何を言うでもなくその場に立ち尽くしていた。
今回の旅にはルーシオもついてくることになっている。
同じパーティだからと言ってもここまでしてくれる必要はないと思ったが、彼自身かなり俺に興味を抱いていると言うか……少々距離が近いような気もする。
ちなみに何で彼が最初から俺の名を知っていたのかが気になっていたが、どうやら狼王を倒したハイエルフとして俺の名が冒険者の間で知れ渡っているらしかった。
そりゃそうか。薄々感づいていたが、この世界の基準はゲームと比べても遥かに低い。
そんな中でネームドボスを単身で倒した存在なんて逸話に語られるようなものなんだろう。
で、そうなるとだ。
そんな生ける伝説、めちゃつよな化け物とパーティを組みたいと言うのも理解は出来る。
運が良ければ歴史に名を残せるかもしれないからな。
しかしそれはそんな化け物の隣に立てる程の実力を持っていないと不可能だ。
そう考えると彼にはそのための実力が充分にあるし、魔王との戦いにおいてもあれだけの活躍を見せた。
間違いなくこの世界においても超上澄みなのは確定的に明らかだな。
だからこそ俺の隣に立ち、歴史に名を残したいと考えたとしても、それは決して夢物語では無いだろう。
自分で言うのもあれだが、なんだかむず痒いな。
英雄譚なんてもので後世にまで語り継がれてしまうのかもしれないと考えると、気分が上がる。
誰だって悪い気はしないだろ?
「ステラさん、改めて……お願いいたします」
「は、はい。どんとお任せください!」
いつの間にやら近くに来ていたアーロンの声で俺は我に返った。
そしていつの間にやら準備も終わっていたのだった。
テントに携帯食料にその他諸々。旅に必要なあらゆる物をアーロンは用意してくれていた。
「よいしょ」
そしてそれらをアイテムボックスにしまう。
馬車を使うのが普通なんだろうが、せっかく無限に入るアイテムボックスがあるんだ。使わないのは損だろう。
「そ、それは……アイテムストレージ!?」
「アーロンさん!?」
そんな俺の様子を見ていたアーロンは顔を輝かせながら俺の近くまで駆け寄ってきた。
「アイテムストレージまで使えるんですか貴方!?」
アイテムストレージ……と言うのはきっとアイテムボックスに似た何かなんだろう。
そしてこの反応からするに、それの使い手はあまりいないと見た。
「アイテムストレージですか。やはりステラ、君は……」
「ルーシオさんまで……あの、一旦、一旦落ち着いてください!」
結局この場を収めるのに数分かかり、その後ようやく出発することが出来た。
これからはアイテムの出し入れには気を付けよう。
「この辺りで良いでしょう」
王国から出て少し歩いた辺りでルーシオがそう言ってきた。
魔王との戦いで彼も飛べることがわかっているから、今回の旅は二人で目的地まで飛んで行くことにしたのだ。
え?
それじゃ向こうで見つけた勇者はどうするのかって?
心配ご無用。俺は転移魔法を持っているから一度行った事のある場所に転移できる。
もちろんこれは一定範囲内の任意のオブジェクトにも適用可能だ。
もっとも今俺はMAPが初期化されているから、今のところ転移できるのはエルトリア王国と最初に訪れた村だけなのだが。
「そうですね。それでは……フライ!」
フライを発動させ、宙に浮かぶ。
MPの消費は発動時に500、それ以降は一秒ごとに1消費し続ける。
俺のMPは約12万あるから単純計算でも12万秒……ざっと30時間は飛び続けられる。
ゲームでは移動に使うのが主で、そんなに長いこと使うものでも無かった。
そもそも飛びながらだと攻撃力に大幅なマイナスの補正がかかるから、飛び続けたまま戦うことはほとんどないしな。
「それでは少し離れていてください」
「離れて……え?」
俺がある程度の高さまで飛ぶと、今度はルーシオが飛ぶ準備を始めた。
どうやら彼の飛行方法はフライでは無いらしく、そのために王国から少し離れた場所まで来る必要があるとのことだった。
一体どんな飛行方法だと言うのか……と思っていた少し前の俺に、もう一度目の前の光景を見せてあげたい。
「な、なにそれ……超カッコいいじゃん……!」
驚くこと無かれ、彼の背中からはガシャンガシャンと言う機械音と共にブースターが飛び出し、そこからジェット噴射の要領で魔法を噴き出して空を飛び始めたのだ。
それこそガンダムとかそう言う巨大ロボットのそれだ。控えめに言ってかっこよすぎる。
そりゃあ確かにこの方式で空を飛ぶのなら街中では使えないわな。飛ぶ際に周りの人は吹き飛ばされ、至近距離にいたら丸焦げだ。
もしかして魔導騎士フェニックスが正式に実装していたらプレイヤーもあれが使えていたのだろうか。
くそっ、実装前にサ終してしまったのが悔やまれる。
「それでは、行きましょうか」
「そうですね。陽が暮れる前に野営に向いた場所を確保したいですから」
ルーシオの後を追う形で飛んで行く。
こうして俺の……いや俺たちの新たな旅が始まった。
王国はだんだん落ち着きを取り戻し、魔王が現れる前に戻りつつある。
いや、戻っているのではないか。大災害があった後、それが元に戻ることは無い。
災害以前に近い状態に変わるだけだ。その証拠に、ルキオラはもうこの世界にはいないんだから。
……って、駄目だ駄目だ!
悪いことばかり考えていたら気分がどんどん落ちて行くだけだ。
「ステラさん、お話があるのですが」
そんな時、扉の向こうからアーロンの声が聞こえてきた。
「どうかしたんですか?」
扉を開けるとそこには真剣な表情をした彼女が立っていた。
「そのですね。実は……」
――――――
彼女の話は実にシンプルなものだった。
そう、実にシンプルにして単純。ずばり、別の国で勇者が見つかった……と言うのだ。
魔王は討伐されたものの、そのために呼び出した勇者は未だこの世界に散らばっていた。
そして勇者は皆強大な力を持っているため、放置するのも不味いのだと言う。
そこで白羽の矢が立ったのが俺だった。
組合長であるアーロンは今王国を離れる訳にもいかないため、代わりに勇者を回収してきて欲しいのだと。
「お願いしてもよろしいでしょうか」
「……」
正直なところ、流石に俺がこんな雑用のようなことをやる意味は無かった。
だが、物は考えようだ。勇者召喚については気になることも多いし、俺のことを考えると召喚された者が同郷のネワオンユーザーである可能性は非常に高い。
つまり、俺にとってメリットが無い訳でも無かった。
「わかりました。大船に乗ったつもりでお任せください。それこそタイタニックのように!」
「たいた……に……?」
「いえ、何でも無いです。気にしないでください」
こうして俺は雑用……いや、召喚された勇者を探すと言う大役を受けたのである。
その後はアーロンの顔パスもあって、もうこれでもかってくらいにテンポが良く進み、あっという間に諸々の手配が終わったのだった。
「すみません、巻き込んでしまったみたいで」
「いえ、パーティを組みたいと言ったのは私の方ですから。それに……」
「それに?」
「いえ、気にしないでください」
そう言うとルーシオはそれ以降、特に何を言うでもなくその場に立ち尽くしていた。
今回の旅にはルーシオもついてくることになっている。
同じパーティだからと言ってもここまでしてくれる必要はないと思ったが、彼自身かなり俺に興味を抱いていると言うか……少々距離が近いような気もする。
ちなみに何で彼が最初から俺の名を知っていたのかが気になっていたが、どうやら狼王を倒したハイエルフとして俺の名が冒険者の間で知れ渡っているらしかった。
そりゃそうか。薄々感づいていたが、この世界の基準はゲームと比べても遥かに低い。
そんな中でネームドボスを単身で倒した存在なんて逸話に語られるようなものなんだろう。
で、そうなるとだ。
そんな生ける伝説、めちゃつよな化け物とパーティを組みたいと言うのも理解は出来る。
運が良ければ歴史に名を残せるかもしれないからな。
しかしそれはそんな化け物の隣に立てる程の実力を持っていないと不可能だ。
そう考えると彼にはそのための実力が充分にあるし、魔王との戦いにおいてもあれだけの活躍を見せた。
間違いなくこの世界においても超上澄みなのは確定的に明らかだな。
だからこそ俺の隣に立ち、歴史に名を残したいと考えたとしても、それは決して夢物語では無いだろう。
自分で言うのもあれだが、なんだかむず痒いな。
英雄譚なんてもので後世にまで語り継がれてしまうのかもしれないと考えると、気分が上がる。
誰だって悪い気はしないだろ?
「ステラさん、改めて……お願いいたします」
「は、はい。どんとお任せください!」
いつの間にやら近くに来ていたアーロンの声で俺は我に返った。
そしていつの間にやら準備も終わっていたのだった。
テントに携帯食料にその他諸々。旅に必要なあらゆる物をアーロンは用意してくれていた。
「よいしょ」
そしてそれらをアイテムボックスにしまう。
馬車を使うのが普通なんだろうが、せっかく無限に入るアイテムボックスがあるんだ。使わないのは損だろう。
「そ、それは……アイテムストレージ!?」
「アーロンさん!?」
そんな俺の様子を見ていたアーロンは顔を輝かせながら俺の近くまで駆け寄ってきた。
「アイテムストレージまで使えるんですか貴方!?」
アイテムストレージ……と言うのはきっとアイテムボックスに似た何かなんだろう。
そしてこの反応からするに、それの使い手はあまりいないと見た。
「アイテムストレージですか。やはりステラ、君は……」
「ルーシオさんまで……あの、一旦、一旦落ち着いてください!」
結局この場を収めるのに数分かかり、その後ようやく出発することが出来た。
これからはアイテムの出し入れには気を付けよう。
「この辺りで良いでしょう」
王国から出て少し歩いた辺りでルーシオがそう言ってきた。
魔王との戦いで彼も飛べることがわかっているから、今回の旅は二人で目的地まで飛んで行くことにしたのだ。
え?
それじゃ向こうで見つけた勇者はどうするのかって?
心配ご無用。俺は転移魔法を持っているから一度行った事のある場所に転移できる。
もちろんこれは一定範囲内の任意のオブジェクトにも適用可能だ。
もっとも今俺はMAPが初期化されているから、今のところ転移できるのはエルトリア王国と最初に訪れた村だけなのだが。
「そうですね。それでは……フライ!」
フライを発動させ、宙に浮かぶ。
MPの消費は発動時に500、それ以降は一秒ごとに1消費し続ける。
俺のMPは約12万あるから単純計算でも12万秒……ざっと30時間は飛び続けられる。
ゲームでは移動に使うのが主で、そんなに長いこと使うものでも無かった。
そもそも飛びながらだと攻撃力に大幅なマイナスの補正がかかるから、飛び続けたまま戦うことはほとんどないしな。
「それでは少し離れていてください」
「離れて……え?」
俺がある程度の高さまで飛ぶと、今度はルーシオが飛ぶ準備を始めた。
どうやら彼の飛行方法はフライでは無いらしく、そのために王国から少し離れた場所まで来る必要があるとのことだった。
一体どんな飛行方法だと言うのか……と思っていた少し前の俺に、もう一度目の前の光景を見せてあげたい。
「な、なにそれ……超カッコいいじゃん……!」
驚くこと無かれ、彼の背中からはガシャンガシャンと言う機械音と共にブースターが飛び出し、そこからジェット噴射の要領で魔法を噴き出して空を飛び始めたのだ。
それこそガンダムとかそう言う巨大ロボットのそれだ。控えめに言ってかっこよすぎる。
そりゃあ確かにこの方式で空を飛ぶのなら街中では使えないわな。飛ぶ際に周りの人は吹き飛ばされ、至近距離にいたら丸焦げだ。
もしかして魔導騎士フェニックスが正式に実装していたらプレイヤーもあれが使えていたのだろうか。
くそっ、実装前にサ終してしまったのが悔やまれる。
「それでは、行きましょうか」
「そうですね。陽が暮れる前に野営に向いた場所を確保したいですから」
ルーシオの後を追う形で飛んで行く。
こうして俺の……いや俺たちの新たな旅が始まった。
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